声
「任せるって?」
「知らない鉱虫が居るとか言ってから不安だったけど、居ないなら何とかできる!」
「具体的には何をするつもりなんだよ」
「何て説明したら良いのか分かんないよ……。いいから、とにかく向こうに白い光が見える?」
指さされた方向を見てみると、広い空間の中央方向が、ひと際輝いて白く見えた。
「あっちに向かって!」
迷いなくノアは言う。
その言葉に信用を求めたエレインさんが、念を押す。
「それなりの自信あって言っているのだな?」
「うん、絶対大丈夫!」
「そうか、なら信じよう。いいなハルカ?」
良いも何も、あんたの方が偉いだろ。と同意した。
それを受け取ったエレインが不敵に笑い、ノアは「ありがとう」と静かに礼を言った。
「じゃあ、行ってみるか」
はっきり言って、不利な形勢に立たされている俺達にとって、ただ動き回るのは体力の消耗ばかり進める。
かといって特に考えがなく、結局ノアのその一言のみが頼みの綱となった。
五分も進むと、白い光との距離はますます縮まり、ただ輝いていただけのそれが実は「形を持った何か」の発光現象だと分かる。
この空間の所々に、柱の様に生えた巨木と同様。それも巨大な木の一つだった。ただし形が異なる。その木だけは、何百本もの細い木々が一つに纏まって形を成している。
それよりも特異なのは、その木の下部だけが、風船の様に球形で、その身を煌々と輝かしている事だ。巨大な発光水晶なのか、と目を凝らせば、結晶ではなくやはり木。光は、その内部から出ているようだ。あまりに多い光量の所為で、木の下部全体が光っているように見えたのだ。
「こんな現象……見た事ないな」
神秘的で不可思議な光景に、ほぅ、と一息吐いてからエレインが呟いた。
思わず足が止まって、パウリノが追いかけてきていることなどすっかり忘れてしまっていた。
力の抜けた俺の腕から、ノアが身軽に降りる。
そのまま決められていたようにその木の中心に向かって歩いてゆくので、思わず引き留めた。
「おい、どこに行くんだ!」
「? 勿論ハルカとエレインちゃんを助けに行くんだよ?」
なんらおかしな事は言っていないといった語調でノアが言い返す。真っ直ぐに、光へと進む。
ノアが木に近づくト伴に、光は一層眩さ増す。彼女の影が、急激にその色を濃くする。
そして、木の根元に辿り着いた彼女は、
「遅くなってごめんなさい…………ただいまお母さん」
懐かしさに安心感を覚えるとともに、どこか悲しげな表情でそう言った。
直後。
ザァァァァァ――と、枝に付いた青葉と青葉が擦れ合うような聞き覚えのある擦過音が響いた。
目の前で起こった出来事に目を疑った。
音と同時に、光る球体の部位を覆う細い木々が、亀裂が入るように細い入口を形成し始めたのだ。
ゆっくりと時間を掛けて、その入り口は完成した。入口から見える内部の強烈な光に、目元を覆う。指の隙間から、ノアがくるりとこちらに振り向くのが見えた。
「二人とも、早く入って!」
「入るって、どこに?」
「…………この中に決まってるでしょ。中は眩しくないから大丈夫だよ?」
「やっぱりお前の家だったりするのか?」
「ちゃんと言ってたよ?」
ノアの顔は、逆光で見えない。しかし不満げに頬を膨らしているのは語気でわかる。
「ハルカ……どうする」
圧倒的で謎だらけな光景だからか、エレインの声は不安げだった。分からなくもない、数分前までは、予想どころか、見た事もない出来事が目の前にあるのだ。俺だって多少の恐怖は有る。それでも今はこれだけが頼みだ。
「…………入ろう」
中は言われていた通りに眩しくなかった。一体あの光はどこから出ていたのやら。考えても、信じられない事ばかり起こりすぎて予想なんてできるはずもない。
反対に暗くもなかった。
橙色の柔らかくて暖かい光が、代わりに中を満たしていて程よく明るい。今海樹の外へ出れば同じような太陽光が町を朱に染めている事だろう。壁は予想通り、外から見たと同様に細い樹が幾重にも重なっていて、天井は球形だ。また、狭くない。これならがんばれば五十人くらいの人間が雑魚寝できそうなほど広々としている。入口は俺とエレインが入ると自然に閉じた。
「二人とも、あたしの家にいらっしゃいませ!」
空間の一角の、ベッドらしき青々とした木の葉の塊に腰かけるノアが、恭しくお辞儀をした。
「お前がしてた話が、まさか本当だったとはな」
きょろきょろと周りを眺めながら、呆然とする。発言を聞いたノアが憤慨するように腕を腰に当てた。
「だから言ったもん、本当だって」
「……そうだな、信じてなかった。悪い」
「もういいけどさ、とりあえず座ってよ二人とも」
勢いよく跳ね上がると、ノアは何やら「二人分の椅子お願い。あ、あと机と飲み物も」とぶつぶつ壁に向かって話す。
その途端、床を構成する木がギシギシと音を立てながら絡み合って、椅子と机が生まれた。
その過程を見てエレインが絶句したが、俺とて同じだ。その後追い打ちをかけるように、木製のコップが壁から生え、そっれを手に取ったノアが、切った蔦からしたたり落ちる透明の液体をそれに注ぐ。
「ほら、座って」
「お、おう」
「……すまない」
一瞬にして出来上がった椅子に恐る恐る座る。椅子は軋み音の一つも立てなかった。
俺とエレインが席に着き、その前にノアがコップを差し出された。
「水だよ、のども乾いてるだろうし」
中はその通り水に見える。とてものどが渇いていたので、そこは躊躇せず飲み干した。
「……うまい」
「そう? いっつも飲んでたからわかんないな」
俺に倣ってコップに口を付けたエレインも驚愕の表情を浮かべた。まさに甘露で、雨水を濾しただけの水とはわけが違う。
「それで安全なのかこの場所は」
液体の無くなったコップを机に置くと、しんとして静謐な中にパウリノ達の足音がしないか耳を立てた。外から音はしない。木が防音効果を発揮しているからかもしれないので安心が出来なかった。
「大丈夫だと思うよ、ねぇお母さん」
ノアが天井に顔を向けると、あの声が反響した。
『ええ、大丈夫』




