初めてのテスト
私が足をケガして二週間がたった。明日は松葉杖を返しに行く日。足は治ったし、リハビリもしたし、いつもどおりに走れるようになったし、元気満々の私。
足をケガする前の私は、あまり元気なかったのに、足をケガした時から超元気だよ。
ママは勿論、健吾君にも手当てをしてもらったんだ。私ってば浮かれ気味だけど、すごく嬉しかったよ。
「今日からテスト一週間前だ。しっかり勉強しろよ―」
終礼の時間、担任の先生が言う。
「え―っ、ヤダな―」
「この前、中間テストがやったばっかじゃん」
クラスのみんな、ダルイ口調になってる。
私、テストってどんなものがわからない。
「山岡、この学校でのテストは初めてだが、頑張れよ」
「はぁ…」
困惑気味の私。
テスト…一体、どんなもの? 健吾君に聞きたいけど、今更聞けないな。やればわかるんだけど、それまでは緊張だろうな。とりあえず、ちゃんと勉強しなきゃいけないな。
「渚、彼とは上手くいってるの?」
昼休み、夏子がいきなり言うから、私ビックリしちゃった。
「元気だよ」
当然のように渚が言うの。
私のほうは、渚に彼氏ってのが結びつかなくて目をパチクリさせちゃう。
渚に…彼氏…?
私は渚のほうに視線を向けた。
「江海、ビックリした?」
渚ってばニコニコしながら聞いてくる。
「うん…」
「一年前くらいだったかな? 突然、彼に告白されたの」
「へぇ―…」
「違う学校で、渚の近所なんだよね?」
「うん、中学の同級生よ。元々、仲良かったんだ。お互い、部活でなかなか会えないんだけど、二週間に一度は会ってるんだ」
「いっつも仲良いんだから!」
夏子が羨ましがっているのが、よくわかる。
「でも、江海には健吾がいるもんね」
「なっ…なによ…急に…」
自分の顔が赤くなっていく。
「二人、お似合いだと思うな」
「私もそう思う。田崎さんより江海とくっついて欲しいな。田崎さん、健吾のこと尻にしきそうだし、健吾と付き合ってるってだけで自慢しそうなんだもん」
渚は頬を膨らませて言うの。
「それはそうかも…。田崎さん、顔は可愛いけど意外に性格悪いし…。超最悪だね」
夏子も同感している。
「江海、頑張んなさいよ!! 私達はいつでも江海の味方なんだから!!」
渚ってば、妙に力こもってて、思わず、私は勢いよく頷いちゃった。
「早く告白しなきゃ、だよ。田崎さんに取られちゃ嫌だしね」
夏子の言った言葉に、私はハッと胸を突かれたような感じになった。
夏子はただ何気なく言ったのに、私、本気にしちゃってるよ。
「もぅ、夏子、田崎さんに取られちゃうとか言っちゃダメよ。江海、不安になってるじゃない」
「ううん、いいの」
やっとの思いで声を出す。
「江海、ごめんね」
「大丈夫よ」
気にしてないことをアピールする私。
田崎さんかぁ…。最近、会ってないな。まぁ、会いたくもないけど…。あの人と関わるとロクなことがないんだもん。
それに、田崎さんと一緒にいる友達も嫌だなとか思わないのかな? まぁ、友達だからそんなこと思わないか。田崎さんの機嫌取って、どうしたいんだろう? 田崎さんの機嫌取ったからって何もないのにね。ただ友達の輪に入れて欲しいってだけなんだと思う。私が転入してきてから、田崎さんとかかわり合いたくなって人、結構いるよ。誰だって思うことは一緒なんだね。
「江海ちゃん、どう?」
「え?」
「勉強のほう、はかどってる?」
「まぁ…一応…」
化学の教科書を開きながら、ボ―ッとしちゃってたら、健吾君が私の部屋のドアにもたれかかっていたの。
「江海ちゃんは不得意な教科ってある?」
部屋に入ってきながら、私に聞いてくる。
「化学と数学。筆記試験はないけど体育もね」
「ふ―ん…テニス部に入ってんのに体育苦手なんだ?」
「うん、まぁ…」
「へぇー…苦手な教科、頑張ってるんだな」
健吾君、化学の教科書に目をやりながら言う。
「苦手でも勉強しないとね」
「まぁな。苦手でもやらないとな」
「苦手でもやらなきゃいけないのがねぇ…」
ユウウツな表情をする私。
「好きな教科だけってにはいかね―しな。よぉし! 今からオレも頑張らね―とな!」
健吾君、やたら張り切ってる。なんだか、元気でちゃうな。人魚に戻りたくないな。テストが終われば、ちょうど一ヶ月になる。早いよね。
テストの初日、早目に学校に来て勉強する私。すごく必死なの。だって、私の苦手とする化学と数学なんだもん。初日からやんなくてもいいのに…っておもっちゃう。しかも、難しいらしいから、しっかり要点だけは押さえとかなくちゃ。といっても、ホントに難しくて、教科書読んでもよくわかんない。何、書いてんのかわかんない。凄く泣きそうな気分だよ。
「江海、大丈夫?」
夏子が私の席に近付いて聞いてくる。
「うん、まぁ…」
「頑張ろうね」
「お互い頑張ろう」
私達ガッツポ―ズをする。
みんな、テストだから必死。私はとても緊張。ううん、そんなの通り越してるよ。
そんな私をよそに、チャイムが鳴り出す。
う゛―っ、チャイムが鳴っちゃったよ。ドキドキしてきちゃったよ。
こうして、私の初めてのテストが始まったの。不安だけど大丈夫って言い聞かせてるから、なんとかなる…よね?