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10 セオドア初恋物語 ①

 私の名はセオドア・フォン・オールヴァンズ。

 先月14歳の誕生日を迎えたところだ。


 オールヴァンズ王国の第1王子にして、現在王位継承権第1位を持つ私だが、第2王子であるリアムを王位に付けようとする一派がいるため、未来は霧の中だ。

 私を生んでくれた母は正妃で厳しくも優しい人だったが、私が3歳になったある朝、突然この世を去った。まだ幼かった私には理解できなかったが、様々な噂話から毒殺されたのではないかと漏れ聞こえてきたことは忘れることが出来ない。

 しかも毒殺したと噂されている相手が大物だったのだから、皆声を潜ませ囁きかわすことしかできなかったのだろう。当然のように犯人は見つからなかった。

 毒殺したと囁かれる人物ブラインズ公爵家はわが国ではグレイソン家と並ぶ2大公爵家と言われるほど強大な権力を持っている。

 私の母である正妃がこの世を去った後、僅か半年で自分の娘であるオリバレスを新たな王妃として国王に娶らせたことで、さらに盤石な地位を確立したのだから、大したものだ。


 さらに第2王妃になったオリバレスは男子を出産した。それがリアムだ。

 リアムが王位に付けば、自分の孫が国王になるということ。

 しかもリアムはオリバレス妃に溺愛されすぎ、非常に精神面の脆いところがある。

 何でも母の言いなりになるリアムをお飾りの国王に据え、この国を思うままに操れるとなれば私を排除しようとするのも理解できる。理解はできるが大人しく従うつもりは無い。


 そこで、私は父王に魔術や剣術の第一人者と呼ばれる人物を揃えてもらい、勉学に勤しんだ。甘えたい幼子の気持ちを捨てなければ排除されてしまうかもしれないという不安はいつでも私の心を蝕み、寝る間も惜しんで努力を続けた。

 私は皆が言うほど優秀でもないし、全てに秀でているわけでは無い。ただ誰よりも努力しただけなのだ… 自分の身を守るためだけに…。

 血のにじむような努力を重ね、騎士団の大人をも打ち負かせるようになった頃、ふと私は笑えなくなっている自分に気が付いた。

 どんなに面白い道化師が来ても、美しいご令嬢に言い寄られても何一つ心が動かないのだ。もちろん作り笑いはできるし、美しい、素晴らしいといった感情も分かる。

 でも、その全てが作り物めいた笑顔でしか表現できなくなっている自分に気づいたときには愕然とした。真実、人を想うことの出来ない人間になってしまったことに…。


 最近では王妃の座を狙っているのか、様々なご機嫌伺いの貴族が娘を伴って謁見を申し込んでくるようになった。

 誰もが私の外見を誉めそやし、魔術や剣術の能力を絶賛する。

 令嬢は挙って私の目に留まろうと豪奢なドレスを身にまとい、ゴテゴテとした化粧で上目遣いしながら、纏わりついてくる。

 そんな時も私は作り笑いしながら『美しいご令嬢ですね』と社交の台詞を口にしなければならない。

 …誰も愛せない、誰にも心を解ってもらえない道化の王子なのに。



「セオドア様、お顔の色が優れませんが大丈夫ですか?」


 心配そうにこちらに手を伸ばすご令嬢。彼女は2大公爵であるグレイソン家の一人娘、アメリア・エゼル・グレイソンだ。

 グレイソン家は王家の遠縁にあたる公爵家で、現当主のルーカス公爵は人当たりの良さと物腰柔らかな交渉術で他国との交易を優位に進める手腕の持ち主だと評判は悪くない。

 しかし、娘を王宮に連れてきて私と謁見させるあたりはやはり王妃の地位を狙っているのか?食えない男だ。

 お茶会の最中に嫌なことを思い出して話を聞いていなかった。聞いていなかったと言えば怒るだろうし。

 苦痛の時間が伸びるが仕方ない… とニッコリ作り笑顔を見せて答える。


「昨夜は勉学に没頭するあまり、就寝時間があまり取れなかったので少々ボーっとしてしまった様です。…決して貴女を蔑ろにしたつもりはありませんが、ご不快にさせてしまったのでしたらお詫びします」


