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成り損ない勇者の異世界銃奏乱舞  作者: ディンキー
第四章
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第二十九話 帝都アーウェン、暗闇と奇跡

お待たせしました。

(……暗い……冷たい……ああ、そうか……俺はダンジョンでリースを庇って怪我をして死んだんだっけ……というか死んだはずなのに意識はあるんだな……)


 体は動かず僅かに見える視界には自分の腕と光のさす綺麗な青色の海からゆっくり暗い深海へに沈んでいくのが見える。


(はぁ……多分完全に沈んだら間違いなくアウトなんだろうが、頼むぞ……皆)


 そしてヨシヒサは目を閉じ再び意識は暗闇に溶けて消えてゆく。



「緊急を要するのです! ここを通しなさい!」

「し、しかし殿下、その奇妙な鉄の箱を帝都内に入れるわけには……安全上の問題もありますし……」


 あれから数時間、ラシエルたちが乗ったハンヴィーは無事に帝都へ到着していた。だが、ハンヴィーを危険な魔導具か魔物と思っている帝都へ入る城門の守備兵は帝都内へ頑なに入れようとはしなかった。


「この乗り物は危険ではありません! 何故分かってくれないのですか!」

「ですから……」


 頭の固い守備兵との再びループ状態に入りかけイライラし始めたナタリアは門の向こう側へ視線を移すとこちらへ向かってくる数騎の馬に乗った女騎士を見つけた。そしてそれはナタリア自身が一番良く知っている人物だった。


「ルミリア! ルミリアこっちです!」


 ナタリアが声をあげると門の周辺に居た人々が声の主に目を向けるといつもの豪華なドレスではなく大部分が赤黒く染まった服を着た皇族の姿があり、全員目を丸くしてしまった。そしてそれは声をかけられた女騎士、ルミリアも同じだった。


「なっ!? 殿下! 殿下大丈夫ですか!? お怪我はありませんか?!」

「私は大丈夫ですルミリア。それより早くここを通させてもらえませんか?」


 フリーズ状態から即座に復帰ししたルミリアはナタリアが怪我をしたのかと思い全身をくまなく触診をして一息ついたところでナタリアは守備兵にハンヴィーを通すように指示を出した。


 本来なら帝都守備隊と近衛騎士団とでは管轄も命令系統も違うのだが、ナタリアが関係し急を用する場合のみ管轄や命令系統、果ては階級すら無視できる特権をルミリアは皇帝から直接貰っている。


「それでどうしたのですかその格好は……」

「実は……」


 帝都内に入り徐行運転をするハンヴィーの横を馬に跨がりなから追従してくるルミリアにマスバリアダンジョンであったことを話す。


「そうですか……そのことは陛下も?」

「いえ、ギルノディアには戻らず直接こっちに来ましたのでお父様にはまだ……」


 ルミリアは取り敢えず皇族がよく使う超高級ホテルに向かうことにした。ルミリア達の格好もあるがこのハンヴィーもかなり目立つので無用の混乱や噂などを避けるためだ。


「それでは、御用があればいつでもお呼びください」


 初老の支配人が部屋から出るとルミリア達は担架からベッドに移され横たわっているヨシヒサを改めて見る。切断された左腕と左膝の傷は既に出血は止まっていて傷口に当てられている布を赤黒く変色させている。


「それでどうされるのですか殿下」

「私は城に戻ってお父様に報告と秘薬エリクサーの使用許可を申請します」


 秘薬エリクサー、帝国の建国当時から国宝級の希少な薬で灰になった者ですら一滴垂らせばたちまち元に戻ると言われている伝説の薬である。無論、数も少なく皇帝ですらそれ相応の理由もなく使うことは許されない。


「私達はここでヨシヒサの体の維持と世話、持ち物から何かわからないか調べるわ」

「お願いしますラシエルさん」


 ナタリアは城から持ってきたドレスに着替え、ルミリアと共に部屋を出る。そして部屋に残った五人はホテルの厩舎に止めたハンヴィーから下ろしたヨシヒサのバックパック、腰のベルトやサイラスに装着されていた幾つものポーチ類を取り外し中身を慎重に取り出していく。


