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第四章 『ルソーの渦巻く陰謀』  その壱


 昨日同様に寝起きの悪い哲斗と悪魔二人を、エリ

ーは手際よく準備させ、早々とチェックアウトを済

ませる。この時、宿賃は当たり前のようにエリーが

払っていた。その様子をマルコシアスは、「お前ヒ

モみたいだな。無職でヒモとか超絶カッケ―」とバ

カにした。


 既に大岩の上級モンスターが倒されたことは、村

中で噂になっており、村人は食料を取りに、冒険者

はそのガードに雇われたりと、慌ただしく活気のあ

る朝だった。


 哲斗たちはそんな喧噪を無視して、犬型魔獣のリ

ンクに乗って出発する。


 天候もよく、ルソーへの旅は順調であり、途中何

度か休憩をはさみながらも、その日の夕暮れ時には

無事に辿り着いた。


 休憩の時にはモンスターを見つけ出し、手当たり

次第に狩りまくり、哲斗たちは原料をゲットしてい

た。


 相手は下級と中級のモンスターであったが、中に

は当たりモンスターもおり、サイズも小さく値段も

安いが、宝石も数多くあった。


 この時に入手した宝石は、オパール、翡翠、ルビ

ー、エメラルド、サファイア、アメジスト、ガーネ

ット、ターコイズ、パールなどである。


 哲斗は少しだけ宝石の種類は知っていたが、値段

を知らないため、大金持ちになった気分であり、自

分はまだ戦っていなかったが、ゲーム感覚で、かな

りモンスター狩りが楽しくなっていた。因みにここ

で手に入れた宝石で、百万円を超える物はなく、二

十億への道はまだまだ遠かった。


「おいおい、なんだよここは、スゲーデカい街じゃ

ん。てか遠くに城みたいなのも見えるし、城下町だ

ろここ」


 哲斗は想像より遥かに大きなルソーの街を見渡し

て、テンション高く言う。


 ルソーの街は高い壁に囲まれており、門衛が何人

もいる大きな門を通り中に入る。この時、領主に仕

えるメイドのエリーが居たため、哲斗と悪魔はすん

なりと通過できた。


「私はこのままレオナルド様のお屋敷に戻ります」


「あぁ分かった。領主の病気、治るといいな。ここ

まで送ってくれてありがとうな、助かったよ」


 哲斗はエリーの肩に軽く手を乗せて言った。


「そんな、こちらこそ助けてもらって、皆様、本当

にありがとうございました」


 エリーは深々とお辞儀した後、魔獣には乗らず一

緒に歩いて行った。この時、エリーは名残惜しそう

に何度か振り返って、哲斗の方を見ていた。


 因みに街の中では緊急の場合以外は魔獣に乗る事

は禁止されていた。ただ例外として、兵士は許可さ

れている。


(てかホンとにデカい街だな、こりゃキャバクラみ

たいな飲み屋とか風俗店いっぱいあるぜ)


 哲斗はまた街を見渡し、ワクワクしながら胸の内

で思う。


 そんな哲斗の瞳に映るルソーは、まさに中世のヨ

ーロッパ風の街並みで、人口も多く活気に満ち溢れ

ていた。露店も数多くあり、旅人、商人、民が往来

し、平和で華やかに見える。しかし兵士や冒険者の

数が多く、ものものしさも感じ取れた。


 街の奥には、高さは低いが巨大な一枚岩があり、

その上に、まるで西洋の城のような領主の屋敷があ

った。


 そして異世界人の哲斗にとって、特別目に付くの

は人間以外の種族であった。


 ルソーの人口の三割が人外生物で、アーサーの話

し通り普通に街の中に居た。


「見ろよあれ、肌が青くて蝙蝠羽で、もうサキュバ

スみたいじゃん。あっちの子は巨乳のデュラハンだ

し、その向こうには美形のエルフもいるぞ。てかあ

れあれ、半獣人の猫耳っ子発見」


 哲斗はテンション高く騒いでいたが、他にも筋肉

ムキムキの狼男のような獣人や、爬虫類系のゴツイ

者達も居た。ただ哲斗の目には女子しか映っていな

かった。


「なにがそんなに珍しいんだ。人間以外の生物など

見慣れてるだろ。てかそのエロ妄想してるマヌケ顔

やめろ、腹が立つ」


 サマエルは呆れ顔で発する。


「哲斗、これからどうすんだよ、さっそく風俗行く

か?」


 マルコシアスは後ろから哲斗の肩に手をかけ、耳

元で話しかける。


「まだ夕方で明るいし、大人の店に行くにはちょっ

と早いか。宿も決まってないしな。とか言いつつ、

やっぱここは、いきなり風俗いっちゃいますか」


 哲斗の言葉にマルコシアスは「賛成‼」と元気良

く返す。


「黙れクズども。まずは酒だろ酒。酒場なら情報収

集もできる」


 サマエルがクールに発し水をさす。


(酒、酒ってうるせぇなぁ、水と区別つかないくせ

に、よく言うよ)


