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大丈夫だよ

ど、どうしよう…。ケガしちゃうよ!

ズッテ―ン!!

私、階段から大きな音を立てて落ちたの。

「江海ちゃん!」

健吾君が慌てて階段から降りてきて、手を貸してくれる。

「今の大きな音なんなの?! どうしたの?!」

ママまでキッキンからビックリした声で顔を出す。

「大丈夫かよ?」

「う、うん…」

気弱な声で返事する。

大丈夫だけど…痛い。

そして、立ち上がる。

ズキッ。

足に激痛が走る。

「いっ…痛い…っ…」

「足が…? 足が痛いのかよ?」

私はコクンとうなずく。

「母さん、病院に!」

「わかったわ。江海ちゃん、大丈夫? こっち来れる?」

健吾君の手を借りて、ママまで行く。

もう最悪。ネンザかな? 骨折かな? 私の心の中、不安でいっぱいだよ。



初めての病院。

薬の匂いでいっぱいの診察室。レントゲンを撮って、しばらく診察室の前で、ママと二人で待つ。

ママは私に心配そうにしてくれた。ママに感謝だよ。

「山岡さん、どうぞ」

看護師さんが中から呼んでくれた。

「…ネンザですね」

医者が開口一番に言った。

「そうですか」

安心しきった声を出す私。

ママも安心してるのが、よくわかる。

「シップを出しておくので、一日三回貼り替えて下さい。念のため、松葉杖を貸すので少しの間、使用して下さい」

「はい。ありがとうございます」

お礼を言って診察室を出る。

この姿を田崎さんに見られたら、きっとバカにされるに決まってる。

「どうしたの? その足…。健吾にフラれて突き飛ばされちゃったの―?」って言われそうだよ。

バカにされる姿が浮かぶ。バカにされるのが目に見えてる。

私、このまま田崎さんにイジメられちゃうの? そんなの嫌だよ。私、田崎さんのことを思うと、憂鬱になってしまう。

そう、田崎さんが健吾君のこと好きって知ってから、憂鬱になってしまうことが多いよ。


寒い夜道、ママと二人で歩く。

「江海ちゃん、大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「治るまで暴れたり無理しちゃダメよ」

「わかってるよ」

うなずく私。

はぁ…。

私の白いため息。

私がこうして病院に行ってる間に、田崎さんから電話があって健吾君に告白してるかもしれない。そう思うと、暗くなっちゃう。だけど、健吾君、私のこと好きだって言ってくれた。田崎さんのこと、一言も言ってなかった。そして、私が健吾君のこと好きって噂になった時も。私の気持ち、理解してくれた。だから、大丈夫だと思う。

ねぇ、健吾君は私より田崎さんを選んじゃうの?

彼女のほうが一緒にいる時間のほうが長い。クラスは違うけど長い。もし、健吾君が田崎さんを選んだら、私は引かなくちゃいけない。諦めなくちゃいけない。でも、私、そんなに簡単に諦められないよ。諦められるわけないじゃない。

もし、私が人間だったら、私の人生は変わっていたかもしれないのに…。なんで、私は人魚なんだろう? なんで、私は人間じゃないんだろう? なんでなの? 私と健吾君。なんで、同じ人間じゃなかったんだろう? 神様はイジワル。私と健吾君。一緒にしてくれなかったの…?



「いっ…いったぁ――いっっ!!」

私の部屋で健吾君にシップを貼り替えてもらってる最中。

「…ったく、騒ぐなよ―。じっとしてろよな」

健吾君は呆れ顔で私を見る。

「だって…」

「だってじゃね―よ」

「健吾君のイジワル」

「イジワルじゃね―よ」

「フンだ」

「可愛くね―な」

「いいもん」

「アハハハ…」

マショマロよりも柔らかい健吾君の笑顔。この笑顔、今すぐにでも受け入れたいよ。だけど、私の心、許してくれない。

どうして? どうして、健吾君の笑顔を受け入れてくれないの? こんなに好きなのに…。誰よりも好きなのに…。




翌日、松葉杖で学校に行ったもんだから、クラスのみんなビックリしてたんだよね。

「大丈夫なの?」

「大丈夫よ」

「アンタ、なんでそんな笑顔なのよ?」

「べ、別に…」

渚と夏子に二回目のごまかしモ―ドを入れた。

「またぁ―、とぼけちゃって―」

「健吾に手当てしてもらったんでしょ?」

「なんでわかんのよ?!」

「江海がごまかす時は、大抵、健吾のことって決まってんのよ。ねっ、渚?」

「そうそう」

二人共、ズバリ言い当てる。

この二人にごまかすことは出来ないな―。

私の心の中、健吾君の笑顔受け入れてはくれないけど、テニスコートで友達とラケットでふざけてテニスをしてる健吾君を目で追ってる。田崎さんのこと、どう思ってるのかが気になるから、私気付くと健吾君のこと目で追ってしまってる。

健吾君って、テニス上手だったんだ。いつもサッカーしかやってないし、部屋にはサッカー選手のポスター貼ってあるし、サッカーしか興味がないと思ってたのに…。健吾君のこと、一つ知る度に好きになっていく――。

「江海、健吾に見とれてないで、お弁当食べちゃいなよ」

「見とれてなんかないもん」

「ホントに?」

渚が疑いの目を向ける。

「ホントだってば」

「怪しいな―」

いつもスルドイんだから。ゆっくり健吾君を見れないよ。

「江海ちゃん!」

テニスコートから私を呼ぶから目を丸くする。

健吾君、笑いながら私に手を降ってくれてる。そんな健吾君に私も手を降り返す。

「相変わらず、仲良しだねぇ」

夏子がしみじみ言う。

「そうかなぁ? 私は夏子達のほうが仲良いと思うけど?」

「なんで?」

「だって私が来た時から、健吾って呼び捨てにしてたし…」

「じゃあ、江海も呼び捨てにしてみたら?」

渚が何気なく言う。

そんな渚の言葉に、胸がドキンと高鳴った。

そんな、急に呼び捨ては出来ないよ。恥ずかしいもん。それに言い慣れてないからね。

「何、恥ずかしがってんのよ。別にいいんじゃない? 健吾も呼び捨てにされて気にしてないみたいだし…」

私の心を読んでか、夏子がお弁当を片付けながらさらりと言った。

「そうだけど…う〜ん…やっぱり呼び捨てになんか出来ないよ」

「まったく…普通に話せるのになんで呼び捨てに出来ないのよ。中には、健吾のこと好きでも話しかけることも出来ない子もいるんだから…。呼び捨てに出来ないなんて、ぜいたくな悩みよね」

渚ってば呆れてしまってる。

「渚の言うとおりだわ」

夏子も呆れちゃってるよ。

そんな二人に笑うしかない私。

呼び捨てに出来なくてもいい。健吾君の側にいることが出来るのなら…。

テニスコートにいる健吾君。カッコいいよね。何しても絵になるよ。このまま健吾君の元に飛んでいきたいくらいだよ。そして、抱きついてしまいそうだよ。抱きついたら文句言われそうだよね。

文句言われても、健吾君が好き――。


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