15 舞踏会
「アメリア様! もう少し締め付けてもよろしいですか?」
イオナがコルセットの紐をぎゅうぎゅうと締め付ける。
「グエ… イオナ… これ以上締められたら私、呼吸困難になっちゃうわよ」
反論するアメリアに『もう少しだけ…』とイオナはその手を緩めない。
今日は大勢の貴族の前で、セオドア王子との婚約をお披露目する舞踏会が行われる。
セオドア王子は約束通り、今日アメリアが着るドレスを贈ってくれた。少し細身のデザインなので、イオナがコルセットでギュウギュウと締め付けてくれていたのだ。
「まあ! アメリア… なんて素敵なの… 本物の炎の精霊のようだわ」
着替えを終え、部屋に入ってきた両親は私を見ると大絶賛だった。
ドレスはセオドア様のカラーである鮮やかな赤を基調に金糸銀糸で刺繍が施され、上に行くほど細かい縫い取りが散りばめられた意匠になっている。確かに離れてみると炎が燃え上がっているように見えるかもしれない。
いつもよりも胸元の開いたデザインで、首元にも赤いチョーカーに大粒のルビーが付けられている。
普段、あまり化粧をしたことは無いが、ドレスが華やかなので浮いてしまうからとイオナがバッチリお化粧もしてくれた。
髪もアップにし、ドレスと対のデザインになったルビーの髪飾りを差す。
「こんなに華やかなデザイン…私には似合わないのではないかしら…?」
不安にかられ、思わず口から思いが零れるが、その場にいた全員から
「「ものすごく似合ってい(る!)ます!」」と返された。
「今まで、子供だと思っていたけれど、すっかりレディになっていたのね」とお母様が言えば、「いやいや、外見は大人でもまだ中身は子供だよ。結婚にはまだ早い!」とお父様が返す。
イオナは『やり切った!』という表情で満足げに頷いている。
…お二人とも… 私は本日婚約のお披露目をするだけで、まだ嫁ぐわけではありませんわよ? それに私はお飾りの婚約者ですから。
そこに、コンコン… とノックが響き、王子様の到着を知らされる。
お父様のエスコートで階段を降りると、階下にはセオドア王子が立っていた。
真っ白な夜会服には赤と金糸で刺繍が施され、誰が見ても私と揃いで作られた物だと分かる。深紅の髪と瞳に映え煌めいているその姿は揺らめく炎のように美しい。
彼は私を見ると一瞬息を吞んだように黙り、その後大輪の笑顔を咲かせた。
「アメリア、本当にきれいだ。贈ったドレスを着てくれてありがとう」
はにかみながらも私を褒めてくれるセオドア王子を見ていると何故か落ち着かない気持ちになる。
王子様は私をお飾りの婚約者として褒めてくれているだけです。なのに、このもどかしいようなチクチクする胸の痛みは何でしょう…もしかして…胃もたれでしょうか?
「セオドア様こそ、本当に素敵ですわ…」
こんなに美しい方と婚約者として今日は舞踏会で比べられるのです。
きっとまた「釣り合わない」とか「魔力なしの無能」とか囁かれるのでしょう。
…でも、今夜を乗り切らなくてはお飾りにすらなれないのです! 精一杯婚約者役を演じてみせましょう! それが私の使命なのですから!
「さぁ!セオドア様参りましょう!」
私は鼻息も荒く、セオドア様のエスコートで馬車に乗りました。いざ! 出陣ですわ!
王宮に着くと、既にホールは大勢の貴族が集っていた。
アメリアとセオドアは今夜の主賓となるため、王族と一緒に後ほど入場となる。
先に両陛下にご挨拶すると、第2王妃様が驚いた様子で私を見た。
…おかしいところでもあったかしら…? 不安になるが、
「今日は、少しはマシですわね! まぁ、地味な方は何をやっても地味ですけれど」と憎まれ口をたたかれて、少しでもマシなら良かったと胸をなでおろした。
「セオドア王太子様、アメリア公爵令嬢様のご入場です!」
声が響き、扉が開かれる。…いよいよだ! アメリアは大広間に足を踏み入れた。
…音楽に合わせ、貴族たちの噂するひそひそ声が聞こえる。
しかし、予想に反し「あのご令嬢はどなただ? …精霊と見間違うような美しい方だ…」とか「王子様と好一対だな。公爵は美しい花を隠していたのか」という声だけが聞こえてくる。
…あら? おかしいわ? 今までは地味だとか存在感が無いとか悪口しか言われたことないのに…
疑問に思ったアメリアは隣に並ぶセオドアに目を向ける。
セオドアは「アメリアが魅力的だから、みんな噂しているようだね」とほほ笑むが、そんな訳がないと思う。
そして彼女は残念な結論にたどり着いた。
『そうか! 衣装マジックですね? 素晴らしいドレスのおかげで私の欠片しかない魅力が数十倍に威力を持ったってことですね⁉ 』と…。
嫌がらせも受けず安心したアメリアは、足取りも軽くセオドアとお披露目のダンスを踊った。アメリアは気が付かなかったが、踊る姿は炎の精霊のようだと美しさに魅了される貴族も多かった。
しかし既に王子の婚約者としてお披露目されている以上、手を出せず歯噛みしていたのだ。
貴族からのお祝いの言葉を受けつつ、ゆっくりと会場を一周すると、セオドアが
「アメリア、疲れただろう? 少し休もうか」と王族専用の控室へ誘導してくれた。
正直、履きなれないヒールの靴で足が限界を訴えていただけにその申し出はありがたく、腰を下ろすとホッとする。
セオドアは『すぐ戻るからここにいてね』と、アメリアのために軽食を取りに行った。
「フェイ…?騒がしかったからあなたも疲れたんじゃなくて…?」
頭の上にいるはずの精霊に声を掛ける。精霊には重さが無いので、ダンスの最中も重くはなかったが、『目が回る』だの、『ちょっと王子様と距離が近すぎ』だの騒いでいたから少々うるさかった。
「…フェイ…?どうしたの…?」 返事がない。
そっと頭上を探るもフェイの姿は無いようだ。
…どうしよう… フェイをこの広い会場のどこかに落としてしまったわ…。
沢山の人ごみに紛れた一匹?の精霊… しかも他の人には見えないのだ。
どうやって探したらいいのかしら…? 途方に暮れるアメリアだった。




