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第4話:決戦

黒幕は姿を見せない。先輩や同級生と過去の資料をあさるが、なかなかヒントはえられなかった(?)。しかし、事は向こうから動こうとしていた……


「しっかし、鬼の親玉、直々に出てくるとは、たまげたわい」


細身の頭巾を被った、痩せぎすのスーツを来た老人はフォフォフォと笑い、カーッペホッとからんだたんをを吐いた。廊下に遠慮なく淡だまりをつくっても周囲の生徒は何も言わない。なぜなら、彼は、メタトロン学園の創設者にして一番偉い存在である、ヴァス校長だからである。見た目は華奢だが、その正体は、とても長い時を生きて、如来にも会ったと言われる仙人と言われている。と、言うか、まずその通りだろう。なので、当然、仙人なのだから、弱いはずがない。その横にいるバーコード頭の教頭先生は、いつもびくびくしているが、やつもただ者ではあるまい。


「あ、あれだけの図体のある夜叉やしゃが、これまで姿をかくしていたとは」


「隠れていたのか、それとも、らなんだか、それとも」


「とにかく、生徒諸君はあれの討伐に向かってもらいますぞ! 2体居ますので二手に分かれていただきます」


俺たちのクラスは、その腕を買われて1年生の2クラスとアラシヤマへ、ハラセやルミナ先輩たちはナンゼンジへ向かう。


夜叉と名は良いが、何の事はない。

見た目は巨大な、イカのような姿の、さして知性も無さそうな化け物だった。まあ、こいつらが黒幕とは到底考えがたいが、しかし、気配をを隠していた事は気にせねばならない。なにより、ルミナ先輩の警告は意識せねばならぬことだし。まあ、正直何となく推測はできる部分はあるがな。


「グエエエ!」


ゴロウの≪光速イナズマシュート≫が直撃し、あっけなく夜叉は倒れた。我ら2年毘沙組の相手ではない。それどころか、他の敵は1年生だけでほふれるレベルだ。


「余裕だな!」


「そうだな、ブンジ。なるほど、どうせコイツらはハリボテか」


「えっ?」


「コイツらはニセ妖怪だよ。魔術か何かで作ったゴーレムみたいなもの」


「ダミーってことか。あ、じゃあ!!」


「そう言うこと。これは囮だ。そうなると、さっさと先輩たちに合流しなくては。みんな、戻るぞ!」


「やられてなきゃいいけどなあ」


「保証はできないが、こんなイージートラップ程度で死ぬなら、そもそも我が学園に居る資格はない」


「うわ、きびしー」


すぐにきびすを返し、一旦学園に戻ってから、俺達はすぐにアラシヤマに向かう。行ってみると、予想どうりの光景が広がっていた。


「うう……」


あちこちで倒れて、血を流す生徒たち。

その内のひとり、まだ意識のある体育会系角刈り男カマギシ先輩に、俺は声をかけた。見た目にたがわぬタフさが売りだが、見た目に違わぬ脳筋なのがたまに傷である。つまりブンジと似た系統の人間と言える。


「何がありましたか」


「うう……ルミナのやつ、寝返りやがった」


「ルミナ先輩が?」


「ああ、いや、正確には、あいつが妖怪の親玉だったんだよ。すさまじい強さで、まるで歯が立たなかって、このザマよ。何人か生徒が連れていかれたが、どういうつもりだか」


「そうですか」


「なんだ、お前、その冷淡れいたんな反応は」


「まったく、案外堂々とやってくれたものですよ。あの人、いや、あのワールドエネミーは」


「ワールドエネミー」訳せば世界の敵。メタトロン学園でよく使われる単語である。鬼みたいなただの雑魚敵ではなく、魔王など悪の枢軸的存在である、特筆して世の中に悪影響を及ぼす者を指して言う。ルミナ先輩はギリギリこれ当てはまると、俺は判断した。あくまでもギリギリである。


