第二話 成り損ない勇者爆誕、そして引っ越しと昔話
今回は少し短いかもしれません。
朝になり、メイドさんに起こされて朝食のために食堂に来たが……超がつくぐらい広い。
どれぐらい広いかというと学校の体育館がすっぽり入りきってしまうほど広いのだ。
朝食を食べようと席に向かうと昨日そこそこ仲良くなった銀髪紅瞳の美少女、ラシエルがこっちに来た。
「あ、ヨシヒサ! おはよー。よく眠れた……ってその服どうしたの? 昨日来ていた制服とは違うみたいだけど」
彼女なら信頼できそうだし能力……スキルとでも呼ぶか。そのことを多少話しても構わないだろう。
「ああ、この服は俺のスキルで出したんだよ。この話は内緒にして欲しいんだがいいか?」
ラシエルは頷くとこっちに引っ付いてきた。色々柔らかい部分と女の子特有のいい匂いが堪能出来て最高でした。
「実は俺のスキルは召喚でな、詳しいことはまだ話せないんだが、俺の知識であるものなら一通り召喚できると思う」
「じゃあ服とかも?」
「無論。ただし、女の子向けの可愛いのはちょっと無理だな。出せるのはすべてミリタリー系の物しか不可能だな」
実際、服や装備品の欄を見ていても女性物もあることにはあったが、ラインナップは悲惨で特に柄や色が迷彩か黒かカーキ色という残念な感じになっている。
とてもではないがオシャレとはいえないだろう。
「じゃあ、後で貴方の部屋に行ってもいいかしら ?色々見せて欲しいし、この世界の服も悪くはないんだけどやっぱり慣れなくて・・・お礼はするから私の分も召喚してくれないかしら?」
上目遣いとか反則だろ……まぁ、美少女にここまで言われて悪い気はしないので承諾する。
「いいよ。じゃあ朝食が終わったら俺の部屋に来てくれる? 用意はしておくから」
「分かった。じゃあ一緒に朝ご飯食べましょう」
周りの男達(一部に女性も含む)から殺意と嫉妬などの感情が込められた視線が突き刺さるが、無視だ無視。余計なことに首を突っ込むのは御免被りたい。
その後、ラシエルは俺の用意した服やベスト、コンバットグローブやブーツを気に入り、銃などにも興味を示したが、危険なので訓練が始まるまでは触る以外のことをさせないようにした。
召喚から3日が経ち、召喚された俺達は全員魔眼石というデカイ翡翠色の台形の石に触れて適性検査を受けた。
その間にも俺の服装が変わっていることなどを不審に思っている人間が数人居たが、勇者組は初めて見るものばかりで興奮気味で俺のことなどすぐ興味をなくしメイドさんや騎士の人たちに群がっていた。
検査の結果、当然のごとく俺に勇者としての適性がないと判定された。ラシエルは俺が落ち込んでると思ったらしく、慰めてくれたが他の連中……特にうちのクラスメイト達は完全に俺のこと見下していた。
彼らは勇者としての適性の他に聖騎士や大魔術師など複数の称号と適正を持っていてそれに合わせた身体能力も付属している。
一方俺は表向きには普通の一般市民程度の身体能力程度しかなく、魔法も弓も剣も扱えるわけではないから役立たず、というわけだ。
結局、王様や国のお偉方さん達が4日ほど会議室的な場所で話し合っているみたいだが埒が明かないようだ。
更に2日間話し合われた結果、俺は異世界の武器・・・銃や現代兵器を使えることを秘匿したまま他の勇者と差別化をさせるために王城の敷地内にある馬小屋に引っ越しをすることになった。
「馬小屋と言っても結構綺麗なもんだな、てっきり馬糞と使い古しの藁が山積みになってのかと思った」
新居の馬小屋に入り寝る場所などをチェックしたり掃除しているとラシエルが遊びに来た。
「ひどい場所ね」
美少女からの開口一番の言葉がこれである。
「ま、まぁ城の中と比べたらひどいのは認めるが住めば都って言う言葉もあるしなんとかなるだろ」
住めないなら住めるように努力すべし、これは高校二年の夏休みに親父に旅行という名で強制連行と言うか拉致されて参加した軍主催の特殊部隊式サマーキャンプ……所謂普段から地獄のような訓練を受け、実戦を経験している方々と共に、1ヶ月と5日間南米大陸のジャングルや南極、果ては中東の砂漠やヒマラヤ山脈などでサバイバル生活をして覚えた言葉だ。
寝る場所も自分で作り、ジャングルを60kgの荷物を背負って70km歩き通し、寝るときは地面に穴を掘ってその中や木にもたれて一夜を明かすなんてのはザラだった。無論宿題も制作系などは同行してくれた軍の人と共にしたがワーク類はしっかりサバイバル生活中に仕上げて答え合わせもしておいた。
エンリケス曹長とお髭が自慢のマクシミリアン中尉、本当にありがとう。爆破して吹き飛んだ木の太めの幹を休憩中にナイフで削った木彫のカップは大人気でした。
この時の教訓を活かして、現在馬小屋を住みやすい場所にリフォームしている。
と言っても寝袋や簡易机や座布団、照明器具などを召喚して設置するだけのだが。
「よし、これで一通り終了かな……ラシエルも一緒にお茶するか?」
「ぜひ」
タブレットからインスタントの紅茶とコンロと小さめの鍋とミネラルウォーターを出してお湯を沸かし茶葉を入れ金属製の飾りっけないカップに沸かした熱々の紅茶をそそぐ。
本日の付け合せは少しパサついた軍用ビスケットだ。
ラシエル嬢とともに馬小屋の外でのんびりティータイム……第三者視点から見ればシュールな事この上ないだろう。
そして、今回行われた俺の馬小屋への引っ越しは、教会の大司教がゴネ続けた結果らしい。
異世界でも元の世界でも政治に宗教が絡むと色々面倒なことになるのは変わらないらしい。
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