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14 幼い頃の…夢?

 …アメリアは夢を見ていた。

 夢の中で幼い少女は泣きながら母親を探していた。

 見知らぬ街の中で、不安げにさ迷い歩く姿にアメリアも何となく思い出すものがある。


 …これは、私が5歳の頃実際にあったことだわ…。


 今から9年前のとある日、母に連れられ市街地の教会に行った時のことだ。

 魔力が無いと言われて落ち込んでいたアメリアのために、母が『神様にお願いをしに行きましょうか』と連れて行ってくれたのだ。

 幼いアメリアのために執事長のコーレシュとイオナも馬車で同行してくれた。


 アメリアにとって、初めての市街地への外出は興奮の連続だった。

 だから馬車から見える市街地の賑やかさについ心を惹かれ、退屈を覚えたアメリアは教会の司祭様のお話の途中で教会をこっそりと抜け出してしまったのだ。

 勿論、始めはすぐに帰るつもりだったのに、屋台に並ぶ珍しい雑貨や他国の衣装に気を取られ、気が付けば自分がどこにいるのか分からない状況になってしまったのだから子供の浅知恵と言わざるを得ない。

 悪いことは重なるもので、先ほどまでは雲一つない青空だったはずなのに、見る見るうちに黒雲が空を覆い隠すとたちまち大粒の雨が降り出した。


「お母様―! コーレシュどこー?」


 叫んでも町の人は突然の大雨に商品を濡らすまいと慌てて店じまいをしていて、泣いているアメリアには誰も見向きもしない。

 途方に暮れ、泣きながら町を彷徨っていた時、『こっち! 早く来い!』と突然腕をつかまれ、どこかの軒先へ連れていかれた。雨がしのげるだけの狭い路地裏だったが、冷たい雨が直接当たらないだけでもほっとする。


「大丈夫か? 馬鹿だなぁ… こんな大雨の中でボケっとしてたら風邪ひくぞ!」


 そして自身もずぶぬれなのに、その少年は私の頭をゴシゴシと持っていた古布で拭いてくれたのだ。


「あなたも濡れているわ。風邪をひいちゃうわよ」


 アメリアが言うと『アハハ確かにそうだな』と笑いながら、少年はアメリアの頭を拭き終えると、その古布を絞ってやっと自分の頭を拭きだした。


「お前、どこの子だよ? 見たことないし、いい服着ているからどっかの金持ち貴族のお嬢さんか?」


 ガシガシと頭を拭きながら少年はアメリアを見下ろした。確かに着古した服を着て、痩せぎすの彼から見れば自分はそう見えるかもしれない。

 それにこのままお家に帰れなければ自分もどうやってご飯を食べればいいのか分からない… お母様やイオナにももう会えないのかしら…。

 そう思うと悲しみのあまり、アメリアは突然大声で泣き出してしまった。

 突然泣き始めたアメリアに少年は吃驚して、一生懸命慰めてくれた。


「大丈夫だよ、俺がお前の父ちゃんや母ちゃんの所へ連れて行ってやるから、もう泣くなよ… な?」


「…本当? …アメリアはお母様の所へ帰れる…?」


 グズグズと泣きながら話す私に少年は優しい顔で頷き、頭を撫でてくれた。

 そして、「お前の名前、アメリアっていうのか? 俺の名前はジュードだ」と笑顔を見せたのだった。

 それから一時余り、彼と沢山の話をした。ジュードはお母様と二人暮らしなことや、彼のお母様はかつて王宮で働いていたメイドだったこと、今は市街地のパン屋で働いていること、お父さんはいないけれど、優しいお母さんとの暮らしは毎日幸せだという事。

 アメリアにとっても楽しい時間だったが、小雨になった頃、ジュードは教会の場所を聞くと私を背中に乗せ『そろそろ帰らないと、お前の母ちゃんが心配するぞ』と言いながら歩き出した。

 心細かったくせに、ジュードとの楽しい時間が終わることも嫌だった私は『もう少し話したい』と駄々をこねた。

 彼にとっても楽しい時間だったのか、ジュードは一つの提案をしてくれた。


「また、街に来ることがあったら、教会で待ち合わせして遊ぼうぜ」


 彼の提案に大はしゃぎすると、「絶対に約束ね! 嘘ついたらだーめよ」と歌いながら、アメリアは左耳のイヤリングを外すと、彼の左耳に付け直した。


「これね、お母様に貰ったの。このイヤリングを持っていると絶対にもう一度会える精霊のおまじないなんだって。だからジュードにあげる。失くしちゃだめよ」


「へぇ凄いなー 精霊のおまじないなんて効力ありそうじゃん。 …分かった。絶対に失くさないから、お前も約束忘れるなよ」


 頷き、はしゃぎつかれた私は、ジュードの背中の体温に安心し、ウトウトとそのまま眠ってしまったようだ。

 目が覚めると、心配していたお母様に抱きしめられていて、帰りの馬車に揺られていた。勿論、全員からすごく叱られたことは言うまでもない。

 不思議なことに、ジュードのことをお母様に聞いてみても、私が教会の前で眠っていたのを司祭様が見つけてくださったというばかりで、誰も彼の存在を知らないというのだ。

 更に私は雨に打たれたせいか高熱を出し、一週間ベッドの上での生活になった。

 勿論、外出も禁止され、やっと教会に行けた時もコーレシュの監視が厳しく抜け出すことはできなかった。

 …そうだ、精霊のイヤリングはジュードに渡したんだっけ。懐かしい夢に涙が零れる。

 もう、あれから9年も経ってしまった。あの時以来ジュードには会えていない。

 彼はもう大人になって忘れてしまったかしら? …会おうという約束を果たせないままだわ…。

 …それにしても何で今日という日にこんな夢を見たのだろうか… アメリアは疑問に思ったが、直ぐに今日の予定に心を馳せた。 …ああ、緊張するわ。今日は上手くいきますように…。

 今日はアメリアとセオドア王子の婚約をお披露目する舞踏会当日なのだから。


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