喫煙人、そえーん
激闘が終わり、荒れ地と化した場所にて。
そえーんは腕を組み、仁王立ちで自身の前に卿とりんごニキを並べて正座させていた。
「…………………」
「……………………なあ、そえーんくん」
「黙れ」
「……………」
りんごニキが神妙に黙っている中、仏頂面のそえーんは呼び掛けを一蹴し、卿は押し黙る。
と、そこへ辺獄とズリキチがアイアンメイデンを伴って小走りでやって来る。
「はぁ……はぁ……そえーんさん、何を、全力疾走、してるんですか……」
「こっちは……あの余波凌ぐので疲れてんだけど……お前ふざけんなよ……」
息を切らしている辺獄とズリキチを一瞥したそえーんは再び視線を卿とりんごニキに向け、口を開く。
「僕が君らに正座させてる理由がわかりますか」
「あー……」
「いや、その前に猥にドロップキックかましたこと詫びろや」
「あ゛ぁ?」
「……サーセン」
そえーんの本気の威圧に思わず萎縮した卿は再び黙り、りんごニキは頭……着ぐるみの……を掻きながら、そえーんの質問に答える。
「ワシらの攻撃の余波がヤバかったからやろ?」
「そう」
「………その一言だけ? そえーんくん的には何も無いん?」
「あるわ。山程」
それを皮切りに、そえーんの説教が始まる。
「卿ちゃんとりんごニキがバトル漫画よろしく因縁の対決やんのは百歩譲ってスルーしてもよ。何だあの規模。フザけてんのか。ドカスカドカスカドカスカドカスカ……二人でアホみたいな威力とバカみてーな範囲の技の撃ち合いで最終戦争でも始めたのかと思ったわ。初っぱな、りんごニキは鉄クズ降らせてくるわ、卿は爆発だので鉄クズ燃やすわで下にいる僕らがどんだけ被害受けたかわかるか? わかんねぇよなぁ? 普段勝手に動く僕らでさえ、もう一生に一度ってレベルのチームワークで一致団結して君らの攻撃の余波を一個一個、ギリギリで凌いでたんだぞこっちは。間が空いても休めねぇんだよ。ってかフツーに怖かったわ。そしたら何? 卿は絶叫してなんか正気度削れそうな変態してるし、りんごニキは入道雲出して動かすし。僕らが入道雲の下に居たってこと失念してただろ。おかげさまで卿の絶叫をBGMに雹やら豪雨やら雷やらにまで対処しなきゃいけなくなったんだけど。見ろよこれ。服びっちゃびっちゃでスッゲー気持ち悪いんだけど。どうしてくれんの? この一張羅。ようやく馬鹿げた攻撃のフルコースが終わったと思ったら、お前ら二人して河原で喧嘩した後のヤンキーみてえな雰囲気出しやがってよ。周りに散々被害出しといて清々しい顔してたらそりゃドロップキックの一つくらいぶち込むわ。つー訳でさ、服弁償しろとは言わねえから、とりあえず僕らに対して土下座の一つもしろやクソ馬鹿どもォ!!!!」
「おうっ」
「ぐふっ」
説教の終盤にて完全に火の着いたそえーんが、りんごニキと卿の腹部目掛けてタケノコを投げつける。
正座という固定された姿勢と不意を突いたこともあって、タケノコの投擲をもろに食らった二人は苦悶の声を漏らす。
その光景を眺めていた辺獄とズリキチは完全に引いていた。
「うわぁ……そえーんさんガチ説教じゃん……」
「まあ、気持ちは解るけどな。マジで何回か死ぬかもしれんって思ったし」
憤怒を発散し、呼吸を整えて落ち着いたそえーんを見計らった卿とりんごニキは同時に地面に手を着き。
「本当に」
「すいませんでした」
深々と頭を下げる──が、そえーんの表情は依然として険しく。
視線はりんごニキの頭部に注がれていた。
「……りんごニキは頭、取らねえの?」
「いや、頭、取れへんねん。魔法の代償とかなんとかで」
「飯食う時どうすんねん……」
「ああ、それならこう、口元だけ通り抜けるから問題なしや」
そえーんと卿の質問にりんごニキは誠実に答え、決してフザけてる訳では無いという旨を伝える。
………着ぐるみの表情は全力でフザけてるようにしか見えないが。
溜飲が下がったそえーんは視線を卿とりんごニキから辺獄とズリキチに移して問う。
「で。お前ら二人は何かあんのか」
問われた二人は互いに顔を見合せ、辺獄が先に答える。
「私は特に……」
「俺は詫びとして娼館の場所教えて欲しいかな」
「どさくさ紛れに何を要求してんだよパイズリキチガイ」
「何かあんのかって言ったのお前だろ。そちーん」
「あ゛ぁん!?」
「沸点低すぎでしょ……」
いつもの如くぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた三人を見て、りんごニキが隣の卿に小声で訊ねる。
「なぁ、いっつもこんなノリなん?」
「せやで。お陰で猥の負担が半端なくて、もー、くたくたよ。まともなの猥しか居らんし」
「そら難儀やなぁ」
眼前で繰り広げられる三人の乱闘に対して卿とりんごニキは揃って嘆息した。
結局。乱闘は体格の有利でズリキチが一人勝ちし、四人による、りんごニキへの質問タイムが始まった。
「そもそも。りんごニキは何で卿にケンカ吹っ掛けてきたんだ」
「あー。それなー、ワシ依頼されて君らの事調べに来ただけなんよ。そっからのバトルは……まぁノリや。ノリ」
「ノリで天変地異起こすの止めてもらえる??」
あっけらかんと話すりんごニキにクレームを入れるそえーん。
続いて辺獄が質問をぶつける。
「りんごニキさん、上空からひゅーんって来ましたけど。何処から来たんです?」
「何処からって訊かれるとなぁ。街からとしか」
「えーっと、何処の街から来たんですか」
「ああ、それならアレや。崑崙山の梁山泊って所やね」
「──は? 何て?」
りんごニキが答えた所在地に、卿が反応する。
怪訝な表情を浮かべた卿は、沸き上がる疑問をそのままりんごニキに問う。
「ちょお、待てや。崑崙山は仙人の住処で、梁山泊は沼地やぞ」
「へー、そうなん? ワシ居た所はフツーに街やったで」
納得がいかない様子の卿に、そえーんが小声で訪ねる。
「……卿ちゃん、卿ちゃん。こんろん山? とか、梁山泊て何?」
