20 国王と宰相との邂逅
王宮からグレイソン家に先触れを飛ばしてもらい、私たちは急ぎグレイソン家へ向かうことにした。お母様に一刻も早く話を聞きたい…。
逸る気持ちを抑えながら、二人で廊下を歩いていると、向こうから国王様と宰相様の姿が見えた。
急いでいるときに限って…とイライラした気持ちになるが、それを顔に出さないように努めつつ、慌てて廊下の隅に寄りカーテシーの礼を取る。
「おお、セオドア。グレイソン公爵令嬢も一緒か。」
国王様が足を止められて、こちらに来られた。
「はい、これからグレイソン家にアメリアを送っていこうと思いまして」
セオドア様が頭を下げたまま答えます。私も礼の姿勢を取っているため、どのような表情で話しているのか見ることは出来ませんが、内心イライラしていることでしょう。
「グレイソン公爵令嬢…アメリアと言ったな。そのカーテシーといい、礼儀作法が素晴らしい。本日も王妃教育ははかどっておるようだな。」
国王様にお褒めの言葉を頂き、婚約者として認めて頂いたようで嬉しく思います。
ですが、臣下の立場でお許しも頂かずに発言することはマナー違反になります。私は無言でもう一度、さらに深く頭を下げました。
「アメリアよ、面を上げよ。…発言を許す。本日はどのような事を学んだのだ」
国王様に促され、顔を上げると国王様と後ろに控える宰相様の顔が見えました。
そうは言っても、宰相様は相変わらず顔を半分ほども覆った仮面を付けられているので、表情は全く見えませんが。
…でもなぜでしょうか。またも記憶を覗かれているような不快な気持ちがこみ上げます。 …頭がボーっとして、隠し事などできません。私はウッカリ口を滑らせました。
「はい。王宮で、社交とダンスマナーについてご教授頂いた後、オールヴァンズ王国の歴史についても学んでいたところです…」
…あっ‼我に返ったときには遅く、言う必要の無いことまでしゃべってしまいました。
「ほう。王国の歴史を勉強とは…。 それは何のために?」
国王様の目が細められ、明らかに不信に思われたことが伝わってきます。
…これは拙い。王家が歴史の改ざんに関わっている可能性が高い以上、秘密裏に調べを進めなくてはならないのに…。
しかも、王国の歴史を学んでいると言った瞬間、宰相様が明らかに動揺され体を硬直させたのも分かりました。この話題を続けるのは本当に拙いです。
「アメリアはこの国の王妃になるために、この国の歴史を学んでいるのです」
セオドア王子様が機転を利かして仰いました。
「そうだよね? アメリア?」セオドア様がウインクして私に続きを促します。
「は…はい‼ 王妃教育の一環として、この国の歴史についても学んでおかないといけないと思いまして、それ以外にも我が国の特産物や魔術についても同様に学んでいるところでございます‼」
私は一息に言い切りました。嘘は言っておりません。でも、余計なことも言う必要はありませんから。
狼狽えながらも言い切った私に国王様は『そうか、大儀である』と仰ると急速に興味を失われたご様子で 「二人とも、益々精進するのだぞ」
そう言うと私たちに背を向け、廊下の向こうへと去って行かれました。
ただ、宰相様の方はまだ気になることがあるのか、何度かこちらを振り返りつつも、一言も言葉を発することなく去って行かれたのが気になります。
まぁ、何とか窮地が去ったことだけは確かな様で、私はホッと息を吐きました。
グレイソン家へと向かう馬車が到着し、車内で二人きりになるまで、セオドア様は一言もしゃべりませんでした。
「ねえ、アメリア。さっき廊下でいきなり様子がおかしくなったみたいだけれど、何かあったの?」
手を握り、横で囁くセオドア様の優しい声に安心して、私はつい涙をこぼしました。
「先ほどは、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。…でも、セオドアに助けて頂いたおかげで、あれ以上余計なことは話さなくて済んでホッとしましたわ」
私の涙を指で拭いながら、セオドア様は首を左右に振られました。
「迷惑なんかじゃないし、君は私の婚約者だろう?助けるのは当たり前じゃないか。
それよりも、いつもの君ならもっと機転が利くはずなのにいきなり全てを話そうとするから驚いたんだよ」
私も何故あんな風になったのかは解りません。でも、あの時に宰相様から見つめられた瞬間、頭がボーっとして何も判断できずに全てを話してしまいそうになったのです。
それを伝えると、セオドア様は驚いた顔をされ、深く考え込まれました。
そして『もしかしたら、人心掌握の秘術かな… 』と呟かれました。
【人心掌握の秘術】…? 聞いたこともありません。
今まで、様々な文献を読み漁ってきましたが、そんな秘術についてのことが書かれている本は一冊もありませんでしたから。
…【秘術】だから公になっている訳が無いのかもしれませんが。
「これは、あくまでも仮定の話なんだけれど、宰相は【人心掌握の秘術】を使えるのかもしれない。」
そして、セオドア様は私の知らなかったご自分の辛い過去のお話を私にしてくださったのです。
本日もう一話投稿予定です