 哲斗は胸中でツッコむ。


「う〜ん、どうしようかな……とりあえず、街を探

索しながら、情報集めるか」


 こうして哲斗たちは、ルソーの街の中心部へと歩

き出す。


 街を歩いていると、すれ違う多くの人が、サマエ

ルとマルコシアスに目をやり、物珍しく見ていた。

中には「それって妖精族?」「召喚獣なのか?」と

話しかけてくる者が何人もいた。


「どこいってもお前ら人気あるな」


「あったりまえだろ。俺様だぜ俺様」


 マルコシアスがドヤ顔で自慢げに言う。


「じゃあこの世界で、俺様ワンコを売ったら幾らぐ

らいになるか、試してみっか。当然、トイプーより

高く売れるんだろ、何と言っても俺様だし」


 哲斗は口元に狡猾な笑みを浮かべ言った。


「あったり前だろ、トイプー超え楽勝だっての。っ

てゴラっ‼ 犬なんかと比べんじゃねぇ‼ 俺様だ

ぞ俺様、百億以上だコンニャロー‼ てか売り物扱

いしてんじゃねぇよクソ無職‼」 


「夢見てんじゃねぇよ。お前がトイプーより高いと

か、どこの世界の常識だよ。ハムスターがいいとこ

だろ」


 サマエルが話に割り込み言い放つ。


「誰がとっとこレベルだクソパンダ‼」


 また恒例の喧嘩が始まり、哲斗はいつも通り放置

して進んでいく。


 ほどなくすると石畳みの広場があり、その中心部

に二メートル程の男性の胸像があった。


 その胸像の前で立ち止まり、哲斗は怪訝そうな顔

で、胸像の顔を凝視する。


「あれ……誰かに似てるな……アーサーか?」


 哲斗の独り言に、サマエルは「うむ、確かに似て

る。本人だったりしてな」と返す。


「似てるか? てか本人だとしたら、あいつ像にな

るぐらいの有名人ってことじゃん」


 マルコシアスは胸像の顔面に近付き、ガンを飛ば

しながら「調子乗ってんじゃねぇぞ、コノヤロー」

と悪態をつく。


「その像に興味がおありかな」


 胸像の前で騒ぐ哲斗たちに話しかけたのは、ベー

ジュのローブを着た白髪の老人だった。


「えっ、まあ、ちょっと知り合いに似てたもので」

 

 哲斗はポリポリと頭を掻きながら言う。


「ほほう、この英雄に似てるとは、なんとも羨まし

いですなぁ」


「英雄? この像ってどんな人なんですか?」


「この方は、モネ王国の王子にして英雄の、アーサ

ー様じゃよ」


「アーサー⁉ 名前も同じってことは、やっぱ本人

かよ、あいつ王子様とかスゲーな」


 哲斗はそう言って驚くが、老人は少し怪訝な顔を

した。


「王国の王子が何故あんな所に居たのかは知らない

が、別れる時に、もっと多く金を貰っておくべきだ

ったな」


 サマエルが言う。


「てか本当にこの像あいつか? ちょっと似てる程

度だろ」

 

