エピローグ2
「彼は、任務にしか価値を見出せないような育てられ方をしてきたようだ」とエレインさんは俺に言った。十歳までの俺も同じような育てられ方をしていたので、意味が分からなくもない。そういう子供たちは、ただ命令のままに動く事に自らの価値を見出す。パウリノに掛かっていたその呪縛はまだ軽いようだったが。
黙ってパウリノと、彼に付き従う女の後ろ姿を見送った。
って、あいつ俺達を騙していた事謝ったりしてないな。何気にプライドは高いのか。
その後、俺はノアと共に崖へ来ていた。
進行方向である北向きの崖だ。これから我が商会は北国へと向かうのであります。
太陽は丁度真上にあり、長い間寝たきりだった俺の体を適度に温めてくれた。
「なぁ、そういやお前これからどうすんだ?」
同じ方向を二人して向き、雑草の上に座っている俺は、遠くを見渡して「おぉー」と感激しているノアに言う。
「どうして欲しい?」
その返しは無いだろう、と苦笑する。
「俺は、お前が久しぶりの友達ってことで、この商会に入って欲しいと思ってる」
そして、俺やエレインさんと一緒に、協力し合って海樹に挑むっていうのも、本来組むべきパーティっぽくて良い。
ノアは俺の傍やって来て、座った。
「久しぶりの友達? 私はそうは思わないけど」
「え、まじ?」
「うん」
小悪魔めいた笑顔を見るのは、初めてかもしれない。
「私はハルカが初めての友達だもん。もっと上だよ」
何が上なのか不可解だが、同時に腑に落ちるものが有った。
「それに」
「それに?」
「初めての人だからね」
どいうことか今一分りかねた。
そう首を傾げていると、急に「えへへー」としな垂れてきたので、意味が分かった。俺のどこがお気に召したのか全くの謎だが、これは……甘酸っぱいな。
「私、この商会に入るよ」
ようやく体を起こしたノアは、俺をしっかりと見据えた。どうやら前々から決めていたようだ。俺はなぜか安心してしまい、ついにやけて顔を背ける。
「そうか、それは嬉しいな」
「私も、ずっとエレインちゃんと、なによりハルカと一緒に居れるのは嬉しい」
もう一度、ノアは座る俺の肩に頭を預けてきた。正確には額をこすりつけた。照れ隠しなのだろうか。何それ可愛すぎ。
ふと、遠くから、俺を嫌っている青年達が見つめているような気がしたが、今日はその方が何かと都合がいい。こんな可愛らしい少女に寄り掛かられている俺を見た彼らは、悔しさに顔を歪ませるだろうから。
空は生まれてから初めて見る青さで、雲は一つとしてない。正面からは目に染みる潮風、すぐ傍からは柑橘の様なほのかに甘い風。気が付くと海鳥が上空を旋回し、弾むような鳴き声は俺の心情を反映しているようで、今日ほど、晴れやかな気持ちの日があっただろうかと考える。
しばらくその体勢のままノアを放っておくと、彼女は寝入ってしまったようだった。
そりゃここまで心地良い天気なら眠くなるだろう。ノアが相も変わらず特徴的な薄紅の髪を風にたなびかせ、口をむにゃむにゃ動かしているのを見て思う。しかしいくら何でもここで寝れば風邪をひくので、こつんと可愛らしい額を小突いて起こしてやる。
ノアは不機嫌そうに目を覚ました。狸寝入りだったようだ。一体何がしたかったのかは分からないが。
まぁ、こんなことしている場合ではない。今度こそ仕事をさぼってここまで来たので、いつエレインさんに見つかって怒られるか。
なので笑いかけて、
「さて、仕事だ」
俺の方こそ相も変わらず、いつも通りを始めようと声を掛けるのだった。
ここまで読んでいただけるなんて! 感謝感激です!
今後ともごひいきに!




