閑話 茂信から見た勇者召喚
「ようこそロービン王国へ、勇者様方」
俺、斉藤茂信の、光が収まった後の視界に入ってきたのは、先ほどまでいた教室ではなく、どこかの中世ヨーロッパのような神殿に、法衣のような服を着た人たち、それに金髪の美少女だった。
金髪の美少女は、容姿のレベルでいえば、二大女神と呼ばれている片桐さんや白浜さんに負けていないだろう。
そんなことを思っていると、このクラスの不良的存在の後藤郷司が叫ぶ。
「なっ! ここはどこだ! 何でさっきまで教室にいたのに、俺たちはこんなとこにいるんだよ!?」
後藤はいかにも驚いてパニックになっているという顔で、金髪美少女に叫ぶ。
それを見た工藤が止めようとしたところで、白浜さんが動いた。
「落ち着いて、後藤君。きっとこの人が説明してくれるよ」
白浜にそう言われ、後藤はおとなしくなる。
そして工藤がその金髪美少女に説明を促し、皆がそれを聞いた。
話を聞き終えた俺は、正直驚きを隠せない。
話の途中も送還できない、ということを聞いたクラスメイトの反応はまた一押しだった。工藤や白浜さんが抑えなかったら、こんなものでは収まらなかっただろう。
「私達人類は、このままでは魔の者達に滅ぼされてしまいます。どうか私達をお救いください!」
マリア王女はそう言って、深々と頭を下げる。
それを見た工藤は――。
「……僕は、手伝いたいと思います。この世界の人達が苦しんでいるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて僕にはできない。……みんなはどうするんだ?」
工藤がそう言ったことで周りのクラスメイトも「そうだな……」や「工藤君がそう言うなら……」とか受ける方向へ話が進んでいた。
俺は一つ確認したいことがあり、王女様に質問する。
「あの、俺達には本当に力があるんですか? それを確認する方法は?」
それを聞くと、王女様は笑顔で答える。
「はい。皆さん、頭の中で『ステータス』と念じてください」
俺は言われた通りに『ステータス』と念じる。
するとステータスが書かれていると思われるボードが目の前に、というより眼のすぐ側に張り付いたように見える。
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種族:人間
名前:シゲノブ・サイトウ
性別:男性
Lv:1
HP:700
MP:200
STR:130
GRD:100
AGI:130
DEX:110
INT:80
MPR:80
スキル
侍
覇気
剣術
鑑定
言語理解
称号
侍
異界より召喚されし者
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むむ、これは地球で剣を習っていたからか?
スキルの欄に剣術がある。それに侍と覇気ってなんだ?
そう思うとステータスに侍と覇気の説明が出る。
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侍
刀術、心眼、見切り、居合、不屈の精神、の統合スキル。
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覇気
気迫、気合、威圧、不屈の精神、覇の一撃、の統合スキル。
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更に分からないスキルが出てきた。
まあそれらは後で調べよう。
そう思って後回しにすると、一つの考えが浮かぶ。
これ、他の人のステータスも見れるんじゃね、と。
俺は取りあえず、近くにいた雷に向けて鑑定を放った。
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種族:人間
名前:ライ・カザマ
性別:男性
Lv:1
HP:400
MP:400
STR:100
GRD:90
AGI:150
DEX:120
INT:105
MPR:90
スキル
幻惑
鑑定
言語理解
称号
異界より召喚されし者
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幻惑
魔力を消費して、相手の五感を錯覚させるスキル。
また放った幻は、魔力を込めて見破られない限り対象に本物だと錯覚させる。
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お、鑑定と言語理解はデフォルトみたいだな。
それに幻惑っていう他にはないスキルもあった。
やはり俺達は何か特別な力を来るときに授かってるみたいだな。俺のスキルは恐らく、覇の一撃や心眼辺りだと思われる。
俺は次に騎士の中でも一際凄みを放っている人物に鑑定をかける。
だがその結果は目を見開くものだった。
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種族:人間
名前:デフリー・ローレンス
性別:男性
Lv:106
HP:5213
MP:1021
STR:943
GRD:812
AGI:662
DEX:483
INT:431
MPR:514
スキル
聖剣技
上位鑑定
下位偽装
達人
限界突破
光魔法
カリスマ
称号
聖騎士
ロービン王国の騎士団長
龍を討伐せしもの
魔王討伐に助太刀せし者
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聖剣技
魔法付与、魔法剣術、聖剣使用、の統合スキル。
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達人
見切り、威圧、気迫、不屈の精神、気配察知、隠密、体術、の統合スキル。
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限界突破
スキル使用時、魔力を消費してステータスの1,2倍の力を得る。最大三分間。
だが使用後、十分間ステータスが0,8倍になる。
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なんつう強さだよ、と思った。
恐らくこれがこの国トップクラスの強さなのだろう。
俺がそれに驚いていると、王女様が声をあげる。
「自分のステータスを確認できましたか?本来ならばレベル1ではHP50程度、MPは20程度ですね。後スキルは特殊な技能を示しています。ステータスの内容は後で兵士に報告してください」