「色々なものが入っているんですね……」


 リースが持っているのは左腰のついていたポーチに入っていた軍用のフラッシュライトとペンチ、ボールペン、耐水加工されたメモ帳だ。それらを丁寧に部屋の中央にある大きなテーブルに並べてゆく。


 それから2時間ほどかけてバックパックの中にあるメンテナンスキット、予備の弾薬、パッケージングされたままのC‐4爆薬と小さなケースに入れられた信管、M18クレイモア対人地雷、起爆装置、メディカルキット、レーション、ミネラルウォーターのボトルなどを丁寧に並べ手がかりになりそうなものがないか探してゆく。


「……? これは一体……?」

「どうしたのエレノア」


 エレノアが取り出したのは右腰のベルトに装着されていたオリーブドラブ色のポーチに入っていた丁寧に布に包まれた長方形のグレーの箱だった。しかし、二人は箱を開けずに机の上において元の作業に戻ってしまう。


「取り敢えずそれは置いておきましょう」

「分かりました」


 サイラスのポーチに入っていたM67グレネードを机の上で指で転がしながらテーブルに広げられた装備品の数々を見て五人は唸る。元々異世界から来たとはいえ普通の学生だったラシエルや剣や銃器関してはヨシヒサが教えたので多少の知識があるリース達でも机の上に広げられたC‐4爆薬や起爆装置などの用途は分からなかった。


「広げてみたものの、何をどう使うのかさっぱりわからないわね……」

「そうですね。でもアリシアの加護を受けたナイフと二本と魔剣ブレイニブルに関しては残念ながら死者の蘇生は不可能でしたね?」

「うん。与えられたのはあくまで武器としての加護だけだから……」


 三人があーでもないこーでもないと議論している内に奥のバーからお盆の上にティーカップとお菓子を乗せたエレノアとメルダが出てきた。


「皆様、お茶とお菓子の用意ができました。ここで一休みいたしましょう」

「お、お茶は熱いので気をつけてください!」


 どんよりとした空気が少し和らぎ広げられた装備品を端に寄せて各々好きな席に座る。


「あら……この紅茶美味しいですね……それに疲労が少しずつ抜けていくような……エレノア、この紅茶に使っている茶葉は普通と違いますね?」

「ありがとうございますリース様。茶葉はギルノディアの魔法ギルドで購入した疲労が抜ける薬草をブレンドした紅茶になります」


 しばらくまったりしているとバン! と扉が乱暴に開けられる。扉から入ってきたのは城に行っていたナタリアだった。そしてひどくご立腹の様子だ。


「お父様のわからず屋! ヨシヒサ様が皇族を救い帝国の国益に叶う働きをしたと言っているのに何が国家存亡の危機でもなければ帝国の民ではない者にエリクサーは使えないですか! ヨシヒサ様がお持ちになっているダンジョンコアがあれば困窮気味の財政だって立て直せますのに!」

「落ち着きなさいナタリア、座ってお茶を飲んで深呼吸しなさい」


 ナタリアはリースの言葉に従い椅子に座りエレノアが入れた紅茶を一口すすり深呼吸した後、大きなため息をつく。その顔はひどく疲れているようだった。


「ナタリア、一体城で何があったの?」

「あの後、城に行きお父様に今までのことを全て包み隠さず報告しダンジョンでの功績、ダンジョンコアのことなどを伝え、秘薬エリクサーの使用をお願いしたのですがヨシヒサ様が帝国の民ではないと言うと突然ダメだと仰られたのです……」


 俯き薄っすらと涙を浮かべるエレノアに誰もすぐには声をかけられなかった。


「また政治ね……確かに国の危機が訪れているわけでもない現状、皇帝ですらおいそれと使えないエリクサーを帝国の民でもなければ名の通った英雄でもない表向きはただの冒険者のヨシヒサに使わせたなんて知れたらこの国の貴族からの反発は避けられないでしょうね……」