「……正確には崑崙山脈やな。梁山泊も中国辺りにある地名や」
「ん? 崑崙山は“仙人の住処”とか言ってなかったか」
「封神演義、って小説知らん? 漫画でもアニメでもええけど。崑崙山って言われたら大体ソレが出てくるんや。で、梁山泊は水滸伝……これも小説やね。こっちは一〇八人の英傑がアジトにした場所や」
一通り説明した卿だが、良くわからない風な表情を浮かべるそえーんに対し、ため息を吐いて補足した。
「……要するに。りんごニキが言った事は富士山の中に千葉のネズミーランドがあるようなもんや」
「なにそれ不気味」
卿の喩えでようやく把握したそえーんは渋い表情になる。
そんな二人を放置し、ズリキチがいつになく真面目な顔でりんごニキに訊ねる。
「りんごニキは──ここに来てから今まで、神に逢った事あるか?」
「──いや? 無いよ」
一瞬間を空けて答えたりんごニキが多少気にかかったものの、それよりもそえーんが驚いたのは、ズリキチが核心を突くような質問をしたことだった。
「ズリキチお前……」
「んだよ、そえーん。そんなリョナグロエロ同人誌かと思ったら良質パイズリ本だったみてえな顔してどうした」
「……あ、うん。やっぱなんでもないわ。というか、“ズリキチがまともな質問してる”って感心した僕の数秒返せ」
「質問自体はまともだろうがよ」
「その後の喩えで全部台無しにしてんだよ、ド変態がよォ!」
「なんだ、今日はやけにつっかかってくるな。マジでウザいぞ」
「うるせえ! 僕は異世界来てから煙草の一本も吸ってねえからイライラしっぱなしなんだよ! その上、お前ら変態どもの世話でとっくに我慢ゲージが振りきれてんだ、察しろ!!」
「逆ギレの上、八つ当たりじゃねえか。ヤニカスうっざ」
「お前ら程じゃねえ!!」
毒物が切れて再びヒートアップしたそえーんの相手をズリキチに任せた卿は質問を引き継いで、再度りんごニキに訊ねる。
「なあ、ホントにりんごニキは神サマに逢ったこと無いん? 猥ら一回逢ってそりゃもう凄まじい死闘繰り広げたんやけど」
「いやぁ~、異世界来る前に逢った人……神様か。それに逢って以来やねぇ……あー、でも、異世界に居る神サマについては此処に来てから軽く説明受けたわな」
りんごニキは卿と辺獄に、異世界の状況を語る。神の──各々の“神話”がそれぞれ敵対し、縄張り──『圏域』の維持と拡大に腐心し。
『圏域』に住まう民──『圏族』の繁栄と支配により、『神』そのものの強度を向上させるという相互扶助。
殺伐としているものの、幾つかの大規模な神話同士の大戦や小競り合いが生じてはいたが、ここしばらくは睨み合いの膠着状態になっていた。
だが、最近になってから、密かな噂として『神』がヒトによって堕ろされたという情報が出回る。
各神話も、他神話の『圏域』に抵触しないギリギリで情報収集していたが、何せ派手に大戦を繰り広げていた頃から他の神格の生き死にがゴシップ記事の如く飛び交い、好機と見て攻めた側が返り討ちに遭って壊滅、等ざらにある状況であり、真偽の確認が困難を極めていた。
しかし、幾つかの神話勢力が確信を持って調べ始める。
その途中で不用意に手を出して返り討ちに逢った神格もいれば、暗躍して状況を構築する神話勢力も有る。
故に──水面下では均衡が“神殺し”によって非常に危ういモノと化していた。
と、一通りの説明を聞いた辺獄と卿は。
「……………あの、これって」
「…………………ヤっっバいなぁ」
顔面蒼白になっていた。
まさか自分達が渦中の張本人であり、均衡を崩しかけてる元凶とは夢にも思わなかった。
二人は頭を抱えて転げ回りたい衝動を堪え、イチャついて……もとい、じゃれ合っているそえーんとズリキチを静止させ、情報を共有する。
すると、先程までの喧しさが嘘のように、四人は沈痛な表情を浮かべ、黙り込んでいた。
沈黙している四人に、りんごニキが呼び掛ける。
「なー、もうワシ帰ってええか。報告もせないかんし」
「ちょ、ちょいちょいちょいちょい! 待って! まだ行かないでりんごニキ!」
何やねん、もー。と愚痴を溢すりんごニキを他所に。必死に引き留めたそえーんは即座に他三人と頭を突き合わせ今後の作戦会議を始める。
「僕らさ、クトゥルフの館がある街に戻ろうとしてたけど、これ変えていい?」
「僕らっていうか、ほぼそえーんの独断だよな」
「まあ、私たちも特に反対しなかったですし」
「他にアテもなかったしなぁ」
「それにオードリーさんにパイズリして貰って無いし」
ズリキチの戯言を聞き流したそえーんは提案する。
「で。次の行き先なんだけど……りんごニキに着いて行ってみねーか?」
「りんごニキに?」
「正確には、りんごニキが居たっていう崑崙山……の、梁山泊か。そこ行けばとりあえずは何とかなるんじゃないかって」
「何とかって何やねん。雑やのぉ」
「うるせえな、じゃあ何か他に良い案出せよ卿」
「無いわそんなもん」
「じゃあ、黙ってろ……!」
卿の茶々にイラつくそえーんは噛み締めるようにして釘を刺すが、深呼吸して一旦落ち着き、理由を補足する。
「……クトゥルフの館が存在する街が他の神話の『圏域』だとしたら、僕らが其処にノコノコ戻るのはマズい気がすんだよな。最悪、神様に目ぇつけられて死ぬかもしれないし」
「あれ? あそこには、しおみずさん居なかったでしたっけ」
「いや、しおみずくんは偶々あの街に来てたみたいだし、今も居るとは思えない。けど、その点りんごニキなら、まぁ……無理やり付いて行けそうだし。何より──異世界に転生だか転移だかしてきた奴にも会える……かもしれない」
そえーんの説明に、卿もズリキチも──辺獄でさえも白んだ目で見つめるが。
他に良い案が思い付く訳でも無く、三人は納得行かないながらも、とりあえずはそえーんの案に乗ることにした……所で、再度りんごニキから声がかかる。
「で。ワシ帰ってええ?」
「りんごニキ。ちょっと相談なんだけどさ。僕らも梁山泊に連れてってくんない?」
そえーんの要望に、りんごニキは暫し無言になり、おもむろに指を差す。
