表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

1,000文字シリーズ

雪降る街で、少女の悪夢が終わる朝

作者: おかやす

 目が覚めた。

 少女が目を開けると、灰色の雲に覆われた冬の空が見えた。


 もう夜が明けていた。


 空気すら凍りそうな真冬の朝。何もかもが凍りつく冷たさの中、はらはらと落ちてくる白いものが見えた。


 「雪、だ……」


 少女の体には、うっすらと雪が積もっていた。

 少女がいたのは、自分のベッドではなく、街はずれの空き地。どうしてこんなところで寝ているのか、覚えていない。

 起き上がろうとして、指一本動かせなかった。

 あれ、どうしたのだろうと、少女は昨夜の記憶をたどった。


 いつものように、夜更けに家を出て。

 いつものように、裏通りに立ち。

 いつものように、男に買われ。

 いつものように、安宿へ行き。

 いつものように、春を(ひさ)いだ。


 そして、いつものように一人で夜道を帰り……誰もいない裏路地で、ナイフを持った男に出会った。


 「ああ、そうか……」


 すべてを思い出し、少女は小さく息をついた。


 雪が降っていてよかった、と思う。

 くたびれた服も、薄汚れた体も、醜く歪んだ心も、全部雪が隠してくれる。

 ナイフで刺された傷も、流れ出る血も、痛みも悲しみも、全部全部、隠してくれる。

 ただただ真っ白に、美しく、雪化粧で隠してくれる。


 「きれい……だなあ……」


 少女は、何年ぶりかに涙を流した。


 あの日、あの夜。

 

 老いた母を捨てて逃げていれば、まともな人生が送れたのだろうか。

 体を売らなくても生きていけ、見知らぬ男に切り刻まれて死なずに済む、そんな人生が送れたのだろうか。


 「……ううん」


 降り積もる白い雪に、少女は笑顔を浮かべた。


 「これは……夢、なんだよ」


 そう、これは悪い夢。

 本当の少女はベッドの中にいて、悪夢にうなされているのだろう。

 そんな少女を心配して、父や母がそばにいてくれているに違いない。


 そう、全部夢なのだ。

 その証拠に、こんなに血が流れているのに、どこも痛くない。

 こんなに冷たい朝なのに、まるで寒くない。


 だから、もう覚めてしまおう。


 少女は目を閉じた。

 次に目を開けたら、父と母に会えるだろう。

 泣いて起きた少女を、優しく抱きしめてくれるだろう。


 そうしたら抱き着いて、思い切り甘えよう。

 怖かった、すごく怖かった、もう一人にしないでね、と思い切り泣こう。


 「さあ……目を、覚まそう……」


 少女は明るい声でつぶやくと。


 ことり、と永い眠りについた。



 悪夢は終わり──すべてを白い雪が隠してくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うう……悲しい……。心に響く作品でした。 [一言] 千文字での見事な描写、感服です。
[一言] うわーん! なんて言っていいかわかんないけど 次の人生こそあったかいご家庭でたくさん甘やかされて生きてほしい!
[一言] 切り裂きジャックですかね?( ˘ω˘ ) せめて少女に安らかな眠りを( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