玲奈とダンジョン
景色が変わると、そこは室内のようであった。部屋全体は石で作られており、苔や蔦があちこちを這いまわっている。床や壁、天井は石造りのようだが、そのほとんどが苔に侵食されてしまっていた。
俺はそれを見て、長い間誰にも使われていなかったのであろうか、と思う。
だが、すぐにそんな考えからは解き放たれ、俺は転移についてきた人物を見た。そしてそいつは、俺のクラスメイトで友達である、片桐玲奈だった。
だが、何故片桐は幻惑に惑わされなかったんだ、と疑問に思ったが、それは片桐のステータスを見ることで、理解することができた。
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種族:人間
名前:レイナ・カタギリ
性別:女性
Lv:1
HP:400
MP:500
STR:80
GRD:80
AGI:120
DEX:110
INT:160
MPR:150
スキル
超越者の瞳
鑑定
言語理解
称号
異界より召喚されし者
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恐らくこのスキル、超越者の瞳のおかげなのだろう。
俺はこの上位互換のスキル、神力の瞳を持っているが、そのスキルでは幻惑などの幻を見分けることもできるので、超越者の瞳でも同じようなことができるはずだ。
俺のスキルの幻惑自体は、ランク的には超越者の瞳と同じなので、片桐には見破られたのだ。
「何で、お前はついてくるんだよ……」
若干呆れの色を滲ませた視線を向けながら、そう呟いた。
「雷と一緒にいると楽しいし、退屈しないし、それにあそこでいきなりスキルを放つなんて普通しないでしょ。絶対に何かあると思ったのよ」
「はぁ、そうかい」
俺は隠すことなくため息をつく。
どうやら、俺のダンジョンマイホーム計画に狂いが生じ始めたようだ。
それを見た片桐は、一拍おいてから再び口を開いた。
「別に一緒にいるのが嫌なら別にいいのよ。……何か雷が困るなら私は引き下がるし」
「別にいいよ。よくよく考えれば、お前がいることは心強いといえば心強いからな。だが、他のクラスメイトとはもう会えないかもしれないぞ。それでもいいのか?」
「別に大丈夫ね。……まあ、斉藤君とはもう少し話したいけど」
「それに関しちゃ同意だな。まあ、あいつならこの世界でも生き残るだろ。またいつか会えるさ」
茂信が簡単に死ぬとはとてもじゃないが思えない。
あの勘といい、あの剣の腕といい、それに勇者としてのステータスもある。
「それじゃあ、そろそろ説明してくれない? 何でさっきまで王城にいたのに、急にこんな洞窟に移動できたのか、とかね?」
「ああ、それじゃあ、俺が教室で光に包まれてからのことを説明しようか」
そう言ってから俺はエフィドスとのことの説明を始める。
俺が上位神と名乗るエフィドスから加護を貰い、眷属にしてもらったこと。
その影響で恐らくこの世界で最強クラスなったこと。
そしてダンジョンマスターとして生きていくことになったこと。
そして偶に、エフィドスとコンタクトをとること。
それらの説明と、何故ダンジョンマスターになったのか、その動機を聞くと、片桐はこう言った。
「雷らしいわね。暗殺者として色んな戦場を潜り抜けたからこそ、人一倍、安全、安住の地、に対する欲望が強いのかしら」
「そうかもしれないな。正直にいって、殺し合いが日常になっている生活はもうこりごりだ」
俺は元々、中学三年の一月まで暗殺業をやっていた。
理由は単純で、親が暗殺家業を行う家に産まれたからだ。そこで俺は親から暗殺者として育て上げられ、齢10にも満たない頃から仕事を行っていた。
合計にすると何百人という命を刈り取ったが、一月の頃ふと転機が訪れる。なんと、俺を除いた家族全員とその親族が、全員揃って死んだのだ。
そのおかげで俺はこの仕事から足を洗うことができて、普通の学校生活という、夢の時間を享受することができた。
ちなみに、片桐とはその暗殺関係で知り合っているので、今では俺が元暗殺者ということを知っている、数少ない人間だろう。
「それじゃあ片桐、お前は俺と一緒にダンジョンにいるってことでいいか?」
「別にいいわよ。……ところで、なんであなたは私のこと名字で呼ぶの?」
「え、嫌なのか?」
「斉藤君を名前で呼んでて、何で私は名字なんだろうと思ってね」
片桐はそう言って、じっとりとした目を向けてくる。
それに、俺は何か形容しがたい圧力を感じた。俺は思わず片桐から半歩距離を取った。
「い、いや、別にそこに特に思惑ないけど……」
「それなら、私のことも名前で呼んでね」
「お、おう、玲奈」
玲奈はそれを聞くと「んっ、よろしい」と言って満足気な表情をする。
何でそんなに嬉しそうなんだろうか?