「“僕ら”ってのは、そこの置きモンも込みで言ってるんか」
「あー……うん。こんなんでもコレ辺獄くんの妹だからさ。置いてけないんだよね」
「……なるほどなぁ。随分かさ張る妹やねぇ」
誤解をそのまましれっと流されそうになった辺獄は抗議しようとするも、卿とズリキチによって封殺される。
要望に渋々応えるべく、りんごニキは首と肩を回した。
「大体長距離移動するときワシ単独やし。団体は初めてやから、失敗したらすまんな」
「…………………えっ??」
さらっととんでもない事を零したりんごニキにそえーんの血の気が引き、当のりんごニキは皆に指示をテキパキと繰り出していた。
そして……そえーんは。
「……ま、いっかー」
もう色々と疲労が溜まった結果、思考がパンクし。
りんごをバナナと言ってしまう、あたまのわるいひとに成り果てた。
「ほれ、そえーんくんも皆と固まってや」
「はーい」
りんごニキの指示にそえーんは素直な子供の様に返事をするが、思考放棄しただけである。
四人と一台がひと固まりになり、りんごニキが『魔法』を使う。
「召喚、“籠檻塔”」
唱えると、四人と一台は瞬時にして塔の様な檻に入れられ、それと同時に四人に疑問符が浮き。
「性質付与、“発射”」
続けて付与の魔法を唱え終わった瞬間、勢い良く、ミサイルさながらに空へと飛んだ。
……幽かに聞こえた絶叫が多少気にかかったりんごニキだが、一気に脱力して座り込む。
「はぁー……疲れたなー。報告しにワシも戻らんとイカんけど……まぁ、どっかその辺で一休みしますかね」
力無く立ち上がったりんごニキは休憩すべく、荒れ地から森林へとゆっくり歩を進めた。
安全性度外視の空の旅を終えた四人は、檻の格子が開くと各々、千鳥足で数歩進むと、四つん這いになって嗚咽を漏らした。
「あの洋梨ヘッド……今度会ったらタダじゃおかねぇ……うっぷ……」
「そーいや……りんごニキあーいうトコあったのすっかり忘れてたわ………おぇ……」
「あー………気持ち悪……」
「癒やし……癒やしが足りない……ヌメヌメちゃあーん……」
辺獄が情けない声を出してアイアンメイデンに縋り、二回叩いた。
その瞬間、開閉部が勢いよく開いて辺獄をぶっ飛ばし、アイアンメイデンの中から──クセっ毛の、ほぼ白髪で瞳が左右で赤眼と金眼の少女が、白いフリルが付いた翡翠色のワンピースを纏って現れた。
普段なら辺獄が少女──ヌメロニアスヌメロニアの愛くるしさに気色悪く興奮する所だが、思いの外打ち所が良かったのか、痛みに悶絶していた。
ヌメロニアスヌメロニアは辺りを見回し、辺獄の下に近寄る──事は無く。
幾分か気分を持ち直したそえーんの所に向かっていく。
「ねえ、着いたの?」
「あー……実は……」
そえーんは吐き気を堪えながら、ヌメロニアスヌメロニアに目的地変更の経緯を話す。
やがて概要を伝え終わると、少女は小さくため息を吐く。
「じゃあ着くまで、あたしはアイアンメイデンの中に戻ってるから……って言いたいトコだけど。こんなんじゃあ、いつ着くかわかんないわね」
「いや……まあ……はい」
「とりあえず、水もって来てあげるから、それでとっとと復活してよ」
そう言って、ヌメロニアスヌメロニアは踵を返してアイアンメイデンの中に上半身を突っ込んでごそごそと何かを漁り始める。
背後から感じた異様な気配に、そえーんが振り返ると、卿とズリキチが匠の様な目つきでヌメロニアスヌメロニアの揺れる腰……主に尻……を眺めていた。
妹のドアアタックから復活した辺獄が疚しい視線から妹を守るべく、卿とズリキチの前で不恰好なディフェンスを繰り出すも、二人は巧妙に避け、または絶妙なコンビネーションで辺獄に軽い攻撃を加えて妨害を乗り越えていく。
そんな三人を、そえーんは熱の無い目で睨んでいた。
「よ……っと。ほら、とっととこれ飲んで──」
アイアンメイデンから上半身を戻したヌメロニアスヌメロニアが水差しとコップを手に四人の方を向くが、言葉が途切れ、不思議に思ったそえーんが訊ねる。
「……どうかした?」
「あっちから来てるの、アレあんた達の知り合い?」
少女が指差す方に四人が視線を向けると、渋い表情を浮かべ、白く長い髪をツインテールにした、つり上がった赤い目の美少女が、クラシックメイド服に黒のショートブーツを纏いてやって来ており。
その隣に、狐をモチーフにしたらしい特撮に出てくる様な怪人が二メートル近い橙色の巨体を揺らして付き添っていた。
「……ホントにあの方たちですの?」
「そう……だと思うけど。はぁー……関わりたくねー」
「でもワタクシたちだけじゃ今の東雲さんをどうにもできませんし……」
「わぁってるよ! ……ったく、仕方ねーか」
こそこそしている二人のやり取りを一通り眺めたそえーんはひきつった笑みを浮かべ、ヌメロニアスヌメロニアに応える。
「いやあ、知らないっすね……」
「そうなの? じゃあ──」
水差しと四人分のコップをそえーんに押し付けた少女は、開口しているアイアンメイデンの内部に手を突っ込み、サバイバルナイフを取り出すと、おおきく振りかぶって投げつけ──
「ちょっ、ちょっと待ったヌメロニアスヌメロニアちゃん!!」
「なに。急に前出てこないでよ。危ないじゃん」
「いや、危ないのは君! いきなり何しようとしてんの!?」
少女が投げる寸前に、前に踊り出て文字通り体を張って止めたそえーんが詰め寄る。
問われた少女は、こてん、と首を傾げ不思議そうな表情を浮かべる。
「何って、先制攻撃」
「先制攻撃って……敵にエンカウントした訳じゃないんだし」
「あのオレンジのデカいのが敵じゃなくて何なのよ。見るからにバケモンじゃない」
「えぇ~とぉ……それは……その……」
詰問に数秒悩ませたそえーんが出した答えは。
「……ペット、とか?」
「疑問系で返答しないで。なら、アンタはアレ飼えるの?」
「無理だね」
「即答なんだ」
「少なくとも僕は無理って話で……辺獄くんならイケるんじゃないかな。うん、多分」
