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第四章 『ルソーの渦巻く陰謀』  その参



 そして、酒のおかげでぐっすりと眠れた哲斗と悪

魔だが、相変わらず寝起きは悪く、支度させようと

するアーサーを手こずらせた。しかし予定通り朝か

ら、野球場ぐらいあるコロシアムに向かい、テスト

には間に合う。


 待遇がいいとされる、ルソーの兵士になるための

入隊テストには、百人以上の志願者がいた。七割は

人間だが、残りは屈強な体の獣人や超人的な身体能

力を持つ半獣人で、そういった即戦力になる人外生

物は、テストを受ける事無く合格扱いだった。


 テストは志願者たちで戦い、勝つのは当たり前だ

が、強さを認められなければならない。


 哲斗は冒険者の魔導師として登録し、マルコシア

スとサマエルを召喚獣とした。そして二人の悪魔を

使って何人かと戦い、圧勝して合格する。


 当然だが戦いの時、二人の悪魔は強すぎるため、

魔力を高める事すらせず、格闘だけで済ませた。


「やってらんねぇぜ。こいつらほとんど普通の人間

じゃねぇか。クソつまらん」


 マルコシアスは暴れたらずイライラしており、躾

をされてない犬みたいに、周りの者たちを威嚇して

いた。


 アーサーの方も普通の人間相手なら楽勝で、用意

されていた武器の中から剣を使って戦い、魔力を高

める事無く合格する。


「おいお前たち、こっちへ来い、話がある」


 二メートルの長身であり、軽装備の鎧を纏った親

衛隊の兵士が、哲斗たちに声をかける。

 

