白い影
ある日の夜。食卓を囲む家族がいた。父親と母親、その娘。それと父親の友人。談笑を交えながら、母親の手作りの料理を食べていた。
父親の友人は酒を飲んでいると、ぎし……、と扉の方から物音が聞こえてきた。
振り返ると扉は少し開いていた。
不思議に思った彼は酒の入ったグラスをテーブルに置くと、扉に近寄ろうとした。すると扉の隙間から白い影が、すっ……と入り込んできた。
驚いた友人は目を見開いて、後ずさった。
その白い影は、丸い眼鏡を掛けた少年の姿をしていた。少年の背後の棚が薄っすら透けて見える、人を象った煙のようだった。少年は友人を気にかける様子もなく、隣室に続く扉に沈むように消えた。
酒を飲みすぎたのかと思った友人は、水の入ったグラスを一気に飲み干した。その様子に驚いた父親は「なにかあったのか?」と友人に尋ねた。
友人はたった今見たことの一部始終を話した。
すると母親が棚に飾った写真を手に取ると「その丸い眼鏡を掛けた少年はこの子じゃありませんか?」と友人に尋ねた。友人は写真を凝視すると、「この子だ! 間違いない!」と興奮しながら叫んだ。
母親は目を伏せながら少年について語ってくれた。この少年は1ヶ月前、交通事故で亡くした息子だという。妹想いの優しい少年は今日という日を楽しみにしていたらしい。
父親は「息子はどこに?」と友人に尋ねた。
友人は隣室に続く扉を指差した。そこは子供達の部屋だった。友人たちはその部屋に入ることにした。扉をゆっくりと開ける。消灯された薄暗い部屋に、月明かりが差し込んでいた。友人は「いた」と、二つ並んだ机の左側を指差した。
少年は机の引き出しを開けようとしていた。すると少年は友人に気がついたのか、そちらを振り返ると蒸気のように霧散した。友人は、「机の引き出しを開けようとしていた」と父親にいうと、その引き出しを開けた。
引き出しの中には包装された小さな箱が入っていた。それと一緒に小さなカードが置かれていた。友人がカードを手に取ると、そこにはシンプルにこう書かれていた。
『誕生日おめでとう』