表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

藤色雲の下で

実際に見た夢を忘れられず、文章にしてみたくなりました。

野盗の下りはまるっきり創作。

厄介なことになった、と男は考えた。それは他ならぬ男自身の判断が原因となったのだが。

虹雨が降る時期だというのに、歩を急げば立ち枯れ平野を抜けられると考えたのが間違いだったのだ。

予定通りであれば、今頃はここよりずっと先の路傍か宿屋か、どこかでゆっくりと一休みできていたであろう。


しかしいよいよ平野へと入る際、野盗どもが餌食とする旅人を待ち伏せているのに出くわしたのだ。まさかこの時期に、わざわざ立ち枯れ平野の近くで、大勢の人間がたむろしているとは夢にも思わなかったのだ。そのため否応もなく戦を交えることとなった。一番槍にきた奴の頭を使い古した鋭利な鉈でかち割り、いきり立って襲い掛かる他の二三人もいちどきに倒すと、怖気た残りの奴らは平野の方へ撤退した。立ち枯れ平野を行くのを諦め、引き返して別の道を行くという手もあったのだが、鬼狩りで鍛えられているという自負もあり、野盗を甘く見た男は、すぐに皆仕留められると高を括ったのだ。結局、復讐に燃えて撤退と奇襲を繰り返す集団に手こずり、最後に残った連中を夜襲で倒した時には、平野に入って始めのところで、二日も過ぎてしまっていた。


あの時に負った矢傷が忌々しいが、それよりも気分を陰鬱にさせるのが、頭上を覆っている藤色に染まった雲である。刻々と色濃くなっているようで焦りが増すのだ。矢傷などはすぐさま癒えるが、虹雨を浴びるのだけは勘弁願いたかった。地面では鮮やかな黄緑色の苔が、雲間をさす日を浴びて不気味に光っている。平野全体にまばらに生えている樹木は全て葉が落ち、木肌が真っ黒く変色していて元がどのような種類の木だったかが皆目わからない。動物や虫けらの気配さえ微塵も感じられない、半ば死んだも同然な場所であった。虹雨を喜び、生き生きとしているのは不気味な苔だけだ。


もぎ取って齧っていた野盗の腕の断面を布で覆って縛り、空の麻袋にしまった。男は思案した。そして平野の中央を抜けるのは諦め、付近の山すそに沿って行くことにした。距離は伸びるが、今は雨をしのげる場所を探さねばならない。しとしとと降り始めた虹雨を野党から剥いだ衣服などでやり過ごし、足を速める。男は広めの岩陰か、できれば洞窟などを見つけたかった。自身の甘さによる無茶な計画と、それに合わせた不運に踊らされた男だが、今回ばかりはツキに恵まれたと見えた。過ごしやすそうな洞窟を発見したのだ。入り口は地面から天井までの高さが六尺、地面の幅が八尺ほどであり、そのまま奥まで続いているようであった。あまりに理想的な洞窟でかえって不気味だが、男はいそいそと中へ入りこんだ。雨避けにした衣服を洞窟の外へ投げ捨て、手近な岩に座り込み、平野に入ってからやっと人心地つけたのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