やはり俺達はレベル1にしては相当強いらしい。
だが俺達より強い奴は沢山いた。あの騎士団長がその筆頭だろう。
他のクラスメイトは色めきたっているが、俺はあの騎士団長を見たせいか、そんな気分にはなれなかった。
それにあんな強い人物がいるなら、俺達を呼ばなくてもいいんじゃないかという気にもなる。
そう思っていると、いつもとあまり様子が変わらない雷の姿が目に入ったので、思わず質問をしてしまう。
「雷、お前はこの話、どう思う?」
それを聞いた雷は、俺にいつもと変わらない表情を向ける。本当にこいつ、俺と同じ高校生なのかと、疑問に思ってしまう。
こんな事になっているというのに、平時と変わらない声色で、雷はこう答えた。
「今のところじゃ判断はつけられないかな。まあ勇者が強い力を持っているってのは本当らしいけど」
「何でそう思うんだ?」
「鑑定から分かる考察だよ。普通の一般兵だとレベルがそこそこ空いてるのに俺達とそうステータス変わらないだろ。それにレアそうなスキルも俺達は持っている。だからだよ」
なるほど。
確かに俺達は個々が何か特別なスキルを持っている。雷の幻惑というスキルも然り。
それなら今後の伸びしろか特別なスキル、もしくはその両方を求めて今回の召喚は行われたのだろうか。
「なるほどなぁ」
俺は関心してそう返した。
そんな話をしていると、王女様が再び声をかける。
「これが勇者様達のお力です。それに勇者様達はまだレベル1。これからもっと強くなります。そのお力で私達を救ってほしいのです。どうかお願いします!」
再び勇者に頭を下げる王女様。
すると、再び工藤が演説を始める。
「皆……僕達には力がある。そして苦しんでいる人たちがいるんだ。困惑するのは分かる。でもこの人たちだって必死なんだ。……僕は戦う。でも僕だけじゃ限界があると思うんだ。どうか皆も僕と一緒に戦ってくれないか?」
それを聞いたクラスメイトは、やってやろうぜ、という雰囲気になる。
かくいう俺も、まあ状況把握をしなきゃ駄目だからその流れに乗った。
「そ、それでは勇者様方は私達に協力してくれるんですか!?」
「もちろんで「ちょっと待とうか」」
だが意外にも、それに異議を唱える人物がいる。
その声を聞いてまさか、と思うと、その人物は雷だった。
「……何だい、風間君」
「確かに王女様の言う通り、俺たちには勇者としての力もあるんだろう。魔と戦える力もあるんだろう」
そう言ってから雷は一拍おく。
そして、衝撃的な言葉を口にした。
「――だが、俺はその依頼は受けない」
それを聞いたクラスメイト達はざわめく。
俺も雷の発言に何で、と思いつつ話の流れを見ることにした。
「何でだい? 苦しんでいる人がいて、僕達にはそれを救う力があるじゃないか」
「まあ、それが落とし物を探して、とか簡単なことなら別だがな。だが簡潔に言えば、この国の連中は俺たちに戦争してこい、と言っているんだぜ」
俺はそれを聞いた瞬間、体に衝撃が走った。
そうだ、俺達は殺し合いをさせられるんだと。
「まあ、俺達には力はあるんだろう。それに訓練もして、強くもしてくれるんだろう。だがそれでも俺達が殺されることがないとは限らないだろ? それなのに、何で見ず知らずの国のために、命をかけなければならないんだ?」
「そ、それは」
工藤も、その質問には答えられない。
そして雷の発言で、皆は夢の中にいたようなムードから、現実を見ることとなった。
俺だって、そのことを考えてなかったのだ。
相手が獣とかならまだいい。だが魔の者の中には、俺たちと一緒で、言葉を喋る者もいるのだろう。
俺にそいつらを殺せるかと言われたら、正直すぐには答えられない。
俺たちが動揺の中にいると、雷は王女様の方を向いて言葉を発した。
「まあ、召喚してしまったものは仕方ない。俺はあんたらを責める気はない。だが、それとこれとは話が別だ。俺は自由にやらせてもらうよ」
それを聞いた王女様は慌ててこう叫ぶ。
「ま、待ってください、勇者様! お引き受けしなくても、王城でこの世界やこの国での勇者様の待遇について説明を!」
だが、雷はそれに取り合わない。
「結構だ。俺はこの世界でマイホームを築いてのんびり過ごすことにするから。……じゃあな」
そう言うと同時に雷を中心に炎が溢れ、それはやがて部屋全体に燃え広がる。
俺はそれを見た途端、間違いなくスキルにあった幻惑の仕業と考えることができた。
だが幻の炎に触れた瞬間、幻だと分かっているのに本物の炎のように熱いと感じる。そこまでリアルな炎だった。
これが俺達に付与されたチートスキルの威力だっていうのか。
あの騎士団長ですら、不意をつかれたとはいえ、動揺の表情を浮かべている。
他のクラスメイトも狂乱し、叫んでいる者、怯えしゃがんでいる者、様々だ。
その中で一人、片桐さんが迷いなく雷がいた位置に向かって走っていた。
俺は幻惑の炎が邪魔で雷の姿は見えなかったが、片桐さんの行動を見ると、まるで雷の場所を知っているかのように、一直線に向かっている。
俺は、片桐さんを鑑定した。
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種族:人間
名前:レイナ・カタギリ
性別:女性
Lv:1
HP:400
MP:500
STR:80
GRD:80
AGI:120
DEX:110
INT:160
MPR:150
スキル
超越者の瞳
鑑定
言語理解
称号
異界より召喚されし者
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超越者の瞳
偽装、幻、擬態、系のスキルをほとんど無効化。
視力が抜群に上がり、集中すれば物をナノレベルで見ることが出来る。
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恐らく超越者の瞳というスキルのおかげで、幻惑には対応できていると思われる。
だがこの状況で、一切物おじせず雷に向かっていけるのは、正直凄いと思う。
その数秒後、「なっ!」という雷の声が聞こえた。片桐さんが追いついたのだろう。
恐らく炎が無くなった時、雷はいないのだろう。
だが、またいつかきっと会えるはずだ。
そう思いながら、俺は幻の炎が消えるのを待った。
最後のキャラ紹介だけして一章終わりです。
二章からはダンジョンマスターとして雷がちゃんと働きます。