27 竜巻の中へ
「王宮が見えてまいりました‼」
御者の言葉に、窓から身を乗り出して私は呆然としました。
街の景色が一変していたのです。
王宮に続く舗装された道は石がゴロゴロと辺りに転がり、細い街路樹もなぎ倒されています。
古いレンガが其処ここに落ち砕け、古い家は屋根が崩れ半壊していてまるで竜巻でも街を襲ったような有様でした。
「人々は大丈夫なの?」御者に尋ねると、
「先ほど、突如発生した竜巻が王宮を半壊させて、街にも来たって聞きました。王宮から医師団が派遣されて幸い死人はいないようですよ」と返されました。
そして「ここから先には馬車で向かうのは無理ですね…王宮にはまだ竜巻がいるみたいですし、引き返しますか?」と御者は馬車を止めました。
「いえ、ここからは歩いて王宮へ向かいます」私はセオドア様と共に馬車を降ります。
「かなり激しい魔力暴走が起きているようですわね。…リアム王子様の魔力は【風】なんですね?」
問いかけると、セオドア様は頷きました。
「リアムは私よりも4歳年下で、今12歳になったところなんだ」
リアム様はダリア第1王妃様がご崩御された半年後に、今のオリバレス第2王妃様が嫁いでこられた時にお生まれになった、いわば異母兄弟になります。
そのせいか、幼い頃からセオドア様と一緒に遊んだ記憶もなく、どこか一線を置いたような接し方しかしてこなかった…セオドア様は呟きました。
「いきなり、こんなに激しい魔力暴走を起こすなんて、一体リアムに何があったんだろう…私がもっと寄り添って話を聞いていれば防げたのだろうか…」
セオドア様の嘆きに私は思わず怒鳴ってしまいました。
「今はそんな後ろ向きなことを言って嘆いている暇はございませんわ‼
大体、私の両親もセオドア様も人の為に我慢しすぎて苦しむから、悪い方に付け込まれるんです!後悔するよりも、行動して失敗する方がマシですわ‼」
私の言葉に目を丸くされたセオドア様はいきなり大声で笑い始めました。
その姿に、御者も王宮の使者も吃驚して足を止めました。
「アハハ、本当にアメリアには敵わないよ。確かにその通りだ。
「確かに… 悩むよりも、今魔力が暴走しているリアムを少しでも早く助ける方が大事だ。弟の暴走が長引けば精神にも異常をきたす危険も高まるし、最悪、命も危なくなるかもしれない」
それは大変です!王宮へ急がなくては‼
「でも、アメリア、さっき言っていた後悔するよりもやって失敗する方がマシって、本当にそう思う?」
「勿論ですわ!やらないから後悔するのですもの!行動あるのみですわ!」
私の返事を聞くとセオドア様が、いたずらっぽく笑います。
…非常事態のこんな時に、その笑顔は反則ですわ!ドキドキしている私を見つめると
「その言葉、忘れないでね? …そっか行動あるのみか~♪」
そう呟き、なぜか足取りまで軽くなった様子でセオドア様は王宮を目指し、また歩き始めました。
王宮の庭園に差し掛かったあたりで、使者の方が「あっ‼ あの竜巻がリアム第2王子様の起こしている魔力暴走です!」と王宮の左側を指差しながら叫びました。
確かに激しい砂ぼこりが舞い、その先に風の渦が見えます。…あの中にリアム王子様がいるのでしょうか?
通常、竜巻というのは天候の乱れや気流により発生するものです。大きさを変え、移動しながら最後は消滅してしまいますが、その竜巻はいつまでも同じ場所で唸りを上げては、辺りの草花や土を巻き込み、巨大化を繰り返しているようです。
周りを取り囲む王宮警備隊や魔術騎士団の方々も近づくことは出来ないのか、数十メートル離れた場所から手をかざして、魔力を抑え込もうとしているのが見えました。
「多分、街の方へ行った竜巻はリアムの魔力暴走がさらに激しかった時に制御できなかった魔力の一端が漏れ出て起きたんだと思う」
つまり、今は少しは制御できているということでしょうか?
「いや…恐らく、リアムは気を失っている。長時間の魔力暴走で精神が疲弊して制御不能になったんだ。今は生命を使って魔力を行使している状態だろう」
セオドア様の言うことが真実ならば、一刻も早く助けなければ‼
ですが、あの風の壁に阻まれていては近づくことさえできそうにありません。どうしたら良いのでしょうか。
その時、フェイがニヤリと笑って言いました。
「そこで、俺様の出番だぜ‼ さぁ、セオドア思いっきりアメリアにお前の魔力を放出しな‼」
「フェイ…そんなことをしたら、セオドア様の火の魔力で私はケガしてしまう…」
そう言いかけましたが、そう言えば、私の中にある世界樹が魔力を吸い上げるって言ってましたよね?つまり、世界樹が魔力を吸い上げたら、その余剰分の魔力はフェイの所に行くってことかしら?
そう尋ねると、「お前にしては察しがいいな」と褒められました。
「いいか? アメリアに触れながら火の魔力を注ぎ込め。それだけで俺様の糧に出来る。そうしたら、俺様が力を爆発させてやるから、熱の気流に乗って竜巻の目の中に入るんだ。それしか竜巻の壁をかいくぐる方法はねぇよ」
つまりは熱気球の要領ですね?そう言うと、フェイは「そうだ。俺様が熱風を調整するから、そこらにある布を帆の代りにして飛び上がれ」と私に王宮から大きな布を借りて来いと命じました。
両手で借り物のシーツの四角を掴み、真ん中が膨らむようにシーツを広げました。
準備は万端です。
「さあ、セオドア様、魔力を注いでくださいませ!‼」
気合十分の私に、セオドア様は顔を真っ赤にされて聞きました。
「アメリア…本当に…触れても良いの…?」
私に触れながら魔力を注がなくては意味が無いとフェイも言っていました。
「勿論です!さぁ…ご遠慮なさらずに」
目を閉じて、衝撃に備えます。魔力の注入があまりに激しかった場合、セオドア様が痛みに堪える私の涙を見て止めてはいけませんから。
おずおずと頬に手が添えられ、『いい?』とセオドア様が囁かれました。
そして、頷く私の唇に温かいものが押し当てられ、そこから熱く魔力の流れが入り込んでくるのを感じました。ん? これってもしかしてセオドア様の唇では…?
え…私、キス…していませんか⁈ パニックになる私でしたが、セオドア様の魔力放出は止まりません。私の胸の中に熱い力が漲ると一気に爆発したような感覚が襲ってきました。
「今だ!帆を広げろ!」
フェイに促され、とっさに腕を振り上げると、熱風に引き上げられた私の体はあっという間に空へと舞いあがりました。
「集中しろ!あとは竜巻の渦の中心に飛び込むんだ!‼」
集中したいのは山々ですが、セオドア様にキスされた衝撃で頭が付いていきません。
もう!セオドア様の馬鹿馬鹿馬鹿ー‼
その時、地上ではフェイが「お前…こんな時に凄いやつだな…」と真っ赤になるセオドアを横目に呟いていたのだった。
竜巻は通常積乱雲を伴う発生ですが、今回は魔力による発生のため、台風の目のような状況だとお考えいただければ…。
温かい目でお読みいただけますよう、よろしくお願いします。