「とにかく、みんなを助けてくれ! このままでは、みんな死んでしまうかもしれない!」


「承知しました。助けた上でボコボコにするとしましょう」


「そ、それは頼もしい言葉だな。頼むぞ2年毘沙組!」


1年生に倒れた先輩達の搬送を任せ、俺達2年毘沙組は残された邪気を辿り、敵の懐へ向かう。と言うか、邪気を残して去るのは客観的には愚作だと思うのだが、ルミナ先輩はわざとやってるんだろうか。


邪気が濃くなった場所は、「ヘイアンジングー」や「ヤサカ神社」ではなく「キョウトグランドオクラホテル」であった。なんで、パワースポットを差し置いて宿泊施設にに巣くったのかは理解に苦しむのだが、まああのシャレ好きなルミナ先輩ならありえなくもないチョイスか。


正面の自動ドア(なぜか絶賛稼働中)からホテルの内部には入ると、そこにはスライム的な鬼や、一反木綿のようなヒラヒラした布状の浮遊生物、ダンボールの鎧をきたチョビひげおやじらしき男などが大勢屯していた。


「うわ、これじゃあまるで妖怪ホテルじゃんよ!」


「リアル心霊スポットだね!」


「こりゃ、えるわ」


ブンジも、リョウカもまるで緊張感がない。かく言う俺もやはり緊張感は無い。今までの戦いもそうだったが、この妖怪には怖さが足りないのだ。ルミナ先輩、もしこの程度の力しか示せないなら、俺達にも、校長先生にも絶対勝てないぞ。



ドシン!



俺たち全員が中に入ると。入り口に何かが覆い被さった。わかりやすい退路遮断だ。リョウカは、ぽんぽんと自らの頭を軽くたたく。


「あー、これ倒さなきゃダメってやつだね」


「気にするまでもあるまい。逃げるつもりなど毛頭もうとうないしな」


「たしかにー! こちとら、ゾンビ軍団や火星人と戦った身だしね! この程度で引き下がるとかないないない!」


「さっさと一網打尽いちもうだじんにして、救助しよう」


「ラジャ!」


妖怪どもをバッサリ蹴散らし、ホテルの中の探索を進める。(しかし、あのおやじは妖怪だったのだろうか)ホテルの各部屋には生徒たちがクモの巣みたいなものに絡まれて、捕らえられていた。そして、その中にハラセも混じっていた。


