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迎えにくる

二日経った雨の日、私は夏子と渡り廊下にいた。今日、渚は風邪で休んでるんだよね。

お弁当を食べ終わった後に、夏子が教室の外に出ようって言われて、渡り廊下に来たってわけ。なんか、話があるみたいなんだけど、なかなか話そうとはしてくれない。

「雨すごいね。明日も雨なのかな?」

「どうだろう? 雨だとユウウツになっちゃう」

私はそう答えながら、夏子が何を話そうとしてるのか考えていた。

「江海、言いにくいことなんだけど…」

「どうしたのよ? 夏子」

「昨日、健吾と話してたんだけど、サッカー部辞めようかどうか悩んでるみたいだよ」

!!

私の心臓が高鳴った。

「辞める…」

「足骨折して自信無くしたみたいなんだよね」

夏子はため息まじりで言った。

昨日、健吾君の帰りが遅かったのは、夏子と話してたからなんだ。

足骨折してから授業終わってすぐに家に帰る健吾君だけど、昨日だけは午後七時頃に帰ってきたんだよね。友達と遊んでたのかなって思ったりもしたけど、足骨折してる身で遊んでる場合じゃないよね。部活見学でもしてなきゃなのにね。健吾君、何も言ってくれなかったからわからなかったよ。

「…夏子は…何て言ったの…?」

「私がどうこう言うつもりはないけど、辞めなくてもいいんじゃない? サッカー出来ないのは足が治ってリハビリしてる間だけだもん。自分で決めたら? ってアドバイスしたよ」

「それだけ?!」

「何、真剣になってんのよ?」

「別に…」

私、うつむいてしまう。

真剣になってるわけじゃない。サッカー部辞めようかどうか悩んでること、夏子に言ったのが悔しい。私が一番、近くにいれのに…。なんだか、健吾君とあまり仲良くないことを思い知らされたような気がして、唇をグッと噛んだ。

そりゃあ、健吾君のことよくは知らないし、言う程仲良くもない。だけど、少しくらい私に相談してくれたって良かったのに…。渚も知ってるのかな? やっぱり、同じ女友達でも前から仲の良い女友達に相談のってもらうほうがいいよね…。

レギュラー降ろされたことをあんなに悔しがってたのに…。次頑張るって言ってたのに…。あの決意はどうしたの? 私、応援しなきゃって思ってた。私、胸をつつかれたような大きなショックを覚えて、頬に涙が一滴流れたんだ。

「江海?!」

夏子、ビックリしてる。

「夏子、ごめんね」

涙をぬぐって謝る。

「なんで謝るのよ? 江海が謝ることじゃないでしょ? 健吾が私に言ったことが悔しかったんでしょ?」

夏子の質問にうなずいてしまう。

「健吾、言ってたよ。江海ちゃんは自分のことのように悩むから言えないって…。そんな健吾の気持ちもわかってあげようよ。江海の気持ちもわからなくもない。だから、泣かないでよ、江海」

夏子、優しい言葉をかけてくれるから余計に涙があふれちゃう。

「江海、笑ってよ。江海を泣かそうと思って言ったんじゃないんだから…」

「夏子…」

私は涙でクシャクシャな顔で夏子を見る。

そうだよね。泣いてたらダメだよね。悔しいけど笑顔でいなくちゃダメなんだよね。

だけど、ショックだよな。サッカー部を辞めるかどうするか悩んでること。磯部君に相談したら良かったのに…。どうして夏子だったんだろ? 別に相談しにくいことじゃないのに…。気になっちゃうよ。でもね、もうそんなこと気にしないでいよう。何があっても健吾君一筋でいる。そう自分の気持ちに言い聞かせる。

健吾君一筋って言い聞かせても、気持ちは健吾君に向かない。サッカー部のことを夏子に話したから? ううん、サッカー部のことを夏子に話す前から、好きだという気持ちの火が消えかかってる。好きか嫌いか、ちゃんと自分の気持ちにはっきりしなくちゃ。そうじゃないと、自分の気持ちが宙に浮いたままだよ。

でも、急に嫌いになれない。諦められない。それは、当然のことだよ。健吾君、優しいもん。笑顔が優しいもん。だから、余計に嫌いになんかなれないよ。夏子からサッカー部のことを聞いた時はとてもショックだったけど、それは健吾君が決めること。夏子の言うとおり、私達がどうこう言ってたらダメだよね。




あれから、一週間経った。夏子から健吾君がサッカー部を辞めるかどうするか悩んでると聞いた雨の日とはうって変わっての晴天。私は健吾君本人にも夏子にもあの話は一言もしてない。話題にしてしまえば恐い。恐いというか聞きたくても聞けないってのが、今の現状。

聞けないからすごくモヤモヤしてるんだよね。ちゃんと聞けばいいんだけど、夏子が私に話したってなると相談した意味ないから、本人が言ってくれるまで我慢してる。

「江海ちゃん、急にごめんな。家では話しにくくて…」

放課後、健吾君が駅近くにあるファーストフード店に寄った私達。

「ううん、全然いいよ」

そう答えつつ、あの話なのかなって思ってしまう私。

「話って何?」

「サッカー部のことなんだ。辞めようかどうか悩んでて…。夏子には相談したんだけどな。足骨折してるからどうしたらいいんだろうって思ってな」

ウ―ロン茶が入ってる紙コップを持ちながら、一週間前に夏子から聞いた相談を、健吾君の口から話してくれる。

「いつまでもサッカーはやりたい、そう思ってる。今のこの状況を見ると、サッカー続けるのは難しいのかなって思うんだ」

「そんなことない。足が治っても続けられるよ。ホントに出来なくなった人からすると、骨折くらいでって思うかもしれないよ。だから、弱気にならないで頑張ってみようよ!」

力強くアドバイスする私。

「江海ちゃんの言うとおりしれないな。ありがとう、江海ちゃん。今のアドバイスで決心した。オレ、サッカー続けてみようかな」

健吾君、ニッコリ笑顔になる。

「そうだよ。健吾君、応援してるからね。渚や夏子、磯部君もいるんだから…」

「そうだな。江海ちゃんに相談してみて良かったよ。それとな、もう一つ話があって…」

さっきの笑顔から真面目な表情になる健吾君。

予想外の展開になって、私は目を丸くしてしまう。

「今、オレら高二で再来年に高校卒業じゃん?」

「そだね」

「高校卒業したら、江海ちゃんを迎えにくる」

「迎えに…?」

突然のことでわけがわからなくなる。

「うん。一緒に住んでるけど、きちんと迎えに行きたいなって思ってる」

「……」

私、うつむいたまま顔をあげられない。

「高校卒業してすぐにってのは無理だけど、お互いちゃんとお金を貯めてからな」

「…考えとく…」

私は小さな声で答えた。

「うん、わかった。江海ちゃんからの返事、急がないからゆっくり考えといてよ」

「ありがとう」

私のことを迎えにくるって言った健吾君。無理だよ。私、人魚だもん。健吾君…私、健吾君との約束守れないよ。

だけど、嫌でも返事はしなくちゃいけない。健吾君の真剣な表情、真剣な声。ホントに私のこと真剣に想ってくれてるんだ。嬉しいよ。嬉しいけど約束は守れないの。健吾君が優しすぎるからホントのことが言えない。

もし、私が人間だったらどうなってた? 「迎えにきてくれるんだ。私、健吾君と一緒になる」って言えてた? 言えてたのに…。私と健吾君は、人魚と人間という関係。一緒になってはいけない関係なんだ。私が人間だったら良かったのに…。


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