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第二章  『依頼と報酬』  


 兄の藤原勇気の命令で、二十億円を稼ぐために、

放置悪魔たちと異世界スルーズヘイムに来た哲斗は

いま、ジャングルを彷徨っていた。


「この辺り、かなり深い森の中だよな。人の気配ま

ったくしないし」


 見渡すかぎり熱帯植物に覆われ、獣道すらない状

況に、哲斗は少しげんなりする。


「モンスターがうじゃうじゃいそうでいいじゃねぇ

か。俺様たちはバトルしにきたわけだし」


 哲斗の後ろを飛んでいるマルコシアスが言う。


「なあ哲斗、腹へったし、モンスターじゃなく獣で

も狩ろうぜ」


 マルコシアスは哲斗の前方に移動して、お腹を押

さえて言った。


「そうだな、見付けたら狩れよ。でも可愛いのとか

子供は狩るなよ。てか魔法書の中に食料入れてある

けどな」


「バカヤロー、異世界に来たばっかなのに、向こう

の食糧食うとか冒険の雰囲気台無しだろ」


 そう言ったマルコシアスを、哲斗とサマエルは白

け顔で見る。


(最終的にその食料、一番食うのお前だと思うけど

な。……そういえば、魔力で造り出すモンスターと

自然にいる獣とか魔獣って、戦ってみないと見分け

つかないよな)


 哲斗は胸中でそんなことを考えていた。


「そろそろテンプレなら、この辺りでヒロインにな

る女の悲鳴が聞こえてくるんじゃね。それか空から

落ちてくるかだな」


 マルコシアスはきょろきょろ周りを見渡す。


「いやいや、流石にパヤオ展開はないだろ。てかあ

っても受け止めねぇから死亡だし」


 サマエルが笑いながら返すが、哲斗は胸中で「そ

こは受け止めろよ」とツッコんだ。


「長老かちびっ子かもしれんぜ。村がモンスターと

か山賊に襲われてるとか。まあ助けないけどな」


 サマエルがまたケタケタと笑い言った。


「分かってねぇな、サっちんは。そこは助けてやる

パターンなんだよ。で、村でハーレム作ってエロ展

開、これっきゃないだろ」


 マルコシアスが言うと哲斗は「ありだな」と呟く

程度に発し、何やら妄想してニヤけた。


「お前らの頭の中は、相変わらず淫奔まみれだな」

 

