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気持ち悪いブドウ

作者: seizansou

――狐は言った。「あのブドウは食べたらきっと気持ち悪くなる。そんなもの、誰が食べてやるものか」


   ■


 強い決意、というより、もう我慢ならない、といった勢いで女性が彼の方に向かってきた。


「ちょっとは自覚してもらえませんか!? あなたは気持ち悪いんですよ!」


 唐突に言われた彼の中に芽生えた感情は、驚きや怒りではなく、告発されたような、欺いていたことを暴かれたような感情だった。

 彼自身では、良い外面を演じられているつもりでいた。

 周囲には、うまく、とは言えないまでも、それなりには溶け込めているつもりだった。


 彼はうろたえて周囲を見回した。

 周囲にいる人間は、みなそれぞれ、小さな笑いをかみ殺していた。


 ふと横に、いつの間にか男が立っていた。

 男が口を開いた。


「その人達は皆、君に、君の才能に嫉妬しているだけなんだよ」


 彼にはその男は見覚えがなかった。

 だから彼はつい、「誰だ?」と口にしていた。


「私のことより、今は君のことの方が重要だろう」


 男が頭を振って答える。


「俺は、俺は本当に、気持ちの悪い人間なのか?」


「そういうことにしておかないと、そうやって優秀な君を貶めないと、皆、心の安定が得られないんだよ」


「何言ってるんですか? 言ったじゃ無いですか、気持ち悪いって。早くやめてもらえませんか?」


 彼は女性の方と男の方、交互に目をやった。

 すると男は女性を指さした。


「あの必死さは、『そういうこと』にしておきたいがための、そうせずにはいられないという態度なんだよ」


「じゃあ俺は、そうやってねじくれた思いを抱かれるほどに、優秀な人間なのか?」

「ああ、もちろん」


「何ワケわかんないこと言ってるんですか」


 女性は最初の勢いのまま、怒鳴るように言葉を発した。


 彼は思い至った。


(そうか、そんなねじくれた考えを持つ相手に何を言っても仕方がないじゃないか)


 そうして、彼はそれ以上口を開くことなく、その場を去ることにした。


(お前は、俺を笑うお前達は、俺の優秀さに嫉妬するあまり、そんな難癖をつけてくるんだな)


 去り際に、彼は男の方を振り返った。

 男は彼の方を見て微笑んでいた。

 彼もそれに小さく笑い返した。


 彼が視線を前に戻すと、彼にしか見えていなかった男は消えていた。


   ■


――狐は、食べられないのではなく、食べる価値は無いのだと、そう考えて、ブドウの元を去って行った。

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