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絶海のノア  作者: komono
10/27

出立


 翌日の明朝。

 まだ月さえ煌々と地を照らす時間帯に、俺とノアの二人は海樹に潜った。

 どうしてここまで早くから出る必要があったのかと言えば、浮島の唯一の出入り口である岬は二人の衛士が固めており、そこを無断で外出するには、夜間ずっと門を守っていた二人がどちらも舟を漕ぎ始めるこの時間帯が唯一のチャンスだったからだ。

 いや、それもあるが一番の理由としては、パウリノの目からノアを欺く為というのがある。

 というのも、彼から提示された条件は今日中に彼女を浮島から島へ戻す事。それならばパウリノ達が彼女を探し始めるのは早くとも太陽が出てから。

 まさか俺が、こんな夜中にノアを放り出すようなことはしないだろうと踏んでいるはずだ。

 それでも予想を超えて、浮島の前に待ち構えていたりしたらどうなるものかとハラハラしたにはしたが。

 まぁそれでも無事に、エレインさんに見つかることもなく、彼らに出会うこともなく、今に至る。

「うー。やっぱり眠たいよー。昨日作戦会議とか言って夜更かしさせたくせにこれはないよー」

 目の下に見事な隈を作り上げたノアが唸った。

「ちょっと諸事情があってな。ほら、無断で海樹入ってるし、目立てないんだ」

「何でもいいけどねーむーいー!」

 俺が何を言おうと関係がないようで、その小さな手で俺の頭をぼかぼかぼっかーんと叩くノアだった。

 たかが貧弱な少女の拳。だが侮るなかれ、そんな小さな手でも硬質木鉱の籠手付きともなると、ごふッと息が漏れる程度には痛くて重い。

「それと、この鉄板重過ぎ!」

「お前のは木でできた俺の防具の数百倍高価な鎧なんだから、文句は無しだろ」

 何か特別な行事でもない限りめったに着けない、商会から借りている煌びやかな鎧を彼女は兜以外すべて身に着けていた。もちろん一番体のできていない彼女の身を守るためであるが、一式で一生遊んで暮らせる額の金属を他人に付けるのは少々気が重かった。

 ちなみに俺の防具は木の胸当てだけ、とかなり心許ない。あとは鉱虫用の武器として、湾曲した片刃の太刀(刃こぼれ有の激安品)と非常用の小道具がいくつか入った背嚢が有るだけだ。昨日あの後、普段身に着けている防具を売って、海樹の中心へ行くまでの食料を購入したためここまで貧相なのだ。

「うーん、まぁ我慢するけど……」

「そうだ。お前の為なんだから我慢は当然だろ」

「それとこれもさっきから何回も思ってたんだけど……」

「なんだよ」

 鎧が重い所為か、猫背になってずるずる進むノアが前方を指さす。

「何で全く同じ風景を、一時間に何回も見なきゃいけないの……」

「…………」

 指先の方には、確かにもう何度も見た分岐が有る。一度目は右を、二度目は左を、三度目はもう一度右を、と交互に進んではみたものの、どうしてか元の場所に戻ってしまうのだ。

「薄々感じてたけど」

「はい」

 じろり、と隈付きの大きな目が俺を睨みつける。

「ハルカって方向音痴なんじゃ……」

 は? いやいやいや。

「それは無いし。俺もう十七だし。そんな迷子とか有り得ない年頃だし?」

「だって、さっきからわざと道間違えてるんじゃないのって思うくらい間違えた道選び続けてるから……」

「ないから、それはないから」

 ってゆーか、地図見てるから。間違えようがない。

「それ冗談だよね? ここどちらかといえば東寄りの場所なのに、なんで上の方の道を指で追ってるの?」

「良く分かったな、これはネタだ。眠気が吹き飛んだだろう?」

「言ってて虚しくない?」

「…………嘘です。正直お手上げ」

「だろうね……」

「そ、それでも方向音痴は悪いことばかりじゃないんだぞ。無意識に知らない場所に行くから毎日が冒険だし」

「良いように言えば冒険だけど、悪く言えばただ危険なだけだよね」

「冒険は男のロマンだから問題ないの」

 まぁ、とにかく俺は方向音痴らしい。エレインさん曰く一人では歩かせられないだそうだ。

 遠くからでも目で見える場所、例えば浮島とか海樹だとかなら一人で行けるが、こういう地図だよりだとめっぽう弱くなり、迷う。

 ノアと初めて会った時だって、商会員の本隊から離れたから迷った。

 それでも考えてもみて欲しい。俺があの日迷わなければノアに会うことは無く、彼女はあのままアームドアントに屠られていたはず。それならば一概に方向音痴は悪。とは決めつけられず、もはや新たな発見のきっかけにさえなるのだと俺は自負している。うん。

 …………とにかくだ。

「それで、どうするの?」

「中心に行きたい、が」

 肩を落とす彼女をふがいなく見つめる俺は、これ以上中心に進める自身はもう見事に砕け散った。実を言うと一時間くらい前から爆散している。

「悪いけど、外に出るしかないか。脱出用のエスケープルートは標識に従えばいいし」

「うー。折角何時間も歩いたのにー」

「わ、悪い」

「いいけど……」

 長い間歩かされた挙句がこれではノアも思うところが有るだろう事は分かる。

 俺としてもこれだけは嫌だった。

 もしもパウリノや、俺の無断外出に無断の海樹侵入に気が付いたバーニングなエレインさんに遭遇すればこの数時間が灰燼に帰すことは分かり切っているからだ。

 それでもこのままさ迷い続けるよりかは、出直す方が賢明だというものだろう。

 ほんとごめんちゃいです。


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