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Blue Moon

作者: タマゴ

 ブルームーン、それは読んで字のごとく青い月。

 実際に月が青い光で輝いている状態を指すが、その現象は大気中のチリの状態などに左右され、地表から見られる事は"滅多"にない。


 故に、青い月は"滅多にない事"を意味する言葉としても使われる事がある。



 そんな青い月が今宵、その青々と輝くその姿を、眩いばかりの星々と共に、大空に広がる闇夜のキャンバスに浮かべていた。

 この、滅多に見られない貴重な月を眺めるべく、とある親子は、自宅のある町からほど近くの、静かな海岸に足を運び、心地の良い波の音を背景音楽に、お月見に興じていた。


「ねぇ、パパ」

「ん? 何だい?」

「どうして今日のお月様は、あんなに綺麗な青い色をしてるの?」


 すると、ふと息子が、子供らしく好奇心旺盛な質問を父親に投げかける。

 それに対し、父親は、太陽が日の出や夕焼けの時に赤く見えるのとは逆で、地表よりも高い位置にあり、また大気中のチリ等が少なく、光の散乱が少ないなどの条件が揃う。

 等と、子供にとっては全くちんぷんかんぷんに聞こえる、科学的な答えではなく。子供も素直に納得する答えを返す。


「それはね、海が青いからだよ。青い海の光がお月様に当たって、今日はお月様が青く輝いてるんだ」

「おぉー! なるほど!」


 父親の答えを聞き、特に疑問を持つこともなく納得した息子は、何でも知っている父親を尊敬の眼差しで見つめた。


「あ! それじゃさ! もし、海が汚れて青くなくなっちゃったら、お月様も青くなれないの?」


 しかし、ふとある疑問を口にすると、息子は途端に心配そうな顔を浮かべ、父親の方を見つめた。


「そうだよ。だから、青くて綺麗な海を守っていかなくちゃ駄目なんだ。お前が、大人になって、大好きな人と一緒に、またこの青いお月様を見られるようにね」

「大好きな人?」

「あはは……、お前にはまだ、ちょっと早かったかな」

「ねぇねぇ! それじゃ、パパも見たの? ママと!?」


 具体的な人物を思い浮かべなかった息子だが、ふと、息子はその好奇心から、自身の父親の大好きな人。即ち、自身の母親と、同じようにお月見をした事があるのかどうかを尋ねる。


「え!? ま、ママとかい?」

「うん! だって、パパにとってママは、とってもとーってもだーいすきな人でしょ?」


 まさか息子の口から、自分達の馴れ初めについて質問されるとは思ってもおらず、少々困惑する父親。

 そして、暫く頬を掻いた後、父親は意を決したかのように、息子に母親との馴れ初めについて語り始めた。


「ママとはね、この海岸で出会ったんだ」

「そうなの!」


 この海岸が両親の思い出の地と聞いて、息子は更に興味を沸かせ、更に父親の話に耳を傾ける。


「でもね、初めて出会った時、ママは泣いていたんだ」

「え? なんで!? 何処か怪我してたの? それで痛くて泣いてたの?」

「大人になると分かるけど、大人はね、心が怪我してよく泣く事があるんだよ」

「??」


 父親の言葉の意味をいまいち理解し切れない息子は、小首を傾げる。

 そして父親は、再度大人になれば分るよ、と言うと、話を続けた。


「だけどね、そんなママに、パパは声をかけられず、見ているだけだった」

「えーなんでー?」

「意気地なし、だったからかな」

「パパ、昔は意気地なしさんだったの!?」


 息子にとっては、パパは昔から強くてかっこいいと思っていたようで、意外な過去の一面に驚きの声をあげる。


「そして、一頻り泣いたママは、海に向かって思いの丈をぶちまけた」

「それでそれで?」

「パパはそれでも見ているだけだった。だけど」

「だけど?」

「その時、雲に隠れていたお月様が、姿を現したんだ。今日みたいに、青く輝くお月様がね」


 そして、父親は一拍置くと、更に話を続けた。


「その時、ママの横顔がお月様の光に照らされて、よく見えたんだ」

「うんうん」

「そしたら、パパ、何だか自然とママのもとに駆け出して。気付いたら、ママの事を抱きしめていたんだ」

「あ、それって、今でもパパがママとよくやってる。パパ、ママのことぎゅーってよくするよね」

「あはは……、そ、そうだったね」


 息子からの指摘に、少々気恥ずかしくなりながらも、父親は話を続ける。


「で、それからどうなったの?」

「暫く抱きしめていたら、波の音に混じって、かき消されるような声でママが言ったんだ。"どうか私を、大事にして"ってね。だから、パパも答えたんだ、大事にするよって。そしたら、何とお月様が金色に変わって、パパたちの事を祝福してくれたんだ」

「えー、嘘だぁ!」

「ほんとだよ。それからママと結婚して、お前が生まれたんだぞ」

「ふーん」


 最後の最後で途端に作り話っぽく感じたのか、興味を失った様子の息子。

 そんな息子の様子に、父親は不意に息子の頭を撫でると、いつかお前も大人になればパパの言ってたことが分かるようになるよ、と呟くのであった。


「さて、そろそろ帰って、お風呂に入ろっか」

「うん!」


 と、親子は手をつなぎながら、自宅に帰るべく、海岸を後にする。


 その途中、父親はふと、海岸の方を振り返る。

 そこには、あの日と同じく青い月が、静かに自分達の事を見守っていた。


 あの日の奇跡、その続きを、今でも見守っているかのように。

ご一読いただき、ありがとうございました!

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