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24 ルーカス・ヘヴェル・グレイソン公爵の過去②

「 …その契約はまさに呪いと言った方が相応しいものだった… 」


お父様は悲しそうに先を続けた。

真実を知らない者に本質を明かした時、契約不履行として自分だけではなく、聞いた者にも害が及び、その者の精神を破壊するといった効果があると言われたそうだ。

そのため、薬師から得た情報を元に国王に進言するも、何も知らない国王に生贄や秘術等の事件の本質を伝えることは叶わなかった。知れば国王の精神が破壊されるかも知れず、それが例え嘘だとしても臣下として試すことは出来ないという盲点を突かれた。


そのために『何のためにブラインズ公爵がそのようなことをするというのか?』と真犯人の一人のくせに、しれっとライオス宰相からも論破され『詐欺師の証言など証拠にもならない』と結局真実は闇に葬られてしまったのだ。

薬師も何者か…恐らくブラインズ公爵の手により殺害され証言すら裏付けるものはない。完全に手詰まりの状況だった。

その上、お父様が警備隊に働きかけてこれ以上真相を調べることが出来ないように権限をはく奪したってことですか…。


「ライオス宰相は、グレイソン公爵がそんなに若者の時から頭角を現し、いつか王宮の要職に就いたときに利用しようと考えていたってことだね…」


セオドア様が言いました。たしかに、お父様がその後、グレイソン家の当主になり、王宮の要職に就くということまで考えていなければそんな行動はしなかったはずです。


「…今になって考えてみれば、兄は穏やかな性質の人だった。嫉妬のあまり、人を殺そうと実行するだけの行動力もなかった」


「つまりは、最初からライオス宰相に操られていた可能性があるということですか?」


セオドア様の言葉にお父様が頷きました。


「最初から、私を嵌めようと策を練っていたんだろう。私は本当に愚かだった」


お父様が項垂れて、両手で顔を覆われました。


「そのうえ、私は他国との交渉をするための要職に就かされた。各国から王家に遊学の名目で…実際は戦争を回避させるための【人質】として各国の皇族や王族を集めさせられていたんだ。」


 我が国に戦争回避を目的とした高貴な方々が人質として来ていることは知っていました。お父様が交渉にあたっていることは知りませんでしたが。


「そこで私は、インマヌエルから王族との結婚を名目に送り込まれてきた一人の女性を愛してしまった…それが、エステル・マリア・インマヌエル…私の妻だよ」


 お母様とお父様の愛のメモリーですわね!

 …でも、現実はそんなに美しい話ではなかったのです。


 インマヌエル公国は今でも精霊の力が強く、共存を続けている。

 そのため、皇族には今も精霊の力が宿っていると言い伝えられていて、その力を糧に生贄の儀式を行おうとしていた宰相の願いでエステルはこの国にやってきたのだ。

 表向きは王族に嫁がせるため、本当は生贄として殺害し、ひっそりと病死したことにする。それだけの目的のために…。

 最初から殺されるためだけに来た彼女は、あまりにも美しく儚げでルーカスは一目で恋に落ちた。

 どうしたら彼女を助けられるかだけを考え、ルーカスはライオス宰相と今一度取引をすることを決めた。

 彼女を救うためだったら、悪魔にでも魂を売るつもりで…。

 ライオスは真実の愛とやらに落ちたルーカスをあざ笑い、考え直すようにと再三忠告してきた。しかし、ルーカスの決心が強いことを知り、悪魔の提案をしてきたのだ。

 それは、【エステル第3皇女にもこの国の魔力を持たせるための儀式を行う事】と【皇女の代わりとなる生贄】を確保することの2点だった。

 ルーカスは悩んだ。しかし、エステルを救うために、彼は両方の要求を飲んだのだ。


「エステルの代りの贄には、近隣諸国から連れてこられた幼い王子が犠牲になった。私は近隣の国とその交渉を行い、彼が殺害された後は、病死としてそれを処理した。…私が直接手を下したわけでは無いが、同じことだ。私は殺人者なのだよ…」


 最後の方はかすれて、言葉にならない声でお父様は呻いた。


「エステルを救うためにした行為は許されるものではない。だから、エステルにも私の想いと、それでも生きて欲しいということを伝えたんだ。彼女を愛していたから。

…例え、自分の想いは届かなくても。そして、いつかは故郷に帰してやりたいと思っていたんだが、そんな思いもライオス宰相には見抜かれていたんだ」


 エステルはルーカスの想いを受け入れ、彼との結婚を承諾した。

 結婚後、しばらくは穏やかな日々が続いた。そして、数か月が経った頃、儀式のためにと王宮の地下へと招かれた。

 そして、臨んだ儀式の日に彼女は驚愕の真実を知ったのだ。

 人為的に人に魔力を持たせる儀式にもまた、生贄として人の命が使われていたことに。


「そんな…なぜ拒否なさらなかったんですか?」


 アメリアはつい強い口調で父を詰問した。


「それが出来ればしているさ…」


 そう、儀式はエステルに穢れの元となる麻薬を飲ませ、眠っている体に人の生き血を降り注ぐという醜悪な方法で行われていたのだ。もちろん、その方法についてもルーカスには知らされず、儀式が行われ後戻り出来なくなってから明かされた。

 その穢れの元となった麻薬は、代々の王家の墓の裏地にある敷地で栽培されていた。

 そこに生贄として使用された人たちの死体を埋め、苦しみながら死んでいった人々は呪詛の言霊をこの地に刻む。

 そして呪詛を浴びて成長した呪草から麻薬は作られていたのだ。生贄に選ばれたのは城で働いていた下働きの子供だったことも後で聞かされた。

 呪詛を受けたエステルはオールヴァンズの地に縛られ、永遠にこの国に閉じ込められた。彼女は一晩高熱に苦しみ、目が覚めた時には水の魔力を発現していた…。

 それが、エステルが穢れと呼ばれる魔力を発現させた儀式の一部始終だったのだ。


「エステルは苦しみ、死を選びたいと何日も泣き明かした…でも、しばらくして体内に命が宿っていることに気が付いた。それがアメリアだよ」


 お父様が私を見つめます。その眼には涙と慈しみの色が宿っていました。


「新しい命が宿ったとき、エステルは祈った。自分の穢れた力がお腹の子に遺伝しないように。そして、こんな呪われた力で苦しむことがないようにと」


 そうして、生まれてきた赤子は呪われた穢れを一欠片も持っていなかった。

 不思議なことにグレイソン家の地の力すら片鱗も無かった。高位貴族としては異例の事態に周りは騒然としたけれど、エステルの喜びぶりはすさまじかった。


「そうして、エステルは精霊の守りを持ったイヤリングを赤子に付け、アメリアと名付けたんだ…」


 ルーカスも、エステルも、自分の身は穢れていたとしてもこの娘だけは清らかなままで成長してほしいと願っていた。精霊の加護を受け、アメリアは願い通りすくすくと成長した。


「全ては私が招いたことだ。罪は私一人にある」


 そう仰るお父様に、今まで黙っていたお母様が叫びました。


「いいえ‼ 罪があるのは私もです‼…私も今まで黙っていたことがあります‼」


 そうして今度はお母様の告解が始まりました。


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