はじけちゃった!
もうすぐで17時。会場に入れる時間。だけど、会場に入っても一時間半は待たなきゃいけない。
ずらっと並んだ長い列。みんなざわついてるのがよくわかる。中には黄色い声も聞こえる。渚と夏子も興奮している。肝心の私は興奮はしてるけど、イマイチついていけてない。
UNLUKEYのメンバーの髪型や服装を真似して来てる子がいっぱい。見てるだけで圧倒されちゃうよ。
「江海、中入るよ!」
渚の声、はりきってる。
夏子に渡されたUNLUKEYのコンサートチケット。大袈裟だけど一生の宝物にするつもり。
ダダダッ…。
押されるように会場に入る。そして、グッズ売り場に向かう。
「私、パンフレット買う」
「私も買う」
二人共、もう買ってる。
「江海は買わないの?」
ボーッと立っている私に、夏子が聞く。
「あ、うん、私も買おうかな」
お金を出して、パンフレットを受け取る。
私、すごくルンルン気分。なんでだろ? もしかして、二人のはりきりようが移っちゃった? だから、こんな気分なの?
18時半、コンサートが始まった。UNLUKEYが出てきた瞬間、みんなの黄色い声が起こる。
渚と夏場も曲に合わせて体を動かしている。一曲目からノリのいい曲で、しっとりとしたバラードを次々に歌が歌われていった。
あっという間に二時間半のコンサートは終わった。
健吾君の言うとおりいい曲ばかりで、全部歌ったとは思えないくらい良かった。メンバーもすごくカッコ良かったし、歌もト―クも楽しめた。
UNLUKEY…。一昨日、突然知ったタレント。一番初めに知ったタレント。そして、今日コンサートに行った。パンフレットよりも健吾君から聞いた話よりも本物のUNLUKEYがずっとずっとカッコいい。ずっとずっと素敵だった。
カッコ良かったけど、素敵だったけど、ものすごく遠い。海の底よりも、空の彼方よりもすごく遠い。
コンサート会場を出て、私達三人はトボトボと歩く。
「楽しかったよね」
「うん! 最高だった!」
「私も。満足したよ!」
興奮してしまう。
「江海ちゃん!」
私達の後方から誰かが呼ぶ声が聞こえる。
「あ、健吾君!」
「ゲゲッ…健吾と磯部君だ」
「なんだよ? 嫌そうな顔すんなよな」
「一緒に帰ろうぜ!」
磯部君も中に加わる。
健吾君と渚、磯部君と夏子、という順で仲良くおしゃべり。私だけ一番後ろでハミっちゃってる。
なんか…Wデ―トみたい…。私…一人…取り残されてる…みたい…。すごく…淋しいな…。健吾君、私の気持ち知ってるけど…淋しいよね…。私も隣で肩並べて歩きたい。歩きたいけど、やっぱり淋しくて、どうしようもなくて、何も出来ない。こんなに好きなのに…。
つい最近までは、どんなことがあっても耐えられた。でも、健吾君のこと好きになっていけばいくほど、誰にも取られたくないって思いが巡って、今みたいに淋しくて、どうしようも出来なくなっちゃう。このままじゃイヤだ。なんとかしたい。
「江海、そんな顔しないの」
渚が私に目をやって言う。
「べ、別に…」
強がっちゃう私。
「ふ―ん…」
ジィ―って私の顔を見る磯部君。
「な、何?!」
そう言ったとたん、四人は思いっきり笑う。
「山岡さん、なんか変だよ―」
磯部君、笑いながら言うから、
「そ、そんなに笑わなくてもいいでしょ?!」
本気で怒っちゃった。
「あ、ゴメン…」
真剣に私が怒るから、みんなビックリ。
「何、イライラしてんのよ?」
「いや、別に…ゴメンね」
私はプイッと顔を横に向ける。
イライラしてるわけじゃない。自分の気持ちにどうしたらいいのかわからなかったの。私って可愛くないよね。子供だよね。こんなんじゃダメだよね。
機嫌ナナメのまま、私は健吾君と家に着いた。