「交渉材料となる肝心のダンジョンコアもヨシヒサが持ったままですし……困りましたね……」


 実は魔剣と契約した際に入手したダンジョンコアはミルダリアンの襲撃直前にインベントリに放り込まれてたりする。


「ラシエル様の勇者としての称号を使うことは出来ないのでしょうか?」

「残念ながらそれは難しいわね。流石にいくら勇者だからといって他国の秘薬を要求なんてしたら色々と……ね」

「そうですか……すみません」


 若干悔しそうな顔ををするラシエルに謝罪をしたナタリアはリースの方に向き直る。


「それで、ヨシヒサ様の持ち物から何かヒントになるようなものはありましたか?」

「いえ、全然見つかりません……正確には用途不明のものが多すぎて」


 椅子から立ち上がり机の端に寄せられた装備品の数々を眺めるラシエル。そしてふと目に布に包まれた長方形のグレー箱を手に取りリース達にこの箱が何かを尋ねる。


「ねぇリース。この箱の中身は調べた?」

「いえ、それはまだですね」


 布を外して箱を開けると中には緑色の液体が封入された15cmほどのペン型の注射器が入っていた。


 それはヨシヒサが緊急時にいつでも使えるようにと幾つか召喚をして常に携帯していたチート級の回復薬『万物の再生』の溶液がはいった注射器だ。


「……!? これはまさか……?」


 信じられないといった顔で両手で口を抑えるリース、全身が震え泣きそうになっているラシエルやアリシア、エレノア、メルダは皆一様にギルノディアに向かう際にヨシヒサと交わしていた言葉を思い出す。


『ああこれ? 万物の再生っていうやつで四肢の欠損から死者の蘇生まで何でもできるやつらしいよ』


 死者の蘇生、その言葉を思い出したナタリアを除く全員、特にリースは半泣き状態でラシエルからひったくるように注射器の一本を取り上げ、ベットで寝ているヨシヒサに駆け寄り体が傷まないようにかけていた氷魔法を解除する。


 インフェルニダンジョンで教えてもらった通り、キャップを外し注射器の針を冷たくなり血の気のない真っ白な右腕に刺す。そしてピストンを押し込む。


「お願いしますお願いします神様どうかお願いします……」


 中身の無くなった注射器をベッドの脇のテーブルに置き、リースはヨシヒサの右手を握りつぶやくように祈り続ける。それはラシエルやアリシア、エレノア、メルダ、そしてナタリアも同じだった。


 注射をしてから二分が経とうかとしたその時、ヨシヒサの体、正確には切断された左腕と左膝の部分が淡く青色に発光する光の粒子に包まれる。そして光の粒子の帯がつま先と手の先があった方へ伸び一際強く発光したかと思うと、突然光は消え光の粒子が包んでいた場所には真新しい腕と足があった。


「ぐっ……ゲッ、ゲホッゲホッ……クソ……最高の目覚めとは行かないか……ん……?よぉリース、それにラシエルも大丈夫か?」


 青白かった体はいつの間にか赤みを増し冷たかった体温も今では暖かさを取り戻していた。


「ヨ、ヨシヒサ! 生き返ったのですね! 本当に貴方なんですね!? うう……うわぁぁぁぁぁぁ!」

「痛い痛い! そんな強く抱きつかなくても大丈夫だって!」


 ヨシヒサは苦笑しながら抱きつき号泣するリースの頭を優しく撫でる。ふと横を見ると目の端で涙を浮かべ顔をくしゃくしゃにしたラシエル、アリシア、エレノア、メルダ、そしてナタリアの姿があった。


「みんなただいま。そして助けてくれてありがとう。」


「……ッ、ヨシヒサ!」

「ヨシヒサさん!」

「旦那様!」

「ご主人様!」 

「ヨシヒサ様!」


 ヨシヒサのその言葉を合図にラシエル達は耐え切れず我先にとヨシヒサに抱きつく。その日は全員ベッドの上で一日中泣いた。

 主人公復活! 今回は番外編を連続で投稿しているのでそちらも良ければご覧ください!




 三十話は頑張って早めに書きます(震え小声)

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