再びの再会、そして渚が…
シ―ナ女王と再会してから、一週間がたった。
なんだか、あっという間だったような気がする。一日が目まぐるしく過ぎていくから、人間でいられる残りの日々がすぐ終わっていくよね。健吾君に自分の気持ちを伝えなきゃダメだよね。私に残された日は少ないからなんとかしなきゃ、だよね。
夕方六時前、部活が終わる時間が一緒だったから健吾君と二人で帰る。
「寒いね」
「うん。寒すぎだし!」
今日は風がキツくて、一日中寒かったんだ。
「もうすぐで家だし、走って帰ろうぜ!」
「え〜〜っ」
不満たっぷり私。
「そんなに不満そうにすんなよ。こんな寒い中、ゆっくり歩いてられるかよ!
「そうだけどォ…」
「じゃっ、決定だな」
そう言うと、健吾君はタタタッと走っていく。
私も健吾君の後を追いかけるように走る。
健吾君、走るの早いんだ。もう私より、十m先にいる。
ゼィハァ…ゼィハァ…。
必死に健吾君に追いつこうとするけど、一向に追いつかない。
「健吾く―ん、待ってよ―」
「早く来いよ―っ」
私のペースで走ってもらおうって思ったんだけど、健吾君はどんどん前に進んでいく。
し、しんどいよ―。やっぱり、健吾君にゆっくり走ってもらおうっていうのは無理だったな。制服に鞄も持ってるから余計に走りづらい。ジャージだったらもう少し早く走れてたかも。
やっと家について、私は玄関の前でしゃがみこんじゃう。
「け、健吾君…走るの…早いんだから…」
息切れしながら、健吾君に文句言っちゃう。
「大丈夫か?」
健吾君はなんともなさげに、真顔で聞いてくる。
「だ、大丈夫なわけないってば…」
「なんだか死にそうになってるけど…?」
「そう…?」
「うん。あれだけで息切れするとは、江海ちゃんもまだまだだな」
健吾君はケラケラ笑いながら言う。
「あれだけって言っても結構、距離あったよ?」
「そうか? そんなに距離なかったって…」
「あったよ〜」
私は頬をふくらませて言う。
「とにかく、中入ろうぜ」
「そだね」
夕食も終わり、お風呂も入って自分の部屋のベッドにバタンと寝転がった私。
健吾君ってば、走るの早いな。サッカー部で走ってるから走り慣れてるのかな? 私はこの世界に来るまで水中の生活してたから、走るのは苦手なんだよね。
人魚の世界はどうなってるんだろ? みんな、私のことを思い出してくれてるかな? 人魚に戻ったら、この生活のことたくさん話さなきゃ。健吾君のことや夏子、渚のこと。コンサートに行ったことやテストがあったこと。どれも思い出だよ。自分の思い出を、自分の中に焼き付けていく。三ヶ月はあっという間だから、ちゃんと思い出を大切に焼き付けなきゃね。
パァァァァ…。
再び、目の前が明るくなる。
うっ…まぶしい…。
そう思った瞬間、シ―ナ女王が私の目の前にいた。
「シ―ナ女王っ!!」
「江海、あれからどうですか?」
「私、健吾君のこと頑張るって決めたの。ここで諦めたくない、後悔したくないって思ったから…」
素直に今の気持ちを答える私。
「そうですか…。私は江海の恋を応援してますよ」
シ―ナ女王は優しく微笑んで言ってくれる。
「ありがとう。そういえば、みんなどうしてる? 元気にしてる?」
「みんな、元気よ。江海に会いたいって言ってるわ」
「そっか…。残り少ない生活楽しく過ごして、みんなに報告しなきゃ」
「そうですね。健吾って子にも気持ちを伝えないとね」
「伝えなくても私の気持ち知ってるよ。知らないのは、私の正体だけ」
「正体、知られてないのね」
シ―ナ女王、ホッとしている。
「シ―ナ女王ってどうやって出てきてるの?」
突発的な私の質問に、シ―ナ女王は少し困ったしちゃってる。
変な質問しちゃったかな?
「ごめんなさい。答えられなかったらいいんです」
慌てて謝る私。
「いいのよ。私が出てこれるのは、江海のことを思っているからよ」
「どういうことですか?」
「江海は危なっかしいから不安なのよ。それで心配になってたのよ」
なんだか、胸を撫で下ろしてしまった。
シ―ナ女王の言うとおりかもしれないな。言い返す言葉もないよ。でも、毎日、私のこと思ってくれてるなんて嬉しいな。そう思ったら、涙が出てちゃった。
「どうしたの? 江海」
「ううん、なんでもないんです」
私は慌てて涙をふく。
「あと一ヶ月半だけど頑張るのよ」
「はい、頑張ります」
そう、今は頑張るしか出来ない。みんなのためにも、自分のためにも、やるだけはやっていかなきゃ。
「それでは、私は戻るわね」
そう言うと、シ―ナ女王は行ってしまった。
「江海ちゃん…?」
「あ、うん?」
健吾君が私の部屋をのぞきこみながら、私のほうを見る。
もしかして…今の聞かれてた?!
