12 いよいよお披露目
婚約が正式に通達され、両親と共に王宮で国王陛下にお目通りする日がついに来てしまった。
今日までにお母様にもマナーの先生にもビシビシとしごかれ、一通りの準備は整った…はず、多分…恐らく…。
通常であれば、王家との婚約というのは家格や政略的な思惑で決定する。
だから内々に当人同士の顔合わせや、王宮に通ううちに王宮のしきたり等を教え込まれているもので、本人にも王家に嫁ぐ自覚が芽生えているのが普通だろう。
でもアメリアは魔力が0で、そもそも強力な魔力持ちを求める貴族の理に反していた。
だから王族に嫁ぐなど、これっぽっちも考えていなかったのだから、王家のしきたりなんて意識したことも無かったのだ。
そのため社交術にもダンスマナーにも疎く、それをこの短期間で詰め込まされたために精神的にも当然ゆとりなんてものはあるはずもなかった。
ああ、緊張で吐きそう…。
「まあ、アメリア綺麗よ!迷ったけれど、ピンクのドレスにして正解だったわね」
両親は私のドレス姿を見て私を口々に褒めてくれる。
本日王族の方にお目通りし、認められてから婚約確定となるため、セオドア王子様のカラーである赤を基調にしたドレスには出来ない。
結局、母の提案で淡いピンクのバラをイメージしたドレスになった。パフスリーブの首元まであるデザインで、切り替えにレースが縁どられている美しいドレスだ。髪にもレースで出来たバラ飾りを付けた。
「お嬢様、とてもおきれいですわ」
イオナにも褒められるが、アメリアの緊張感は増すばかりだ。
「…へぇ、ドレスに着られてる感はあるけど、まあまあ良いんじゃねえの?」
…憎たらしいこの声は…
「フェイ! 失礼ね。レディを褒められないなんてジェントルマンとは言えなくてよ!」
強い口調でにらみつけるが、フェイは動じない。
「俺様は精霊ですから~。別にジェントルマンじゃないです~! 正直で悪いかよ」
…憎ったらしい! あの野太い声で言われるとさらにイラっとしますわ。
「あんたなんか、今日はお留守番よ!」
顔を見ると余計にイライラしそうだったので、そっぽを向く。
フェイはやれやれといった感じに両手を挙げ、首を左右に振った。
「あ、そりゃあダメだ。あんたは自分で魔力を持たない分、強い魔力を浴びると弱っちまうんだよ。現に王子さんの魔力暴走で倒れただろう?
俺様が、あんたの体内の世界樹を通して余分な魔力を吸い上げてやらないとまた倒れることになるぞ!」
え…?どういうことよ?
「もう、世界樹があるから大丈夫なんじゃないの?」
「いいか?あくまでも、世界樹はあんたのコアで根を張って魔力を吸い上げているだけの存在なんだ。魔力暴走なんてことがあれば、吸収しきれず枯れる危険がある。
大体、精霊は世界樹から生まれる存在だが、今回火を司るフェイ様が誕生したのも、セオドア王子さんの属性が火だったからだ。」
「確かに…セオドア様は火の魔力を持っているけれど」
「それが暴走して、世界樹の生育に必要な魔力量を超えちまったから、世界樹が自分の身を守るために、俺様が世界樹の実…精霊の卵として熟して生まれたわけよ」
そうだったのか。
「だから世界樹の傍に俺様がいないと、もしもまた魔力の暴走があったときに何が起こるかわからない… あの王子さんの火の魔力なら俺様が吸い上げてやれるけどな?」
「それじゃあ、今後も私が王宮に行くときにはフェイも一緒に行くってこと?」
「エインセルに頼まれたし、仕方ないからな」フェイはニヤリと笑った。
そんなアメリアの様子を父もイオナも不思議そうに見つめている。フェイの姿が見えないのだから当然だろう。
この際、イオナにも精霊の存在を話しておいた方が良さそうだと思い、アメリアはフェイの今の話を二人に伝えた。
お父様は「アメリアの命を守ってくれるなんて素晴らしい精霊様だ!」と喜び、
イオナは「まぁ! お嬢さまを助けて下さりありがとうございます! きっと身も心も美しい精霊様なのでしょうね… 見えないのが残念ですわ」と感激していた。
…見えていたら、こんな憎たらしい顔をしたヒヨコだからガッカリしたよ… きっと。
ため息をつきながらも、いつの間にか緊張が解れていることに気が付く。
…フェイはわざと意地悪を言って私の緊張をほぐしてくれたのかもしれない…。
そう思い感謝しようとしたアメリアにフェイが囁く。
「なぁ、王宮って美味いお菓子が出るのか?楽しみだな!」
…ああ、やっぱり食い意地がはっているだけのおバカ鳥だったわ。
「…今日はお茶会じゃないので、お食事はありませんけれど…?」
「えええ!それだけを楽しみにしていたのに…」
崩れ落ちるフェイの姿にため息をつきつつもなんだか安心したアメリアだった。