「実はな、先ほどのお前たちの戦いを、宰相であり

軍師のガイザック様が見ておられたのだ。可なり気

に入ったご様子で、後でお前たちを連れてくるよう

にと言われている」


 この話を聞いた哲斗とアーサーは、自然と目を合

わせ、口元に狡猾な笑みを浮かべた。


「俺たちはいつでもいいですよ」


 哲斗が軽い口調で返す。


「ならば今から行くとしよう。ついてこい」


 親衛隊の兵士は四人を連れて、ガイザックがいる

領主の城へと向かう。


「俺たち運が良いよな」


 哲斗が兵士に聞こえないように小声でアーサーに

話しかける。


「あぁ、こんなに早く城に潜り込めるとはな」


 アーサーも小声で返す。


「しかもガイザックにまで会えるらしいし、ちょっ

と出来過ぎだよな」


 哲斗が言うとサマエルが「日頃の行いが良いのだ

ろうよ」と言う。


「ですよねぇ。清く正しく美しく生きてりゃ、良い

ことあるんだよな」


 哲斗は嬉しそうに笑顔で言ったが、絶妙なタイミ

ングでサマエルが「お前じゃない、アーサーに決ま

ってるだろ」とツッコミを入れる。


「カスが‼ そういうのは、イケメンに限るなんだ

よ。分かったかクソ無職‼ てか聞いてるこっちが

切なくなる幻想まき散らすんじゃねぇよ」


 マルコシアスは大声でツッコむ。


「お前たちうるさいぞ。もう城につく、騒がず粗相

のないようにしろよ」


 兵士に怒られたこの時、既に城の土台となってい

る巨大な一枚岩の側まで来ていた。


 そこからは岩を削り造られた階段で上がるのが、

一般的な城への行き方だが、親衛隊などの城の敷地

の中で住み込み仕事をしている者は、簡単で特殊な

方法で城まで上がれた。


 哲斗たちは親衛隊の兵士と共に、一枚岩の側面に

ある巨大な洞窟のような穴に入る。当然ここには何

人もの兵士がおり、普通なら通行できない。


 数十メートル進むと洞窟は観音開き式の扉で閉ざ

され、その前には門兵がいる。だがここも親衛隊と

同行しているため簡単に通過できた。そして扉の向

こうには、移動時に使われる、六芒星の魔法陣が地

面に作られており、いつでも使える状態で光り輝い

ていた。


 その魔法陣の中に入ると、光の柱が上がり次の瞬

間、哲斗たちは城の一階にある一室に居た。


「ここはもう領主様の城の中だ。いまから謁見の間

に行く、本当に騒ぐなよ。とばっちりを食らうのは

御免だからな」


 親衛隊の兵士は心配そうな顔をしていた。


「わかってますって、任せておいてくださいよ」


 哲斗が相変わらずの軽い口調で返すと、兵士は不

安そうな顔で力なく愛想笑いする。


 謁見の間に入るための扉は観音開き式で、巨大か

つ豪華な作りだった。中は体育館のように広く何も

なく、まさに今も残るヨーロッパの城の謁見の間、

そのものであり、真ん中に一直線に赤い絨毯が敷か

れ、奥には玉座があった。


 哲斗たちは玉座の少し前まで行って、そこでガイ

ザックを待つ。


 程なくして、玉座の右側にある扉から、宰相と軍

師を兼任するガイザックが現れる。


 ガイザックは赤みがかった茶髪で瞳はグリーンの

白人系で、身長は180程あり、がっちりした身体

つきをしている。歳は三十半ばで顔は切れ長の瞳が