まあ、それは置いておくとして、そろそろダンジョンを作ることにする。
「じゃあダンジョンを作るか、《迷宮創造》」
俺はそう言って、エフィドスに言われた通りにスキルを使う。
すると、この石の部屋全体が、白に染まった。
「う、眩しい」
玲奈は思わずといった様子で、目を腕で覆い隠す。
やがて光が収まると、そこには先程までとは一変した光景が待っていた。
スキルを使う前は、無数の苔に覆われていた部屋だったが、既に苔らしき物は見当たらない。真新しい石が、びっしりと一面を覆っている。
「凄いわね」
それを見た玲奈も、感嘆の声を漏らす。
俺も少々の驚きと感心の感情を抱くと共に、再びスキルを使用した。
「《迷宮改造》」
そう言うと、俺の目の前にボードが現れ、そのボードには様々な項目が並んでいた。
取りあえず『ダンジョン情報』と書いているところをタップする。すると文字が消え去り、新たな情報が表示された。
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名前:名もなきダンジョン
階層:1
DP:5000
難易度:G
記述:まだ生まれたばかりに何もないダンジョン。ぶっちゃけ、現時点ではただの洞窟。ただし、ダンジョンマスターが勇者の役目から逃げ出したチキン。
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おいこら記述。
やけに悪意のある説明じゃねぇか、この野郎。
「チ、チキンって……」
玲奈も笑ってんじゃねぇか。
まあしょうがない。
俺はまず、このダンジョンのDPを増やすべく、メニューを操作し『DP増加』を選択する。
DPとはダンジョンポイントの略称で、基本的にはDPがあれば何でもできる。
ちなみにエフィドスの粋な計らいで、DPを使って地球産の物を購入することも可能だ。
DPを増やす方法は簡単には三種類ある。
一つ目は、ダンジョンに直接魔力を注いでDPに変える方法。
二つ目は、ダンジョンに魔力となるもの、魔石や魔力が宿った物体などを吸収させること。
三つ目は、ダンジョンにいるものから魔力を吸い取る方法。
一つ目は、直接魔力を注ぐ方法。
これが一番簡単で手っ取り早い方法。
二つ目は、物質から魔力を吸う方法。
これで侵入者の死体からや、魔力が籠ったものから魔力を吸うことが出来るのだが、基本的にこれを行うのは難しい。
何故ならば、これを行うには侵入者を殺すか、その持ち物を奪わなければならないので、十中八九戦闘になるからだ。勿論、遠隔操作で装備などから魔力を奪うことはできなくはないが、吸収できる量が限られているので、あまり効果的とはいえない。
三つ目については、侵入者からも直接吸うことが出来るのだが、これは効率が非常によろしくない。
正直、吸う速度よりも魔力の自己回復スピードの方が早い。だが、これのおかげで侵入者は魔力を回復するには魔力回復薬を使わないとほとんど回復しなくなる。
蛇足だが、二つ目と三つ目の魔力吸収は、両方とも対象を指定できるので、自分たちや、自分たちの武器、防具の魔力を吸われるということはないと考えて言い。
まあこれだけ方法を上げてみたが、現時点では一つ目くらいしか出来ることがない。
だが、これはエフィドスが作った制約で、俺は一日に1000以上魔力をつぎ込んだらアウトとのこと。
理由を聞くと『つまらないから』だそうだ。
なのでダンジョンに魔力をぴったり1000込める。
するとDPが6000に増えた。
ちなみに、魔力とDPの交換比率は1:1だ。尚、最初のDP5000は初期資金として、用意されているものらしい。
「さて、DPも増やしたことだしダンジョンを改築するとしますか」
「そうね、私にも少しやらせてもらえる?」
「ああ、構わないぞ」
俺はそう言ってダンジョンの改造をし始めた。