 マルコシアスはまた像の顔に近付き凝視する。


「冒険者殿は、何か勘違いしておられるようだ」


 老人は軽く笑った後、微笑みながら発する。


「あなたたちの知り合いと、この像のアーサー王子

は別人ですぞ」


 老人は自信満々に言い切る。


「顔も似てるし、名前が同じなんだけど……」


 哲斗は確かめるように胸像の顔を見ながら言う。


「アーサーという名は、この国では一番多い名前な

のです。なにしろ英雄の名前ですから。そしてなに

より、アーサー王子は王になる事無く、三百年前に

お亡くなりになっている人」


「へぇ〜、そうなんだ。じゃあ勘違いですね」


 哲斗は笑顔で返しながら胸中で「まあ生きてるや

つの像なんて、なかなか無いもんな、考えたらわか

る事だった」と思う。


「この王子は、何をやって英雄になったんだよ。像

になるとか半端ねぇだろ」 


 そう言ったマルコシアスは像の肩に座っていた。


「今はこの大陸には二つの国しかないが、昔は五つ

あり、絶えず戦いが繰り広げられていた。そして当

時、小国であったモネは侵略の危機にあった。しか

し兵を率いたアーサー王子が全ての国の軍に勝利し

て、モネは滅びる事無く最後まで残った。アーサー

王子はその後、勇者の仲間になり南の魔王の討伐に

行ったが失敗し、亡くなってしまうのです」


「なんだよアーサー、負けてんじゃん。英雄だった

ら魔王倒せよ」 


 つまらなそうな顔で、マルコシアスはペチペチと

像の頬の辺りを叩いた。


「話は変わるけど、何か冒険者に有益な情報とか、

面白い話はないかな、討伐やクエスト的なやつ」


 哲斗が老人に尋ねる。


「有益な情報はないですが、面白い噂話なら知って

おりますぞ」


「流石ジジイ、伊達に年取ってないな」


 マルコシアスが言うと哲斗は「ジジイ言うな」と

ツッコむ。


「私は若い頃、領主直属の親衛隊をしていたのです

が、昔から兵士の間では、ルソーの地下深くには、

隠しダンジョンがあり、領主の屋敷に繋がっている

という噂があります。更にダンジョンのどこかに、

歴代の領主が集めた財宝がある、とも言われており

ますぞ。まあ、あくまでも噂ですが」


「そのダンジョン、本当にあったら面白そう。入口

とかは分からないのかなぁ。噂とかぐらいあるんじ

ゃないですか?」


 哲斗はこの時、「どうやら隠しダンジョンありそ

うだな。いつもこういう直感は特殊能力張りに当た

るんだよなぁ」と胸中で思う。


「勿論ありますぞ。街を出てすぐの西の森に、神殿

があったとされる遺跡があります。そのどこかに、

地下のダンジョンへの入口があると、言われており

ます」


「おいおい、遺跡とかテンプレ臭プンプンするじゃ

ねぇか。絶対そこだろ」


 マルコシアスは、哲斗の頭に帽子のように乗っか

り、嬉しそうな顔で言う。


「お爺さん、面白い情報や英雄の話、ありがとうご

ざいます。凄く役に立ちそうです」


「それはなによりです。隠しダンジョンを発見でき

るように祈っておりますぞ」


 偶然にも有益な情報を手に入れた哲斗たちは、老

人とはここで別れ、更に街の探索を始める。だがご

く自然に、裏通りへと向かっていた。


 すっかり日も暮れ、裏通りはランプやロウソクの

明かりが妖しく光り、華やかな世界になっている。

居酒屋やキャバクラと思われる店が立ち並び、哲斗

たちのテンションは上がっていた。


「おい、この路地の向こう見ろ。あの店、絶対に風

俗店だろ」


 哲斗が鼻息荒く言い放つ。


「おっ、あっちの店も風俗だろ。こりゃまだまだあ

るぜ。金がいくらあっても足らねぇなぁ、哲斗」


 マルコシアスは言った後、高らかに笑う。


 哲斗はなんとか誘惑に打ち勝ち、情報を集めなが

ら街を見回り、裏通りにある安い宿をとる。


 因みに新しく得た情報では、領主が床に伏してか

ら、領主の親衛隊や、長く仕えていた家臣たちが消

えたりする事件が起こっていた。


「さてと、これからどうするかジャンケンで決めよ

うぜ。俺かマルコが勝ったら風俗かキャバクラで、

サマエルが勝ったら、真面目に遺跡に行くってこと

で」


 三人は路地裏でジャンケンし、バカみたいに相子

を繰り返すこと十数回後にサマエルが勝ち、ダンジ

ョンを探すことになる。


「空気読めよクソパンダ」


 マルコシアスがムカついた顔で吐き捨てる。


「強いのだから仕方がない。やる前から結果は見え

ていた。所詮お前は負け犬だ、腐れワンコ」


「誰が腐ってんだコノヤロー‼ ケツに変な蛇くっ

つけてる変態のくせに生意気なんだよ‼」


 マルコシアスが言い放った瞬間、サマエルの尻尾

の蛇が反応し、自在に体を伸ばし、マルコシアスの

腕に噛み付いた。


「痛っ‼ なにすんだクソ蛇がっ‼ 引き千切って焼

酎漬けにしてやんよ」


 そして恒例の殴り合いの喧嘩が始まり、哲斗はそ

れを放置して歩き出す。


 夜になると出入り口の門は閉ざされるため、門衛

に外に出る正当な理由を話さなければならないが、

冒険者の場合は様々な面で優遇されており、モンス

ターを狩りに行くと言えば、簡単に門を開けてもら

えた。


 哲斗たちは街の外に出ると西の森に向かう。少し

歩いた程度で森が開け、神殿跡に辿り着く。


「思ってたより大きな遺跡だな。ちょっとした村よ

り敷地面積は大きいだろ」


 哲斗は月あかりに照らされ、神秘的な光景の遺跡

を見渡す。


「哲斗、あの大きいのが神殿跡だろ。どう見ても怪

しいぞ」 


 サマエルが言ったのは、中央に堂々と立つ、パル

テノン神殿のような建物だった。しかし三分の一は

崩れている。


「分かってねぇな、サっちんは。レトロゲームマス

ターの俺様に言わせりゃ、隠しダンジョンの入口は

そんなベタなところにはねぇんだよ。もっとベタな

ところ、ズバリ‼ 井戸の中だ‼」


 マルコシアスは決めポーズをとって自信満々に言

い放つ。


「おいおい大丈夫かよ、そのドラクエっぽい情報」


 呆れ気味に哲斗が言う。


「あったりまえだろ、俺様に任せとけ」


 マルコシアスはそう言って辺りを飛び回り井戸を

探す。


「あったぞ井戸‼ ここだここ‼」


 程なくして聞こえてきたマルコシアスの声がする

方に向かうと、大きめの涸れ井戸があった。


「なあ、あると思うか、入口」


 哲斗は小声でサマエルに言う。


「あるわけないだろ、こんなとこに。あったら他の

