心配する気持ち
どうして? どうしてなの? 渚に限って自殺未遂だなんて…信じられないよ…!
「どこの病院に入院してるの?」
「駅近くの病院よ」
「みんなで行ってみる?」
夏子が言う。
「行ってどうなるんだよ?」
「そうだぜ。いってもアイツが助かるとでも思ってんのかよ?」
男子がブ―イング言ってる。
確かにそうだけど…渚の状態が気になるよ。
「そんなこと言ったって渚は私達の友達だもん! 行って、少しでも側にいたいんだもん!」
「別に今じゃなくてもいいだろ?」
「私達は待てないの!」
「何言ってんだよ?!」
私のクラス、ケンカになってる。
「とにかく、落ち着いてよ」
学級委員の女子が、みんなをなだめる。
「私達、女子だけでも行こうよ!」
女子の一人が言い出す。
「そうね。行こう!」
夏子も意を決したように言った。
そして、私達女子は病院へと向かうことにした。
「あ、コラ! 君達!」
廊下で先生とすれ違うと、先生が呼び止める。
だけど、私達はおかまいなし。
「きっと彼のことだと思うの」
「え…?」
「この前言ってたじゃない? 彼に別れて欲しいって言われたって…」
夏子は走りながら私に小さな声で言う。
「私も夏子と同じこと思ってたよ」
まだわかんないけど、彼のことだったら、彼のこと思い出させないようにしなくちゃ。だって、また自殺未遂なんてしたら、私嫌だもん。
駅の近くの病院、渚と面会出来なくて、部屋の前でいる。今の私達には助かるようにって祈ることしか出来ないよ。
渚、自殺しようと決めた時、刃物を持った時、一体、何を考えてたの? やっぱり彼のこと? 彼に好きな人が出来たのが、自殺しようと決めた原因? 渚、教えてよ。渚が抱えてる悩み、自殺しようと決めた理由、教えて欲しいよ。
「渚、どうなっちゃうんだろうね」
一人の女子が呟く。
「そうだね。渚と面会出来ないなんて…」
別の女子が今にも泣きそうな声で答える。
そう、渚は今面会出来なくて、部屋の前にいるしか出来ない。
「私達がいてて、何も出来なかった」
「悩み事とかあれば言ってくれたら良かったのに…」
「江海と夏子は何か聞いてない? 一番近くにいてるからどうかな?」
「彼氏に好きな人が出来て別れてくれって言われたみたいよ。それ以外は何も聞いてないけど…。ねっ、江海?」
夏子は私に同意を求めるように聞いてくる。
「うん…きっと彼氏と別れたことで悩んでなんだと思うの」
「きっとそうだよ。そのことで渚…」
暗く響いている私達の声。
神様、どうか渚を助けてあげて…。
病院から出て、みんなでトボトボと学校に戻る。
「渚のお母さん、泣いてた。どう声かけていいのかわからなかったよ」
「そうだね。まさか、自殺するなんて思わないもん」
あの後、渚のお母さんが来て狂ったように泣いてた。渚のお母さんの気持ちわかるよ。私達だって渚がこんなことになって辛いもん。友達だからこんなに辛いんだから、自分の親とか兄弟だったらよっぽどだもん。なんとか、助かって欲しいよ。
教室に戻ると、先生が教室の前で怒りながら立ってた。
「君達どこに行ってたのかね?」
先生は私達を睨みながら聞いてくる。
「す、すいません」
思わず、ペコッと頭を下げて謝ってしまう。
「頭を下げて謝れなんて言ってないんだ! どこに行ってたかを聞いているんだ!」
私達を怒鳴りつける先生。
「西村さんが自殺未遂して入院したって聞いたんで、病院に行っていました」
学級委員の女子が代表で答えてくれる。
「病院なんて誰が行っていいなんて言った?!!」
先生の怒りは頂点に達して、先生の大声が廊下にすごく響いている。
「同じクラスとして心配だったんで…」
「そんなもの帰りに行けばいいことだ!」
「ホントにすいません」
「もういい…。席につけ! もうすぐで教科担当の先生が来るから、用意をして待っているように!」
ピシャリと言って、先生は教室を出ていった。
ふぅ…ビックリしちゃったな。あんなに怒らなくてもいいのに…。
先生が出ていった後、男子が、
「どうだった?」
心配そうに聞いてきた。
「面会出来なかった」
「大丈夫なんだよな?」
「今のところはなんとも…」
「そっか。助かるといいな」
男子達がさっきとは違う、心配そうにしている。
健吾君も心配しているのがよくわかる。当たり前だけど同じクラスだから、心配してるんだよね。
渚、助かって早く元気になってよ。元気な渚に会いたいもん。そして、夏子と一緒に三人でテニス部でテニスしたいよ。私、テニスまだまだ下手だから、渚と夏子に教えてもらいたい。無事を祈ってるね、渚…。
渚が自殺未遂の事件から、二週間が経った。渚は元気になって退院して、昨日やっと学校に来れるようになったの。
「江海、夏子、食堂行こうよ」
昼休み、二人を食堂に誘う渚。
渚、気持ち的にはしんどいみたいだけど、前より明るくなった感じ。彼のこと吹っ切って、入院中に会って、彼ときちんと話し合って別れ話もしたみたい。「前から別れようと思ってたんだよね―」って、明るく言ってるけど、渚の心の傷はまだ直ってないんだよね。そんなことわかっているから、明るく振る舞う渚を見てて、余計に辛くなるよ。
「ねぇ、健吾とはどうなの?」
渚がカレーライスを食べながら聞いてくる。
「進展なんてないよ」
「え―っ、つまんないな―」
「つまんないって言われても…」
「キライになったとかじゃないよね?」
夏子は聞いてくる。
「そんなことないよ」
さらりと答える私。
キライになったわけじゃないけど、渚のことでいっぱいだったから健吾君どころじゃなかったよ。だって、渚が自殺未遂したって聞いた時、ショックだった。体の力が抜けていくような、地球が潰れていくような、いっぱいいっぱいショックだった。だから、渚が元気になって嬉しかった。渚のことが心配だったから、健吾君が好きだという気持ちどころじゃなかった。
「でも、二人は同じ気持ちなのに付き合わないの?」
渚は首をかしげて聞いてくる。
「わかんない。付き合うの怖いのかな…? 自分の中で気付かないうちにそう思っているのかもしれない」
食べる手を止めて答える。
「何も怖くないよ。確かに自分が何気なくそう思ってるだけかもしれないけどね」
夏子はうなずきながら言う。
「付き合うかどうかは、二人次第ってことか。私達がどうこう言っても仕方ないもんね」
「そうだよね。江海、応援してるから何かあったら言ってよ」
渚はウィンクする。
「ありがとう、悩みがあったらすぐに渚と夏子に言うからね」
私も渚と夏子にウィンクをした。