眠れる森の美女は泣きたい
お久しぶりです。
twitterでも一日、ここでも一日で書き上げたものなので色々と荒いと思いますが、楽しんで貰えたら幸いです。
王女が生まれた日、たくさんの人が招かれ、盛大なパーティーを開いた。
聡明で民からも愛される王と美しく優しい妃の間に生まれた王女の誕生にある一人を除いて、皆が喜んだ。その一人とは王が招待し忘れてしまった魔女だった。
自分だけ招待されていないことに激怒した魔女は王女に呪いをかけた。
「不愉快だわ。とっても不愉快。呪いをかけてしまいましょう。16歳で永遠の眠りにつくの。結婚適齢期で輝かしい未来を夢見る時期に眠ってしまうの。もし、私の魔法が切れて目覚めてしまっても……ふふふ」
あくまでも、悪いのは生まれたばかりの王女ではなく、確認を怠った王だあるはずだ。しかし、王女は呪いをかけられ、抗うこともできずに永遠の眠りについてしまう。
王女が眠りについて、気が遠くなるほどの時間がたった時、神すらも恥じらうほどの美しい姫が茨の塔で眠っていると聞きつけた王子は沢山の従者を引き連れてやってきた。
すべてを拒絶するように塔に巻き付いた茨を見て、誰一人塔に入れない理由を悟った。太く鋭い棘はまるで剣のように軽く皮膚に触れるだけで赤い血が流れるばかりか、まるで生き物のようにうねり動く。
王子は腰に差した剣を抜き、構えた。
従者は茨の棘で刺されたり、巻き付かれて窒息死で最終的に一人になってしまった王子は剣で茨を斬り、避けつつ塔の中に入った。茨のせいで服は破れ、筋肉が程よくついた肌がのぞいて見える。それは赤く傷つき、血が滲んでいる。
王子はベッドに横たわる王女を見つけ、顔を覗き込んだ。
王女は息を呑むほど美しかった。
太陽の神、アポロンですらも跪きたくなるような神々しい黄金の髪と影を落とすほどの長いまつ毛に、アダムとイブが食べてしまった禁断の果実である林檎のような幼さの残った頬と薔薇のように赤い小さな口。
シーツに広がる黄金の髪を一房すくいあげると自分の唇を押し当てた。
「ああ、なんて美しい姫なんだろう……」
薔薇のような唇にキスしたい、そう思った。
王女の頬に手を添えると温かかった。滑らかな肌は粉っぽさが一切なく、化粧を施していないことがわかる。
鼻孔を突き抜ける、王女の持つ甘い香りに誘われ、一層深く口づけした。
「ん……?」
王女は長い眠りから目が覚め、寝起きで働かない脳が懸命に警報を鳴らす。
目を開けているはずなのに前が見えない。
幼いころ、犬に舐められた時のような唇に違和感。
荒い吐息……?
何者かにキスされているという事実にたどり着くと、喉から甲高い悲鳴が出た。
悲鳴を聞いた王子は王女から顔を離すと、どんな令嬢も顔を赤くする笑みを浮かべ、手の甲にキスをして言った。
「姫、どうか私と結婚してはくれないだろうか」
栗毛色の柔らかい髪と柔和な整った顔に物腰柔らかな対応、そして少しハスキーな甘い声の王子は自国だけでなく、他国の令嬢だけでなく姫からも心を奪ってしまう。
そんな王子の問いかける言葉は不安ではない。
「無理ですわ。離れていただけます?」
一秒も間を開けずに王女は答えた。王女の瞳には侮蔑の色があらわれている。
あたり前である。なにせ、目の前の男は何者かもわからないし、初対面である。しかも、そんな男が自分の部屋にいるだけでなく、口づけまでされていたのだから。
「え……?」
王子は信じられないとばかりに目を見開き、情けない声がこぼれた。
自分の顔は女性から好まれる顔だと理解していたらしいが、王女は遥か昔のひとであるという理解はできていないようだ。今と昔ではドレスのデザインが全く異なるように、当然美形の基準も異なる。王女にとっては目の前にいる男が美形だとは思わないし、むしろ不細工だと思った。
(こんな不細工な男に接吻されたあげく、求婚までされたなんて……)
悪寒が走り、ぶるると体を震わせた。
放心している王子を置いて城から出ると、広がる景色は自分の知るものではなかった。
「あら? もしかして、私が寝ていた場所は城じゃなかったのかしら」
疑問を解消するために後ろを見るが、見慣れた城があるだけだった。しかし、何かがおかしい、何かが違う。そう思ってじっと城を見つめると違和感の正体に気づいた。
「こんなに城は汚れていたかしら? いいえ、こんなに古かったかしら?」
王女はある可能性にたどり着いた。
「まさか、魔女の呪いでずっと眠らされていたということかしら……?」
背中に冷や汗がつたう。
「そういうことさ」
後ろから立ち直ったらしい王子が王女に行った。
「もう、姫の知っている人はすでに死んでいる。姫、君はどうやってこれから生きていくつもりだい? もし、私の伴侶という道に進むのなら姫の生活は保障しよう」
男の言う通りだと思った。自分は王女で、王女としての役目を果たすためにマナー、ダンス、勉強は出来るが、それ以外では着替えるのも、お風呂に入るのも侍女にやってもらっていたため何もできない。こんな状態では到底生きてはいけない。
「その通りだわ。誰かの庇護なしでは生きていけませんわね」
「なら、結婚してくれるね?」
「ええ、結婚致しますわ」
その答えに、王子は美しい姫を自分だけのものに出来ると喜んだ。王子は姫を抱き寄せ、喜んでいるが、対照に美しい姫は顔が引きつっている。
そして後から知った話。
この国の法律には王女が目が覚めたら、即連絡し、国が王女を保護するというものがあった。つまり、生活に困ることは無いということだ。
王女は隣国の王子に騙されて結婚したということである。
「嗚呼、なんということ! 泣きたいわ……」
こうしては遥か昔を生きた王女と王子は結婚して、他国の姫から同情されるほどのたくさんの子供を産み、家族に見守られて生涯を閉じた。
王女→魔女の呪いのせいで長い長い間眠っていた可哀そうな王女様。
美しい容姿のせいで王子から執着されて困ってる。王子に騙されたことは一生許さない。
王子に恋愛感情は抱かないまま老衰で死ぬ。
王子→美しい青年。自分の容姿に自信がある。王女が愛おしくてたまらない。ヤンデレ予備軍。
魔女→実は王女の誕生を誰よりも楽しみにしていた。しかし、自分だけ招待されなくて大激怒。強い魔法 をかけすぎてとけなくなってしまった
王様→目覚めた後の王女を案じて法律を作った