「助けに来たぞ」


「これ屈辱の極み。悔しくてならない」


「そんなことをいっている場合か気位きぐらいかたまりめ。そんなだから肝心かんじんなところを見落とすんだ」


「うう、傷口に泥水どろみずを塗りつけるようなことを言うな!」


「やれやれ。そら、じっとしていろ」


クモの巣をばっさり切り落として解放すると、事情を聴く。


「何があった」


「ルミナ先輩は、人ではなかった。その正体は、第六天魔王だいろくてんまおう 波旬はじゅんだったのだ」


「欲界の王。織田信長も名乗ったとか言うあれか」


「そう。人類を滅ぼすためにメタトロン学園に忍び込み期を待っていたのだ!」


「ふむ、滅ぼすのは確かに言ったのだろうが、忍び込んだと言うのは憶測ではないか?」


「そ、そうだが! 実際そうしていたではないか」


「いや、多分だが、先輩は最初からメタトロン学園にいたと思う」


「最初から?」


「創設時からだよ。メタトロン学園の絶対防衛監視システム≪ブラフマン≫を逃れるのは不可能なのはわかっているだろう」


「魔王だろうが神だろうが、部外者は即座に発見し即座に殺すと言うアレか」


「昔、悪魔王アスモデウスがわが校を襲った時もあれが発動して、生徒たちは戦わずして勝利したと校長が自慢げに言っていただろうに、忘れるとは」


「むむ!」悔しさで顔を赤くするハラセ。


「それを、逃れたのは、それはルミナ先輩はまぎれもなくメタトロン学園の生徒であると防衛システムが判断したからだ」


「な、何が言いたい!?」


「後は、先輩から直々(じきじき)に聞くとしよう。あまり長話している場合ではないだろうからな」


「そうだな。先輩は、メタトロン学園の生徒の力を吸いとり、力を得ようとしている。その力で人の世界を滅ぼし、妖怪の世界に作り替えようとしているのだ」


「それは、本人がそう言っていたのか?」


「ああ」


「なるほどな」


置き去りになっていた聖剣「コラーダ・ゼクス」を、小柄な怪力男モチノリの手からハラセに渡す。妖怪がこの聖剣を持ち去らなかったのは、おそらく、邪気を滅ぼす「破邪」の力をまとっているからだろう。さわったら死ぬほどなら、この先の戦いではとても役に立つに違いない。しかし、そんなものを持っていながら敗北したハラセは実に残念すぎると思う。同じ学舎まなびやにいる者として恥ずかしい。優等生が聞いてあきれる話だ。しかし、これを声に出して言えば、くそ真面目なこいつは自室で首をつりかねないので、まあ、このあと頑張って面目躍如するつもりのようだから、そうしていただくとしよう。


次々襲いかかる妖怪を蹴散らし、ホテルの中の残りの生徒たちを助け出しながら、ルミナ先輩を探す。居場所を突き止めるのはたいして難しくなかった。1階の階段から地下に降りると、その先がそのまま謎の異次元と連結していたのだ。いきなり、マグマのような赤い光が明滅する地獄のような空間が姿を現す。そして、その奥には、腕組みをして、ゲームセンターで他人のゲームを覗き込む奴みたいな余裕ぶった顔でむふんとルミナ先輩が立っていた。


「早かったなあ、さすが天才優等生君やな」


「先輩こそ、妖怪の王は芝居も細工さいくも上手ですね」


「ここに来ても、冷静なやつよ」


「第六天魔王を名乗った。とか」


「そうや、我こそが欲界の魔王! 波旬なり!」


「安いうそはやめてください」


「えっ」


「騙すのは狐の得意芸、ですから」


「な、なんでわかるんよ!? そんな簡単に、ウチの事が」


「前に、言ったでしょ。獣臭けものくさいって」


あの時言ったのは、薄っぺらなかんだった。

しかし、こうやって茶化してみれば、それが勘でなかったのがわかる。


「あー、ムカつくわ! キミ、嗅覚きゅうかくすごすぎるやろ! どっちが獣かわからんし」


「そうですね」


「ぐうう、淡々と言うし。んー、けど、獲物えものとしてこれ以上ないとも言えるがな」


「ルミナ先輩。それはつまり、本当の狙いはメタトロン学園の生徒たちの力ではなく」


「そや、なりお君。全てはお前の力を手に入れるためや!」


「それはまた、随分な過大評価ですね」


「そんなことあるかいな! わかってるんやで、キミの潜在せんざいする力は軽く星ひとつを破壊するレベルってこと!」


えっ、マジなのとブンジが聞いたので、俺はマジですとうなずいた。説明するのは大変だし一部言葉では難しいので割愛するが、俺の秘めたる力は凄まじい。


「ただ、まだ心身がまったく追いついていないがな。だが、先輩なら生かせるんだろう。なぜなら、先輩は」


「クク、そう。この妖怪王≪無尾の狐≫のポテンシャルをもってすれば、キミのその神にも似た膨大な霊力的なチートじみた能力を、自爆せずに扱えるんや」


「あ、ダメだと自爆するんだ」


リョウカが能天気にパカッと言ったので、ルミナ先輩は調子狂うなと言う顔をした。


「うん、そうだよ。ほんと、君たち余裕あるよね」


「メタトロン学園の生徒なら至極しごく当たり前の事ですよ」


「あの、しかし、なりお君はもう既に悟りの域に達してない? なんか、どっちが黒幕かわからんくなるくらい貫禄あるんやけど」


「先輩が、ぬるいのでは? 妖怪を操ってきたわりに、のりがユルいですよ」


「ぐぐ、千年以上生きてるウチに迫るねえキミ。キミ達に合わせて手加減口加減してるってのに。なら、こっちも遠慮なしでいかせてもらうで! 今まではあの校長センセに悟られんよう魂を繋いできたが、それもここまでや!」


