23 ルーカス・ヘヴェル・グレイソン公爵の過去
グレイソン公爵家に馬車が到着すると、セオドア様が私に手を差し伸べながらエスコートしてくれました。彼の顔が近くてドキドキすることが抑えられません。
こんな非常時だというのに自分は何を考えているのかしら… アメリアは自分を恥ずかしく思う。
とにかく今は一刻も早くお母様から事の真相を聞き出さなくては‼
「ようこそ、いらっしゃいました。セオドア王子様」
広間に行くと、そこには既にお父様とお母様が待っていました。
いつもであれば、父はまだ王宮で公務を行っているはずの時間です。きっと母から連絡を受けて私達よりも先に戻ってくれたのでしょう。
…つまりは、両親が共に話さなければならないことがあるということ…なのでしょう。
朝見た時よりも少しやつれた様に見えるその笑顔に、私には知られたくない話だったことが伺えます。
テーブルに着くと、イオナがお茶を運んできてくれました。
「まずは、お茶を楽しみましょう…話はその後で…」
お父様がそう言うと、コーレシュやイオナが軽食をテーブルに並べました。サンドイッチやスコーンなど、いつもであれば空腹を覚えるところですが、緊張しすぎている私にとってはお茶を飲むだけで精いっぱいでした。
「おおお! 腹減っていたんだよな~!」
寝ていたはずのフェイが匂いを嗅ぎつけ目を覚ましました。私の肩の上から飛び降りると、早速スコーンに手を伸ばします。本当に気楽で羨ましいです…。
セオドア様も緊張されているご様子で、軽食には手を伸ばさず、フェイを見つめているだけです。
ただただ気詰まりな時間が流れました。
その後、お父様の書斎に場所を移し、私たちはようやく落ち着くことが出来ました。
この書斎は王宮の機密事項も管理するお父様のために、防音の魔術が施され、外部からは一切の傍受もできないようにされているのです。
お父様は私たちの顔を見回すと、やっと話を切り出しました。
「それで、先ほどセオドア王子様から『グレイソン夫人が魔術を持った時の話を聞かせて欲しい』と先触れが合ったけれど…お前たちはどこまで知っているんだい?」
お父様に促された私たちは、先ほど、王宮で国王様に質問を受けた際に宰相から記憶を探られているような不快な感覚を受けたことや、そこから仮定ではありますが、ダリア王妃様の殺害の動機と真相…そして、ライオス宰相が【人心掌握の秘術】と【不老不死の秘術】をその時に会得したのではないかという推理を話しました。
黙って聞いていたお父様は「なるほど…」と一言仰られるとセオドア様に向かい深く頭を下げたのです。
「ダリア王妃様が殺害された時に、私の不手際で幼かったセオドア様を守ることが出来ず、本当に申し訳ありませんでした」
「気になさらないでください。あの時の公爵は本当に一生懸命やってくださったと思っていますから…」
セオドア様が優しく声を掛けてもお父様はうつ向いたまま、顔を上げませんでした。
「…セオドア様の仮定の話ですが、私にはそれがほぼ真実ではないかと思われます」
つまりは、ダリア王妃様がライオス宰相とブラインズ公爵に殺害されたという話ですね? やっぱり、これが真実だったのですね…。
「実は、ダリア王妃様が殺害されたあの時も既に宰相は怪しいということは判っていました。…でも、私は家族を守るために王家と契約を結んだ身です。あれ以上の越権行為はエステルとアメリアの身に危険が及ぶかも知れず、私は身を引いたのです」
お父様にも犯人が判っていた。それなのに私やお母様のために身を引いたってどういうことなの?暗殺するって脅かされたのかしら?
「私は罪を隠し、それを背負ったまま生きてきました。長くなりますが、それをお話しましょう…」
お父様は深いため息を吐かれると、絞り出すような声で自身の過去を語りだした。
ルーカス・へヴェル・グレイソン公爵。
彼は、実は元々本家の跡継ぎではなかった。
グレイソン公爵家の末端、分家の次男として生まれ、ゆくゆくは他家に養子に行くか別の道を探すかと魔術学院で学ぶだけの気楽な立場だった。
そんなある日、本家の嫡男が事故死したことを知らされた。本家には嫡男ただ一人しか子がいなかったことも。
それだけだったら、末端の分家次男にはかかわりが無い話なのだが、魔術学院での彼は非常に優秀で、本来分家の貴族が持っているはずのない強力な地属性の魔力を保有していた。その力は元々の本家の嫡男よりも魔力量を遥かに上回っていたのだ。
早速、本家から実力を知りたいと呼ばれ、当時の当主に気に入られたために、結局ルーカスは本家の嫡男として養子になることが決まった。
跡取りであった長男にとっては、自分よりも下の立場であった弟に今後は遜らなくてはならない…と許せないことだったらしい。
そのうえ、ルーカスは人当たりが良く、美丈夫だったために多くの貴族女性を虜にしていた。沢山の女性に言い寄られる弟に嫉妬した兄は愚かにも、ルーカスの殺害を企てたのだ。
そして、その企ては失敗し兄は王宮の警備隊に捕らわれの身となってしまった。
兄弟で殺しあうなど国にとっても醜聞でしかなく、生みの両親にもせがまれたルーカスが兄の減刑を王宮に願い出た時、既に宰相であったライオスから取引を持ち掛けられた。
「兄を釈放する代わりに、自分の頼みも一つ聞いてくれと…」
ルーカスは承諾し、兄は釈放された。…死体となって。
勿論ルーカスはライオス宰相を激しく非難したが、お前の願いは叶っただろうの一点張りだった。…確かに生きて釈放するとは言わなかったが…。
そのうえ、ライオスから約束の代償として、王家に服従する契約をかけられたのだ。
それは【真実を知らない者には話すことの出来ない】呪いだった。
過去編が重い話ですみません。しばらく続きます