 サマエルは呆れて、首を左右に振る。


「てかベタな展開はよこい‼」


 マルコシアスはテンション高く両手を上げて、叫

ぶように発した。 


「そんな都合よく、テンプレのチョロインくるわけ

ないだろ」


 サマエルが冷静にツッコむ。


 だがその時、周辺の鳥が逃げるように一斉に飛び

立ち、地上では獣たちが慌ただしく動き、異変を報

せる。 


「向こうの方で魔力の高まりを感じる。冒険者あた

りがバトってやがるな」


 マルコシアスが言い終わると同時に、辺りに凄ま

じい爆発音が響き渡り、離れた場所で爆発によるキ

ノコ雲が空へと上がる。


「うおっ⁉ スゲー爆発と揺れ」


 哲斗たちがいる場所も地震のように大きく揺れ、

爆風が届いていた。


「キタキタキター‼ 期待したテンプレじゃねぇけ

ど、面白かったらなんでもいいぜ」


 テンションMAXでマルコシアスが喜んでいると

サマエルが「一番乗りは俺が貰うぜ」と言って高笑

いしながら爆発の方へ飛び立つ。


「んなろっ、ざけんな‼ 負けっかよ‼」


 透かさずマルコシアスが飛んで追い掛ける。


「勝手に行くなよ、バカどもが」


 ポツンと一人残された哲斗は、呆れ口調で言う。


 爆発があった場所に、最初に辿り着いたサマエル

が見た光景は、人間とモンスターが戦っているもの

だった。


 モンスターの方は十メートルに達する巨大な白熊

で、冒険者たちにはサイコベアードと呼ばれ、ラン

クは中の上だった。手足には鋭く大きな爪、額には

第三の目があり、お尻にはモコモコで大きな尻尾が

ある。


 人間のように立って、両手を上げ威嚇しているサ

イコベアードは迫力満点で、普通の人間なら腰を抜

かして動けなくなるか、気を失っているだろう。だ

がサイコベアードの眼前にいる者は臆する様子はな

く、戦い慣れた兵だと分かる。


 その者はアーサーという名のスルーズヘイム人で

あり、女神に選ばれた召喚者ではないが、強い魔力

を持っていた。


 アーサーの身長は185センチ程で、金髪の美形

で二十五歳ぐらいの青い瞳の青年である。肌は色白

で、筋肉隆々ではないが鍛えこまれた武闘家なみの

体をしていた。


 服装は、グレイのロングTシャツにベージュのズ

ボン、ハイカットのスニーカーのような黒い靴、腰

には焦げ茶色のウエストポーチを付けている。


 ウエストポーチは冒険者御用達の魔法のアイテム

であり、ポーチの中は魔法の力で異空間になってお

り、基本設定の範囲内なら収納量や大きさに関係な

く、生物以外ならなんでも出し入れできる。


 入れ方は簡単で、ただ入れと念じ物を近付ければ

自動で吸い込まれる。出し方は手を入れて出したい

物を念じれば、自動で選ばれて手の中に納まる。と

ても便利なため、この世界を旅する冒険者はほぼ全

員持っている。


「今の爆炎魔法で倒れないのか、なんてタフなモン

スターだ」


 アーサーは険しい表情で汗をぬぐう。


 サイコベアードは空間を震わすほどの雄叫びを上

げると、巨大な爪の生えた右手を勢いよく振り下ろ

す。右手はそのまま地面に激突し、鈍く大きな打撃

音を響かせ、大地を揺らした。


 アーサーは超人的な身体能力で大きくジャンプし

て攻撃を躱し、同時に魔力を高め右の手の平の中に

ソフトボール程の大きさの炎の玉を作り出し、その

まま空中で、サイコベアードの顔面目掛け投げ放っ

た。


「喰らえっ‼」


 炎の玉は見事に直撃し、まるでミサイルのように

爆発する。


 サイコベアードは叫びを上げて仰け反るが、倒れ

るほどのダメージではなかった。しかし朦朧として

おり、すぐに反撃することはできない。


「ほほう、やりますなぁ。しかもイケメン」


 その場に辿り着いた哲斗は、アーサーの後方に位

置しており、戦いを少し見て本気で感心した。


「あのデカい熊、さっきのキノコより、少しだけレ

ベルは上だな。てかヒロインじゃねぇのかよ。空気

読めよな。男はいらねぇんだよ」


 マルコシアスがしかめっ面で言う。


(異世界からの召喚者か……)


 背後に現れた哲斗たちに気付いたアーサーは、服

装や雰囲気から察し、胸中で思う。


「おい冒険者、お前に美人の姉ちゃんか妹がいるな

ら助けてやるぜ」


 マルコシアスはバトル中でもお構いなしに、アー

サーに話しかける。


「私はこの世界の人間だ。故に冒険者や勇者ではな

い。それに助けてもらうつもりはないさ。今から止

めを刺すから下がっていたほうがいいぞ」


 アーサーは意識を眼前のサイコベアードから外さ

ずに、後方のマルコシアスに返事する。


 この時アーサーはマルコシアスを見て、「なんだ

この生物は、見たことないぞ。異世界の召喚獣なの

か? 途轍もない魔力を感じる」と胸中で語ってい

た。


 アーサーは言葉通り止めを刺すため、一気に魔力

を高める。しかし放出されるのは魔力ではなく、全

身の至る所から炎が噴き出す。


 右の手の平を上に向け、アーサーは意識を集中さ

せる。すると手の平から凄まじい火柱が上がる。


「カッケ―、イケメンで炎使いかよ。ただ……ごめ

ん。申し訳ないけど、出番なかったりして」


 哲斗が眉を下げ、申し訳なさそうな顔で言ったそ

の時、サイコベアードがいる場所で斬撃音が轟く。

そして三日月形の巨大な斬撃が背後からサイコベア

ードを切り裂き通り抜け、勢いを失うことなくジャ

ングルの木々を三十メートルほど薙ぎ倒し、更に勢

いを増して空へと上昇し消えた。


 サイコベアードは自分に何が起きたのか分からぬ

まま、断末魔の叫びを上げ、ボンっ‼ と大きな音

を出すと同時に煙の塊になり消滅する。


「なっ、なに……誰が……」


 アーサーは驚愕しながら呟く。


「あ〜あ、やっちまいやがった。てか超よえー」


 マルコシアスはつまらなそうに頭の後ろで手を組

み言った。

 