冒険者がとっくに見つけてるぜ」


 サマエルがすまし顔で言う。


「うっせぇんだよ‼ 素人はだーってろ‼ 絶対こ

こにあんだよ、あったらお前、フルボッコだぞ」


 そう言い放ち、マルコシアスは井戸の中へと飛ん

で行き、「返り討ちにしてやんよ」と言ってサマエ

ルも後に続く。


 井戸はとても大きなもので、深さも50メートル

あり、底は当然、月明かりも届かず真っ暗だが、悪

魔は夜目がきくので問題なかった。


「おいマー坊、やっぱただの涸れ井戸じゃねぇか」


「バカヤロー、そう見せておいて秘密の仕掛けがあ

るのがユウジのやり方なんだよ」


「だったら早く見付けろよ、その仕掛けとやらを」


 この時、サマエルは胸中で、「てかユウジって誰

だよ」とツッコんでいた。


「ふっ、もう発見したぜ。ここの石を見てみろ」


 マルコシアスが指差す石は、表面が少し削り取ら

れ、T字型が浮かび上がるように見える。


「ほう、確かにそれだけ他の石と違うな」


「サっちん押してみろよ」


 マルコシアスが自分でやらない事を怪訝に思うサ

マエルだが、ここは素直に従い石を押してみる。し

かし石はまったく動かないため、サマエルは引き抜

こうとしたが、やはり動かなかった。


「ただの石かよ‼ 思わせぶりなんだよクソが」


 サマエルがキレ気味にツッコミを入れる。


「ぶへへへへっ、バカだ、引っ掛かりやがった。た

ぶん他の奴らも同じツッコミ入れたぜきっと」


「笑ってんじゃねぇよ、クソ犬が。仕掛けがあるん

じゃねぇのかよ」


「そのT字はフェイクなんだよ。実はTじゃなく矢

印だったりして。つまりこの石の上に何かある」


 マルコシアスはゆっくりと飛び上がり、仕掛けが

無いかを探す。


 十メートル程の場所に、今度はT字が右に倒れた

印しの石があり、マルコシアスはその方向を確認す

る。


「うへへっ、あったぜ。これが仕掛けが発動する石

だ」


 眼前にある石には、うっすらと十字の印があり、

マルコシアスはその石を押し込む。


 数秒すると地震のように井戸がグラグラと大きく

揺れ、底の方で何かが動く音がする。


 悪魔二人が確かめに下りると、先ほどまでなかっ

た、入口のような大きな穴が側面にぽっかりと開い

ていた。


「どうだクソパンダモドキ、入口あっただろ。約束

通りフルボッコに、ぶへぇ⁉」


 マルコシアスのニヤニヤしている顔がムカついた

サマエルは、マルコシアスの顔面に一発入れてぶっ

飛ばした。そしてまた子供のような喧嘩が始まる。


 哲斗は先程の揺れで事の成り行きを察し、身軽に

井戸の側面を蹴って跳ねて、下へと降りた。


「ははっ、ホンとにあったよ、隠しダンジョンの入

口が。マルコさんスゲーじゃん。流石自称レトゲー

マスター。ってコラ、お前らいつまで喧嘩してんだ

よ、さっさと行くぞ」


 哲斗はいつも通り悪魔を放置して、真っ暗なダン

ジョンに足を踏み入れる。その瞬間、ダンジョンに

仕掛けられている魔法の力が発動し、火の玉のよう

な明かりが無数に現れ、暗闇を照らし出す。


「へぇ〜、こんな仕掛けがあるのか、こりゃ便利で

助かるな」


 入ってすぐの辺りはまさに洞窟のようで、街の方

向へと直線が続く。その後、何度か階段を下りて、

地下深くへと向かっていく。この時すでに、どの深

さのどの位置に居るかは、哲斗は見当がつかないよ

うになっていた。


「なんだよ、ぜんぜんモンスター出てこないな。制

作しっかりしろよ。てか外注制作なんてすっからお

かしな事になって、クソゲーになんだよ」


 マルコシアスは哲斗の後ろを飛びながら、ずっと

悪態をつき続けていた。


「うっせぇなぁ、てか誰に言ってんだよ。そもそも

お前、クソゲー好きのクソゲーマニアだろ」


 哲斗がイライラしながらツッコむ。


「バカヤロー、モンスター出てこないとかクソゲー

以下だろ。バグだぜバグ」


 納得いかない表情でマルコシアスは返す。


 因みにマルコシアスは本当にゲームが好きで、サ

マエルはアニメ好きである。特に昭和のロボットア

ニメが大好物であった。


 なぜ悪魔がそんな趣味を持っているのかは、哲斗

の影響ではなく、隣人のせいであった。哲斗の部屋

の隣に住む女性は同じ歳の幼馴染で、ゲームとアニ

メを愛するオタク女子で、少しだけ魔力を持ってい

るため悪魔が見えた。それ故に、放置されて暇な悪

魔たちは、毎日のように遊びに行っており、必然的

に影響されてオタクになっていた。


 モンスターとエンカウントしないまま、順調に歩

き続けていた哲斗は、体育館のように天井が高く広

い開けた空間に出る。


「モンスター、キターーーーーー‼ ってまたキノ

コかよ‼」


 マルコシアスがテンションMAXで叫ぶが、以前

に戦ったマッシュブルに見えたため、ガッカリして

自分でツッコむ。


 開けた空間の反対側には、観音開き式の大きな扉

があり、その前に門番の如くモンスターが配置され

ていた。


「あの扉の向こうが、本格的な隠しダンジョンだろ

うな」


 哲斗が話していると、三人の侵入者を確認したモ

ンスターは、凶暴な唸り声を発しながら突撃してく

る。


「こいつ、前に戦ったキノコとちょっと違うぞ。魔

力も高めだしな」


 哲斗は横へ回避しながらモンスターを観察する。


 そのモンスターはマルコシアスが倒した、軽トラ

のような形で足が六本あるマッシュブルに似ている

が、頭のキノコも体の部分も真っ赤であった。大き

さはボックス系の自動車ぐらいあり、移動スピード

は直線的な動きなら速かった。冒険者たちからは、

レッド・マッシュブルと呼ばれており、ランクは中

の下であるが、たまにレアな原料を獲得できる場合

がある。


「形は同じだが、赤いボディは伊達じゃないようだ

ぞ。パワーと速さは三倍とみた」


 サマエルは口元に笑みを浮かべ、楽しそうな顔を

している。 


「少し違っても、所詮ザコはザコだろ。てかサっち

ん、三倍って言いたかっただけだろ。もう空気読ま

ずに一撃でやっちゃうぜ」


 呆れ気味にマルコシアスが言った瞬間、レッド・

マッシュブルが前方の空間を埋め尽くすほどの業火

を吐き出す。


 哲斗は思わず「うわおっ⁉」と声を上げ、焦りな

がらも後方へと回り込み回避した。


「あっぶねぇ、もうちょいでお気に入りのTシャツ

焼けるとこだったぜ」

 