「それで万が一、辺獄が飼いたいって言っても、あたしが許さないわよ。そんなの」
「ですよね……」
「決着したわね。じゃあ──」
そう言ってヌメロニアスヌメロニアは再び橙色の怪人に狙いを定め、ナイフを振りかぶろうとする。
「ちょいちょいちょおい!! 判断が早い!! おい! 辺獄ぅ!!」
尚も立ち塞がるそえーんに、ヌメロニアスヌメロニアは凄まじく嫌な表情を浮かべるも、一応は静止してくれた……が、“三度目は止まんねえな”とうっすら感じたそえーんは辺獄を呼びつける。
「何ですかそえーんさん。毎度毎度うるさくして。よく飽きませんね」
「おう、その喧嘩あとで買ってやるから。とりあえずこの妹ちゃん「あぁ?」………ヌメロニアスヌメロニアちゃんをどーにか止めてくれよ。すげー物騒なんだけど」
会話の途中で何故か威圧してきたヌメロニアスヌメロニアにも怖じけることなく、そえーんは一応の兄である辺獄にクレームを入れる。
やれやれといった風に薄ら笑いを浮かべる辺獄にそえーんは割と本気で手に持ってるモノ全部ぶつけてやろうかという衝動をぐっと堪え。
ヌメロニアスヌメロニアへ対応させる。
「えーと、ヌメヌメちゃ「省略するな」……ヌメロニアスヌメロニアちゃん。血気盛んなのも、お兄ちゃ「はぁ?」……私は好きだけど。もう少し平和的だと助かるなーって……」
「おい兄。威厳どうした」
「うっさい……ヌメヌメちゃんめっちゃ怖い……」
兄であるはずの辺獄を存分に威圧したヌメロニアスヌメロニアは要望に数秒黙り、ナイフを下げる。
「何かあったら先仕掛けるからね」
「できれば荒事は止めていただけないっすかね……」
「……ちっ、わかったわ。戦闘になるまで対応は全部アンタらに任せる」
不機嫌ながらも、そえーんの要望に渋々承諾したヌメロニアスヌメロニアはアイアンメイデンの中にナイフを仕舞う。
突如発生した物騒なイベントに大きくため息を吐いたそえーんに、近くまで来ていた白髪のメイドとオレンジ色の怪人が話し掛ける。
「あのさ」
「ちょっとお時間いただけます?」
「あー、ちょっと待ってね……お前ら! 集合!」
ヘラヘラと二人で喋ってたであろう卿とズリキチを呼びつけ、五人が二人組に簡単な自己紹介を済ませて、相対する。
「じゃあ、揃ったんで。まず名前言ってもらっていいですか」
そえーんの問いに、白髪のメイドは神妙な顔つきになり、オレンジ色の怪人は見た目に似つかわしく無い、愛くるしい女性の声で溌剌と喋る。
「ワタクシはシノタロスと申しますの! そしてこちらが──」
「……ニャル太郎」
続く様にして名乗った白髪のメイドは中性的な声で告げる。
そして、その名に四人は硬直していた。
「……? おーい、もしもーし」
「──っ、ああ。ごめん、ボーッとしてたわ」
白髪のメイド……ニャル太郎の呼び掛けで我に返って応えるそえーんを他所に、他三人は顔を突き合わせてひそひそと小声で話す。
「あれニャル太郎さんですって」
「何か分裂しとる人よな」
「んでもって特撮限界オタク」
好き勝手な事を言われているニャル太郎が瞑目して頬を指で掻いて申し訳なさそうに言う。
「あー……っとな、それオレじゃねえんだわ」
ニャル太郎の発言に、四人とも「?」を頭上に浮かべて首を傾げた。
「いやでもニャル太郎って」
「わかる! 言おうとしてる事はわかるし、大まかに言えば“アイツ”もオレには違いないんだが! とにかく、アンタらがイメージしてるのはちょっと違うんだ」
「ニャル太郎さん、ここはワタクシが説明した方が」
「こんな事情どう説明しろってんだ。誰に説明してもややこしいし、今までだって上手く説明できたことねえよ!」
「ですから、ワタクシたちの事情は一旦置いて、単刀直入に要望だけ伝えた方がよろしいのでは」
「……あのさ、ちょっといい?」
ヒートアップしかけたニャル太郎をシノタロスが宥めていると、そえーんが割って入る。
「話切ってゴメンだけど……シノタロス……は、何?」
問いに、ニャル太郎とシノタロスは顔を見合わせる。数秒見合い、出た答えは。
「……これも、オレ」
「ワタクシはワタクシですわ!」
「………ニャル太郎くん……ちゃん? いや、くんでいいか。そんでさ、シノタロス何とかしてくんない? 見た目がゴツいし、おっかねえのよ。辺獄くんの妹が警戒して先制攻撃やらかそうとするくらいだしさ」
「……そうか、フツーの人にはシノタロスはバケモンに見えるのか。失念してたわ」
「ひどい! ひどいですわ! 東雲さんは可愛いって言ってくれましたのにィ!」
「ああ、うん。声はきゃるんきゃるんで可愛いとは僕も思うんだけど、やっぱ見た目の造形がエイリアンとか怪人っぽいからさ。おっかねえんだよね。あとデカイし」
「うぅ~」
しょぼくれたシノタロスを見たニャル太郎が大きくため息を吐くとシノタロスに向かって告げる。
「じゃあ……ほら、しばらく“オレ”の中入ってろ」
「遺憾ですが……そうしますわ……」
「……中?」
そえーんの疑問に答える事は無く。言うや否や、シノタロスがニャル太郎に飛びかかると、ニャル太郎の中にシノタロスが吸い込まれる様にして消え、ガクンと項垂れる。
「おおー」
「あー、イマジンが乗っとるのってそんな感じなんですね」
「まんま特撮だな」
「……お前ら、もうちっとも驚かねえのな」
四人が各々の反応をしていると、項垂れていたニャル太郎がムクリと上体を起こし、目をパチリと大きく開く。
「あー、あー、こほん。では改めまして。ワタクシたち、今現在困っており、助けて欲しいですの!」
そう言ったニャル太郎は白髪の前髪にオレンジ色のメッシュを入れ、瞳が橙色へと変化し、声がシノタロスへと変わっていた。
それから、シノタロス入りニャル太郎の説明を聴きながら、五人は目的地へと向かって行く。
シノタロス曰く。
「神との激闘で東雲さんがどーもおかしくなってしまったんですの! もう一人分裂体が増えたり、更新もかれこれ一年以上止まってますの!」
との事らしい。