「なるほど、今まで動かなかったのは、校長にかなわなかったからか」


「あれは、聖なる仙人。ただでさえ厄介なのにメタトロン学園なんか創設して、ウチらみたいなイレギュラーの監視と対策をはじめた。だから、早いうちに手を打ったのよ。ひとりの生徒の存魂ににとりつき、生徒と共に暮らし、その子が卒業したら次の依り代に移る事を繰り返した」


「乗っ取らずに、刺さったとげみたいなことををやってたのか」


「そ。ただの痛みもないトゲよ。それを続けて、だんだん存在を馴染ませていったんや。監視システムも、校長も、だんだんなんもせんその異物をじょじょに当たり前の無害な存在として見るようになって警戒しなくなった。かなりの時間はかかったけどメタトロン学園を落とすにはこれが確実と思ったんよ」


「結構危険な賭けですね。じゃあ、いまの身体は」


「ああ、このか身体はウチの魂にはなかなか快適でなあ。事を起こす時も来たし、ただ宿にするだけではなくゆずってもらったんよ」


「じゃあ、本物のルミナ先輩は」


「そりゃあ、今頃あの世やな。安心せや、記憶とかはちゃんと引き継いでるから」


それを聞いて、何だととハラセは強い怒りをあらわにした。

聖剣を構えて、いかにも先輩に斬りかかろうとする。だが、俺は、表情を変えない。冷静にこの熱血猪突猛進娘ねっけつちょとつもうしんむすめをなだめる事にする。


「慌てるな」


「なぜだ!? こいつは、先輩を!!」


「感情に呑まれるのは良くない」


「よく落ち着いていられるな! お前の心は氷で出来ているとでも言うのか!!」


「何とでも言え。皆が生き残り世界を救うことが、今の我々の最優先事項だ。そのためなら俺は、私情しじょうを殺す」


「っ」


その言葉で、ハラセは黙った。

気性の並みはあれど、何だかんだで優等生。俺の真意を察するだけの頭脳はある。


「では、ルミナ先輩。負けたら全部吐いていただきますよ」


「へぇ、顔色一つ変えんとは。ますますクールなりお君がほしくなったわ!」


「いいんですか? 俺を魂ごと粉微塵にしないと痛い目を見るかもしれませんが」


「それは、意味深やなあ。けど、貰うもんは貰うで! ここにいるもん全員、この≪無尾の狐≫がいただく!!」


そう言うと、ルミナ先輩はドロンと煙をたてる。

真の姿に変化するのだろう。


「この姿も、ひさしぶりやなあ」


「ほう」


その見た目は、狐の要素がまるでない。顔部分は未来的なフルフェイスの赤い宝石の付いた未来的なデザインの仮面で覆われ、身体もステルス戦闘機のような機械の甲殻こうかくを纏い、各パーツの隙間が明滅している。背中には半月を模したようなバックパックがついており、妖怪要素もまるでない、わかりやすく言えば一部の方々が大好きな「人形機動兵器」とか「サイボーグ戦闘兵」のようである。鬼や天狗があれだったから、まあある程度はわかっていたが、予想を大きく裏切ったと言ってよい。


「さあ、ウチの恐ろしさ、特と見るがよいわ!!」


そう言うと、メカになった先輩の身体が光り無数の光の線が発射された。さしずめホーミングレーザーといったところか。


「わっ! なんじゃこりゃあ!?」


光線は1度暗天に昇ると、ビィィと音を立て、俺たちに向かって雨のように降り注ぐ。今までの無知な妖怪とはわけがちがうと言わんばかりの攻撃だ。ブンジが驚くのも無理はない。着弾した地面には、すぐに大きなクレーターが出来る程の威力なわけだし。


