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私の気持ちどうしたらいい…?

…オレ、レギュラー降ろされたんだ。骨折した足じゃ試合には出れね―って部活の顧問に言われた…。

健吾君が言ったセリフ。そして、悲しい表情がよみがえる。

健吾君が取ったサッカー部のレギュラー。足が骨折して降ろされた。全治三ヶ月だから仕方ないのかもしれないけど、健吾君の頑張りも無駄になってしまったみたいだよね。次頑張れってなるのかもしれないけど、次があるのなら苦労なんてしない。まだ可能性はあるけど、次レギュラーが取れるかどうかなんてわからない。だからこそ、健吾君は今回の試合のために一生懸命になってたのに…。なんか、すごく悔しいよ…。



「江海どうしたの? 元気ないよ?」

夏子が心配して聞いてくる。

「まぁね」

「健吾が足骨折して、サッカー部のレギュラー降ろされたことでしょ?」

夏子は私の気持ちを読んだように歩み寄ってくる。

「い、いや…それは…」

私ってばごまかしモ―ド入ってるけど、渚と夏子にはバレバレ。

「ごまかしちゃって、健吾のことなんでしょ? 江海は素直じゃないな」

渚は私の頬をつつきながら言う。

この世界に来てから、私ってホントごまかすの得意になったよ。

「心配するのはいいけど、いくら江海が考えたって健吾の足は全治三ヶ月の骨折だし、サッカー部のレギュラー降ろされたことは仕方ないだって」

夏子は呆れた表情で言う。

「そうだけど…」

「健吾は骨折しても元気じゃん。ほら、見てみなよ!」

渚は友達のバスケしている姿を見る健吾君に指を指した。

私は渚の指差す方向を見る。

健吾君、骨折してるからバスケしてる友達の応援係に回ってる。

あ、今の健吾君の笑顔、いい笑顔だよ。健吾君、骨折してるのに普段と変わらない笑顔をみんなに見せてる。骨折して部活のレギュラー降ろされたのに、こんなこと出来ないよね。私、いつも健吾君に勇気づけられてる。元気づけられてる。

「健吾は骨折しても元気だよね。前向きだしさ」

渚は健吾君を見ながら呟く。

「そうだね。健吾見てると、みんな笑顔になっちゃう」

夏子もうなずきながら答える。

「やっぱり私っておせっかいかな? 今だって健吾君の骨折のこと考えてたし…」

「いいんじゃない? そこが江海のいいとこなんだしね。でも、たまにキズだけどね」

夏子は苦笑いしながらも言ってくれる。

「でも、江海は優しいよね」

渚の一言に、私目をパチクリさせちゃった。

「おせっかいだけど、逆に言えば優しいってことになるんじゃないのかな? 上手くは言えないけどね」

「そうかも」

夏子もうなずく。

私、今までそんなこと言われたことなかった。おせっかいだけど優しい。人に言ってもらわないと気付かないことたくさんあるよね。夏子の言うとおり、私ってばおせっかいだから、前向きにおせっかいだけど優しいなんて思ったことなかった。なんでも前向きだよね。




「いって――っ!!」

私は健吾君の部屋に来たんだけど、健吾君、足を動かす度に大声を出すんだよね。

「も〜っ、大声出さないの。骨折してるんだから痛いのは当たり前でしょ」

相変わらず、私ってばおせっかいしてる。

「だってよ―、足を少ししか動かしてないのに痛いじゃん。骨折なんて最悪だよな」

なんて、健吾君、口を尖らせながら可愛いことを言ってる。

「大丈夫よ。三ヶ月もすれば動かすこと出来るよ!」

健吾君を勇気づけちゃってる。

健吾君のそばにいたいから、健吾君と思い出作りたいから、毎日が大切に感じてしまう。みんなと過ごす毎日が残り少ないから、余計に大切に過ごさなきゃって思っちゃうよ。

「なぁ、バドミントン部の試合っていつ?」

「明後日だよ。私は出ないけど渚と夏子は試合に出るよ」

「江海ちゃん、入ったばっかだもんな。しっかり応援してやれよ」

「もちろん。うちの学校が勝って欲しいもん」

「オレもサッカー部が勝って欲しい。今は試合に向けてみんな頑張ってるからな。部活見てるだけだけど、足を骨折させてなかったらオレもあの中にいたのかなって思ってしまうんだよな。でも、これで人生が終わってしまうわけじゃないし気楽にしてるぜ」

無理に笑って言う健吾君。

そんなに無理にしなくてもいいのに…って思ってしまう。

「次の試合に向けて準備万端にしておかないとな」

健吾君の前向きな気持ちに圧倒されてしまうし、尊敬してしまう。すごいよね。私なんて骨折してレギュラー降ろされたってなっただけでも、沈んでしまう。気持ちの切り替えなんて出来ないよ。

やっぱり、健吾君が好きだよ。自分の気持ちがわからないって思ってたけど、好きだって再確認しちゃった。

「江海ちゃん」

自分の気持ちに再確認してしまう私に呼び掛ける健吾君の声に、ドキンと胸が高鳴った。

「今日、オレと寝る?」

「えっ?!」

健吾君の言葉に耳を疑ってビックリしちゃう。

ね、ね、寝るぅぅ?! そんなぁぁぁ…。

「オレはベッドで寝て、江海ちゃんが布団敷いて寝る」

「そ、そう…」

胸をなでおろす私。

「もしかして、違う想像してたりする?」

「しっ…してない! してないってば!!」

私ってば大袈裟に否定してしまう。

「や―い! 江海ちゃんのエッチ―!」

「も―っ! 健吾君!!」

健吾君ってば、誤解を招くようなこと言うんだもん。ビックリしちゃうよ。

「まぁ、オレも誤解を招くような言い方したから悪いんだけどな」

「いいの、いいの。私も変なふうに受け取ったからね」

そう言いながら、私は自分の高鳴る鼓動を押さえていた。






健吾君の部屋、私は窓を開けて風か吹く中、夜の空を眺めていた。

一日一日、過ぎていくのは早いよね。この前、人間になってこの世界に来たばかりなのに…。渚や夏子は、私が人間になる前から健吾君の色んなことを知っている。当たり前だけど色んなことを知っている。人魚に戻る前に、健吾君のことを知りたい。些細なことでも知りたいよ。近くにいるのにあまり知らないことが多い。

そう思ったら、チクンと胸が痛んだ。

私、いつまで健吾君の家にいるの? 早く出ていかないと、邪魔になってしまう。私が人魚に戻れる魔法は、「私は人魚なんだ」って言うこと――。人魚に戻ってしまう時にキチンと言おう。

でも、人魚に戻ったら、健吾君に対する気持ちはどうするの? 人魚に戻ったら好きという気持ちは消えてしまうの? どうせなら、消えてくれたほうがいい。いつまでもズルズルと引きずるよりかはマシだよ。

「江海ちゃん、早く寝ようぜ。明日も学校だしな」

健吾君が夜の空を眺めている私に声をかけてくれる。

「あ、うん。そうだね」

窓のドアを閉めて、健吾君がベッドに入る姿を見つめる。

こんなに健吾君が好きなのにな。私…どうしたらいい?


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