エフィドスとの邂逅と様々な説明
4月17日 記述の変更と追加。
「ちっ!」
光が教室を包み込んだ頃、俺は耳をすませ、懐に仕込んでいるナイフに手を伸ばす。もしこれが何らかの教室への攻撃だとしたら、追撃がくるはずだ。
だが、警戒していた襲撃は起こらなかった。
しかし、光が収まったとともに視界に入ってきた景色に、俺は目を疑う。
さっきまで教室にいたのにも関わらず、今俺がいる場所は真っ白な何もない空間だったのだ。
どんなに周りを見渡しても薄く発光する真っ白な大地以外には存在せず、まさに某格闘漫画でいうところの、精神と〇の部屋の休む場所がないような空間である。
とりあえず自分の体をチェックするが、教室にいた時となんら変わらない。制服の中に仕込んである小型ナイフまできちんとあった。
武器がある以上、これでなんらかの誘拐の可能性は下がったが、ここがどこだか全く分からない。
「やあやあ」
状況の把握に頭を悩ませていると、後ろから声が聞こえる。
振り向くとそこには一人の少年がいた。
年は、10才くらいだろうか。
第一印象は、怪しい。
第二印象も、怪しい。
どこまでいっても怪しい。
なぜならその人物の顔はもやがかかっているかのようになっていて、詳しい顔立ちを見ることが出来ず、肌や髪、服も真っ白、そしてこんな空間に一人だけいる少年という状況。
怪しくないわけがない。
俺が黙っていると、その少年が語り掛けてくる。
「うーん、突然のことで困惑しているのかな? まあいいや。僕の名前はエフィドス。まあこんなんでも上位神の一柱、つまり神様だよ」
エフィドス、と名乗ったその少年はいきなりわけの分からないことを言ってきた。だがエフィドスは、俺のことなんかお構いなしに続ける。
「いきなり神って言われても困ると思うけど、その辺はそういうものだと思って欲しいな、風間雷君」
「ちょっと待て、何でお前は俺の名前知ってんだ?」
「お、やっと喋ってくれたね」
「いいから答えろや」
「その問いに関しては神だから、ってことで納得してもらおうか。流石に僕だって召喚に干渉する人間の名前は覚えるさ」
「は? 召喚? 何のこと言ってるんだ?」
「取りあえず、順を追って説明するから落ち着いてねー」
エフィドスは俺にそう言って説明を始めた。
曰く、俺達のクラスは別の世界へ召喚されたこと。
曰く、その世界で俺達は勇者として扱われること。
曰く、エフィドスはその召喚に割り込み、この白い空間での時間を取ってくれたこと。
曰く、介入したのは俺だけとのこと。
曰く、その世界は俺達の世界にない魔法という技術を始めとした地球にはないことがあること。
曰く、俺達には神の加護と能力が付与されるはずになっているということ。
「何で地球には魔法がないんだ?」
「君たちの世界はスペースと言うんだけどね。スペースのコンセプトは”神の加護がない世界で世界はどうなるのか”ってなってるんだ。魔法を始めとした技術は、神が生命体に加護を与えているから使用可能なものがほとんどなんだ。だから君たちの世界はあらゆる生物が魔法、そっちの言葉でいう非科学的な力がないんだ」
「今、生命体っていったな?人間以外にも魔法は使えるのか?」
そう質問するとエフィドスはにやりと口角をあげる。
「鋭いね、やはり君を選んでよかったよ。……質問への問いはYESだ。今から行く世界では人間以外も魔法を使う。でも、人間ほど知性のある生命体はそう多くない。いることにはいるけどね」
「そうなのか。……それで? 何で俺にだけ召喚に介入して説明をしてくれたんだ?」
「話が早くて助かるよ。一応聞くけど、君は勇者として働きたいかい?」
「その質問にはNOだな。俺はもう血生臭い戦いはやりたくないんだ」
「それは重畳。そこで君に選択肢を与えてあげるよ」
エフィドスはそう言ってから、二つの案を提示した。
「このまま召喚されて勇者となるか、僕の眷属となってダンジョンマスターになってもらうかをね」
俺はそれを聞いて首をひねる。
また新しい単語が出てきたな、と。
「ダンジョンマスターって何だ?」
「ダンジョンの主だよ」
「説明になってねぇ。まずダンジョンから説明しろ」
エフィドスは再び説明を始めた。
曰く、ダンジョンとは、洞窟のような形をした、ダンジョンコアを持つ生命体とのこと。
曰く、ダンジョンのダンジョンコアとは人間でいう心臓のような役割を果たしていて、コアを潰されたダンジョンは死に、ただの洞窟になるとのこと。
曰く、ダンジョンは中にいる生物から、魔力という力を吸うことが出来るとのこと。
曰く、ダンジョンはコアを守るために、己の魔力で様々な魔物や罠を創り、その魔物や罠でコアを防衛するとのこと。
曰く、ダンジョンの中で死んだ者の魔力を吸えるとのこと。
「なるほど、ちなみにダンジョンには知恵、つまり考える頭があるのか?」
「基本的にはないね。本能で勝手に魔物や罠は作るけど、それは考えてやってはいない。でも例外はある。それが、ダンジョンマスターがいるダンジョンだ」
「よし、今度はダンジョンマスターについて説明してくれ」
曰く、ダンジョンマスターとは知能や体を持ったダンジョンコアとのこと。
曰く、ダンジョンマスターはダンジョンコアが知恵、考える頭や動かせる体を手に入れた存在のようなもの。
曰く、ダンジョンマスターは、ダンジョンの全てをコントロールできる存在とのこと。
同じような内容だが、まあダンジョンマスターはダンジョンと一心同体のようなもので、ダンジョンを好きに操れる存在と思ってくれればいい。
「何でエフィドスは俺にダンジョンマスターをやらせたいんだ?」
「それは今から行く世界、名前をラフェレンス、っていうんだけどその世界を管理してるのは僕の傘下の下位神ラーフなんだ。まあその世界に僕の眷属を送ることで監視をするためかな。ちなみに、それだけなら僕が創った天使でもいいんだけど、ちょうどいいところにスペースから人間が呼ばれるっていうじゃないか。それならその人物に任せた方が楽しいかなって。君を選んだのはあの中で一番物分かりが良さそうで、この話を受けてくれそうだから。それに、どうせ監視っていっても、基本何もしないしさ」
「つまり、お前の楽しみのために呼ばれたわけだな?」
「まあ、そうだね。でも悪い話じゃないと思うよ。基本的には加護以外、神は世界に不干渉だから。例外はあるけど。だから、勇者だからって神は助けてくれない。それなら勇者やるよりも、ダンジョンマスターになって安住の地を築く方がいいと思わない?」
「なるほどな。俺は居心地のいいマイホームを作れるし、お前はそれを見て娯楽とする。二人にとってWINWINな関係ってわけだな」
「そういうこと。さあ、返事はYESかい?」
エフィドスは笑みを浮かべてそう尋ねる。まるで、既に俺の答えは分かっているかのように。
「ああ、基本的には何やってもいいよな」
「もちろんだよ。それじゃ、今から行く世界について色んなことを教えてあげるね」
そう言ってエフィドスは再び説明を始め、俺はそれに耳を傾ける。これが、俺とエフィドスとの出会いだった。