 この時、悪魔二人もレッド・マッシュブルの後ろ

へと回り込んでいた。


「この扉、どうやら魔法がかかってるようだな。恐

らくあのキノコを倒さないと、鍵が開かない仕掛け

だぞ」


 サマエルは後ろへ回り込んだついでに扉の所まで

行き、開くかどうかを確かめていた。


「まあ倒しても開かなかったら、ぶっ壊せばいいだ

けだし、問題ないでしょ。相手はお前に任せるから

な、マルコ」


 哲斗は興味なさげに頭を掻きながら言う。


「しゃーねぇな、塩っぱい相手だけど、俺様がやっ

てやんよ」


 マルコシアスは一気に魔力を高め紫色のオーラを

全身より解き放つ。だがこの時、既にレッド・マッ

シュブルは業火を吐き出し攻撃を仕掛けていた。


「ワンパターンなんだよ、キノコヤロー」


 マルコシアスは垂直に飛び上がって回避すると、

拳を握り締め、両手を前に突き出す。


「ダブルパーーーンチ‼」


 ベタな技名を発した瞬間、マルコシアスの両腕は

弾丸の如く凄まじい速さで伸び進み、レッド・マッ

シュブルの顔面に左右の拳が直撃する。


 ただのパンチだが魔力が込められた拳の攻撃力は

強大で、レッド・マッシュブルは大ダメージを負っ

て、目を回したように動けなくなる。


 マルコシアスは腕を、伸びたゴムの如く一瞬で引

き戻し、今度は両手を頭の上に掲げ、剣術の上段の

構えをした。


「こいっ、ギガ・トマホーク‼」


 マルコシアスは悪魔の特殊能力で、異空間より武

器を瞬間移動させて呼び寄せる。そしてマルコシア

スの両手に握られたのは、自分の体より遥かに大き

い、刃の部分が人間が持つサイズの五倍はある、両

刃のトマホークだった。


 小さな手に余る大きな柄を、マルコシアスは軽々

と掴んでおり、その巨大な刃のトマホークを勢いよ

く縦回転で、レッド・マッシュブルに投げ放つ。


 凄まじい風切り音を発しながら、ギガ・トマホー

クはレッド・マッシュブルを真っ二つに切り裂き、

地面に深く突き刺さる。


 ライフがゼロになったレッド・マッシュブルは、

ボンっと大きな音と煙を出して消滅する。この時、

マルコシアスは念じるだけで、呼び出した武器を異

空間に戻していた。


「完全勝利だけど、楽勝すぎてつまんねぇな。って

ゴラっ‼ テメェら無視してんじゃねぇよ」


 勝者のマルコシアスを放置し、サマエルが原料を

回収し、哲斗に渡して何やら盛り上がっていた。


「スゲー、これルビーだろ。今までの中で一番大き

いと思うぞ」


 鼻息荒く、哲斗は赤く輝く3カラットのルビーを

見詰める。


「レアなモンスターだったのかもな。それよりも、

扉が開くようになったぞ」


 サマエルが扉を軽く開けて言った。


「俺様が一番乗りだ‼」


 マルコシアスが猛スピードで飛んで、観音開きの

扉を弾き飛ばすように開けて通過する。 


「うおおおっ⁉」


 扉の向こうは、今いた空間と同じぐらい開けた場

所で、魔法の力で明かりもついていたが、ド真ん中

に巨大なモンスターが居たため、マルコシアスは思

わず驚いた。


 そこに居たモンスターは、バスぐらいある巨大な

白い虎で、冒険者たちにジャイアント・タイガーと

名付けられている。鋭い牙と爪を持ち、額には大き

く長い一本角がある。


「なんだコノヤロー、スゲー強そうじゃねぇか。俺

様を楽しませてくれるんだろうな」


 マルコシアスが魔力を高めようとした時、サマエ

ルが何かに気付き話しかける。

 

