愛しい人
自分の部屋、少しイライラしながらベットにうずくまる。
あんなに笑わなくてもいいのに…。みんな、最後まで
「ごめん」って謝ってくれた。私、健吾君に会わす顔なくて、家についたら、自分の部屋に入っちゃった。
健吾君、ビックリしたかな? ビックリしたよね。だって急に怒りだしたんだもん。ビックリして当たり前だよ。
はぁ…。
今から後悔。もう最悪だよ。ちょっとしたことなのに怒る必要なかったのに…。私が落ち込んでたとこに奈美ちゃんが入ってきた。
「奈美ちゃん…」
「江海お姉ちゃん、元気なかったけど、どうかした?」
「え…」
「お兄ちゃんとケンカしたの?」
「ううん、違うよ」
「ホント―?」
奈美ちゃん、疑いのまなざしをしてる。
「ホント、ホント」
「なんだ? 健吾とケンカか…」
奈美ちゃんの背後にパパがやって来て言う。
い、いつの間に…?!
「いや、違うんですっ!」
「そんなに大声出さなくても…」
少々困り気味のパパ。
「でも、最近、お兄ちゃん元気ないけど、何かあったのかな?」
「さぁ、知らない」
健吾君が…元気ない…? どういうこと? もしかして…もしかして…。私のあの予感が当たったの? 私の気持ちが負担になって、健吾君からあの優しい笑顔がなくなって、だんだんと変わっていくっていう予感は当たったというの?
…健吾君が変わってきてる…
そう思った瞬間、私の中で何かが弾けた。言葉では言い表せないくらいの何かが弾けた。
「江海お姉ちゃん?」
「え? あ、う、うん…」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
ごまかし笑いの私。
「そろそろ部屋戻るね。パパも戻ろうよ。あまり江海お姉ちゃんのプライベート、邪魔しちゃ悪いしね」
「そうだな。江海ちゃん、おやすみ」
「おやすみ」
二人におやすみの挨拶を済ませた私は、軽くため息をついた。
最近の元気は、カラ元気だったの? 私、とんでもないことしちゃったみたい。もし、してたら…ショック。
シ―ンとした部屋に、私の頬に涙が溢れてきた。
こんなに泣くぐらいなら、健吾君を好きにならなければ良かった。そうすれば、健吾君に負担かけずにすんだのに…。
翌日、私はどんより暗い気持ちで学校に行った。昨日、泣いたまま寝たから、目を腫れたまま学校に行かなくちゃいけなかった。
「江海、どうしたのよ?! その目!」
教室についたとたん、夏子が驚いた声を出す。
私はいつも二十分前に学校につくのに、今日は遅刻ギリギリで来たんだよね。
「なんでもないの」
ってなんでもないように答えるけど、腫れた目で答えてもどう見たってなんでもないわけないよね。
「なんでもないって…腫れてるじゃない?」
渚も心配してくれる。
そして、私は思い切って昨日のことを話したの。
「…そうか。昨日見た限りではそんなことなかったけどな」
「家族だからわかるんだって」
「そうだけど…あまり気にしないほうがいいよ。江海が健吾のことでいっぱいになるのはわかるけど、健吾は健吾なんだしね」
「うん…」
健吾君のことでいっぱいになってるのは、言わなくてもバレるか。
「よし、江海。一ついいこと教えてあげよう。実践してみたらいいと思うよ」
渚はニヤリと笑って言った。
「健吾君!」
放課後、一人で帰る健吾君を発見して、思いきって声をかけてみた。
「あ、江海ちゃん! どうした?」
いつもと変わらない健吾君。
「昨日のこと、気にしてるかなって思って…」
恐る恐る、健吾君の表情を窺いながらの私。
「いや、全然、気にしてね―よ。江海ちゃんて、怒ると迫力あるよな」
「そ、そんな…迫力あるだなんて…」
顔を赤くしてしまう私。
「オレ、今から部活だし行くな!」
「うん! 部活頑張ってね!」
「オゥ!!」
元気よく返事する健吾君に、Vサインをする。
健吾君もVサインやり返してくれる。
健吾君は大切な人。だから、この恋をなくしたくない。愛しい人――健吾君。