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25 エステル・マリア・グレイソンの告解

「お母様の罪って…なんですか?」

 アメリアが、聞くとエステルは美しい目を伏せ話し始めました。


「私はインマヌエル公国の第3皇女として生まれ、この国に嫁ぐ目的で送られてきた事は知っているでしょう?」


 エステル・マリア・インマヌエルはインマヌエル国で異端な存在だった。

 エステルは、第3皇女として、インマヌエル公国で誕生したが、母親は低い位しか持たない娘だった。公主が気まぐれに手を出した第1王妃の傍仕えであり、王妃の親族にあたる立場の女性だったからだ。

 親族とはいえ、下級にあたる彼女が子を宿したことに王妃様は激怒し、エステルの母は命の危険を感じるほど殴る蹴る等の暴行を受けた。

 流石に見かねた公主が王妃から傍仕えだった彼女を引き離し、なんとかこの世に生を受けることが出来たのだ。宮殿に住むことは叶わなかったが、離れの館を与えられた。


 生まれたエステルは美しい娘だった。そのため、公主から利用価値のある娘として、認知され、第3皇女の地位だけは与えられた。

 しかし、公主がエステルたちの住む館に顔を出すことは無く、母と使用人、そしてエステルだけの生活が続いた。

 幸い、公主はエステルと母を見捨てることのない男で、生活に困るということは無かった。使用人も優しい老女で、エステルは落ち着いた環境の中で慎ましくも無事に成長することが出来たことも幸いだった。


 元々、この国には精霊が大勢住んでいる。しかも、共存関係にある彼らは人間を恐れず、興味を持って寄ってくるのだ。

 エステルも生まれた時に精霊の泉で洗礼を受けた。彼女を気に入ってくれた水の精霊から祝福を受けると、いつでも同じ精霊が傍に来ては話し相手になってくれていた。

 人間の言葉を解する彼らは何故か、彼女の生い立ちや身分についても知っていた。

 なんでそんなことまで知っているのかと思う事柄まで詳しいので、一度聞いてみたが、

「そんなの、コアでみんな繋がっているんだから、当たり前だよ」と返され、納得できないまま「ふぅん…そうなんだ…?」と返事をした記憶がある。


 エステルにとっては精霊はいて当たり前の存在で、頼るとか何かを要求するための存在ではない。だから、精霊の力を使って自分の要求を叶えたいとか誰かを害そうと考えたことは一度もなかった。

 でも、それはあくまでもエステルの側だけで、第1王妃の側にとっては皇位継承の邪魔な厄介者を排除するための道具として精霊が使われてしまったのだ。


 ある日、エステルは見知らぬ下位精霊から突然攻撃を受けた。

 仲良しの精霊と一緒に森の中で詩集を読んでいた時、「危ない‼」と声がして振り向くと小さな火の粉が飛んできたのだ。

 慌てて避けたおかげで、その火の粉は髪の先を少し焦がしただけで済んだ。

 しかし、「あー残念失敗しちゃった‼ でも今度は避けられるかなー?」とその火の下級精霊はいくつもの火の粉をエステルに投げつけてきたのだ。

 慌てて逃げ惑うエステルの姿が面白かったのか、その精霊はゲラゲラと笑いながら、攻撃を続けた。勿論、エステルの半身である水の精霊も応戦してくれたが、火の精霊の方が力も強く、とても敵いそうもなかった。


「ほーら! これでお終いだよ‼ 」

 そう言うと火の粉を一つに纏めた大きな火球をエステルに向かって投げつけたのだ。とても避け切れない大きさにエステルは覚悟を決めた。

 もう、お終いだ…そう思ったとき、半身の水の精霊がその火球に向かって飛び込んでいった。力では敵わないが、命を懸けたその行動のおかげで火球の方向が逸れたのだ。

 火球はエステルを飛び越えた。…しかし、それは予期しない方へと向かった。

 彼女が暮らしていた館にぶつかると暴発し、館を火の海に包んだのだ。

「お母様―‼ 逃げてー!‼」大声を上げて必死にエステルは母を呼び続けた。

 だが、渦巻く煙の中でいつしか彼女は気を失ってしまったのだった。


 …目が覚めた時、彼女は宮殿の離れに寝かされていた。

 既に館は焼け落ち、彼女の最愛の母も、使用人の老女も皆その中で亡くなっていたと知らされた。幸い彼女の火傷は軽かったが、心の傷は深く癒せないものになった。

 予想以上に美しく育ったエステルの姿に喜んだ公主は、彼女を政略結婚の道具として扱い、各国に嫁がせる打診を始めた。…自国に有利になる条件を提示する国を求めて。

 しかし、エステルにとっては、最愛の母と半身である水の精霊を自分のせいで失ったと思う悲しみ以上に心を動かされることは最早存在しない。


「公主様の御心のままに、どこへでも参ります」と答えるのみだった。


 それからの彼女は生きる気力を無くし、ただ生きているだけの状態になった。

 何も心動かされることが無いままに、彼女は淡々と日々を過ごしていた。

 襲ってきた火の精霊を使役していたのが、第1皇女である姉姫だと知った時ですら、幸せをもう取り戻せない以上は責める気力すら持つことが出来なくなっていたのだ。

 そんなある日、公主から『縁組が決まった』と告げられた。

 隣国のオールヴァンズ王国に嫁ぎ、戦争を起こさないために尽力しろと告げられ、【いつ殺されるかも判らない人質】として行くのだと悟ったが、エステルは「はい、公主様の御心のままに」と繰り返した。

 もう、いっそ死んでしまいたいと思っていたので、殺してくれるなら渡りに船だと考えたのだ。

 オールヴァンズ王国へ旅立つ前日、以前住んでいた館のある森へ宮殿を抜け出して出かけた。せめて母と老女、そして半身の精霊に花を手向けようと思ったからだ。

 そこで、彼女は精霊王に会い、イヤリングを渡された。


「もう時間は戻せないが、お前とお前の大切な者を守る加護を与えよう」と。


「お前は隣国で更なる苦しみを味わうが、決して死を選んではいけない。最愛の人物がお前を守り、お前に愛する者を与えるだろう」そう言って、精霊王は消えた。


 私の半身は消えてしまったが、精霊王様の仰る最愛の人のためにも、生きてみせる。

 そう、決意して、彼女はオールヴァンズ王国へ来たのだ。

 そして最愛のルーカスと出会い、アメリアという子まで成すことが出来たのだ。


「私も母と半身の精霊を自分の咎で殺してしまった罪人です。ルーカスが裁かれるならば、私も一緒に罪を償います」

 お母様は一息に言うと、お父様の元へ駆け寄った。


「…グレイソン公爵家の人々は事件に巻き込まれやすいようだね」


 セオドア様は苦笑いされています。まぁ…周りに翻弄されているのだなってことは分かりました。

 黒幕が分かった以上、罪を償わせなければいけません。どうしたら良いか…と顔を突き合わせ考えているところに、王宮から火急の知らせが飛び込んできました。


「第2リアム王子様の魔力が暴走し、王宮では魔術の暴走を食い止めようと大変な騒ぎになっております。至急お戻りください‼」


 …今度はリアム王子様の魔力暴走だそうです。どうなっているのでしょうか?


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