特徴的な美形、髪の毛は逆立っていた。服装は白の

ロングジャケットにズボン、黒いブーツで、内側が

紫の赤いマントを纏っている。


「ガイザック様、例の者たち二名を、連れてまいり

ました」


 兵士は片膝をついてこうべをたれる。哲斗とアー

サーも真似て片膝をついたが、悪魔二人は知らん振

りしていた。


「お前たちの戦い、見せてもらったぞ。よくぞそこ

まで鍛え上げたな。そこでだ、ただの兵士ではなく

親衛隊に、二人を入れることにした。勿論、初めの

うちは見習いだがな」


 思いがけぬガイザックの提案に、哲斗とアーサー

は顔を見合わせ微笑む。


「ありがとうございます。ガイザック様のお役に立

てるように、これからも精進いたします」


 アーサーが慣れた感じでその場の流れに合わせて

言った。だが哲斗にはそれが、あまりにも白々しく

聞こえたため、笑いを堪えるのに必死になった。


「それでは、後の事はそこの兵士に訊くといい。二

人とも、期待しておるぞ」


 そう言って、ガイザックは早々とその場を後にし

た。


「お前たち、凄いじゃないか、大抜擢だぞ」


 兵士は自分の事のように喜び、哲斗とアーサーの

肩に手を置き言った。


 この後は、城の敷地内の南側にある親衛隊の寮へ

と案内され、見習い用のベッドだけ置いてあるよう

な六畳程度の部屋をそれぞれ与えられた。因みに寮

は石造りの三階建てで、街にあればお金持ちの屋敷

に見えるほど立派だった。


「本格的に訓練や親衛隊のルールを教えるのは明日

からだ。今日は休むなり、城を見て回るなり好きに

していいぞ。ただし寮から出る時は、この親衛隊見

習の腕章をつけるように」


 兵士が二人に渡した腕章は、真ん中に紫のライン

の入った赤いものだった。そして兵士は足早に、本

来の仕事へと戻った。


「城に入りこめただけでなく、思わぬ形で宿までゲ

ットできたな」


 現在は全員が哲斗の部屋におり、哲斗は敵陣に居

る事など忘れたように、リラックスしてベッドに腰

かけ言った。


「そうだな。で、ガイザックという男をどう見る」


 アーサーはすぐに本題に入る。


「この世界の人間にしたら、異常なほど強い魔力を

持ってるのは確かだけど、あの男一人が首謀者かど

うかは確信ないかなぁ」


 哲斗はガイザックのまがまがしい魔力と人ならざ

る者の気配を感じていたが、確信するまでには至ら

なかった。


「とにかく城に入りこめたわけだし、ここは別れて

情報を集めよう。領主代行のピエールの事も知りた

いしな」


 アーサーの提案で、二人は別々に動き、城の中を

探索することにした。当然だが、悪魔二人は哲斗と

一緒である。


 そして兵士や執事にメイドたちから、世間話を装

い有力な情報を集めることに成功する。


「この親衛隊見習の腕章のおかげかな。みんな全然

警戒せず相手してくれるし。てかこの城の奴らって

口軽いよな、聞いたらなんでもペラペラ喋るし」


 情報収集を終えた哲斗は、アーサーと待ち合わせ

ている、寮の自分の部屋に帰る途中であった。


「それだけバカ息子と宰相軍師に不満があるってこ

とだろ」


 サマエルは興味なさげに返す。


「もう首謀者バレてんだから、フルボッコにして終