「ちょい! これ、当たったら死ぬんじゃない?」


回避運動をしながら、リョウカが軽く愚痴る。しかし、あまり動揺はしていないようだ。


「当たればな。だが、遅い」


俺は、レーザー光線をさっさと掻い潜ると、すぐに先輩の距離を詰め。自らの愛用する魔弓≪レゴルバント≫を呼び出す。


「至近距離からボウガンっ!?」


「零距離、ですよ先輩」


俺の手から、黒き魔の一撃が先輩の頭部に放たれ、身体もろとも吹き飛ばす。並みのモンスターなら消し炭だっただろう。


「おおっ!! もうやっちまったのか!? ヒャッホー!!」


喜ぶブンジを、俺はすぐになだめる。


「いや、さすがにそれはない。手応えが薄かった」


「そか。なら、オレッちがぶったたいてとどめをさしてやるぜ!」


「山賊の手下Aみたいな事を言うな。死亡フラグが立つぞ」


「うっそー、まだ死にたくないんだけどー」


呑気なことを言っていると、先輩はムクリと立ち上がった。ダメージはあまりないが、頭部を覆っていたフェイスマスクが壊れ、ルミナ先輩の頭が顔を出している。どうやら、そこは本体になっても変わらないらしい。そうなるとやはり、あの線が濃厚か。


「ねこだましにしては、随分と痛かったでクールなりお君!」


「そういえば、聞き忘れましたが、過去のあの事件は先輩がやったのですか?」


「? それは、どうやろな」


3年生が1クラスしかなくなった理由。それは俺達が入学する前の話になる。


ルミナ先輩たち当時の1年生は、「異性体ALいせいたいアル」と呼ばれた世界の驚異を取り除くため、上級生とともに戦った。その戦闘記録は俺も一部見たことがあるが、完全には残さていない。とりあえず、今回の妖怪たちよりもさらに地球にあらざるべき異形の者であったようで、わかるだけでも当時の2、3年生が20人ほど戦死したようだ。しかし、ルミナ先輩の同級生に関してははその情報には入っていない。


「豊橋B作戦」


そう名付けられた戦いで、2つのクラスがこつぜんと姿をけしたのである。その時の映像も一切残っていない。理由は、何かの力により、メタトロン学園の全機能が妨害されて、画像を残せなかったと聞く。また、当時の2、3年生は別の作戦に出ており、これには参加していなかった。つまり、この作戦で起きたことは、当事者であるルミナ先輩たちのクラスしか知らないのだ。


しかし、その当事者たちも、その理由は知らなかった。そのときの記憶が一切消されていたのだ。そしてメタトロン学園の技術をもってしても、その記憶を復活させるのは不可能でった。みな、逃げ帰ってきたと言う事実だけしかなかったのだ。帰らずのほかのクラスの生徒の行方は、「異性体AL」を倒した今でもわかっていない。


「あなたが、先輩たちを」


「ふふん、ハラセちゃんは元気やなあ。同じよーに苗床なえどこにしたウチのクラスメートちゃんたちは、ここには来てないからどーせヘロヘロやったんやろな」


実際、先輩たちは助けたものの、ほとんど戦闘不能の状態だったので、治療が得意なマサタロウたちホテルの入り口まで運んで看病して貰うことにした。何か、「元々弱っていたよう」に感じたのは気のせいではない気がする。


「まあ、魂の一部を食われてるからしゃあないね」


「ソウルイーターでもあるか!」


「あんま早合点しちゃいかんねえ! そんなんじゃ大局を見失うで」


「ペテン師が軍師めいたことを!」


「これは、親切のつもりやのに。ほな、そろそろ本気だそうか」


ルミナ先輩は目をキリッさせると両手のてのひらに赤色と青色の太陽のような球体を生み出す。そして、それがムクムクと大きくなっていく。どういったことわ仕掛けてくるかわからないが、どうせまた当たったら駄目な点は変わらないだろう。


「ん、あれヤバくね?」


「そうだねなんか、すごいパワーを感じるよ」


ブンジとリョウカが淡白な感じでアホなことをいったが、まあ、間違ってはいない。ああ、なるほど、どんどん妖力が増幅していく。そして、一定以上の大きさにして、上空に2つの火球を飛ばして、重ねるのか。「回避できない」広範囲攻撃を狙っているにちがいない。