 煙の向こう側におり、一撃でサイコベアードを倒

したのは、死神のような大鎌を持ったサマエルだっ

た。


 サマエルは決めポーズをとって「ザコが、手応え

無さすぎだ」と吐き捨てるように言う。


「なんだあいつは……あの小さい鎌でやったという

のか、いったいどうやって……」


 十メートルに達する巨体のサイコベアードを一撃

で倒したサマエルが、見たことのない、しかも小さ

い生物だったので、アーサーは驚愕の表情のままだ

った。


「うちのがサーセンっす。あれは見ての通り、鎌で

斬ったんじゃなく、デカい斬撃を飛ばした訳です」


 哲斗はアーサーの後ろの方で、また申し訳なさそ

うな顔で解説したが、サマエルを凝視するアーサー

には、ほとんど聞こえていなかった。


 サマエルは持っていた大鎌を放り投げる。すると

瞬間移動したようにその場より消える。これは悪魔

の持つ特殊能力であり、念じるだけで瞬時に、武器

を出し入れできた。


 サマエルは地面に落ちているサイコベアードの原

料を拾い、軽やかに飛んで、アーサーに興味を示さ

ず無視して前を通り過ぎ、哲斗の前までくると原料

を投げ渡した。


 哲斗が受け取ったのは2キロの銀の塊であり、ズ

シリと重みを感じ、落としそうになる。しかしアー

サーが険しい表情で見ているため、素直に喜べない

状況だった。


「あの……これ原料なんですけど、こっちが勝手に

割り込んだので……どうぞ」


 哲斗は気まずそうにそっと銀を差し出し、小声で

「たぶん銀です」と付け加えた。


「そんなものはいらない。それより君たちは何者な

んだ。あのモンスターをこうも簡単に倒すなんて。

もしかして勇者殿か」


 アーサーはまだ気を許しておらず、いつでも戦え

る状態で話していた。


「あの、とりあえず俺たちは敵じゃないので、魔力

下げて戦闘態勢解除してくれません。落ち着いて話

せないから」

 

