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第3話:困った先輩と同級生

鬼ケ島での戦いは勝利に終わった毘沙組びしゃぐみ。しかし、戦いはこれで終わったわけではなく、次の戦いが待っているのである……




俺達毘沙組は、あまりにも早く担当の仕事を終えたため、他の組の仕事を手伝うことになった。


「ふん、貴様らなど来なくても、我々だけで充分だったんだがな」


2年増長組のクラス委員長にして、聖剣道せいけんどう部部長のハラセが、大剣をズサッと大地に差し込んで、眉を狭めて不機嫌そうな顔をした。長い黒髪に端整な顔立ちの美女だが、いつもながら融通ゆうづうのきかないい無愛想な奴だ。ただ、愛想の無さに関して言えば、俺も似たようなものだったりするだが。


「まーまー、世界の危機なんやし。戦力は多いほどええやん。仲良(なかゆ)くせや」


3年摩利組クラス委員長のルミナ先輩は、爽やかに笑う。漫画に出てきそうな蒼色の髪の毛をショートカットにした可愛い見た目に、明るくフレンドリーな性格の大坂弁を話す美少女であるため メタトロン学園ではかなり人気がある。3年生は「とある事情」によりクラスが1つしかないため、実は学園の全生徒の中でトップ3に君臨する地位にあるのだか、それをひけらかす事もない謙虚な性格は尊敬に値するところだ。ただ、戦闘能力や指揮能力はあまり高いとは言えず、結果、このように敵に手子摺てこずり、下級生の力を借りることとなったのである。


「それで、天狗は強いのですか?」


と、ハラセが聞くと、先輩はてへへと頭をかいた。


「んにゃ。あいつら、遠距離攻撃が得意でな。チクチク攻めてくるんや。メンドーやでホンマ」


「まあ、確かに3年生の方がたは近接攻撃を得意とする方が得意ですからね。でも、ルミナ先輩は幻術使いですから、そういうのはお得意なのでは?」


「あはは、そーやな。幻術だけにゲンジツはそーや、なんてな」


「それ、シャレのつもりですか」


「笑ってーな」


「無理です。面白くないので」


「ハラセちゃん、からいなー。ま、そこが可愛いんやけど」


「変な気は起こさないでください。冗談は通じない、(たち)なので」


「ひえー、何か殺気だってるし。怖いですよー2年毘沙組委員長様ー」


こんこん狐みたいに俺に泣きついてくるルミナ先輩。俺もテンションの高い人間では無いが。このままだとダダすべり確定で可哀想なのでここはすこし付き合ってあげるとしよう。


「そうですね。先輩変な色気出てますからね」


「あ、わかる? これ、大人の色気ってやつよ」


「自分で言うあたり、あつかましさが半端ないですね。いや、残念ですけど先輩から放たれているのはそう言った類いではありません」


「うわ、ショック~んじゃあ、なんやねん? あたしからムンムンしよる色気ってのは」


「まあ、いわゆるケモノ的なものですね。例えるなら、大食いの太ましいネコが食べたりなくて更なる餌を探し狙っているような感じですか」


「ふーんなるほどって、いま遠回しにデブって言わんかったか!?」


「わかりました」


「うわーハッキリ言った! このか弱き乙女のハートはマジブレイクやーセンチメンタルやー」


と、ルミナ先輩は嬉しそうに言う。やはりイジってほしかったのだろう。この手の大坂的な人間は多少セクハラめいた事でも寛容で、逆に乗っかってくるのは清々しく美徳とも言える。まあ、ハラセのようなガチガチの堅物にはそんな先輩の性格は理解が出来ないだろうが、あれはあれで純なところがあるから高嶺の花のようで可愛いと思う。実際、この二人は、メタトロン学園の男子生徒の中でトップクラスの人気である。ああ、勿論だが、俺は恋にうつつを抜かす暇などあったら自己研鑽に努めたいし、クラス委員長が鼻の下を伸ばしていては他のクラスメート達の士気に関わるので、そんな尻軽どもの輪に入るつもりは無い。


「クラス委員長ともあろうものが何を呑気な事をしているのですか」


「あ、ごめんごめん。ムードを明るくしようとしたんやけどペラペラ喋りすぎたわ。ごめんちゃい」


「ごめんは一回で結構。さあ、早く他の方々の手助けに参りましょう」


「せやな。クラス委員長が3人、最強レベルの力を見せてやろかな」


鬼も鬼には見えなかったが天狗も天狗だ。まるで、大きなカブトムシのようである。それが羽を羽ばたかせて強風攻撃を仕掛けてくる。その威力はさほどでもないが、同時に火を吐いたり妖力かなにかで攻撃を跳ね返したりするのがなかなかたちが悪い。3年生が苦戦するのもある程度は頷けるのだが。もう少ししっかりしてほしいとも思う。


そんな不満は伏せるとして、戦力が実質3倍以上になった俺達にちょっと強いくらいの天狗が勝てる訳がなかった。みるみる駆逐され、ボスの天狗も俺含めたクラス委員長のトリプルアタックでカップラーメンが出来上がるよりも早く爆滅した。ただ、何か、この人だけでなんとかなったんじゃないかと言うほどルミナ先輩の「幻術」が強い気がしたのだが、俺の気のせいであろうか。