正直後半は何言っているかわからないし、わかりたくないと感じている人物が二人程いたが、特に気にせずニャル太郎は立ち止まって、指を差す。
「あそこがワタクシたちのアジトですわ!」
指を差した方向には岩壁に穴が開いている、所謂洞窟があった。
五人は一同に沈黙していた。
考えることは、一つ。
“嫌な予感しかしない”
ここまでの展開を鑑みれば、予定調和の域で何かしらあるというのは最早、火を見るよりも明らかである。
どうしたものか、とそえーんが悩んでいると、左右の肩からポン、と手を置かれる。振り返って見ると、卿とズリキチは無表情でサムズアップしており。
辺獄とヌメロニアスヌメロニア、そしてニャル太郎は何処からか取り出した四人用のダイニングテーブルを運び、設置していた。
そえーんが呆けた表情を浮かべると、卿とズリキチが話し掛ける。
「じゃあ」
「あとは任せたで」
「任せた、じゃねえよ。なに僕一人に押し付けようとしてんだ馬鹿ども」
苛立つそえーんに全く動じない二人はそれぞれ理由を述べていく。
「だってなぁ? 一番関わりあるのはそえーんだし」
「立派な書き手なんやから、此処はそえーんくん行くのが筋やなって」
「何の筋だよ。というか、僕ら団体行動しなきゃいけねーの忘れてんのか」
「あー、それなんやけどな。多分、武装顕現したら距離伸びるで」
「何を根拠に──」
「猥」
「……………」
自信満々に自身を指差す卿に対し、そえーんは言葉を詰まらせる。
確かに、卿の言うとおり、武装顕現状態ならば、幾分か制限が緩くなっているということは前回の戦闘で身を持って認識している。
あれこれ思考を巡らせ、どうにかこの一人押し付けられた状況から脱しようとするが。
煙草の毒物を摂っていないからか、イライラで頭をかきむしって半ばヤケクソ気味に告げる。
「わかった。とりあえず僕がどーにかすっから、応援要請したら直ぐ助けろよ」
「なんや、がんばれ♡ がんばれ♡ って女声で言えばええんか」
「うわキッツ。きょうちゃん、それはマジで無い」
「武装顕現して参戦しろっつー事だよ」
二人のしょうもない漫才を背にそえーんは一人、贋無限筍生を武装顕現し、ニャル太郎からいくつか注意事項を聞き、洞窟の中に入って行く。
洞窟の中にしては綺麗に清掃されており、その場しのぎの拠点にしてる訳では無いと解る。
入り口から射す光が弱くなり、暗くなっていく足下に注意を払いながら進み、やがて進む先から幽かな明かりが射し込み、そのまま歩を進めて行くと──
「なあ黒の主よ」
「………………………」
「トウホウはいつまでこうしていれば良いのかな?」
「……あっ。あと五時間くらいお願いしゃす」
「それはまた随分と長時間……おや、来客のようだが」
そこには、名状し難い性癖を盛り合わせた少年と、毛布にくるまった物体がベッドの隅に鎮座していた。
その光景に、そえーんは“特大螺旋状筍破回転撃”を叩き込みたい衝動に駆られるが、ぐっと堪え。
一旦深呼吸して、少年に訊ねる。
「あー、確認したいんだけどさ。君の名前教えて貰っていい? 僕は、そえーんって言うんだけど」
“そえーん”の名前に毛布がびくりと反応するが、そえーんは反応は示さず、少年に注視する。
少年はちらりと毛布を一瞥するが、直ぐにそえーんに向き直り、開いていた本を閉じる。
「トウホウの名前はライウェー。正式名は他にあるが、ライウェーと呼んでくれて構わない。もし、正式名の方を知りたいのなら小豆味を読んで戴きたい」
「……お、おう。君はライウェーくんなのね。じゃあそこの毛布の塊になってるのは」
「トウホウの一人……と言うと混乱するか。率直に名を述べるなら──東雲の幻想屋、だな」
東雲の幻想屋。その名で、そえーんの脳裏に過るのは──
(……情緒不安定?)
いつもの所で見た所感は、自身と同じ物書きで。
何か叫んでる。そんな印象が強い人物だが……
「おーい、東雲の幻想屋くーん?」
「……………」
呼び掛けるも、反応は無い。
呼吸で毛布そのものは微かに動いている事から、意識はある筈……である。
数分、沈黙が流れるが、ライウェーがそえーんに小声で話し掛ける。
「なあ、トウホウに触れてみてくれないか」
「いきなり何……?」
「膠着状態を何とかしたいのだろう? なら手っ取り早い手段として、君がトウホウに触れるという事なのだが」
「触るっつったってどこを──」
「ふむ。そうだな……トウホウの頭部でいいだろう。頭頂から聳え立つ毛束──いわゆる“アホ毛”を握るといい」
「…………」
「ほら。早く」
急かされたそえーんはライウェーに生えてるアホ毛を握る──寸前に。
毛布が勢いよく剥がれる。
「──ショタはノータッチだし、アホ毛を握るなァ!!!」
「うおっ!!」
大声とともに現れた黒いパーカーを着た男性、東雲の幻想屋にそえーんは驚く……が。
アホ毛を握ろうとした手にタケノコを出現させ、そのまま東雲の幻想屋に投げつけた。
情けない声で回避する東雲の幻想屋だが、壁に刺さったタケノコを秒で忘れさり、再度そえーんにくってかかる。
「ショタは認識外から触れずに! ひたすら眺めて愛でるモノだっていう森羅万象の真理を知らないんですか!!! あといきなりタケノコ投げないで!! 怖い!!」
「そんな真理しらねえよ。タケノコは済まん。びっくりしちゃってつい投げちった」
一通り怒鳴って熱が冷めたのか、東雲の幻想屋が途端に挙動不審になる。
「あ、えっと、その……ショタにはノータッチでお願いします……」
「うん」
「じゃあ、これで……」
と、言いつつ再び毛布にくるまろうとする東雲の幻想屋に。
「そいっ」
「うわァ!!!」
そえーんはタケノコの二投目を放る。
混乱し続ける東雲の幻想屋を余所に、そえーんは休み無くタケノコを投げ続ける。
「な、な、何!? 何で投げてくるの!?」
「まず……洞窟から出ようか」
「その前に話し合いとかありません!?」
「ねえよ。出ろ」
妙な怒りを滲ませつつ、そえーんはタケノコを投げ。
