プロローグ
4月17日 記述の修正と追加。
「雷、あなた昨日も私のメール無視したわね」
朝、俺が学校に登校すると、一人の女子生徒が俺の元にやってくる。
その人物は、気品のある顔に艶のある黒髪を肩ほどまで伸ばしており、まるでモデルのようなスタイルをしていた。高校二年生とは思えないほど強調された胸もあり、容姿は誰もが美女と答えるほど優れている。
女子生徒の名前は片桐玲奈。
俺にフレンドリーに接してくる数少ない生徒であり、この学校では知らない者はいないとまでいわれているほどの生徒である。
片桐はその容姿と、まるで貴族のお嬢様のような雰囲気――実際に裕福な家に住んでいるので、その印象は間違っていない――に加え、高校生離れした大人な性格もあってか、学校ではクールビューティーな生徒として、非常に人気が高い。
もう一人の美少女と合わせて、学校の二大女神とまで呼ばれている。聞くところによると、ファンクラブまで存在するそうだ。
何故、そんな人気美少女の片桐が、スクールカースト最底辺の俺なんかと知り合いなのかというと、簡単にいえば昔からの縁というやつだ。まあ、ここでは割愛させてもらう。
「どうでもいいことだったからな。俺の貴重な自由時間を潰されてたまるか」
俺が頬杖をしたまま適当に返すとクラスメイトの男子大半から敵意、嫉妬、殺意の色が籠った視線を頂戴する。だが、こういう視線にはこいつと付き合っているとよくもらうため、既に慣れっこだ。
「この私が送っているのよ。少しくらい話してくれたっていいじゃない」
「やだよ。家の中でくらい、一人で楽しい時間をおくっていたいんだ。それに今度テストあるんだぞ。お前のどうでもいい話に付き合いたくないね」
俺がそう言うと周りからの視線の圧力が上がる。
まあ、分からなくもない。こんな容姿も平々凡々で、特に人に誇れるようなものがない俺なんかが、片桐という美少女と話していることが羨ましいのだろう。
だが、俺にとってはどうでもいいことだ。
確かに片桐は美少女だが、恐らくあいつが俺に抱いている感情はラブではなくライクだし、それは俺も同じことだ。それにこんな視線、本物の殺意を知っている俺からしたら、遊びのようにしか思えない。
「まあまあ雷、別にメールくらい付き合ってあげてもいいんじゃないの?」
俺の後ろから一人の男子生徒が会話に入ってくる。
そう話しかけてきたのは、俺の数少ない友達、斉藤茂信だ。
剣道部所属でその腕前は確かだが、性格に少し難のある人物。身長は180センチほどで、髪の毛はやや癖のある黒髪、それを短く切り揃えてある。成績も優秀で、容姿もイケメンの部類に入っており、その性格がなければ、間違いなく女子に人気だっただろう。
「駄目だぞ茂信。この女は一度甘いことすると一気にやられるからな」
「酷い言いぐさね」
「事実だろ」
俺達がそう言いあっているのを見て、茂信は「はは……」と苦笑いする。
茂信とは一年生の頃からの付き合いで、俺が気兼ねなく話せる友達だ。茂信はその性格と、一年生の時に起こした事件のせいで、クラスから孤立していて、そして同じ時期、俺も孤立していたから、自然と仲良くなった。
そんなどうでもいい話をしている内にチャイムが鳴り、ホームルームのため担任の教師が教室に入ってくる。生徒達は自分の席に戻っていき、俺もいつも通り本を開いて読書を始めた。
今日もいつも通りの、普通の日常が始まると思っていた。
だがホームルームが終わって担任の先生が退出した直後、教室の空気が揺らぐ。
そして次の瞬間光が教室を包んだ。
そして光が収まったころ、その教室には生徒が誰一人としていなくなっていた。
後にこの事件は、謎の集団失踪事件と語られることになる。