表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/73

19 セオドア視点

「セオドア… こちらの本には歴史書の内容と一致した物しか無いようですわ」


 アメリアが、机の上に開いた【オールヴァンズ王国の歴史書】から目を離さずに言った。

 数日前に彼女にしつこくねだったかいがあって、ようやく『セオドア』呼びをしてもらえるようになったのだ。婚約してからも頑なに『セオドア王子様』と役職込みで呼ばれるとアメリアから距離を置かれているようで切なかった。

…2年間我慢したんだから、もうちょっとくらいは我が儘を言っても許されるはず。

…後はもう少し傍に行きたいとか、手を握りたいとか… キスしたいとか思うこともあるけれど、警戒心の強い彼女に無理強いすれば、怖がって益々離れて行ってしまいそうで怖い。

婚約して彼女は自分のモノだと周りに周知は済んでいるし、ゆっくりと距離を詰めて、彼女の方から近づいてくれるのを待つしか無いとも思っている。


「もう‼ セオドアったら聞いていますの?」


 アメリアが上目遣いで睨んでくる。そんな顔をしても益々可愛いだけなのに、本人は精一杯怖い声を出しているつもりのところもたまらなく魅力的だと感じるあたり、もう後戻りできない感情に少し恐怖を感じる。

もしも彼女が私から離れようとしたら…無理やりにでも自分から離れられなくしてしまいそうだ。我ながら彼女への独占欲に胸がムカつく。


「ちゃんと聞いているよ、こちらの本に気を取られていたせいで返事しなくてごめんね?」

 軽い調子で謝ると彼女はすぐに機嫌を直して『それならば仕方ないですけれど』と先ほどまで自分が読んでいた本を胸に、いそいそと私の隣の席に座った。


「この歴史書にはオールヴァンズの成り立ちが一人の英雄によって齎されたと書いてありました。無尽蔵に魔力を使えた英雄が、魔力を武器に他国の脅威を打ち払い、後にオールヴァンズ王国を築いたと。…それに、この英雄が残した子孫は魔力を持ち、魔法大国の礎を築いたとも書いてあります。」


彼女の言葉に頷く。…自分から私の傍に来てくれた彼女に思わず顔がにやける。


「…少しおとぎ話めいているけれど、私たちが学んでいる歴史書とほぼ同じだね」


 実際はもう少し複雑な書き方をされているが、彼女が要約すると、おとぎ話のように聞こえるから可笑しい。


「これが真実ならば、オールヴァンズの国が出来た500年前の時点で、国王になった英雄には無尽蔵に魔力があり、その後の子孫にも魔力があった。…当然、王家の一族ですから高位貴族にあたる立場の方々でしょう?

 そうすると、フェイの言っていた100年ぐらい前までは誰も魔力を持っていなかったという話と矛盾しますね」


 そう、結局王宮図書館に保管されている歴史書には、ほとんどがそれと同様のことしか記載が無い。100年ぐらい前と言ったら、私の曽祖父ぐらいが王座についていた頃だろうか?

 さすがに今では生き証人もいないだろうし、嫌な話ではあるが改ざんの時に口封じされている可能性も高いだろう。

 さらにフェイの言っていた、過去には他国との交流があったとかの話に至ってはどこにも記載が無く、今はとっかかりすらも見つからないまま日にちだけが経過していっている有様だ。


「フェイの記憶違いということはないかしら? 大体、魔力って精霊様の使う不思議な力と同じ物ではないの? よくフェイは【穢れ】って呼ぶけれど、違いは何?」


 矢継ぎ早にアメリアがフェイを質問攻めにした。

 ここ数日二人で、片っ端から書物を漁ってみたものの、何も成果が無くってイライラしているんだろうな…。

 まぁ、私にとってはアメリアと近い距離でイチャイチャできて楽しい時間だったから全然構わないけれど。


「穢れは穢れだよ…」


 ずっと図書館の隅にいたらしきフェイがモゴモゴと呟く。

 …何をしていたのかと思ったら、グレイソン家から持参したお菓子を楽しんでいたんだね? 慌てて羽で拭ったけれど、クチバシの周りに菓子くずが付いている。


「いいか? そもそも精霊の使う力っていうのは、生物全ての自然の理なんだよ。草木や花は光や風を浴び成長するし、土や水はその力で様々な生物の力の源になる

。…上手くは言えないが、生物が生きる力は、俺たち精霊の力の源から出ている。互いに生きる力を循環させているわけだ。」


「つまりは互いに支えあうことで、お互いの成長を助けている。…精霊の力の源になっているのは自然や生きとし生けるものってことかな?」


 聞くとフェイは私に頷いて言葉を続けた。


「そうだ。…だがこの国の魔力っていうものはもっと【邪悪な何か】なんだよ。

生き物が作った力じゃあない。…もっと死んだ悪意の塊とか、呪いの力って感じだ。

…この国の魔力は、使い続けると人間が持つ狂暴性がむき出しになる。それが穢れでなくって何と呼ぶ?…それは自然の力ではありえないし、精霊の力とは真逆の存在だと言っても過言ではないと思う」


「だからフェイは魔力を【穢れ】っていうのね…」


 アメリアが腑に落ちたように呟いた。そして突然気が付いたように続ける。


「あら? 穢れに囲まれている状態だと精霊の力は弱まるはずでしょ? 現に精霊はこの国に存在していないし。そんな状況でどうしてフェイはこんなに元気なの?」


「アメリアの【ホワイトコア】とセオドアの魔力のおかげだな‼」


 フェイ…そんなに胸を張っていうことかい?


「アメリアの【ホワイトコア】に植えてある世界樹は魔力を吸って成長するって話しただろう?その世界樹からコアを通じて俺様は生体エネルギーを貰っているわけだ。

さらに、セオドアが垂れ流す火の魔力をアメリアのコアがいい感じに吸い上げていて、火の魔力が栄養になる俺様は絶好調というわけよ!」


 …私の魔力まで吸われていたとは知らなかったよ。大体垂れ流すとは人聞きの悪い。


「でも、そのおかげで、セオドアの魔力も安定しているし穢れも薄まっているから、穢れで起こる狂暴性とか抑えられているし、お互い良いこと尽くめだな!」


 ガハハと胸を張るフェイを見ていると可笑しくてたまらない。

 確かに、以前は周囲に対して疑心暗鬼になっていたけれど、最近は随分と穏やかな気持ちで過ごせるようになった。これもアメリアとフェイのおかげなのかな?

…でも穢れを持たされた人間は心が狂暴になる…? フッと一つの考えが浮かぶ。


「魔力を人為的に持たせることが出来る方法があるのなら、それは何らかの儀式を行っているということだよね?」


 …誰かが、それを行い新たな魔力を持つ人間を作り上げることが出来るとすれば…。


「この国に元々いなかったために、魔力を持っていなかった人物…その人に魔力を与えた方法があるのなら、実際にその方法を知っている人に話を聞けばいい…」


 そこまで言うと、アメリアがハッとしたように私の顔を見上げた。


「私のお母様! エステル・マリア・グレイソンは隣国インマヌエルから魔力を持たずに来ましたわ! …そして、現在は水の魔力を持っている… ということは」


「そう、彼女はこの国で魔力を持つための方法を知っているということだ」


 灯台下暗しとはこのことだ。すぐ傍に事情の一端を知る人物がいたのだから。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