わらせようぜ。報酬たんまり貰ってパラダイス直行

だぜ」


 マルコシアスが哲斗の肩に掴まり耳元で言う。


「だから焦るなっての、気持ちは分かるけど。どう

するかは、リーダーに任せようぜ」


 哲斗はここでの事は既に、完全にアーサーに任せ

ていた。


 程なくして寮の部屋に戻ると、アーサーも帰って

きて、互いに得た情報を教え合う。


「ってことは、ピエールとガイザックは元々いまみ

たいな感じじゃなく、様子がおかしくなったのは半

年前からだな」


 哲斗はそれぞれの情報を合わせて話す。


「先に変わったのはガイザックの方らしい」


 アーサーが険しい表情で言う。


「ちょっと気になるのは、そのガイザックの気配な

んだよな」


 怪訝そうな顔で哲斗が言う。


「気配? どういうことだい」


「なんていうか……人のようで人でない、そういう

不思議な感じなんだよなぁ。二人はどう思う?」


 哲斗は悪魔二人に助言を求める。


「何かが人に化けている、そんな感じだな」


 サマエルが答える。


「俺様の目と鼻は誤魔化せないぜ。ありゃ人間じゃ

ねぇ、タヌキだ。タヌキが化けてやがんだよ」


 マルコシアスが言うと、三人は真顔でそっぽを向

き無視をして、自分たちだけで話を続ける。その態

度にマルコシアスは激怒するが、サマエルが「黙れ

カス」と発しながら顔面にパンチを直撃させ、そこ

からまた殴り合いの喧嘩が始まる。そしていつも通

り、哲斗は完全に放置した。


「聞いたことがある。魔人族の中には変身能力があ

る者や、人間に取り憑き自在に操れる者がいる。も

しかしたらガイザックは、そういう能力を持つ魔人

族かもしれない」


 アーサーは腕組みをしながら考え込み、独り言の

ように発した。


「魔人族ねぇ、俺たちはよく分からないけど、その

可能性はありそうだな。まあ人間じゃないなら遠慮

なくぶっ飛ばせるぜ」


 哲斗が言った後すぐ、サマエルが「確かめる方法

はあるぞ」と返す。因みにこの時、サマエルはマル

コシアスをボコボコにして、その顔面を踏みつけて

いた。

 

「うおおおおおおおっ‼ ふっかーつ‼ よくもや

りやがったなクソパンダ。てか確かめる方法ってな

んだコノヤロー、全然興味ないけど聞いてやんよ、

さあ言ってみろ、マジ気になんねぇけどな」


 マルコシアスはサマエルの足を、振り払うように

拳を突き上げジャンプして逃れると、唾を飛ばし早

口で捲し立てる。


「うるさい、ちょっと黙ってろ」


 哲斗は後ろからマルコシアスの頭部を鷲掴み、ア

イアンクローで黙らせる。


「やっと静かになったか。じゃあ方法だが、忘れて

いるんじゃないか、例のレアアイテムを」


 サマエルは意味ありげな笑みを浮かべ言う。


「あっ⁉ 村で貰った魔寄せの石か‼」


 哲斗は思わず大きな声を出していた。


「箱から出して試してみよう。ポケットに入れてお

いてガイザックに近付くんだ。もしもガイザックが

匂いに気付いたら、魔人族ということだ」


「流石サマエルさん、頼りになるぜ。どこぞのバカ

犬とは大違い」


 哲斗は嫌味たらしく言う。


「サっちんもたまには役に立つな。しかしどこにで

もいるものだな、バカって。で、どこの犬だそれ」

 