 哲斗が穏やかにそう言うと、アーサーは哲斗の気

配と雰囲気から安全と判断し、戦闘態勢を解いた。


「実は、さっきこの世界に来たばかりなので、勇者

とかじゃないです」


 ポリポリと頭を掻きながら哲斗が言う。


「ぶへへへっ、勇者殿だってよ。殿って言うよりド

ロだけどな。ドロ無職」


 マルコシアスがいやらしく笑ってバカにする。


「うっさいぞ、無職はよけいだ。てか泥ってなんだ

よ、俺がかわいそすぎんだろ」


 右の眉だけを上げた情けない顔で、哲斗はツッコ

む。


「しかしこの辺りは、ザコしかいないみたいだな」


 サマエルが言う。この時アーサーは胸中で「あれ

が雑魚か。まるでスライムでも相手にしている言い

草だな。まったくなんて強さだ」と語っていた。


「そうでもないぞ、原料は銀の塊だったし。てかこ

れって本当に貰ってもいいのかな」


「構わない。それは君たちの物だ」


「流石イケメン、太っ腹だぜ。同じ金髪でもえれー

違いだな」


 マルコシアスは後半の言葉を、哲斗を見ながら嫌

味に言い、哲斗は「うるせぇよ」と返す。


「じゃあ遠慮なく貰っておきます」


 哲斗は念じて足元に魔法陣を作り出し、銅をゲッ

トした時と同じように収納した。この様子を見てい

たアーサーは、魔力を高める事無く、念じるだけで

簡単に魔法陣を作り出した哲斗の技量に驚く。


「あの、迷惑かけついでに、色々この世界のこと、

教えてほしいんですけど。例えば、今ここがどこか

とか、村や町がどこにあるのかとか」


「本当にこの世界に来たばかりのようだな。いいだ

ろう、私の旅は急ぎではないし、知っていることは

教えよう」


 アーサーは軽く微笑み言った。


「まずは自己紹介だな。私の名前はアーサーだが、

君たちの名は?」


「俺は哲斗。あと犬みたいのがマルコシアスで、白

黒のクマみたいのがサマエル」


「それにしても君たちは、途轍もない強大な魔力を

持っているな」


「おいおいアーサー君や、俺様の魔力はこんなもの

じゃないんだぜ。俺様の本気を見たら、腰抜かして

ちびっちまうぜ」


 マルコシアスは自慢げに言う。


「勿論、俺もだ。本気だせば今すぐ、魔王討伐でき

るはずだ」


 そう言ってサマエルは「ふははははっ」と高笑い

する。


(強気だなぁ、ザコ倒しただけのくせに。力を封印

されたままじゃ、ボスレベルには勝てないと思うな

ぁ。てかこいつら、危なくなったら俺を生贄にして

逃げるぜ絶対。なにせ悪魔だからな)