「ぷはー! 快勝快勝!」


学園の食堂で、まるで酒のように、ルミナ先輩は麦茶をゴックリと一気飲みした。


「苦戦してたのが嘘のようですね」


「まーまーハラセちゃん、あんたも好きなだけ飲んで飲んで」


「いや、熱々のほうじ茶なので遠慮します。それに、これは先輩の奢りでもなんでもなく、食堂のポットのお茶ですし」


先輩と対面して座るハラセがむすっとするのも無理はない。助けに来たんだし、先輩なんだからせめて缶ジュースくらい買い与えてしかるべきだと思うのに、ケチも甚だしい。と、思いながら俺は水を啜る。それを後輩にたいそう親切行為をしたかのように嬉しそうに見る先輩。これが浪花節と言ったら、大阪のおばちゃん達に長ネギで袋叩きにされかねない。


「んふふ」


「水、美味しいですよ」


「そりゃ、メタトロン学園の水は、ぜーんぶ神の泉から湧くエリクシールやからな。HPも全快やで」


「ですね」


「さーて、んじゃちと話すか」


「何をですか」


「今回の黒幕、の件や」


そこで、ルミナ先輩の目がキリッと鋭くなった。この3年唯一のクラス委員長がただのちゃらんぽらんでないのは火星人討伐の際で既に理解しているので驚きはしないが、真剣な事案を持ちかけるときのルミナ先輩はなかなか例えがたい奥深さを感じる。これは、応じねば失礼だろう。それに、その件は俺も情報交換をしたい案件だ。


「バックアイが提示したのは、あの天狗や鬼のような妖怪が現れ、最終的に世界を滅ぼすきっかけになる事ですが、今のところそれを裏で操る者については明言されていません。ただ、確実にいることは確かです」


「ほう? 何か証拠でも」


「鬼が言っていたのですよ」


「それは、本当か!?」


「ええ」


「ほー、ハラセはどうや? お主も河童から何か?」


「い、いえ、私は何も」


悔しそうな顔をするハラセ。俺ほど器用な性格はしていないから敵と対話をしようとしなかったのだろう。生真面目の堅物な人物で有名だからしまった不覚をとったと思っているに違いない。そんなある意味まっすぐな性格が美徳とも言えるが。俺は話を続ける。


「ただ、彼らは一枚岩ではないようです。天狗は何も言っていませんでしたが、黒幕に従属しているわけではなくこの世界に来させてからは自由にさせているようです」


「はー、クロさんは何がしたいんやろうなあ。ただ破壊活動させてもあんま意味無いやろうに」


「詳しい狙いはわかりませんが、世界を滅ぼす目的である事だけは確かです。何かしら野心のようなものが感じられますね」


「とりあえず、残りの敵から出来る限りの情報を聞き出さんといかんな」


「ただ、妙なところがあります」


「ん?」


「バックアイの調査能力は極めて高い。火星の中枢に蔓延っていた火星人のコアすら見抜いていました」


「ああ、そやな」


「それなのに、今回はそれを見つけられていない。見落としている。不可解ですよ。」


「ふむ、そりゃこちらでもいっぺん調ないかんかな」


「そうですね。文献でもあさって見る必要がありそうです」


「わかった。手分けして探そ。ハラセも手を貸してな」


はい、とハラセは重く言いはなった。

そのあと、俺を含めた3人のクラス委員長による文献の読みあさりが行われ、ある程度気になる文献は見つけた。しかし、いづれも関連づけるには決定力に欠けた。探し疲れて、図書室の一角で、俺は先輩と休憩をとる。


「ところで、なあ、クールになりお君」


「なんですか先輩、その適当気味なあだ名は」


「ミミックって知ってるか?」


それは、ゲームなどで宝箱などに「擬態」している魔物或いは異世界生命体だ。その姿で相手を欺き、時に喰らい殺す。先輩が言いたいことは、なるほど。


「身内に敵が潜む可能性があるとおっしゃりたいので?」


「勘のいい子やなあ、なりお君は」


「こだわりますね、そのあだ名」


「とにかく、あれが実在するなら、これまでの事象もそれのせいかもしれん。まあ、確たる証拠エビデンスもないから、憶測の域は出んけど」


「そうですね。ですが、その憶測、あたりでもなければ、はずれである証拠もありません。お互いに警戒の必要はありそうです」


「そやな、周りにもせいぜい注意するよう言うとするで」


そこから暫くして、ブンジが気持ち悪いくらい満面の笑みで一冊の本を持ってきた。


「これ! 見つけたぞ!」


「なんだ」


「妖怪は、そもそも別宇宙から来たってこの本にかいてある」


「ああ、そうか」


「なんだよ、淡白だな」


「それはジョーサン=ジョージの〈銀河妖怪譚ぎんがようかいたん〉だろう。有名なイカサマ小説だ」


「え、そうなのか?」


「野球ばかりしてないで、少しは読書もしろ。しかし、まあ、1つ分かったことはあるな」


「何だ?」


「お前は、味方だってことだ」


結局、手がかりは見つからなかった。

と、言うのは正確ではないが、無かった事にする。


結局、次の日、敵は向こうから情報をくれに来てくれたわけだし。



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