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人間の世界に行けるよ!

人間の世界――


一度でいいから行ってみたい。

私は人間じゃない。人魚なの。だから人魚の世界に行ってみたいの。

そう、それは私とシ―ナ女王しか知らない二人だけの秘密。

私、江海。性格は明るいほう。なんでも、興味津々になっちゃうから、よく友達に呆れられちゃうの。そんなに呆れなくてもいいのにね。

こんな私だから、人間の世界に憧れちゃう。

人間の世界ってどんなとこかな? 行ってみたいな。


「江海」

大人びてしなやかな声――シ―ナ女王だ。

「なんですか? シ―ナ女王」

私は振り向く。

「今日から三ヶ月間だけ、人間の世界に行ってもいいわ」

シ―ナ女王がゆっくりとした口調で告げた。

え…? 今、人間の世界に行ってもいいって…言ったよね…?

「私が…人間の世界に…?」

私は訳がわからずにいる。

「あなたはいつも頑張っているから私からのご褒美よ。ただ、一つ条件があって、人間の世界では自分が人魚だということは絶対に言ってはなりません。言った時点で、人魚に戻ってしまいます。いいわね?」

シ―ナ女王は一段と険しい表情をしている。

「はい、わかりました」

「あなたの人間の世界での名前は、山岡江海よ。名字がついただけよ」

うわぁ…。名字がついてる…。

「ありがとうございます!」

あまりにも嬉しくて、大声でシ―ナ女王にお礼を言ってしまう私。「いいのよ」

シ―ナ女王は少し苦笑いしている。

「やったじゃない! 江海!」

友達が私の周りに寄ってきて祝福してくれる。

「みんな、ありがとう!」

「人間の世界で頑張ってね! 帰って来たら話聞かせてよね!」

みんなニコニコしている。

私は嬉しくて思わず涙が溢れてしまっている。

「江海、何泣いてんのよ?!」

「だって…だって…」

言葉につまってしまう私。

嬉しいんだもん。なにもかもが初めてだけど、人間の世界で頑張るよ。期待は勿論、不安もたくさんあるけど、きっとこれからの三ヶ月間には、言葉にはならないような楽しいことが待ってると思う。私、三ヶ月間、頑張るよ!



シ―ナ女王の「人間になっていい」って告げられてから、何時間ぐらい経ったんだろう。

私はいきなり気が遠くなって、目の前の物が見えなくなっちゃったんだ。

私、どうしたんだろ…?

一体、何が起きちゃったの?

なんか、身体が冷たい。

ドックン…ドックン…

私の鼓動、とても大きい。しかも、私の体、なんか動いてる。うっすらだけど、誰かが私の体を持ち上げて動かしているのがわかる。

一体、誰なの? 恐いよ〜〜っ! シ―ナ女王、どうしよう…。もう泣きそう。

自分の体が持ち上げられてるのがわかると、一気に人魚の世界に戻りたくなった私。

声がでない。誰か助けて。

ドックン…ドックン…

心臓が飛び出そう。

う―、やっぱり「人間の世界に行きたい」なぁんて、ノンキなこと言うんじゃなかった。そして、人魚の友達に嬉しそうにするんじゃなかった。

…後悔のうず。今さら後悔しても遅い。遅すぎるよ…。



……。


ガバッ!!

私、勢いよく起きる。

ここはどこ…? 誰かの家みたいだけど…。私、服着てる。足もついてる。

なにもかもが初めてでビックリしちゃう。

江海、落ち着くのよ。

そうこうしているうちに、ガチャッと音がして部屋のドアが開いた。

「あ、起きた?」

「はい…」

「海でさ、ボロボロの服来てずぶ濡れで倒れてたから…」

部屋に入ってきた男の子が言う。

「え――――っ!!!!」

私ってばとても大きな声を出してしまう。

シ―ナ女王、ヒドイよ。ボロボロの服だなんて…。でも、この男の子カッコいい。私のタイプかも…。

「君の名前は?」

「わ、私…?」

「うん」

「私は…山岡…江海…です」

ぎごちなく自分の名前を告げる。

「えみちゃんっていうんだ? どんな字書くの?」

「えはさんずいに片仮名のえ、みは海って書いて、江海。わかるかな」

自信なさげに説明する江海。

「大丈夫、わかるよ。珍しい字なんだね。オレは貝本健吾、よろしくな。で、これからどうすんの?」

「え?」

健吾君の質問に、思わず固まる私。

そういえば、私行くとこなかったんだ。どうしよう…。

「もしかして、行くところなかったりする?」

「うん…」

「どっから来たの?」

健吾君が聞いてくる。

…人間の世界では、自分が人魚だということは絶対に言ってはなりません…。

シ―ナ女王そう言ってた。どう言い訳しよう。健吾君、きっと不思議がってるよね。だって、ボロボロの服でずぶ濡れで海に倒れてたんだもん。きっと…ううん、絶対に不思議がってるよ。変だって思ってる。

「…北海道…」

嘘ついちゃった。

「随分、遠いところから来たんだね」

健吾君は何も疑わずビックリしてる。

「オレんち泊まれよ」

笑顔で言ってくれる。

「…うん…」

私は小さく頷いた。

健吾君…優しいんだ…。こんなに優しいのに、私ってば嘘ついた。一度ついた嘘は後戻りは出来ない。

私、健吾君に嘘ばっかり言ってたら、本当のこと言って、健吾君の前から消えなければいけない。

そんなの嫌。だけど…最終的にはそういうことになっちゃうよね。健吾君の前から消えるのは嫌。だって、私、一瞬で健吾君のこと好きになったんだもん。

たった三ヶ月間だけど、人間の男の子に恋をしたんだ。短い恋だってことはわかってるけど、頑張るしかないんだよね。

うん、頑張らないと、だよね。嘘つきでもいい。この嘘がバレてもいい。私、健吾君が好き。好きになっちゃったから…。

「江海ちゃん? 大丈夫?」

「うん…」

好きだけど三ヶ月しか恋が出来ない。

どうしよう…。


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