 哲斗のアイアンクローから既に復活していたマル

コシアスは、天然全開で訊き返す。


「お前しかいねぇだろバカ犬」✖2


 哲斗とサマエルは同時にツッコむ。


「んだらぁ‼ 喧嘩上等だ、やってやんよクソヤロ

ーどもが‼」


「はいはい分かったから、騒ぐんじゃねぇよ」


 哲斗は呆れ気味に発しながら、マルコシアスのお

でこに強力なデコピンをして後ろに弾き飛ばす。更

にそこにサマエルが待ち構えており、バックを取る

と勢いよく、投げっぱなしジャーマンスープレック

スを繰り出し、壁に叩き付けた。


「じゃあさっそく試しに行くか、魔寄せの石を。そ

の結果、ガイザックが魔人なら、そのまま倒して終

わりでいいだろ」


 サマエルが言う。


「いや待て、城の中で戦いになるのは危険だ。相手

の強さも分からないうえに、君たちの強さは桁違い

だからな、大勢の犠牲者が出てしまう」


 アーサーがそう返すと、サマエルは面倒そうな顔

をあからさまにした。


「哲斗、君の意見を聞かせてくれ」


「そうだなぁ……今日はもうやめておこう。疲れた

し……」


 哲斗の目は泳いでおり、口元は何やらにやけてい

て、悪だくみしているのは明白であった。


「疲れた……だと……」


 サマエルが怪訝そうに言って、哲斗の顔に近付き

ガンを飛ばす。


「なるほどな。読めたぜ、このエロガッパ、魂胆見

え見えなんだよ。だが、そんなクソなお前が好きだ

けどな」


 マルコシアスは全てを理解すると、最後に高らか

に笑う。


「そういうことか。相変わらずというか……やれや

れだな」


 サマエルもすぐに察し、心底呆れる。


 この時、アーサーは漠然とだが察し良く、哲斗が

色欲系のことを考えていると理解した。


「とりあえず、部屋はあるし晩飯も食えるし、今日

は休んで体力を回復させて、万全の状態で明日を迎

えようぜ。なっ、アーサー」


 哲斗は微塵も疲れていない様子で、軽い口調で言

った。 


「そうだな。もしもガイザックが魔人族の場合も含

めて、どうやって解決するのかを考える時間がいる

し、今日は休むとしよう」


 哲斗に合わせた部分もあるが、この先どんな展開

になっても対応できるように、アーサーは作戦を練

っておきたかった。故に概ねは本音を言ったアーサ

ーだった。


「ということで、ここからは別行動な」


 哲斗はニヤニヤしながら軽い足取りで部屋から出

ていき、マルコシアスもそれに続く。更にサマエル

も結局は、愚痴りながらもついていく。 


 それからアーサーは自分の部屋に戻り、真面目に

作戦を考える。そして哲斗たちは、人知れず城の間

取りや設備を入念にチェックしていた。この時の三

人の身の熟しと気配の絶ち方は、まさに熟練の泥棒

そのものだった。


 その後、何事もなく時間が経ち、夕食の時間にな

って、哲斗たちは寮に帰ってくる。


「アーサー、寮の食堂で晩飯食べようぜ」


「もう用事はいいのか?」


「よっ、用事? なんのこと、別に用事なんて何も

ないけど」


 哲斗は白々しくとぼける。


「バレバレなんだよ、クソ哲。お遊戯レベルの演技

かましてんじゃねぇよ。関係ない俺様まで恥ずかし

いだろコノヤローが。とりあえず俺様に謝れ、土下

座して謝れ」


 マルコシアスが哲斗のお尻を蹴って捲し立てる。


「うるせぇんだよ」


 哲斗は思い切りラリアットして、マルコシアスを

吹き飛ばし、壁に激突させた。


 マルコシアスは「ぐえっ⁉」と発し、叩き潰され

たゴキブリの如く、床に崩れ落ちる。


 その後、哲斗たちは食堂に移動した。


 寮の食堂は一度に百人ぐらいは食事できるほどの

大きさで、好きな料理を好きなだけ取るバイキング

形式だった。しかし親衛隊は、いついかなる時でも

動けるように、酒は禁止されていたため、食堂には

なく、食事している間ずっと、悪魔二人はセミのよ

うにうるさく愚痴っていた。


 アーサー以外の三人は遠慮なくバカ食いして、メ

タボオヤジのようにお腹を大きくして部屋へと戻っ

た。それから一息ついた頃に、相変わらず緊張感な

くここでの生活を楽しむように、哲斗はアーサーを

誘い風呂に入りに大浴場に向かう。


 入浴に関してモネ王国では、日本と同じ湯船につ

かる文化であり、その様子も日本の温泉浴場そのま

まで、大きな露天風呂まであった。


「へぇ〜、広くて綺麗じゃん。親衛隊の待遇良すぎ

だろ」


 哲斗は裸になって風呂場に入ると、思わずそう言

っていた。因みに悪魔たちは面倒がって風呂には付

いてこず、酒を求めて城の中を探索していた。


 日本の銭湯と同じように体や頭を洗う場所には椅

子が並んでおり、ちゃんと泡立つ石鹸が置いてあっ

た。しかも泡を洗い流す時には、目の前にある鍵盤

のようなスイッチを押せば、壁から滝のように丁度

良い熱さのお湯が落ちてくるシステムだった。


 二人は露天風呂にも入り、存分に入浴を堪能した

後、それぞれ部屋へと戻り休んだ。しかし哲斗の企

みはここからである。


「さてと、そろそろ時間だな」


 哲斗は口元に狡猾な笑みを浮かべ、呟く程度に独

り言を発した。この時、悪魔二人はまだ部屋に帰っ

てきてなかった。


 哲斗は泥棒の如く気配を絶ち、忍び足で素早く動

き、前もって調べていた秘密の場所へ向かう。


「ふへへへへっ、遅かったじゃねぇか、哲斗」


 暗がりの中に居たのはマルコシアスで、目的地に

先読みして待ち構えていた。因みにサマエルは、大

きなワインセラーを見付け、そこで盗み飲みしてい

る。


「やっぱ来てたか。で、獲物はいるんだろうな」


 哲斗は獲物を狙う猛禽類のように鋭い眼光をして

いた。


「既に準備オッケーだ。うじゃうじゃいやがるぜ」


 マルコシアスは満面の笑みを浮かべ言う。

 