「今、話し声聞こえたけど…」
ヤ、ヤバい…?!
「ケ―タイで電話中だった?」
「あ、うん。北海道の友達と話してて…」
思いついたウソを言っちゃう。
「そっか、そっか」
「何か用?」
「予習って英語だけだったよな?」
「それと、国語の漢字プリント二枚あるよ」
「げっ? そうだったっけ?」
健吾君、忘れてたっていう表情をする。
「うん。明日、提出日だよ」
「マジかよ。オレ、やってね―。今からやらなきゃ」
絶望的になる健吾君。
「実は、私もやってないんだ」
「良かった。…って、そんなノンキにしてんだよ?! 江海ちゃんってマイペースだよなぁ…」
苦笑いしながら言う健吾君。
「健吾君に聞かれて、今思い出したの」
「部屋戻って急いでやるな」
私も国語の漢字プリントやらなきゃ。完全に忘れてたよ。二枚あるからヤだな。意外に一枚に書く量がハンパないんだよね。国語は六限目だし、今日出来なかった分は明日の休み時間にでもやろうかな。仕方ないな、一枚だけでもやらなきゃ。ただでさえ、一枚の漢字プリント書く量がハンパないのにどうすりゃいいの?って感じだよ。
翌日、眠くて仕方ない私。
あれから夜中一時過ぎまでかかって漢字プリントやってたの。二枚目の途中までやってたんだけど、睡魔が襲ってきちゃって、書くのやめちゃった。
「江海、漢字プリントやってきた?」
夏子が聞いてくる。
「二枚目の途中までやったよ」
「私も二枚目の途中までやったよ。六限目まで時間あるし、十分出来るか。渚はやってきた?」
「私は二枚やってきたよ」
ちゃんと答えてくるけど、なんか暗い渚。
何かあったのかな?
はぁ…。
え…? このため息は私のじゃない。渚がため息ついてる。やっぱり何かあったのかな? 一体、どうしたのかな?
一限目が終わって休憩時間、私の机に夏子と渚が来る。
「渚、どうしたの? 朝から元気ないよ?」
夏子が渚に心配そうに聞く。
夏子も私と同じこと思ってたんだ。
「なんでもない」
「ウソ。何かあるよ」
夏子ははっきりと渚に言うの。
渚は意を決したように、
「実はね…」
重い口を開いて、話をしてくれた。
「…そうだったんだ」
私は何もアドバイス出来ないでいる。
渚の話は、彼に好きな人が出来て、別れて欲しいって言われたそうなの。
「好きな人って誰なの?」
「誰か知らない。彼と同じ学校の子みたい」
余計に暗くなっちゃう渚。
「で、別れたの?」
「うん。好きな人出来たって言われたら仕方ないかなって…」
渚は無理に笑顔しながら答えてくれる。
違う学校の彼だと大変だよね。彼の学校の学校生活わかんないから余計に不安になるからね。私と健吾君は、同じ学校で同じクラスだから、今のところ大丈夫だけど、大丈夫だって思ってるだけじゃダメなんだよね。
「渚、辛いかも知れないけど私に何かあったら言ってよ」
「そうよ。友達なんだしさ」
「ありがとう。そうだ、アイスクリーム屋さんに行かない? 私、彼のこと忘れなきゃね」
「渚…」
「今日は私のオゴリね。二人に話聞いてもらったから」
カラ元気の渚。
今の私には、カラ元気にしてる渚をみるのが辛い。
三人でアイスクリーム食べて、楽しく過ごさなくちゃね。渚には辛い想いしちゃったもん。失恋から立ち直って、早く渚に元気になって欲しいもん。
「今日は楽しかったね。なんだか、渚も元気になったみたい」
夏子は笑顔で言う。
「そうそう。ゆっくりでいいから、失恋から立ち直ってよ」
「二人共、ありがとう。私、絶対に立ち直るからね」
渚はうなずきながら言ってくれる。
渚も元気になったみたいだし良かったよ。やっぱり友達は笑顔でいてくれなきゃ。そのほうが嬉しいもん。ホントに――。
翌日の朝、いつものように学校に登校する。
夏子は来てるけど、渚はまだ来てない。いつもは学校にはついてる時間なのに。まだ立ち直ってなかったのかな? 私が勝手に立ち直ったって思ってただけなのかな? 心配になってきちゃうけど、失恋を理由にしてたらダメだよね。寝坊したとか他の理由があるかもしれないしね。
「みんな、大変っ!」
私が夏子におはようって声かけた瞬間、クラスの女子が息を切らせて教室に入ってきた。
「どうしたのよ? 何かあったの?」
ただならぬことを察して、夏子がクラスの女子に聞く。
「渚が…渚が…自殺未遂しちゃったの!!」
「ええ―――――――っっ?!」
クラスのみんな、驚いた声を出す。
私も頭が真っ白になってしまう。
ど、どうしてっ?! どうして渚が自殺未遂なんか…? もしかして…もしかして…彼とのことが原因なの?!