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18 歴史の改ざん

「うーん、これも違うわね…」アメリアは古い表紙の本をそっと閉じた。

王宮図書館に通い続けて2年以上の年月が流れた。

相当の数の書物を読了したが、それでも未だにアメリアの求める【遺伝の変化】についての明確な書物は発見するに至っていない。


「本当にお前の言ってた…何とかの… 変化だっけ? なんて本があるのかー?」


図書館に着いてから1時間余り。すっかり本に飽きた様子のフェイが文句を言う。

…別に手伝ってくれている訳でもないくせに文句が多い。


「何とかじゃなくって【遺伝の変化】よ!」

アメリアは訂正するが、実際にそのことに関する書物があるのかも疑問だ。


「私が両親から魔力を受け継いでいない以上、遺伝に問題があったんじゃないかと思ったの。…そのことを調べ続けているのだけれど、どこにも記述が無いのよ。

大体、何で我が国の高位の貴族だけにしか魔力が無いのかも解らないままだし…」


調べ物が上手くいかないうえ、自分の魔力が0なことを思い出すと、アメリアは惨めな気持ちになった。


「ふーん…。でも、百年ぐらい前はこの国も魔力大国じゃなかっただろう?」

フェイがあっさりと爆弾発言を投下する。


「えっ?私たちはこの国の成り立ちの時から魔力大国だったと教わっているけれど」


確か、歴史の先生もそうおっしゃっていた。…なんだろうか、この食い違いは。


「俺たち精霊は寿命が長い。それでも死は訪れるが、器だけが滅び、その記憶を集めた魂は滅びない。死とは精霊にとって長い眠りの状態なんだ。…勿論、眠っている間も周りで起きた出来事は全て判っている。 …だから大抵の生き物よりも長い歴史を知っている。」


たしかエインセルも眠っているだけだと言っていたし、そう考えると自分たち人間よりも史実に詳しいのは当然だろう。


「それでな、俺様が覚えている限りでは、確かにこのオールヴァンズ王国は建国500年以上の歴史を持った国だが、今のような魔法大国と呼ばれるようになったのは100年ぐらいしか経っていないはずだ。

それまでは他国とも交流があったし、…たしか精霊もこの国にいたことがあるぞ」


「…でも精霊のいた歴史について書いた書物なんて見たことも無いわ。それに他国との交流についても。…私が知る限り、建国の時から魔力大国で鎖国していたとしか書いてなかった。もしかしたら…」


「歴史の改ざん… かな?」


声がして驚いて振り向くと、いつの間にかセオドア王子様が立っていた。


「随分と面白い話をしているね。私も混ぜてくれるかな?」


そこで、セオドア王子様を交えてもう一度フェイの話を繰り返す。


「なるほどね。でも、何で魔法大国の成り立ちについての話になったんだい?」


何でだったかしら…? 確か私が両親から魔力を引き継いでないから遺伝について調べているって話をして、それからこの国の高位貴族しか魔力を持っていないのは何でだろうってことになったのよね。


そう話すとフェイは頷き「そうそう」と話を続けた。

「…だから何度も言うが、100年ぐらい前は平民どころか貴族ですら、この国に魔力を持っていた人間なんていなかったんだよ。

つまりは何らかの方法で魔力…穢れを貴族の身体に宿らせた奴がいるってことだ」


それは、私にとってもセオドア王子様にとっても衝撃の事実だった。


「どうやって⁇ 人為的に魔力を持たせることが出来るってこと? …大体歴史の改ざんなんて普通の人に出来るわけがないじゃない!」


アメリアは突然突き付けられた事実に衝撃を隠せなかった。人為的に魔力を持たせる方法については分からないが、歴史の改ざんとなれば話が大きすぎる。

…当然そんなことが出来る人物は限られている…。


「そうだね、つまりこの歴史の改ざんにはオールヴァンズ王家が関わっているということだ」


セオドア王子様はアメリアが言葉に出来なかった思いを口にする。

そう、それしか考えられない。…では歴史の改ざんには一体どんな理由があったのだろうか…。


「多分、歴史の改ざんの裏には、この国が鎖国していることとも関係しているのだろう。魔法技術の流失といった表の理由とは別の… 外に漏れては拙い理由があるからこそ、改ざんに繋がった気がするね。」


セオドア王子様は苦々しい表情でつぶやいた。

考えられる理由はそれしか無いだろう。どうして高位貴族のみに魔力を【人為的に植え付けた】のか、どうして同じタイミングで鎖国が始まったのか。

そして… どうして王家はこのことを隠し、歴史の改ざんを行ったのか…。


「その答えがあるとしたら、どうやって調べればいいと思う?」


セオドア王子様に聞かれるが、答えは既にこの手の中にあるではないか!


「私なら、秘密は外に出しません」


アメリアの答えにセオドア王子も頷く。


「自分の秘密は、手元で隠したいと考えるのが普通です。大きな秘密になればなるほど、公にしたくないのは当たり前です。

秘匿されているとは思いますが、きっとこの王宮図書館の中に答えは眠っているはずだと私は思います!」


そう、フェイの話が本当だったなら、歴史を改ざんしてまで守りたかった秘密がここに存在していることになる。

もしかしたら、自分が魔力を持たずに生まれてきたことの答えもそこには眠っているかもしれない。そして人為的に魔力を持たせてもらえるのなら、アメリアも魔力を持つことができるチャンスがあるということだ。

これで、長年の悩みも解消されるかもしれないと思うと心も弾む。


「ここから、もう一度調べなおしましょう! セオドア王子様!フェイ!お二人とも手伝ってくださいね」


拳を握りしめ、気合を入れなおしたアメリアを見て、フェイだけは頷いてくれる。

しかし、セオドア王子様は拗ねたように唇を尖らせて不服そうにアメリアを見た。


「あのさ、何でアメリアは私のことをセオドア王子様って呼ぶの?フェイのことは呼び捨てにしているのに、婚約者の私には随分と他人行儀だよね?」


「え?いえ…今はそんな場合では…」 

急にどうしたというのか? …何か気に障ったのかしら?


「じゃあ、いつから呼んでくれるの?私は2年もアメリアからの他人行儀な呼ばれ方に我慢したんだからね。今からでも…セオドアって…呼んで?」


ちょっ‼ そんな可愛くおねだりするなんてズル過ぎませんか⁈

胸がバクバクして絶対に無理です‼


「そんな、呼び捨てなんてできません!…セオドア王子様のこ…」


「セオドア‼」


「…セオドア様…」


「二人きりの時にはセオドアって呼んでくれないと返事しないからね」


「そんな、セオドア様…」


「…(無言)」


意地悪ー! もうもう! 恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら呼びかける。


「セオドア…もう、意地悪しないでお返事してください…」


上目づかいでセオドアを見ると、彼は口元を抑えて震えていた。

もう‼笑いをこらえているんですね⁉ 私はとっても恥ずかしかったのに‼

そんなプンプンと怒るアメリアだったが、

「ヤバい… アメリアが可愛すぎる…」


セオドアは初めて名前を呼び捨てにされた感動に打ち震えていた。

そして、その後ろではフェイが「あーあ、バカップルが… ヘッ」と呆れていたのだった。


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