その場で回避するのもしんどくなった東雲の幻想屋は堪らず洞窟の外へ走り出す。
「な? 覿面だったろう?」
「……まーね」
逃げる東雲の幻想屋を追いかける様にして、そえーんとライウェーも走り出す。そえーんは追撃にいくつかタケノコを投げつつ、そして、洞窟の外へ飛び出す。
「ぶはァッ!!」
必死に走り続け、洞窟から転がり出た東雲の幻想屋は辺りを見回し、ニャル太郎を見つける。
「ちょっ、ニャル太郎! 何かそえーんさんが襲ってくるんだけど! お願い助け──」
と、助けを求める東雲の幻想屋だが、目視した光景に言葉を失う。
視線の先には──
「ほい、Jバック」
「じゃあ8切りで」
「あ、それ4止めしますの」
「猥はパス。他に何か出せるヤツおるかー? 無いなら流すでー」
「んー……じゃあ3二枚出しします」
「うっわー、辺獄くん強気じゃーん」
「残っててもディスアドなんで……というかこうでもしないと3使う機会無──」
「……あ、出せるわ。下切りで」
「え、嘘」
一つのテーブルを五人が囲み、各々がトランプのカードを場に出しあっていた。
その光景に一瞬東雲の幻想屋は呆然とするが、直ぐに無邪気に呼び掛ける。
「ボクも混ぜ──うわ、あっぶねッ!!」
駆け寄ろうとした東雲の幻想屋が、ほぼ勘で振り向き、背後から飛来したタケノコを避ける。
タケノコは真っ直ぐに五人の下へ向かうが、鎮座していたアイアンメイデンの複眼からビームが照射され、一瞬にしてタケノコは消し炭となった。
「お? 何かジュッていったけど」
「アイアンメイデンの自動防衛機能ね。じゃあ、あたしの番から。はい、革命」
「ヌメロニアスヌメロニアちゃん強ぉ……」
五人は特に気にせず、ゲームを続行させ。
東雲の幻想屋は洞窟を睨む。
やや出遅れて現れたのは、そえーん。
次いで現れたライウェーは直ぐに五人の下へ駆けていく。
「……あそこで大富豪やってる奴らは一先ず放置するとして。そんで何をしれっと参加しようとしてんのかね。君は」
「いいじゃないですか参加したって! というか何でそんな喧嘩腰なんですか」
チンピラよろしく首を鳴らすそえーんは、深呼吸して、一言。
「そりゃまあ、任されたからね」
「……何を?」
「腑抜けの鍛え直し」
言いつつ、そえーんはタケノコを投げ。
東雲の幻想屋は逃げるという、いたちごっこが始まった。
「ちょっ、だから理由をちゃんと説明してくださいよ!」
「シュメールの神だかを倒して、その後何やかんやで引きこもりになったからニャル太郎くん……シノタロスだっけ? から叩き起こすなりぶっ飛ばすなりしてくれって頼まれました。以上説明終わり」
「説明してくれてどうもありがとうございます全然全く解んねえよチクショウ!!」
「ごちゃごちゃ喚いてないで戦え。そんで更新もしろ」
「あ……あー! 言うんだ! そーゆー事言っちゃうんだそえーんさん! そんな事言ってそえーんさんこそ1クール杯の作品とか、原典の進捗どうなってんですか! 全然音沙汰無いんですけど!!」
「………言いやがったな。僕が今一番言って欲しくない事言いやがったな!! 特撮限界オタクの拗らせショタコンがよォ!!!!」
「先に言ったのはそっちじゃないですか!! この歩く面白ネタ製造機!!」
この作品はフィクションであり、実在する人物、作品、事件とは一切関係ありません。
「誰が面白ネタ製造機だ、誰が!! 僕に負けず劣らずネタの宝庫のくせしやがって! 大体、小豆味の最終更新日時が2022年の三月って、ガチで一年以上前じゃねえか! やる気あんのかテメェ!!」
「あぁーりぃーまぁーすぅー!! 少なくともそえーんさんと違ってボク書いてるもん!! ちゃんと書いてるし筆が乗ったら小豆味完結までスラスラいけますぅー!」
この作品はフィクションであり、実在する人物、作品、事件とは以下略。
「書いてるっつったって、別作品じゃねえか! 小豆味はどうした小豆味はよォ!!」
「だからァ! 今はリハビリ中なんですってば!! “竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。”◯ーメルンで好評連載中!!!!」
「どうせすんなら小豆味の宣伝しろやァ!!!」
「いいじゃないですか宣伝くらい!! いっぱい読まれたい!!」
この作品はフィクションで「そんでさっきからうっせえんだよ! 何回繰り返すんだ! その警告!!」あり、実在の人物「天丼は二回までって知らないんですか!!! 無茶振りトンチキ!!」
…………………この作品は、
「しれっとテイクツーしてんじゃねえぞオラァ!!!」
「そうだそうだ!! いい加減にしろ浮かれポンチ!!!」
黙れ。怒鳴るな、地の文に絡むな。進行に支障が出る。
「なぁーにが黙れだ! こんなメタい回にしやがって! 迷惑してんのは僕なんだよ!」
「大体、ボク小豆味じゃそこそこカッコイイ感じになってたのに塩味じゃ変態その1みたいになってんの納得いかないんですけど!!」
……………
「黙ってんじゃねえよ! 何とか言えコラァ!!!」
「この回の登場シーンからのやり直しを要求する!!」
と、二人の奇妙な怒号を見た──卿は。「あ、逃げやがったな!」「逃げた!! 逃げるなァ!!!」
「え? 猥?」
愉快に怒り狂ってる二人を見た卿の一言とは。
「あ。一言いえばええんか。じゃあ……はよ書けや遅筆ども」
「オメーもサンマ風味があんだろうがよ!!」
「卿さんにだけは言われたく無い!!!」
そんな二人の怒声を“何言ってるかちょっとよくわからない”といった風に首を傾げ、直ぐにテーブルへと向き直ると、トランプのカードを場に放り、新たにライウェーを加えた面子と再び和気藹々とし始めた。
「はぁ………はぁ………はぁ………っ……」
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ………脇腹痛ぇ………」
罵倒混じりのいたちごっこは両者の体力切れによって一旦終了する。
