離れられぬ二人。
帰り道の道中も、この二人にとってはただの散歩道も同然であった。
前を歩く悠馬によって、近づいてきたモブは切り捨てられる。
離れた位置で魔法を放とうとしてくるモブには、ハナビの魔法によって黙らされた。
この二人の歩みを止めるものはいない。
同時に、ハナビの口を止めるものも、誰もいなかった。
悠馬の顔に浮かぶ疲れの色は、アトラクションによるものか…それともハナビのせいだろうか?
アトラクションを出て無事に報酬を受け取った二人は、ハナビお勧めの酒場へと到着する。
「ここだよ!この酒場だよ!おっちゃんエール!あとヴルストだっけ?ウインナーと、カルトッフェル?の揚げ物…フライドポテトで良いじゃん!あー、もうめんどくさい…。どうしてもコレで言わないとダメ?」
「カッカッカッ!ここはアイランドだぜ?メニューの通りに頼みな!」
「えー、それくらい良いじゃん…。えっと、他には…。」
ハナビがメニューを選んでいる間に酒場の親父が尋ねてくる。
「んで?兄ちゃんは何にするんだ?」
「エール…。」
「あいよっ!」
親父は手早くエールを二杯準備し、いまだに悩んでいるハナビに声をかける。
「ほれ、とりあえずコレもって席に座りな。残りは後で聞くからよ。」
常連のハナビの扱いなど慣れているのだろう。
親父は席に座るように促した。
「そうだね、後でまた頼むよ。」
席へと移動し、乾杯したあともハナビは延々と話続けた。
これまでの自分がしてきた事、これからしたいこと、パーティーになったらしたいこと。
話は尽きることがない。
悠馬はいつの間にか、聞き流しと空返事のスキルを手に入れていた。
「あー、呑んだ呑んだ!今日のお酒は美味しかったなぁ!」
ハナビは伸びをしながら店を後にする。
悠馬も続いて店を出る。
空は既に暗くなり、星が瞬いていた。
「名残惜しいけど、今日はここまでだね。もうすぐ閉園時間だから帰らなくっちゃ。
悠馬も帰るでしょ?」
「あぁ。」
悠馬の返事と共に、門まで二人は並んで歩き始める。
「私は電車だけど悠馬は?」
「僕も電車だ。」
「そっか、途中までは一緒だね。ならもう少しお話しできるね。」
悠馬は空気を読んで遠慮しますという言葉を飲み込んだ。
「そうだね。」
相変わらず、内心ではどんな話をしたらいいのか解らないと慌てつつ、話を広げる努力をしなくて良いハナビに助けられているのを感じていた。
揺られる電車の中、相変わらずハナビの話は途切れない。
「あぁ。」「うん。」「そうだね。」で会話が成立してしまうのも、ハナビの凄い所なのかもしれない。
心の中で誉めつつ、疲れたと考えつつ悠馬は思考を先々へと向けた。
もう少しで駅に到着する…。
この喋るのが止まらない女性と過ごす時間も後僅か…。
そう思うと、悠馬も少しだけ名残惜しい気がしてきた。
ハナビの話が途切れる瞬間を待ち、悠馬は口を開いた。
「んじゃ、僕は次の駅だから…。」
そう言って椅子から立ち上がろうとする悠馬にハナビが答えた。
「え?私もなんだけど?凄い偶然だね!」
同じ町内かよ!と思いつつ、今後ドコで会うのか解らないと焦りつつ、悠馬は平静を装った。
「本当に凄いね。」
素っ気ない返事だが、返すことが出来ただけ十分だっただろう。
それほど、悠馬の頭の中は混乱に陥っていた。
その後も悠馬の不幸は続いていく。
駅前でも別れることはなかった。
そのまま共に歩いていき、ハナビが寄りたいというコンビニに引きずり込まれ…。
「こっちも美味しそうだけど、こっちも捨てがたい…。ねぇ、どっちが良い?」
等と聞かれたときは恋人みたいだと思い、少しだけ役得だと悠馬は感じた。
そのままコンビニでも別れる事はなく、共に歩いていく。
そうして進む道中、ハナビの会話を聞きながら悠馬は焦っていた。
このままだと、自分の住むマンションへ到着してしまう。
完全に身元がばれてしまうのだ。
答えが出ないまま、うまい言葉も見つからないまま、たいした時間もかからずにマンションに到着してしまう。
足を止めた悠馬に気づいたのだろう。
「え?ここのマンション?」
ハナビが問いかけてきた。
覚悟を決めて、悠馬は答える。
「あぁ、じゃあ僕は…。」
そう答える悠馬にハナビがキラキラした目で見つめ、喜びに満ちた声をあげた。
「凄い!私もココなんだよ!運命感じるね!」
悠馬の答えを聞く前に、ハナビは言葉を被せてきた。
ある者は運命の非情さに心で泣き、ある者は運命の巡りの幸運に感謝を心中で捧げた瞬間だった。
「よーし、それじゃあ飲みなおそう!まだまだ話足りないんだ!次はいつアイランドに行く予定?私は平日休みの友達に合わせて有給とったから、次は木曜日に行くよ!悠馬も社会人だよね?次の休みは土曜日かな?キャー、次の週末が楽しみになってきた!ドコのアトラクションに行くか決めなきゃ!運営がSSSのPTじゃないとクリアできないって言っていたミッションがあったよね?あそこはまだ未攻略だったなぁ…。情報を仕入れて二人で攻略しよう!」
テンションが上限を突破してしまったのだろう。
ハナビは凄まじい勢いで喋りだした。
相槌を打つ暇も与えてくれない。
そんなハナビに悠馬は引きずられていくのだった。
彼のタスケテ!の叫びは、心の中だけで響き…。
人影のないマンションのエントランスへと消えていくのだった。、
途中で気づいた人も居るでしょうが、同じマンションの住人でした。
神(作者)の悪戯により、二人はこの先もペアで攻略を進めてくれるでしょう。
さて、次はどんな人を描いていこうかな…。