 …こう答えれば大概のご令嬢は『では、今度はちゃんと聞いてくださいね』とか『その分、お時間を余分に取っていただけばいいですわ』とか、私を拘束することばかり言ってくる。からっぽで中身も無い話なのに…だ。…うんざりだが仕方ないだろう。

 …ところが、アメリア嬢は違っていた。


「まぁ!それは体に良くありませんわ。きちんと睡眠を取らないと心まで元気を無くしますもの!今日はこれでお開きにして、ゆっくりお休み下さいね」


 …そう言うとメイドに声を掛け、いそいそと帰り支度を始める。

 呆然としているうちに「では、ごゆっくりお休みください」とグレイソン公爵と共に退出してしまった。

 王宮で私主催のお茶会にも係わらず十分なもてなしが出来ないなど、マナー違反であり、私の沽券にも関わる。

 慌てて詫び状と次回の招待状を送ることになった。


 今度こそは失敗しないようにと招待したお茶会にはグレイソン公爵は欠席し、アメリア嬢だけが現れた。娘本人に色仕掛けでもさせるために一人で来させたのだろうか?

 そう思っていたが、アメリア嬢は飾り気のないシンプルなドレスを身にまとい、地味な外見…鈍い銀の髪に銀の瞳…で見事なカーテシーを見せた。

 さすがは公爵令嬢だけはあり、マナーはきちんと教育されているようだ。そうは思うが、この地味な風貌では色仕掛けは難しいだろう。

 しかも彼女は公爵家令嬢でありながら魔力を持たないと聞く。王家にとっては家格のつり合い以外メリットのない相手だし、適当にお相手して帰っていただこう。

 そう思い、愛想笑いを浮かべながら雑談をしていると彼女は意を決した様子で言い出した。


「セオドア王子様にお願いがあります。私、王宮図書館の文献を読んでみたいのですが、お借りすることはできませんか?」と。


「ごめんね。王宮図書館は貴重な魔術書や禁書も含まれているから、王族しか使用出来ないんだよ」


「やっぱり… そうですわよね…」


 目に見えてしょんぼりと項垂れる彼女の姿に少し同情する。

 普通のご令嬢であれば物語や詩以外の本に興味を持つなんて聞いたことがない。何か理由があるのだろうか?

 理由を聞くと、彼女は躊躇いながらも事情を話してくれた。

 自分に魔力が無いばかりに家族が苦しんでいることが辛いこと、両親ともに魔力を持っているのに自分が持っていないのは遺伝の関係なのか、発現する条件があるのかを知りたいが、民間に出回っている書物では解らないため王家の蔵書を読みたいことなど彼女の置かれている現状を知るには十分だった。

 彼女も自分の置かれている立場に苦しんで、それを打開しようと模索しているのか…。

 その姿は自分と重なり、どうしても放っておくことはできなくなった。


「分かった。父王に頼んであげるよ。但し、私が同席しているときのみ使用できるって条件だけれどね」


 彼女は私の提案に大喜びし、頷いた。

 私の同席を書物の持ち出しを見張るためと解釈したらしい彼女には黙っていたが、書物を持ち出そうとすると魔術が発動し、その本は炎に変わるため絶対に持ち出しは出来ないのだ。


 では、なぜ私が同席すると言ったのか… 純粋に、彼女に興味が湧いたからだ。

 無邪気に笑う彼女を見ていると、少し落ち着かない気持ちになる。それは今まで感じたことのない気持ちだった。


ご指摘ありがとうございます。

ジュード→リアムに修正しました。…意外と間違いが多くて焦っています。


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