陰陽いんよう妖魔弾ようまだんをくっつけるとなあ、核反応するんやで」


「手品の種を説明しないほうが言いと思いますよ、先輩」


「これは、手品トリックやないからいいやん。それに絶対かわせんと思うで! ≪妖魔厭理ようまえんりフレアーウエーブ≫をくらうがいい!!」


「名前ダサくないですか? (まあいいや)リョウカ、ハラセ、守りは任せる!!」


「ラジャ!」


リョウカは亜空間の力を操れる。それを利用した広範囲バリアフィールドを展開することも可能でこういう時に役立つのである。ハラセも、聖剣道部の奥義の1つである「イージスの盾」を発動すれば核弾頭ミサイルの衝撃を受け止めることも可能だ。ただし、両者とも発動すると動きが止まると言う欠点がある。


「正面から受け止めるか!!」


「よけられないならしょーがないじゃん!!」


「んじゃ、ちからくらべやな! リョウカちゃん!!」


「燃えてきました!! 負けませんよ先輩!! ≪亜空間バリア≫展開っ!!」


「ほな、ぶちやぶったらあ!!」


2つの火焔球かえんだまが重なると、まばゆい光とともに、凄まじい衝撃波が起こり、俺たちに降り注ぐ。それを防ぐのは、サングラスのような色をした半透明の壁と、その裏側に白く大きな盾。万全な防御体制。


バリバリバリ!


衝撃波とリョウカのバリアがぶつかり合って音を立てる。これは、この音はバリアの表面に強烈な破壊的ダメージが与えられていることを意味していた。


「うわっ、これヤバッ!! ちょーキツいんだけど!!?」


「弱音を吐くな、負けたら人生終了だぞ」


「きっぱり言うなあ!! わかってる!! 最大出力で何とかするって!!」



バリバリバリ

バリバリバリ

ビキッ

バリバリバリバリ


とにかく、リョウカには力を使い果たしてでも今はここを防いでもらわねばならない。その後で、残りのメンバーでカウンターを食らわせる。


バキッ


むっ、ヤバい。

思ったより早く限界か。


「あっちゃー! こりゃ、そろそろハラセさんにバトンタッチのお時間だよ!!」


「わかった! 内からサポートを強める! 君もできるだけもたせてくれ! 聖盾よ、全力をもって魔をはらえ!」


ハラセの聖なる光の盾が、割れかけたバリアの内側に、パテのように張り付く。流石はメタトロン学園で俺に追随ついずいする実力者だ。先程魔力を吸われていたのに、これだけのパワーが出せるとはあなどりがたし。


「ハラセちゃん! まだ、そんなにやれるのか!!」


ルミナ先輩は、この事が計算外だったようだ。

衝撃波は、バリアを砕けても聖なる盾を砕ききれない。次第にその力が弱まっていく。


しめた。これでスキができたぞ。いよいよ反撃だ。


「2人とも、でかした。後の仕事は俺達がやる!」


「頼むぞ!」


「みんな! あの機械仕掛けの妖怪の王に一斉攻撃だ!」


クラスメートたちは、オーと声を上げ、それぞれがルミナ先輩に向けて飛びかかる。


「なんや!? ウチが攻撃を終えたからってガードがお留守になるって思ったんか!?」


「そー言うことですよ! このバットでテメーを星にしてやる!」


最初に仕掛けたのは、ブンジだった。

愛用の金属バットを、野球ではなく敵を倒すために使う。フツーの野球部では冒涜行為だが、メタトロン学園の「戦闘野球部」の部員はこれが普通だ。ちなみに、野球も甲子園で優勝できるレベルだが、あまりに強すぎて、全国の高校球児たちを絶望の淵に沈ませてさせてしまうため出場は禁止されている。