「ちょっと待てマー坊、何か変じゃないかそのモン

スター」


「確かに変だな。強そうなのに、ぜんぜん魔力を感

じない。ジャングルで何匹か狩ったクソ弱いスライ

ムレベルの魔力だ」


 哲斗は顎に手をあて怪訝な表情でモンスターを観

察していた。 


「てかこいつ、さっきから吠えてるだけで襲い掛か

ってこないな。もしかして、見かけ倒しかよ」


 マルコシアスはガッカリして魔力を高めるのをや

め、いつまでも唸ったり吠えたりしているだけのジ

ャイアント・タイガーに無造作に近付き、顔面に跳

び蹴りを入れた。


 軽い蹴りを食らっただけのジャイアント・タイガ

ーは、まさかの断末魔の叫びを上げ、ライフがゼロ

になり消滅する。


「うおおおいっ⁉ どんだけ弱いんだよ、てかお前

はスペランカーかよ。なんかバカにされた気分じゃ

ねぇかコノヤロー」


 あまりの弱さにマルコシアスはツッコミを入れ、

哲斗とサマエルは大笑いした。


「そいつって倒したら恥ずかしいレベルなんじゃな

いの。マルコさんクソダセー」


 哲斗はツボにはまってまだ笑っていた。


「バカヤロー‼ 俺様の蹴りがスーパーウルトラス

ペシャルだっただけだ、クソが」


「マー坊、それ以上言うな。聞いてるこっちが切な

くなるぜ。まさに噛ませ犬ハンターだな」


 サマエルがすまし顔で顔を左右に振る。それを見

て哲斗はまた笑う。


「クッソパンダ、誰が噛ませ犬ハンターだ‼」


 マルコシアスがブチ切れ、またサマエルと殴り合

いの喧嘩になる。


 因みにジャイアント・タイガーは別名、ハッタリ

・タイガーと呼ばれており、ランクは下の下で、中

級の冒険者なら、倒さずに素通りするモンスターで

ある。


 一応は原料の、何か分からない鉱石を哲斗は拾い

回収した。


 その空間には扉はなく、洞窟の入口のように大き

な穴が開いており、哲斗たちはそこを通り進んでい

く。


 そこは既にルソーの街の地下にある隠しダンジョ

ン内であった。舗装された通路ではなく、いわゆる

洞窟であったが、幅も天井も高く広々していた。し

かし枝分かれした通路が幾つもあり、迷路のように

複雑な作りになっている。


「なあなあ、面倒だし、壁をぶっ壊して一直線に進

もうぜ」


 気怠そうにマルコシアスが言う。


「無茶言うな。ここは街の下だぞ、崩れたらどうす

んだよ。バトルはいくらでもやらせてやるから、大

人しくしてろ」


 哲斗が呆れ口調で返した時、三つに分かれた通路

が現れる。


「どの道を行く?」


 悪魔二人に哲斗が訊く。


「真ん中だろ。ここからパーリーの匂いがするぜ。

俺様を呼んでやがる」


「テメェに招待状なんてこねぇよクソ犬」


 サマエルがツッコむと、またまた喧嘩になる。


「マジか、真ん中かよ。そんな感じは確かにするよ

な。じゃあ右で」


 哲斗はマルコシアスの意見にいったん乗っておい

て透かさず却下して右へ歩き出す。


「ゴラっ‼ 舐めてんのかよ、クソ無職‼」


 マルコシアスはサマエルと喧嘩しながらも絶妙な

タイミングでツッコミを入れる。


 その後はまた、開けた空間に出るたびにモンスタ

ーがおり、悪魔たちとバトルになるが、下級か中級

レベルのモンスターばかりで、簡単に突破した。


 門番のように待ち構えていたモンスターは様々だ

が、全て巨大であり、蛇や鰐に蜥蜴といった爬虫類

系や、蠍や蟹に似たモンスターがいた。


「通路にはモンスターが出てこないから、サクサク

進めるけど、もう結構歩いてるよな……おっ⁉」


 哲斗は迷路に飽きており、怠そうにしている。し

かし遂に、ゴール地点と思われる、今までよりも広

く天井が高い空間に出る。


「どうやらここが、ラストのアミューズメントみた

いだぜ」


 サマエルは奥にある観音開き式の扉を見て、今ま

でよりも大きく立派だったので、最後の扉だと思っ

た。


 その空間はドーム球場のグラウンド程の大きさが

あり、アメリカザリガニに似た巨大なモンスターが

いた。


 モンスターの名前はザリガンドといい、大きさは

三メートル程で、今までのモンスターと比べると小

さいが、その分スピードが速く、背には蝙蝠の羽根

が二対あり、空を自在に飛び回れた。ランクは上の

下である。


「今度は甲殻類のザリガニモンスターか、中々強そ

うじゃん。魔力の大きさからみて、ギリで上級って

感じだな。で、誰がやる」


 哲斗が言うと「お前はやる気ねぇだろ」とマルコ

シアスがツッコむ。


「おっ、こいつも空気読まずにいきなりくるタイプ

だぞ」  


 サマエルが言った時、ザリガンドは宙に浮きあが

ると次の瞬間、弾丸の如く突撃し、哲斗たちに襲い

掛かる。


 ザリガンドは一気に間合いを詰めると、両手の巨

大な鋏を突きだし、切り裂こうとする。


 三人は素早く三方向に散るが、ザリガンドはまさ

に電光石火の動きで、縦横無尽に飛び回りながら攻

撃を仕掛けた。


 しかし三人は余裕の表情で、遊んでいるかのよう

にリラックスした体捌きで躱し続ける。


「このクソガニが、調子乗りやがって、瞬殺で撃墜

してやんよ」


 マルコシアスが魔力を高めようとした時、ザリガ

ンドは唾を吐くように、口と思われる部分から高速

で緑の液体をマシンガンの如く撃ち出す。


 戦い慣れしている三人は、直感でその液体が危険

なものだと判断し、瞬間的に本気の動きで無数に襲

いくる液体を回避する。


 躱された謎の液体は、地面に落ちると煙を出し石

を溶かした。


「やっべー、酸だぞこの液体、気を付けろよ」


 哲斗はそう言いながら後方へと下がる。だがザリ

ガンドは哲斗をロックオンしており、また酸の液体

を撃ち出しながら、一直線に突撃してくる。


「おわっ、俺狙いかよ」


 哲斗は超人的身体能力を発揮し、その場に残像を

残すほど速く動き、酸の液体を回避した。しかしザ

リガンドは躱されるのを読んでいたように、次の攻

撃を仕掛けていた。


 高速移動しながら、今度は鋏を閉じて前に突き出

すとその瞬間、両手の鋏の部分が凄まじい速さでど

こまでも伸びていき、哲斗を襲う。


 哲斗は意表を突かれたが、この攻撃も躱す。だが

ギリギリで躱したため、Tシャツの袖に鋏が当たっ

て破ける。


「あっ⁉ なにすんだよ、お気に入りなのに‼」