が、依然としてそえーんの闘志は絶えておらず。
東雲の幻想屋も散々追い回され、腹を括る。
「解りましたよ……戦えばいいんでしょ、戦えば……!」
言いつつ、東雲の幻想屋が何処からか派手な装飾のベルトを取り出して、着けようとした──瞬間。
そえーんがタケノコを投げつける。
「ふんっ!」
「え? おわァ! 何すんですか! 戦うって言ったじゃないですか!!」
「準備できるまで待つと思ってんのか。甘えんな」
「いや、そこは待ってくださいよ。変身するときに攻撃しちゃいけないって知らないんですか」
「ああ、知らねえ」
素っ気ないそえーんの返答に、東雲の幻想屋は手で顔を押さえ、深いため息を吐く。
「じゃあ、これでもう覚えたと思うんで。もう邪魔しな──」
「何か勘違いしてるようだから言っとくけどさ。遊んでるワケじゃねえんだわ」
「……え?」
「東雲の幻想屋くんは、神様と戦ったんだろ? んで、負けたり勝ったりしたと。あー、あと異世界に来てるフォロワーさんとも戦ったりしてんだっけか。ならさ──」
ここに来て、東雲の幻想屋は悟る。
「──真面目にやれ」
そえーんは、ずっと真剣だったということに。
直後、顔面に投げられたタケノコを紙一重で避けた東雲の幻想屋は不様に転がりながらも即座にベルトを装着。
連続して投げられるタケノコを避けつつ、ベルトの装飾に付けられているレバーを引く。
「変身!」
普段ならポーズの一つでも取っていたのだろうが、鬼気迫るそえーん相手に対し、東雲の幻想屋にそんな余裕はなかった。
ベルトから音声が轟き、全身の発光が収まると、東雲の幻想屋は鬼の仮面を着けた全身黒い甲冑という様相と化した。
あからさまに状態変化した東雲の幻想屋に、そえーんは一瞬怯むが、曲がりなりにも女神との死線を潜り抜けた者。
活路は攻めることにあると知っているが故に。
手は、緩めない。
「おおぉおおっ!!」
「はぁあああ!!」
しかし、ここで二つ。そえーんに誤算が生じる。
一つは、東雲の幻想屋が、変身前後で身体能力が大きく変わるという事。
もう一つは。
「おおお、りゃあぁッ!」
「──は? 腕ぇッ!?」
変身した東雲の幻想屋は、身体を分解できるという事。
それにより、東雲の幻想屋は自分の左手を柄として右手で握り。
左肩を玩具の如く外し、文字通り腕そのものを、そえーんの胴に一線。叩き込む。
「ぐ──おォ……!」
みしり、と嫌な音を聴きつつ、そえーんは洞窟前の林へとぶっ飛ばされる。
その光景に、流石の六人も気付き、飛んで行ったそえーんを見送る。
「あ、そえーんが飛んでる」
「ほんまや。珍し」
「人ってあんな飛ぶんですねー」
「……いいんですの? 割りと致命傷な気がしますけれど」
「アールマティと戦った時と比べたらアレは軽い方だな」
「せやなー、あんときはマジやばかったもんなぁ」
「いやあ、アールマティは強敵でしたね」
「え、皆さまアールマティに勝ったんですの!? てことは……皆さまが四つの異人ですのね!」
目をキラキラと輝かせるニャル太郎に、照れる三人だったが、ヌメロニアスヌメロニアは無表情のまま、テーブルを小突く。
「で、続きやるの? やらないの?」
「トウホウとしても参戦したばかりなので、もう少し遊びたいものだが」
二人の要望に、四人は散らばったカードを集め、大貧民……最下位の辺獄に纏めさせる。
「じゃ、準備よろしくー」
「くっそぉ……一位がヌメロニアスヌメロニアちゃんじゃなければ全力で都落ち狙うのに……」
そうして、六人は再び大富豪を遊び始めた。
一方、そえーんは。
「はぁ゛……あ゛、っ痛ぅ……」
巻き込んだ木々を背にして、痛みに伏せっていた。
(様子見でタケノコしか投げなかったのは……失敗ったな……あ゛ー……クソ……痛ってえ……)
思考で悪態を吐きながら、そえーんは空を見上げる。
(あー………なーんで僕こんな事やってんだろうなぁ……)
痛みという現実から逃避するために物思いに耽っていた。
そもそも。そえーんは別に戦いたい訳では無いのだ。
何かの拍子で他三人と一緒に行動する羽目になり。
何かの流れであれやこれやと状況に流され。
何かの手違いでこんなバトルをする羽目になったのだ。
異世界ファンタジーなら……こう、のんびりまったり過ごすのがマストだろうに。
何故こうなったのか。
(……まあ、作者のせいだな)
そう結論したそえーんは、痛みを堪えつつ、立ち上がる。
眼前の変質者……東雲の幻想屋は、依然として黒い甲冑を纏っており。
外した左腕は元通り肩にくっつけ、そえーんの下に向かって来ている。
「はぁ……………やるか」
そして、そえーんは覚悟を決める。
目の前の相手を──本気でボコボコにする、覚悟を。
その決意と共に。頭に中にAIREAL・ディーオーの声が響く。
〈時は来たれりだな。相棒。お前の『魔法』、使う時が来たぜ〉
その言葉と同時に、そえーんの脳内に解放する文言が流れてくるが、そえーんは数分考え込む。
〈どォした? 相棒〉
「………原典で魔法使ってねーのに、こんなタイミングで使って良いもんなのかなぁって」
〈なら、どうする。タケノコだけで気張るか? 言っちゃあ、何だが。この先タケノコだけで立ち行かねェ時が必ず来るぜ? その時にぶっつけ本番で“コレ”が成功するかは……文字通りの運否天賦にならァな〉
「そういうもんかね」
〈それに、だ。何よりも大事な事が一個。──勝ちたくは、ねェか?〉
「──勝ちたい。つーか、勝つ」
揺るぎなき意地と共に。
己が魔法に、手を伸ばす。
「並行次元、同調接続」
冷えきったそえーんの声に呼応するかの様に、AIREAL・ディーオーも今までと一転して無機質な声で準備を告げる。
〈擬似式魔性法則展開〉
それを皮切りに、そえーんは極めて冷徹な声で唱える。
「我が法なり。黙して従え。異は聞かぬ。これより、支配の舞台を敷く故に」
息継ぎの度に肋付近が痛むものの、無視して言い切る。
それは──辺獄や卿と同じく。本来であれば、異境の彼方から冒涜的な神を降臨させる為の呪文ではあるが。