「バットなんかでやれるとおもうな!」


「うえっ!?」


ルミナ先輩はバットを右腕で受けとめる。すると、バットは真ん中でへし折れてしまった。(まあ、普通の金属バットだしな)そして、ブンジのはらに痛い蹴りをぶちこんだ。


「ぐはっ!」


「さっさと、あの世に行きや!!」


「させるか!」


手裏剣のごとく投げられた三角定規がオーラをまとい、ルミナ先輩の露出した頭部に当たる。


「いったー!? なんやメガネ!」


「メガネではない拙者せっしゃ文房具忍者ぶんぼうぐにんじゃことサイゾウである!」


「え」


普段存在感がない彼の事をはじめて知ったルミナ先輩は、複雑な心境になったようだ。確かにサイゾウの戦闘スタイルは異質すぎる。


「忍法≪消しゴム≫爆弾をくらえい!」


「えー、それ忍法なの?」


ツッこむのも無理はない、何だか緊張感か抜ける攻撃なのだ。たくさんの消しゴムに起爆効果を与えてばらまくのはなかなかの技術なのだが絵面がギャグっぽいのである。


ボン

ボン

ボン


消しゴムがルミナ先輩に当たり爆発する。並みの人間なら軽く死ぬのだが、妖怪の長で重装甲機動兵器にとっては、風船が弾けた程度でびくともしない。まあ、牽制としては十分か。


「どすこーい!!」


次に、「超相撲部」の巨漢、キワジマが自らの身体をロケットのごとく突撃させて、ドーンとぶち当たる。そして、次々に張り手を、ルミナ先輩のボインな胸に叩き込んだ。


「いたたたたた!?」


「はあ! はあ! はあ!」


「ゲームみたいなことしよって!!」


数的優位はこちらにある。しかし、それだけで勝てるほど甘くはなかった。


「わー!」


「ミズキ!」


「つ、強い!!」


ルミナ先輩の協力な妖術攻撃でまた1人、また1人と戦闘不能になるクラスのみんな。残ったのは、俺と「サイキック空手部」のアルチだけになってしまった。


「ちょっ! どうするのよクラスいいんちょ!? がっつり押されてるじゃない!!」


「やはり、一筋縄ではいかない相手か」


「ここにきて、まだそんな余裕ある言い方するし!! 」


「だが、かなり弱らせた」


「そうなの?」


「よく見ろ」


ルミナ先輩の鋼鉄じみた装甲も、大きく破壊されないにしても腹部や腹部にヒビが入っている。頭部は相変わらず露出しており。修復する様子はない。


「ふん、ウチはまだピンピンしとるで!」


うそはいけませんね。身体から放たれる力が安定していません。あなたは確実に損傷している」


「ぬかせえ! 夢尾の狐、妖怪の王がこの程度でどうにかなると思うな!」


「なりますよ。あと、数手で」


「詰め将棋のつもりか!! ならやってみい! 返り討ちにしてやる!!」


俺は先輩に向けて魔の弓を構える。

妖怪とか魔の者には、俺の放つ矢は効果がある。実際至近距離なら兜は貫いた。つまりあの装甲を突き破ることは可能。あとは!


「アルチ!」


「なによ、いいんちょ!!」


「俺が矢を射たら、お前は装甲の脆くなったところに必殺の一撃を撃ち込め!」


「それ、めっちゃハイリスクだよね! 成功する保証はあるの!?」


「お前ならやれる。お前が証明するんだ」


「ふーん!! わかったわよ!! ほら、さっさとやって!!」


「言われなくとも、やるさ! 我が暗黒の矢、敵の喉元めがけて飛ぶが良い!!」



俺は、矢を放つ。

黒い炎に包まれた矢は、曲線を描かず、様々な抵抗を一切受けず一直線にルミナ先輩に向かう。


「そー、何回も受けると思うな!」


ルミナ先輩は、鋼鉄じみた腕から真空波を出して、それを振り払おうとした。しかし、俺の矢は、勢いを少し失ったが、止めることはできずその腕に直撃した。


「ちっ!?」


「舌打ちは、負けにつながりますよ!! アルチ、今だ」


うんと答え、空手少女は駆け、ルミナ先輩に肉薄する。そして、右手を振り上げた。


「くらえ全身全霊必殺の、≪氷柱割り≫!!」


バキッャアン!!


