Without You
ザワザワ…と、ムートの宣言を聞いた新入生は騒ぎ始める。
無理もない。
二十三家の娘相手に、落ちこぼれが「魔王になる」と抜かしているのだ。
正気の沙汰ではない。
「…正気? 誰にモノを言っているのかよく分かっていないようね。ワタシは――「二十三家、だろ? 知ってるよそのくらい」
「なら…!」
「俺にとって、お前も単なる壁の一つに過ぎない」
「なっ…!?」
「お前を含む周り全員を乗り越えられなきゃ、魔王なんて無理だろ」
外野のザワザワが、ガヤガヤへと変化してきた。
無理もない。
自分を乗り越える前提で話を進められているのだ。
しかも、明らかに自分よりもスペックの劣る相手に。
「あまり調子に乗らないことね…」
ミラも初めの驚きは既に薄れ、今は目の前の男に対する怒りしかなかった。
「最初からアナタなんか眼中にも無かったけど、気が変わったわ。その思い上がりごと、叩き潰してあげる」
「…眼中にねーなら、最初から声かけてねーんじゃねえの?」
「う、うるさい! とにかく、覚悟なさい!」
台詞を吐き捨てるようにしてから、ミラは踵を返して教室に向かって歩いて行った。
これはもう少し後の話だが、落ちこぼれによる二十三家相手の超越宣言は、その日のうちに新入生に留まらず学院内のトレンドとして早々に広まった。
入学初日にして、ムートは全学生の注目株になってしまったのだ。
ミラを見送るような格好になったものの、ムートもホームルームのために教室に向かうために歩き始めた。