 哲斗は眉間に皺をよせ、怒りの表情を見せる。


「ダセー、攻撃喰らってやがる。超絶クソなんです

けど」


 マルコシアスは戦いを忘れ大笑いする。


「無職だからそうなるんだ。普段から働いて体を動

かしていれば躱せたはずだ」


 サマエルが説教臭く言う。


「いやいやいや、無職関係ないし‼」


 哲斗がツッコミを入れたこの時も、ザリガンドの

酸の液体と伸びて襲いくる鋏の攻撃は怒涛の如く続

いていた。


「あぁ〜、腹立つぜ。貧乏人にとってTシャツ一枚

がどれだけ貴重だと思ってんだよ」


 珍しく感情を露にした哲斗は、一気に魔力を高め

全身からオーラの如く、金色の魔力を放出する。


「お前はもう消えろ」


 哲斗の魔力は底が知れない強大さで、周りの空間

と大地をグラグラと地震のように大きく激しく震わ

せた。この時、遥か上のルソーの街では、震度6に

匹敵するぐらい揺れていた。


「アース・ニードル‼」


 哲斗が片膝をついて右手を地面につけると、眼前

の地面が次々に盛り上がり、針のように尖った岩が

無数に突き出し、広い空間を一気に埋め尽くす。


 ザリガンドに逃げ場はなく、為す術なく全身に尖

った岩が突き刺さり貫通し、ライフがゼロになり消

滅する。


「あっぶねぇ、クソ哲、俺様まで殺す気か‼」


 マルコシアスは間一髪で哲斗の後ろへと回り込み

回避していた。


「テメェがトロいんだよ、カスが」 


 はじめから哲斗の後ろにいたサマエルが悪態をつ

くと、恒例の喧嘩が始まる。


 空間を埋め尽くしていた尖った岩は、哲斗が魔力

を静めると同時に魔法解除の念を送ると、元通りの

地面に戻る。


 因みに哲斗が使った技は、大地の精霊の力を使っ

た精霊魔法の一種であった。この魔法は精霊と契約

し、力をその身に宿していなければ使えない上位魔

法である。故にそれを簡単に使い熟す哲斗は、幾つ

もの修羅場をくぐり抜けた、手練れの魔導師である

ことが分かる。


 やる気のない哲斗が、ここまで戦える腕利きの魔

導師となったのは、偏に兄の勇気の無茶ブリが原因

である。


 子供の頃から命懸けの指令をこなしているうちに

自然と強くなっていた。無論、才能もあったが、そ

こに向上心や努力などという言葉はない。ただ生き

残るために、そして勇気に怒られないために哲斗は

強くなったのだった。


 哲斗は戦いの余韻に浸る事無く、原料を拾い上げ

る。


「やったね。Tシャツ破れたけど、金ゲットだぜ」


 上級モンスターであったザリガンドの原料は、三

百グラムもある金だった。


 哲斗は足元に、魔法書の異空間と繋がる六芒星の

魔法陣を作り出し、原料を収納すると、今度はその

異空間から、グレイのキャリーバッグを念じて呼び

出す。


 キャリーバッグの中には着替えが入っており、哲

斗はいま着ているTシャツと同じものを取り出して

着替えた。因みに哲斗は服を買う時には、同じもの

をまとめ買いするタイプであった。


「ちょっと袖が破けただけで、着替える必要がある

のかよ、女子かお前は。しかも同じ服だし。てか最

近その服しか見たことねぇし」


 マルコシアスがうざ顔でツッコミを入れる。


「ほっとけ。この赤いTシャツが好きなんだよ」


「服の事よりお前の戦い方が問題だろ。目立つなと

か被害を出すなとか言っておいて、一番無茶苦茶だ

ろうが」


 サマエルはすまし顔でクールに発する。


「そうだそうだ、クソ無職。服破れただけでキレる

とか、キモいんだよ。カルシウム不足かよ」


「うるせぇなぁ、もう先に進もうぜ。早く終わらせ

て、街で大人の時間と行こう」


「うほっ、それ忘れてた。ボンクラども、速攻でダ

ンジョン終わらせんぞ」


 マルコシアスが言い放つと、既に扉を開けていた

サマエルが「いやもう終わってるからな」と返す。


「マジかよ。ってことは、領主の城に辿り着いたっ

てことだな」


 マルコシアスは扉を通過しながら言う。その場は

城の地下と思われる舗装された通路がずっと奥まで

続いていた。


 地下通路はダンジョンと同じで、人の気配を感知

すると自動的に魔法が発動し、明かりが点くように

なっていた。しかし通路内は、ちゃんとしたランプ

が設置されていて、それに明かりが点く。


「そんじゃまあ、ここからは慎重に情報集めだな」


 通路にはモンスターはおらず、哲斗たちは警戒す

る事無く奥へと歩いて行く。 


「あっ、そういえば、歴代領主の隠し財宝はなかっ

たな。まあくまなく探した訳じゃないけど」


 哲斗は徐に言う。


「扉があるたびに、ガーディアン・モンスターが居

たわけだし、お宝はありそうだよな」


 マルコシアスはそう言ったが、その顔は既にダン

ジョンや宝に興味なさげであった。


「街の大きさから判断すれば、この地下ダンジョン

は可なりの大きさだ。恐らくいま通過してきた部分

は、全体の10分の1もないんじゃないか」


 冷静に分析し、サマエルが言う。


「本当に10分の1以下なら、俺たち運が良かった

んだな。それほど迷わずに来れたし」


 この時、哲斗たちは階段に差し掛かり、上の階へ

と向かう。


「俺が思うに、エンカウントした門番のモンスター

を全部倒して扉を通過したから、簡単に城に辿り着

いたんじゃないか」


 サマエルが言う。


「なるほどな。普通の冒険者なら、中級や上級とは

戦わずに迂回したりするもんな。そしたら迷路みた

いなとこをグルグル回ることになって、中々クリア

できない、ってわけだ」


 哲斗が階段を上りきると、また通路がどこまでも

続いており、進んでいくと上の階への階段があり、

それを何度か繰り返したところで、観音開き式の扉

が現れる。しかしその扉には鍵がかかっていた。


「どうする哲斗、破壊して進むか?」


 サマエルが尋ねる。


「もう上の方まで来てるし、音だしたら兵士に気付

かれそうだな。どうしようかなぁ」


 哲斗は首を傾げて悩む。


「バカヤロー、こんなのテンプレだろ。門番モンス

ターが居ないのに鍵がかかってる場合は、どこかに

開ける仕掛けがあんだよバーカ。脳みそ腐ってんな

お前ら。俺様が開けてやんよ」


 マルコシアスはゴキブリの如く俊敏に動き回り、

早々と仕掛けを見付ける。


「見ろこの石、一つだけ小さいだろ」