 二人が居る場所は、露天風呂の裏側であり、哲斗

たちの目的は、女風呂を覗くことだった。そして城

で働くメイドたちが風呂に入る時間帯が今である。


「しかしよぉ、ポイントを見つけたからって、わざ

わざ覗きをするためだけに大儀を一日延ばすクソっ

ぷり、流石無職の世捨て人。クズの星だな」


「なんとでも言え。異世界の恥は掻き捨てだぜ。て

かお前も好きだろ、覗き」


「舐めるなクソ哲。好きっていうか、ライフワーク

だ」


「はははっ、クズだなぁ、威張って言うことかよ。

でも、見つかったらどうしようっていうスリルと背

徳感が堪らないよな」


「ぶへへっ、お前どこまでも変態だな」


「変態上等、楽しんだもの勝ちでしょ。それにこの

状況だぜ、恒例の儀式みたいなものだろ」


「まあ露天風呂イコール覗き、これはセットだから

な。覗くのが礼儀といってもいい」


「そうそう、覗かないとか失礼だよな」


 二人は自分勝手な理屈をこねて正当化した後、い

やらしく含み笑う。


「じゃあそろそろ参りますかな、哲さんや」


「えぇ、参りましょうとも、ご隠居」


 露天風呂の壁はデコボコしている粗い感じのレン

ガ造りで、五メートル程ある。


 マルコシアスは飛び上がり、哲斗はスポーツクラ

イミングの選手張りに素早く壁をよじ登る。


 女風呂からは大勢の若い女性の声が聞こえ、哲斗

はドキドキしながらそっと顔を出す。だが、思わぬ

強敵が現れる。


「湯気ぇぇぇぇっ⁉ 仕事しすぎだバカヤロー」


 立ち込める湯気のせいで何も見えず、思わず声を

出してツッコむマルコシアスだが、ちゃんとバレな

いように小声であった。


「くそっ、なんて性能してやがる、メイドインジャ

パンかよ」


 哲斗も小声でツッコむ。


「哲斗、こっちだこっち、丸見えだぜ」


 マルコシアスは露天風呂に隣接する庭に植えられ

た大きな木の方に素早く移動しており、にやけた顔

で手招きする。


 哲斗は「丸見えだぜ」の言葉にテンションがMA

Xに上がり、忍者の如くその場に残像を残すほど速

く動いた。


「うほっ♥ スゲー眺め、絶景だな」


 風呂には十数人の若い全裸の女性たちがおり、無

警戒に入浴を楽しみ、一日の疲れをとっていた。


 哲斗とマルコシアスは庭の大きな木々を利用し、

その身と気配を隠しながら大胆にポジションを変え

て好みの女の子をベストの角度から覗く。


「スゲー、あの子100センチ超えの爆乳エルフじ

ゃん。しかもあんなピンクのエロ乳首、二次元でし

か見たことねぇよ。隣はレアな感じの緑の肌で、サ

キュバスみたいな感じだし、流石異世界だぜ」


「ふへへへへっ、テンション上がり過ぎなんだよ、

この変態が。その荒い鼻息どうにかしろ、クソ哲」


「しっかし、向こうの世界のファンタジー好きには

パラダイスだな」


「だろうな。だから金の匂いがプンプンするだろ。

こっちで、向こうの世界の奴ら相手に風俗店でもや

るか、哲斗」


「それいいな。っておい、就職に失敗して風俗店の

店長とか悲しすぎるだろ」


「バカヤロー、お前が店長な訳ないだろクソが。店

長は俺様だ。お前はバイトの清掃員からやれ」


「バイトかよ。そこはせめてスカウトからでいいだ

ろ」


「ぶははっ、そっちかよ。笑える返ししてんじゃね

ぇよ、大声で笑うとこだったぞ」


 といった感じのバカな会話をしつつ、犯罪行為に

勤しんでいたその時、マルコシアスがある事に気付

く。


「おい哲斗、ある意味ヤバくて面白いのが居るぞ」


「マジで、どこどこ」


 哲斗は期待しながらマルコシアスが指差す先を見

る。そこには確かに思いもよらぬ女性がいた。


「ってエリーかよ」


 これまで小声で話していた哲斗だが、思わず普通

に喋る大きさの声でツッコんでしまった。


 その声は風呂に居る女性たちにも届いており、全

員が周りを見渡す。しかし二人は気配を絶っている

ため、見つかる事無くやり過ごし、その場から素早

く離脱する。だが、まだ何人かは覗かれていないか

警戒していた。


「やっべー、見つかるとこだった」


 哲斗は心臓をバクバクさせながら冷汗をぬぐい言

った。この時、既に壁の下まで降りていた。


「クソ哲、声出してんじゃねぇよ。素人かお前は」


 マルコシアスは哲斗の後頭部を軽く叩きツッコミ

を入れた。


「誰のせいだよ。変な言い方するからビックリした

だろ」


「別にまさかってわけじゃねぇだろ。ここで働いて

るって言ってたし」


「俺的にはまさかだけどな。てかエリーが居るとか

流石に読めなかったぜ」


「あぁあ、クソ無職のせいでもう警戒されてて、覗

くのは無理そうだな」


 目を細めた嫌味な顔で、マルコシアスは呆れ口調

で発する。


「まあまあそんなに怒らなくても、領主からの報酬

で、キャバクラに風俗にいきまくれるって。クーデ

ターの鎮圧とか、意外と大仕事だしな」


 と言ってマルコシアスを宥め、哲斗は寮の部屋に

戻り、その後はおとなしく休んだ。因みにサマエル

は朝帰りで、たらふくワインを飲んだ。それがのち

に大問題になるが、その時既に哲斗たちは旅立って

いたため、ワイン大量消失は謎の怪事件とされる。





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