第三十話 お見舞い、事情聴取と伝説の魔剣
聖剣や魔剣は飾り
「それで死んでいる間ってどんな感じだったのですか?」
「んー、海の底へ沈んでいくような感じかな? 丁度リースが注射を打ってくれた瞬間だと思うけど、一気に海面まで引き上げられていくような感覚に襲われたよ。多分沈みきってたらやばかっただろうね」
今俺はエレノアとメルダの四時間にも及ぶお説教を終え、ベッドにうつ伏せになり、リースに腕と足をマッサージしてもらってる。流石に生き返ったばかりなのと『万物の再生』の副作用である激痛もあり体の左半分はマトモに動かせない状況だ。
死んでた時間は大体二日程度なのだが、リース達が氷魔法で俺の体を冷凍しておいてくれたおかげで蘇生可能な制限時間も延び、脳細胞の損傷等もないようだ。みんなには感謝しきれない。
「そういえばナタリア様は?」
「ナタリアなら今、城の方にいるはずよ。改めて皇帝陛下に報告するんだって」
何時の間にやらラシエルもナタリア王女のことを呼び捨てで呼んでいるらしい。馴染んでいるようで何よりだ。因みに俺は外でナタリア王女の事を王女を付けず様付けで呼んでいる。気分の問題だ。
そして今現在の俺の服装はオリーブドラブ色のコンバットシャツにコンバットパンツというオシャレのオの字も無いような地味な服装になっている。ギルノディアで着ていた服はマスバリアダンジョンでの一件で血塗れになり洗浄魔法や普通の洗濯でも落ちないということでサイラス共々泣く泣く廃棄処分となった。
「それじゃあヨシヒサ。私達は帝都の魔法ギルドと錬金術ギルドで買い物してくるから大人しくしてなさい」
「了解了解」
そう言うとラシエルやリース達は部屋を出て行く。暫くするとドアがノックされ返事をする間もなく開けられる。
ドアを開けて入ってきたのは何時ものギルドの制服ではなくSSの将校のような黒色の軍服を着た冒険者ギルドのギルノディア支部兼帝国軍機密情報部に所属するウサ耳がトレードマークのルミナさんだった。
「ダンジョンでは災難だったようねヨシヒサ君」
「ええ、それなりの成果は出せましたけど代償は大きかったですね。それで何か御用で?」
「お見舞いと届け物と上に提出する報告書のための事情聴取ね。殿下の馬車が襲撃された事件とダンジョン件とあなたに関してのね」
ルミナは苦笑いでベッドの背もたれに寄り掛かるヨシヒサを舐めるように眺め、手に持っていた鞄から丁寧に封をされた封筒を手渡す。
「……ルミナさん、これは?」
「詳しい内容は知らないけど多分城からの召喚状かもね。それに私の情報網ではあなたは死んだって聞いたんだけどなんで生きてるの?」
訳がわからないといった表情で首を傾げ俺の左腕や足を触診してくるルミナさんに若干ドギマギしつつ事情聴取が始まった。
『万物の再生』とナタリア王女を救出した時に使ったジャベリン対戦車ミサイルのことは誤魔化しつつ適当に話をでっち上げ、ギルノディアで提出し忘れていたミノタウロスの死体も持っている事も説明した。一応出身に関しては東の果てにあるの島国の出身にしてもらっておいた。あながち嘘ではない。
「ふぅん……まぁ、そういうことにしておきましょう。あなたがどういう武器を使うのかという部分と死んだはずのあなたが生きている部分に関してはもう少しこの世界の基準で現実味のある話にして書いておくわ」
「すみません。感謝します」
どうやら武器を誤魔化しているたのはバレバレだったらしい。そりゃ、あれだけ目の前でバンバン撃ってたし今度武器を誤魔化すときは遺跡で見つけた古代の魔導武器とでも言っておいたほうがいいのかもしれない。
「あなたに何かあると殿下は壊れるかあまり良くない方向に行ってしまうかもしれない。それだけは避けたいからね……これぐらいはお安い御用よ。しかし、ミノタウロスにオークとオーガの集団、しかも武器持ちか……突然変異がそいつだけなら良いのだけど他にいるなら軍が討伐隊を編成する事態ね」
そして再び鞄に手を突っ込むとルミナさんは茶色の羊皮紙を取り出してきた。それは俺達がギルノディアの魔法ギルドで受注した例の依頼書だった。
「魔法ギルドと冒険者ギルドで合同で調査した結果、ダンジョンから漏れる魔力の減少量が規定量を上回ったため、貴方達のパーティーが受けていたダンジョン踏破の依頼は完遂されたと冒険者ギルドと魔法ギルドは判断したの。という訳で、依頼の達成という訳ね……おめでとう。それとダンジョンコアがあるならそれも出してくれると追加の報酬が出るわよ」
なんと、ドタバタで完全に忘れていた依頼が達成されたことになっていた。コアを出せばいいみたいなのでインベントリから取り出してルミナさんに見せる。枕脇においてある魔剣のことを聞かれたが正直、魔剣ブレイニブルのことは話そうか悩んだ。しかし今更何かをしてくるような事はないだろうと判断し魔族襲撃の部分は一部脚色を入れて洗いざらい話した。
「なるほどね……あなたが魔剣使いねぇ……しかもブレイニブルか……余程あなたは神か運命の女神に愛されているようね」
「え? ブレイニブルって有名なやつなんですか?」
そう言うとルミナさんはまた信じられないといった顔になりブレイニブルに纏わる話を事細かく教えてくれた。
要約すると大昔の大英雄と言われた女性騎士がこの魔剣ブレイニブルと契約し世界を巡り数々のダンジョンや当時は一人だった魔王と倒したりとそれはもう大活躍していたそうだ。そしてこの剣はその女性騎士と生涯を共にした、彼女の死後剣の所有者問題で揉めるに揉めたため、子孫がどこかに封印したという伝説らしい。
「へぇ……こいつが……」
「伝説の魔剣と契約したのに感想がへぇ……って」
すいません。俺、今普通に聖剣級の性能を持つナイフとドラゴンスレイヤーみたいなふざけた性能を持つナイフ持ってるんです。正直そんな感想しか出ないんです。
「まぁ良いわ。ダンジョンコアの方は城で見せた後魔法ギルドか冒険者ギルドで提出してくれたら問題ないから。この依頼書は置いておくわね。それから手紙、ちゃんと読みなさいよ」
「分かりました」
じゃあね、と言うとルミナさんは鞄を掴んで部屋を出て行く。そして依頼書は放っておくとして渡された封筒を何度もひっくり返しながら眺める。
「城ねぇ……厄介な事にはならないと良いのだけど」
そろそろ勇者君達の動向が気になりますね




