月夜語り
こんな綺麗な月夜は、思い出す。
縁側に座り、僕は空を見上げていた。
「どうしたの?」
その声に僕は、視線を動かした。
動かした視線の先に彼女が微笑みを浮かべて立っていた。
「ん。君の祖父。ソウイチロウの事を思い出していた」
「おじいちゃんの、事?」
驚いたように瞳を見開いて、僕を見る。
「こんな綺麗な月の夜だった。初めて会ったときも……そして、別れたときも」
言葉が続かない。
そうじゃないと僕の心がざわめく。
本当に言いたいこと。
確かめたいこと。
でも彼女からの答えを聞くのが、怖い。
だって、僕は彼女の未来を……
「あのね。後悔は、してないよ?」
「え?」
彼女の言葉に僕は間抜けな声を出してしまった。
後悔はしてない。
1番聞きたかったはずの言葉なのに、彼女は心からそう言っているのだとわかっていた。
だけど僕は、とっさに嘘だと彼女に突っかかった。
「う、嘘だ! だって、僕と魂の契りを交わしたせいで……普通の人間として寿命が! 家族や友人たちと一緒に年を取ることも出来ない!」
僕の叫びに、彼女はクスッと笑った。
「うん。でも、あたしはあたしの意志で契りを交わそうって決めたの。君を消したくないって、消えてほしくないって。そう思ったから」
そう言いながら、彼女は僕を抱き締めた。
彼女の体温が、僕の体を染めていく。
「おじいちゃんの時のように、君を1人になんてさせないから。」
穏やかな彼女の声に、僕は安らぎを覚えてしまった。
僕と契りを交わしてしまった彼女は、人間としての生を全うすることは出来ない。
肉親や友人たちとは、いずれ別れ……永い時を僕と生きることになるだろう。
そうなったとき、彼女は彼女のままでいてくれるのだろうか。
こんな綺麗な月夜は、思い出す。
寄り添い語り合った、昔語りを。