 マルコシアスは側面の壁の中から仕掛けを見付け

ると、強く押し込む。すると扉ではなく、反対側の

壁の一部がスライドし、入口が現れる。


「おいおい、扉がまさかのフェイクかよ。仕掛け凝

ってるなぁ」


 哲斗は驚きながらも呆れ口調であった。


「ふっ、楽勝だぜ。よし、ボンクラども、俺様につ

いてこい」


 マルコシアスが先頭で、現れた隠し通路を通り、

閉ざされた扉の向こう側へとでる。


「なんだよ、こっち側には扉ないじゃん」


 哲斗が見たのはただの壁で、本来あるべき場所に

扉はなく、隠し扉の存在を知らない者にすれば、こ

こで行き止まりだった。


「どうやら、ここからが領主の城の中のようだな」


 サマエルの言葉に哲斗は「あぁ、みたいだな。人

の気配もするし」と返す。


 二十メートルほど通路を歩くと曲がり角があり、

そこからは両サイドに牢屋が並んでいた。


「ここは地下牢のようだな。兵士がいるかもしれな

いから気を付けろよ。てか殺さないように」


 哲斗が言った時、既にその場に二人の悪魔はおら

ず、勝手に先行しており、哲斗は「聞けよ、人の話

を」とツッコんでいた。


「うほっ、牢屋の中、えらい事になってんぞ。哲斗

も見てみろよ、こりゃ笑えるぜ」


 マルコシアスが楽しそうにニヤニヤしており、哲

斗は嫌な予感がした。そして牢屋を見ると、中には

比較的若くて屈強な感じの男たちが大勢捕らえられ

ていた。


「うわぁ〜、男くせぇ〜、ムワッとするな。絶対こ

こに入りたくねぇよ」


 哲斗は心底嫌そうな顔で発した。


 その者達は手足などに枷はされておらず、哲斗の

姿を見ると鉄格子を掴んで必死に何かを言おうとし

ている。しかし声が出ておらず、伝える事ができな

かった。


「なんだこいつら、喋れないのかよ」


 マルコシアスは中の者たちをおちょくるように舌

を出して鉄格子に近付く。


「全員が喋れないのはおかしいだろ。恐らく、魔法

がかけられているはずだ」


 サマエルは相変わらず感が良く、逸早く状況を察

する。


「こいつらって、街で噂になってた、消えた親衛隊

とかじゃないの」


 哲斗が言うと、牢の中の者たちが、大きく何度も

頷く。


「やっぱそうみたいだな」


 哲斗が言った時、既にその場を離れていたマルコ

シアスが、「こっち来てみろ。他にもいっぱいいる

ぞ」と哲斗を呼ぶ。


 確認しに行くと、他の牢屋にも何人か捕まってお

り、同じように喋れない状態だった。しかし先程の

牢と違い、中の者たちは年配で、汚れてはいるが貴

族のような服装をしている。


「ほう、ここの奴らは領主の古くからの家臣のよう

だな」


 後から来たサマエルが、後ろから哲斗の肩に掴ま

り言った。


「もしかして、領主もここにいるかもな」


 哲斗が言うと、牢の者たちが哲斗の後ろの牢屋を

必死に指差す。


「んっ⁉ なに、後ろ?」


 哲斗が後ろの牢屋を見ると、貴族のような服装の

七十代ぐらいの老人が捕まっていた。


「なるほどな」✖3


 3人ともピンときて、同じ言葉を同時に発した。


「あのさぁ、もしかして領主の人?」


 哲斗が尋ねると、魔法の力で喋れない老人は大き

く頷く。


 この老人こそが、ルソーの領主のレオナルド・ダ

ーヴィンだった。


「やはりこいつが領主か。これはバカ息子の反乱な

んてものじゃなさそうだ」


 サマエルが言う。


「思ってたより大ごとみたいだな」


 哲斗は胸中で「報酬が秘薬の地図とか安すぎたか

もな」と語っていた。


「テンプレなら、裏で魔王とかが絡んでて、ワクワ

クするんだけどな」


 マルコシアスは楽しそうに言う。 


「何があってこうなったのかは知らないけど、今が

どういう状況かは理解している。とりあえず助ける

から、必要経費とか報酬を貰いたいんだけど。ここ

まで来るのに、凄くお金がかかってるので」


 哲斗は領主に話しかけ、ここぞとばかりに嘘をつ

いて交渉する。


 領主のレオナルドは、哲斗が何者であるかなど関

係なく、藁にも縋る感じで、激しく頷き了承した。


「じゃあ金額はのちほどという事で、さっそく鉄格

子を壊すから、後ろに下がっててもらえます」


 哲斗の言葉に反応し、レオナルドは牢の奥へと下

がった。


「俺様がぶっ壊してやんよ」


 マルコシアスが鉄格子に触ろうとすると、透明の

見えない壁に阻まれる。


「なんだよ、魔法の結界かよ」


 マルコシアスは魔力を少しだけ高めると、結界に

パンチする。しかし一撃では消滅しなかったため、

続けて連打する。


「オラオラオラオラオラオラオラっ‼」


 マルコシアスの連打で地震のように揺れたので、

哲斗が「ストップストップ‼」と言って慌てて止め

に入る。


「これからって時に止めんじゃねぇよ、クソが。て

かもうバレてもいいだろ」


「バレるとかじゃなくて、このままやったら地下牢

ごと破壊するだろ、お前の場合は。領主が死んだら

元も子もないっての」


「じゃあどうすんだよ」


 マルコシアスは不服そうに返す。


「思ったよりも強力な結界だな。今ので破壊できな

いとなると……この結界を張った奴を倒すのがベス

トだろ。城を壊さないで済むし」


 哲斗の言葉を聞いて、サマエルが領主に話しかけ

る。


「おい領主、この魔法の結界を張ったのは、息子の

教育係とかいう奴か?」


 その問い掛けにレオナルドは頷いて答える。


「どうやらこれで、狩る相手が分かったな」


 サマエルは口元に不敵な笑みを浮かべ言った。


「領主さん、俺たちがバカ息子と教育係をぶっ飛ば

してくるから、それまで待っててくれ。あと確認し

ておくけど、全部丸く収まったら、報酬はたんまり

貰うぜ。それでいいか?」


 レオナルドはまた激しく頷いて答える。


 この後、哲斗たちは上の階に行くための階段を探

すが、そこに行く前に強力な結界が張られた扉があ

り、先に進むには破壊するしかなかった。


 事を荒立てるにはまだ早いし、後々の損害賠償の

事を考えて、城を壊したくなかった哲斗は、ここは

無理せず、少し面倒だがダンジョンを通って一旦街

に帰ることにした。


 


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