 哲斗は目を細めた顔で胸中で思う。


「俺たちの事はいいので、この世界の基本情報、お

願いします」


「分かった。じゃあ今いる大陸の地図を見ながら話

そう」


 アーサーは魔法のアイテムであるウエストポーチ

に手を入れ、B4用紙程の大きさの地図を出す。


「この地図はかなり縮小されているが、一番わかり

やすいものだ。因みにこの世界には、五つの大陸が

あり、ここはもっともモンスターが多い大陸、タナ

トスだ」


「うほっ、いいじゃねぇか、モンスター天国。今の

俺様たちにうってつけの場所だな」


 嬉しそうにマルコシアスが言う。


「モンスターが多い事に理由があるのか?」


 質問したのはサマエルだ。


「あぁ、理由はある。この大陸には、四人の魔王が

いるからだ。それぞれ東西南北に、居城を構えてい

る」


「ヒャッハー、テンション上がるぜ‼ ここだけで

魔王四人もいるとか鬼畜すぎだろ」


 更にテンションを上げるマルコシアスを、哲斗は

冷めた目で見て胸中で「お前らが魔王みたいなもの

だろ」とツッコんでいた。


「星印が町のある場所だが、他にも小さな村なども

無数に存在している。そして中央にある砂漠の北と

南にある城が、王がいる国の場所だ」


「なるほど。ならば東西南北の小さめの城が、魔王

城というわけだな」


 サマエルが言う。


「魔王城の近くに行けば、強いモンスターがいそう

だな」


 哲斗は地図を覗き込み、独り言のように発した。


「てかなんで、北の魔王城にバツが付いてんだよ」


 怪訝な顔をしてマルコシアスが言う。


「北か……真相は分からないが、数年前に突如、一

夜にして魔王と城が消滅したらしい。噂では、最強

の南の魔王の仕業か、隕石が落ちたかのどちらかだ

と語られている」


「おいおい、せっかくの魔王が既に一人いねぇのか

よ。まったく酷い事する奴がいたもんだ。まるでど

こぞの暴君魔導師みたいな奴だぜ」


 不機嫌な表情でマルコシアスが言うと、サマエル

が「ふははっ、本当に勇気がやってたりしてな」と

返す。そのやり取りに哲斗は冷汗をかきながら胸中

で「それ笑えねぇ、笑えないっす」と思う。


「で、今いるのが、この辺りだ」


 アーサーは中央の砂漠地帯の西側にある森を指差

す。


「とにかく北の方に行くのは危険だ。生き残った魔

王軍の将軍二人が、次の魔王の座を狙って、それぞ

れ軍を率いて戦っている最中だ」


 アーサーは真剣な顔で助言したが、危険地帯の情

報は、三人には逆効果だった。


「うほっ、それ超燃える展開じゃん。俺様そういう

のに茶々入れるの大好物だし」


 宝物を見る子供のように目をキラキラさせて、マ

ルコシアスは言った。


「君たちはこの世界の歪みを正すために、女神に召

喚されたわけだし、魔王討伐を目指すのかい?」


 アーサーがそう言うと、なんともいえないバツの

悪そうな顔を哲斗はした。


「そ、そうですね。一応はそういう流れで……いき

ます」


 哲斗が弱々しく発したその時、サマエルが耳元に

近付く。


「おいコラ、哲斗、ちゃんと言えよ。わざわざ異世

界まで泥棒しに来ましたってな」


 サマエルは哲斗の耳を掴んで引っ張り、アーサー

に聞こえない程度の小声で言った。


「そこはほら、ついでに魔王倒すってことで、チャ

ラになるんじゃないかな」


 哲斗は困り顔でボソボソと小声で返す。


「でたー、ご都合主義。流石無職のプー太郎。てか

無理だからな。その技を使えるのは、マンガやアニ

メの主人公だけだし。お前はザコだってこと自覚し

ろ無職」


 マルコシアスが嫌味たらしく面と向かって言うと

哲斗はブチ切れる。


「うっせぇんだよ。言わせておけば図に乗りやがっ

て、役立たずの補欠のくせに」


 哲斗はマルコシアスの頭を強めに殴る。


 マルコシアスは地面に叩き付けられ、そこにサマ

エルが、いつもの悪ノリで、止めを刺すために連続

して踏みつける。


「言っておくが、補欠はお前だけだ、クソワンコ。

俺は準レギュだ」


 さんざん踏みつけた後、サマエルはマルコシアス

に、背後から両手両足を固めて、あおむけで上に持

ち上げる、プロレス技のロメロスペシャルを空中で

食らわせながら言い放った。


(ふふっ、面白い奴らだ。しかしその強さは本物。

助けになってくれるかもしれんな)


 アーサーはバカ騒ぎする三人を笑顔で見詰め、意

味ありげな事を胸の内で思う。


「確か哲斗といったな。今後の予定が決まっていな

いのなら、頼みたいことがある」

  

 真剣な顔でアーサーは話し出す。


「まあ今のところ決まってないけど……話し次第か

な」


「二つある国の一つ、南のモネ王国の手前に、ルソ

ーという大きな街があるんだが、何やらおかしなこ

とになっているらしい。領主が様々な種族の兵士を

集め、軍を作っているんだが、どうやらモンスター

と戦うためではなく、モネ王国を滅ぼし、自らが王

になろうとしている、という話だ」


「良かったな。お前の好きなテンプレじゃん」


 興味なさげに哲斗はマルコシアスに言う。


「な〜んか違うんだよなぁ。王様ボコって自分が王

になるとか、なかなかアグレッシブな奴だけど、ま

ったく燃えないぜ。やっぱ北の喧嘩祭りに首突っ込

もうぜ」


 哲斗同様に、マルコシアスもテンションが上がら

なかった。


「それで俺たちに、何をやれと?」


 とりあえず最後まで聞こうと思い、哲斗は話を続

ける。


「その陰謀を暴き、可能であれば止めてほしい」


 アーサーの眼差しは真剣で力強く、未然に反乱を

止めたいという本気度が伝わってくる。普通の人間

なら、その正義に満ちた眼差しに、心を動かされる

ところだが、相手はやる気のない異世界人と悪魔だ

けに、興味がない今の状況では、依頼を受けさせる

のは困難だった。


「離れて随分経つが、モネ王国は私が生まれ育った

国だ。だから守りたいと思っている」


「はっきり言って、仕事に見合う対価無くして、受

ける理由はないぞ。話し的に可なりの大仕事だ」


 サマエルは腕を組んで偉そうに言ったが、正当な

発言だった。


「勿論、報酬は支払う。私は今、とある秘薬が手に

入る、隠しダンジョンの場所と、内部の攻略地図を

持っている。これが報酬でどうだ? 地下十五階の

凄まじい迷宮ダンジョンだぞ」


「おいおい、秘薬じゃなくて地図かよ。普通にショ

ボいな。で、その秘薬って、どんな凄い効果があん

だよ。俺様が戦う価値があんのか?」


 マルコシアスはいまだ興味なさげであった。


「実ははっきりとは分からないんだが、何やら男の

夢を叶える、幻の秘薬らしい」


「うほっ⁉ マジかよ。男の夢とか、すげぇデカく

きたな。ワクワクするじゃねぇか」


 マルコシアスはかなりテンションが上がり、話に

喰いつく。


「なんだか嘘くさいんだけど。普通に詐欺っぽい」


 哲斗は目を細め、怪しむ顔を見せる。


「この話と地図は、有名な冒険者から得たものだ。

故に信憑性はある。売れば一財産になるはずだ」


 アーサーが言った後、哲斗は何やら思考を巡らせ

て、にやけた顔をした。


「なあなあ男の夢ってさ、やっぱエロい感じの事か

な?」


 哲斗は呟く程度に、マルコシアスにだけ言った。


「決まってんだろ、男の夢だぜ、超絶エロい事しか

ねぇだろ。ハーレム作れる強力な惚れ薬とかじゃね

ぇか?」


 既にマルコシアスはノリノリで、完全に釣られて

いた。


(なるほどな。彼らがどういうノリか、少し分かっ

てきたぞ。ならば……)