この詠唱も、辺獄や卿と同じく。
“どこかで”、“いつかの”、“そえーん”から擬似的に発動する。
そして、締めの一言も感情の無い声で、告げる。
「来たれ、我が、心核」
〈魔法展開完了〉
AIREAL・ディーオーが完了を告げると、そえーんの持っていたタケノコが発光しながら形状を変え。
そえーんはソレを口元に持っていき、咥え、深く吸い、煙を吐き出す。
「原典廻帰──令刻の囈人」
気だるく吐き出す様に告げたそえーんの魔法は煙草に変わったタケノコを一瞥する。
「……あんまり旨くねえな、これ」
普段愛用している銘柄と違い、自分の好みでは無い物の。久し振りの喫煙に思考が透き通っていく。
「煙草、吸うんですね」
話し掛けて来る東雲の幻想屋に、そえーんはもう一服し、紫煙を吐き出す。
「そりゃ、色々な事に直面して、煙草の一本も吸わなきゃやってられないワケですよ」
今まで吸えなかった分を取り戻すかの様に、そえーんはペースを上げて煙草を吸い、先端を灰に変えていく。
そうして何度目かになる紫煙を吐き出し──そえーんが訊ねる。
「所で東雲の幻想屋くんさあ──“僕は、まともに見える”かい?」
「百パーまともじゃないですね」
──ネタに事欠かない人がまともなワケが無い。
それが東雲の幻想屋の偽らざる感想であった。
その返答に、そえーんは煙草を咥えつつ──笑っていた。
「そーか、そォーか。“まとも”じゃないか。成る程ねえ」
得体の知れない不気味さを纏い始めたそえーんに警戒した東雲の幻想屋は、拳を構え、空いた手でベルトに備え付けられたレバーを引く。
同時に、東雲の幻想屋の肘から先が弾け飛び、拳がそえーんへと真っ直ぐ飛んでいく。
それなりの速度で飛ばされた筈の拳に、そえーんは事も無げに、合わせる様にして自身も手を伸ばし──煙草の先端を東雲の幻想屋の拳に押し付ける。
「──熱っっっち!!!」
感じた熱に、東雲の幻想屋は再度レバーを倒し腕を自身に戻す。
あまりの熱さに煙草を押し付けられた手を確認するが……損傷は無い。
「ええ……? 何これ……」
困惑する東雲の幻想屋の反応を気にすること無く、そえーんはどんどん近づいてくる。
ならば近接戦──と作戦を変えた東雲の幻想屋も接近し、殴り合いの間合いへと入る。
先ほどと同じく、右手で左手を掴み。
左肩から先を外して、棍棒と化した左腕をそえーんの左肩に振り下ろす。
そえーんは避ける事もせず、煙草を咥えたまま──左肩から胴まで両断される。
「──え?」
余りにも呆気なく残骸と化したそえーんに、東雲の幻想屋の思考が一瞬空白になる。
が、しかし。その空白は瞬時に困惑へと変わる。
「そら」
「う……ぐあっ」
そえーんは、両断されたまま、胴体を動かし、東雲の幻想屋を蹴り飛ばす。
その後も、そえーんは無数に別れ蝿の如く群れて襲い掛かりタケノコを足元から生やして撒き菱の様にして罠をしかけ跳び上がった東雲の幻想屋に巨大なタケノコを出現させ押し潰そうとし──
「東雲の幻想屋くん」
そえーんの声が、東雲の幻想屋の仮面越しの耳朶を打つ。
視認しようと辺りを見回すが、構わずそえーんは発言を続ける。
「もう一度訊くけどさ。“僕はまともに見える”かい」
「……まとも、なんじゃないですか」
怒涛の展開から逃れるべく。東雲の幻想屋は反射的に今度は“肯定”した。
すると、今までの現象が霧散し、東雲の幻想屋は地面に立ち、そえーんと相対していた。
肝心のそえーんは気だるげに紫煙を吐き出し、短くなった煙草を指で弾き飛ばし、また新たにタケノコを掌に落とすと、タケノコは瞬時に煙草へと変形する。
二本目を吸わせまいと、東雲の幻想屋は拳を構え、レバーを引く。
「………え? あれ?」
しっかりレバーを引いてなかったと思い、何度もレバーを引く東雲の幻想屋だが、困惑したままである。
「腕が飛ばない……?」
本来ならば飛ぶ筈の拳が飛ばない。
それどころか全体的に身体が重く、蒸し暑い──
「よお」
「……あっ、ぐううっ!」
目の前にいたそえーんが、甲冑に覆われていない部分に膝蹴りを入れる。
よろけた東雲の幻想屋にヤクザキックを追撃で加え、倒れると容赦なく蹴りと踏み付けの嵐を見舞う。
先程までの無茶苦茶な攻撃と違い、“今”、“何が起きている”かの把握はできるものの。
ひたすらに──痛い。
「何が、起きてるかっ、全く、わかんねー! 風っ、だな!!」
蹴りと共にそえーんの声が響く。東雲の幻想屋にちゃんと聞く余裕は無く。
そえーんは自らの魔法を存分に振るう。
そえーんの魔法──原典廻帰=令刻の囈人の真髄は、“強制力”にある。
原典とは些か事なるものの。AIREAL・ディーオーを用いて発現した能力に大きな差異は無い。
能力の取り回しは御世辞にも使いやすいとは言えないが──逆に。きちんと把握し、巧く使いこなせれば。
文字通り、完膚無きまでに、神をも殺せる。
そんな魔法を、そえーんは備えていた。
今、この戦闘での魔法の仕組みは、“そえーんがまともか”という点。
二択を強制させて、吹っ掛ける。そえーんらしい実に悪辣な魔法である。
この問いに、“まともでは無い”と否定すれば。
“そえーんはまともでは無い”、故に“まともな挙動をしなくなる”という強化がそえーんに掛かる。
ならば、“まともである”と肯定すればどうなるか。
“そえーんはまともである”、故に“相手もまともであるから、物理法則を無視できない”という弱体化が相手に掛かる。
どちらにせよ。“問いに”、“答える”と何かしらの有利不利が現れる。
冷静に思考が働けば、抜け道は探せるが……一度嵌まれば、抜け出すのは困難。
そえーんは咥えていた煙草が短くなると、吐き飛ばして捨て、うずくまった東雲の幻想屋に向けて特大螺旋状筍破回転撃を叩き込もうとする──が。
「もう充分ですの」
「そこまでに、してもらおうか」
そえーんの目の前に戦棍を突きつけたニャル太郎が。
背後にライウェーが立ちはだかった。




