初討伐。
「では、そちらとそちらの皆様が準備終わったようですね。
では、始めましょうか。」
俺達より少し年上のグループと子供連れのグループに声がかかる。
「ぱぱー?犬さん可愛いね。」
「そうだね、でもよく見てるんだよ。すぐに飛びかかってきて危ないからね。」
お父さんは慣れているのか、5歳くらいの子供と話をしながらコボルトを見つめている。
あそこはホノボノとした空気が流れているな。
檻が開け放たれ、コボルトが「クーンクーン…。」と啼きながら親子に近づいていく。
子供が撫でようとして手を伸ばした瞬間。
「ほら、来たっ!」
お父さんがサッと子供を抱えて、コボルトの攻撃から身をかわす。
「えっ、あれが本性なの?可愛くない!」
額には角が生え、鱗で覆われた犬のような感じの頭を持つ4足歩行のモンスターへと変貌していた。
その変貌したコボルトの攻撃を軽くかわしながら、「ほら、よく見て。ぱぱをギューってして。怖くないよ。」「きゃー!ぱぱつよーい!さいきょー!」等と話をしながら戦っていく。
子供のランクを上げるためなのかな?
とても余裕のある討伐だった。
片手で子供を抱きながら片手の剣でコボルトの爪を弾きながら、かわしていくお父さん。
「ほら、剣をギュッて握って。真っ直ぐして。そうそう、そのままだよ。」
爪が掠めるほどのスレスレで避けて、お父さんが距離を一気に詰める。
子供の手でも当たるように抱き合うほどの至近距離へと詰めて、剣を当てて、すぐさま距離をとる。
「あのね、ボクさいきょー?」
「うんうん、最強だねー。」
「はー、すげぇ。勉強になるわ。」
俺もあんな風に動けるかな?
「凌馬、あっちも上手いよ。」
雅人が指す方を見ると、両手に手甲を付けた兄ちゃんがコボルトの爪を頭を振って避け、2連続…いや、脚による攻撃も絡めて6・7・8連撃と繋げていく。
手甲の兄ちゃんの連撃で体が持ち上がった所へ、弓を持った兄ちゃんの矢がビシュッ!と額に撃ち込まれた。
「あー!良いとこ取られた!」
「ふっ、さすが俺。クリティカルだな。」
「ちっ、月のでない夜は気を付けろよ!」
「あの人達も慣れてるな。ランクも高そうなのに、なんでこのミッションやっているんだろう?」
「攻略情報の確認とか編集のためじゃないか?」
公式が発表している情報だけじゃなくて、サイトもあるからな。
納得の理由だな。
「では続いてそちらとそちらのグループどうぞー。」
「よし、行くか!」
檻から解き放たれたコボルト目掛けて俺は駆け出した。
「さっきの見てたからな!騙されないぞ!」
潤んだ瞳で見つめてくるコボルト目掛けて距離を詰めて、俺は剣を叩きつけた。
「キャゥン!」
そのまま吹き飛ばされ、コボルトは地面に踞ってこっちを見つめてきた。
「クゥンクゥン…。」
瞳はウルウルとし、尻尾は垂れ下がって助けて欲しそうに俺を見つめてくる。
「うっ…。」
そんな眼でみられるとちょっと…。
「雅人、コレさっきのと…。」
「油断するな!」
シュッ!
「ギャウン!」
俺が後ろを振り返ると、雅人の矢がすぐ脇を通り抜けコボルトの肩を射ぬいていた。
「そうやって、隙を作らされているんだ!そいつは敵だぞ!」
「ずっりぃ!騙されたじゃないか!」
俺が振り返った隙に本性を表したのだろう。
今は姿が変わっている。
「力の根元たるマナよ、我が敵を射ぬけ。エネルギーボルト!」
桜夜の魔法がコボルトに突き刺さる。
「水の女神よ、かの者に活力を与えたまえ。マナリチャージ!」
スキルで消費したMPを、美月が癒してくれる。
「スキルセット、チャージ…。チャージショット!」
俺を越える身長のコボルト目掛けて、雅人の矢が突き刺さっていく。
「スキルセット、バッシュ発動!」
俺は皆の支援を受けて、剣を肩に担ぎ腰を落として狙いを定める。
「これで、終わりだぁ!」
一気に距離を詰めて、剣を叩き込んだ。
「グルアァァ…。」
断末魔の叫びと共に、コボルトが光となって消えていく。
「よっし、討伐完了!」
「お疲れ。」
手を上げて労ってくる雅人に、俺はハイタッチで返した。
「はい、皆様ご苦労様でした。では報酬を配りますので皆様カードを出してください。」
全グループの討伐が終わって、講師の先生が討伐報酬を配ってくれる。
1回のみのミッションなので、報酬は高めだ。
「よし、それじゃあギルドで討伐と素材回収のミッション受けてから、また狩りに出ようぜ!」
頷く仲間達と共に移動しようとしたところに…。
「すいません、このミッション報酬を売っていただけませんか?」
先程のお父さんが声をかけてきた。
「えっ、そりゃぁ構わないですけど…。」
「あー、良かった。なら単価1000でどうですか?」
彼が言った価格はギルドへの換金の2倍、露天での買取価格の1.5~1.8倍位になる。
「高く買ってくれるのは嬉しいけど、何に使うんですか?」
「まぁ、色々と使用方法はあるけど…。今回は子供にコボルトのキグルミでアバター変えようかと思って集めているんだ。」
へー、そんなことできるのか。
「俺は使わないから良いですよ。」
ボクも私もと皆が素材を売っていく。
「では、ありがとうね。助かったよ。」
「こちらこそありがとうございました。」
「んじゃ、駆け出しの君達に様々な祝福を。」
「えっ?」
お父さんが早口で何か唱えるにつれて、様々なバフが俺達に掛けられた。
ポカンとしている俺達に「んじゃ、またね。」と声をかけてお父さんは去っていった。
「あれだけの動きで剣を使ってたのに、まさかの補助職だったなんて…。」
「今日一番の驚きだったな…。」
「気を取り直して、狩りに行こう。バフ勿体ないし。」
俺達は急いでギルドへと向かうのだった。
知人の催促が激しい。