 アーサーは胸の内で思った後、決め手となる言葉

を口にする。


「支度金として、この世界のお金も渡しておこう。

因みにルソーには、風俗店がいっぱいあるみたいだ

ぞ」


「マジで⁉」


 哲斗は目を見開き驚く。


「異世界風俗キターーー‼」


 マルコシアスはテンションMAXで喜ぶ。


 そんな二人をサマエルは冷めた目で見ながら、呆

れて顔を左右に振った。


「ま、まあ、困ってるみたいだし、その仕事、引き

受けようじゃないか」


 哲斗はアーサーと目を合わせず、照れ臭そうに言

った。


(ここまで簡単に事が運ぶとは、分かりやすい奴ら

だ)


 アーサーは口元に笑みを浮かべ胸の内で思う。


「あと、大陸の地図も君たちにあげるよ」


「あざっす。それ助かるっす」


 軽い口調で返事する哲斗の頭の中は、既にエッチ

な妄想でいっぱいだった。しかしこうして目的であ

った、地図とこの世界のお金を、早々と手に入れる

ことに成功した。


「ただ私は他に外せない用事があって、このまま一

緒には行けないんだ。無論、すぐに用を済ませて、

ルソーに向かうが……」


「いいよ別に、地図があるし。俺たちは先に行って

色々と探っとくよ」


 哲斗は笑顔で返す。


「じゃあ後日、ルソーで合流しよう。君たちは目立

つから、すぐに探し出せると思う。あぁ後、その地

図で見ると近くだが、実際にはここからルソーまで

は五百キロはある」


「五、五百……遠いなぁ。東京大阪間ぐらいあるじ

ゃん。何か楽に移動できる方法はないの?」


 面倒臭そうな顔で哲斗は訊いた。


「空を飛べる獣か魔獣を手懐けるのがいいと思うけ

ど、魔獣は簡単にはいかないぞ」


「そういう方法があるのか。それやってみよっと」


 哲斗たちとアーサーは、ここで別行動となる。そ

の際に、この世界の通貨である、金銀銅貨を受け取

り、更に様々な基本情報も教えてもらっていた。


 因みにこの世界の人間は、少なからず魔力がある

ため、悪魔たちは見えていることになる。


 そして言葉が通じるのは、異世界人が来た場合、

女神の力によって自動的に魔法の力が発動し、理解

し合えるようになっていた。


「そういえば、アーサーの用事ってなんだろな」


 三人はジャングルを南へと歩いている状態で、哲

斗は徐に言った。


「そりゃお前、イケメンの野暮用といったら、女し

かねぇだろ」


 いやらしく笑って、マルコシアスが返す。


「あやつはなかなかの訳ありとみた」


 サマエルが言う。


「しかし遠いなぁ。歩いてたら何日かかるんだろ」


 哲斗は溜め息まじりに発した。


「てかボス級モンスターカモーン‼ はよ出てこい

やーーー‼」


 退屈でマルコシアスが叫ぶ。この時、歩きながら

各々が好き勝手話をしていた。


「成り行きで、変な事に巻き込まれたけど……」


 哲斗はそこまで言った後、少し間を溜める。


「風俗楽しみー‼ イエーイ‼」✖2


 哲斗とマルコシアスは同時に万歳しながら、満面

の笑顔で言う。


「ホンとにお前たちは下等なカスだな。それしか頭

にないのか」


 サマエルは険しい顔で、蔑むように発する。


「なんとでも言え、旅の恥は掻き捨てだ‼ 俺はこ

の世界を楽しんでやるぜ。てか楽しんだもの勝ちで

しょ」


 哲斗は日々のストレスから解放されたようにテン

ション高く、完全に開き直っている。


「よく言った、ボンクラ無職。カキまくって搔き捨

てだ‼」


 マルコシアスがそう言った後、二人は勢いよく拳

を突き上げ、同時に「おぉーーーっ‼」と雄叫びを

発する。





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