永久凍土を真っ二つにするような強烈な空手チョップが、ルミナ先輩の胸部装甲に叩き込まれ、粉砕する。そして、内部の肉体が露出した。そのルミナ先輩の本体を見て、俺の予想は間違っていないと悟った。


「かはっ……こんな……」


「これで、終わりです、先輩……≪闇黒乖魔弾第二手最終≪ダークワインドバスターセカンドエンド≫!」


「!!」


俺の第二矢だいにし、渾身の一撃が、破損した肉体を音を立てずグサリと貫く。


血も流させず、魂を直接砕かれて、ルミナ先輩は、仰向けにどさりと崩れ落ちた。


妖怪との戦いはこうして終わりをむかえた。


もう、これ以上の戦いはないとわかり、俺とハラセは、倒れたルミナ先輩に駆け寄る。消え行く命の中、ルミナ先輩は、悪の親玉とは思えぬ優しい微笑みを浮かべた。


「はは、下級生を、甘く見てたわ」


「先輩、あなたは、結局ルミナ先輩ですよね」


なんだとと驚くハラセに俺は真実を告げる。


「さっき、本当のルミナ先輩は死んだと言っていたが、あれはうそなんだよ。ルミナ先輩は自らのぞんで無尾の狐と融合した。そうでしょう、先輩」


「な、なんでわかったんや」


「調べさせてもらいました、入学時の先輩の健康診断結果、超要注意のFでしたよね。つまり、その時点であなたの身体からだはボロボロだった。それにその胸の深い傷、手術痕しゅじゅつこんではないですか」


「はは、そうや。ウチはな、メタトロン学園に入る前から、全身を悪性の腫瘍しゅようで蝕まれていた。それを持ち前の幻力や薬、延命治療でむりやり体をいじくって、なんとか入学した。ここには、オーバーテクノロジーもあるから、ひょっとしたら入学後になんとかできるかもって思ったんや」


「なるほど」


「けど、そんなに甘くなかった。ウチの身体は、もう、余命いくばくもなくて、治療法を探す猶予もなかった。そこに、狐様が現れた。わたりに船とは、まさにこのことやった」


「確かに、そんな状態なら。何でも受け入れてしまってもおかしくない。現世に未練があれば、特に」


「そや、未練たらたらやったんよ。弱いからだのせいで、随分ひどい目にもあって、苦しんでばかりで、幸せなときはほとんどなかった。ただ自分含めた人間にたいしての恨みだけが深く深くつのっていて、復讐心でいっぱいになって」


「目的が一致したと」


「そうよ。んで、融合したんやけど、身体もすっごい元気になったし、妖怪も従えられたしプラスでしかなかったな」


「それにしても、思考はほとんど乗っ取られていないようですね。むしろ先輩が無尾の狐を乗っ取っているようにみえますが」


「ああ、それはむこうがウチを気に入ったらしく。簡単に支配させてくれたんや」


「そうですか、それは正確じゃないかもしれませんが深追いはしません。もう、そんなに長く話す力もないでしょうから」


「わかる? ありがとな、なりお君。こんなことになったけど、正直、キミたちと学園生活送ったの、短かったけど楽しかったわ」


「情が移ったのですか。ある意味でそれが隙になりましたね先輩」


「ブレないなあ、でも、それでこそクールなりお君や」


「では、これで最後になりますが、お聞きしてもよろしいですか」


「なんや?」


「豊橋B作戦、先輩たちがいなくなった原因はあなたではないですよね」


それを聞くと、急にルミナ先輩は目をつむり、心を消すかのごとく無表情になった。


「なぜ、断定する」


「先程、否定もしませんでしたが、肯定もしなかった。あのような曖昧な回答をするのは違和感がありましたので。少なくともあなたはあの時の事を記憶しているのは確かでしょう。あの時、なにが起こったんですか」


「それは、いずれわかるんやないかな。せいぜい、油断せんことや。はあ……あの時は……無尾の狐様の力がなかったら……」


「先輩?」


「時間やな、次はお互い餓鬼界がきかいで会うことになるかもな……はは………………」


「先輩」


そこで、ルミナ先輩は、眠るように息絶えた。

俺達に多くの「謎」を残して。



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