第二十八話 マスバリアダンジョン攻略 後編
最後に若干のグロがありますのでご注意ください。
「ああ……またか……全員居るか! 無事だったら返事しろ!」
「大丈夫よ。転移酔いってきついわね……」
「私も大丈夫です。ヨシヒサは大丈夫ですか?」
「私も大丈夫だよ―」
「私とメルダも無事です旦那様。ほらメルダ、水を飲みなさい」
「うぅ……気持ち悪です……」
「これが転移! 物語でよく出てきた転移の罠ですか!」
どうやら全員無事のようだ。ナタリア王女も元気いっぱいのようで何よりだ。
「それでヨシヒサ、ここはどこなのですか」
リースから水筒を受け取りつつ取り出した端末をタブレットモードに変更して『MAP』のアプリを起こし『タクニカルマップ』を表示させる。普通ならここもソナーの範囲内なのですべて表示されるはずなのだが。
「あれ? おかしいな……何も表示されん……バグったわけじゃなさそうだし……もしかしてソナーの範囲外まで転移させられたのかね」
「あら本当ですね」
改めて見回すとコロッセオのような形をした場所だ。高さや広さもかなりありインフェルニエダンジョンの最後の部屋の倍はある。
「一度ソナーを打ってみるか」
早速『ソナー』を打ち、音の波が空間を駆け巡る。
「あれ? やっぱりおかしいな。この部屋しか表示され無い」
この今居るこの部屋以外表示されない『MAP』のアプリを消したり起こしたりを繰り返していると背中にゾワリとした悪寒が走った。後ろを見るといつの間にか後ろに鋭い爪の生えたゴツゴツとした足と筋骨隆々の体、太い木の幹に鋭いトゲトゲのつけたような棍棒を持った一つ目の巨人……サイクロプスが立っていた。
「おい……冗談だろ?」
「冗談ではありませんヨシヒサ! そこから逃げて!」
リースの叫び声に体が勝手に反応し、その場から横へ飛ぶように回避する。叫び声と同時に振り下ろされた棍棒が土埃をたてながら俺がさっき立っていた場所に大穴を開ける。もしそのまま立っていたらぺしゃんこになっていただろう。
「なんつー破壊力だよあれ……。とにかく助かったよリース」
「フフッ無事で何よりですヨシヒサ。この御礼は夜に返してくださってもいいんですよ?」
「はは……」
サイクロプスは棍棒を再び地面から引き抜きゆったりとした足取りでこちらに向かってくる。どうやら逃がしてはくれないようだ。
「リース、俺の記憶が正しければあいつは目が弱点だったな?」
「ええ、サイクロプスは目を攻撃されるのを嫌がります。通常は魔法や矢で目を攻撃し動きを止めたところで剣や槍を扱う者が攻撃します」
なるほどね……では先例に習いサイクロプスを討伐してしまいましょうか!
「ラシエル、リース、アリシアの三人は俺とナタリア様、エレノアとメルダが銃と魔法とダガーで目を攻撃して足止めをするから足を止めて目を手で覆ったら真っ直ぐ突っ込んで狩っちまえ!」
「了解。リース、アリシア、準備よ」
「分かりました」
手早く指示を出してサイクロプスへの攻撃の隙を窺う。ふと横を見ると太腿に巻かれたベルトにさしてあるミスロカネ製のダガーナイフを抜くためにスカートを捲ったためにスラリとしているが引き締まっていた陶磁器のような白い肌が見え、少し緊張が和らいだ。
「……っ!? 旦那様……そういうのは夜でお願いします」
「すまん。つい……な」
ヨシヒサにガン見されたことに気がついたエレノアは頬を少し紅く染める。もしこの場面をラシエルやリースに見られていたらあとが怖いことになっていただろう。
「ナタリア様は氷魔法で目の周辺を狙ってください! いいですね?」
「はい!」
各々が自分達の武器を構えいつでも飛び出せる状態になった。戦いのゴングが今鳴ろうとしている。
「カウント3で行くぞ! 3! 2! 1! 行け!」
ヨシヒサの合図とともにボッシュ!ボッシュ!ボッシュ!というくぐもった銃声が部屋の中に響く。フルオートで撃たないのは命中精度と長時間撃てるようにしているためだ。これに負けじとナタリアやエレノア、メルダも魔法やダガーをサクロプスの目に放つ。
「グオォォォォ!?」
サクロプスは目の周りに弾丸やダガー、魔法があたったのが相当堪えたのか棍棒を放り捨て唸りながら両手で額の目を覆う。これをチャンスとみたヨシヒサは突撃組に突撃の合図を出す。
「私は右に、ラシエルは首の付根を! アリシアは左に!」
「分かったわ! 覚悟しなさい!」
「分かった―」
突撃した三人は別れ、リースとアリシアは手早く足の腱を剣と槍で切断する。腱を切断された「グガァァァァァァッ!?」と雄叫びを上げるサクロプスは地面にドシャリ!とホコリを巻き上げながら仰向けに倒れる。そして倒れたサイクロプスの背中にラシエルが飛び乗り丁度頚椎のド真ん中を抉るように斬る。
「グギッグガァ! ガァ……」
ラシエルはついでとばかりに剣に魔力を込め、分厚い皮膚と脂肪、筋肉で覆われているはずの頸動脈まで切断したようで、哀れなサイクロプスは緑の血を吹き出しながらビクンッビクンッと痙攣している。
「ヨシヒサ、終わったわよ」
「おう、ご苦労様。全員怪我はないな?」
「問題無いですよ。しかしサイクロプスが事切れるまで少し時間がかかりそうですね」
「ん~!結構楽しめたかな~」
弾切れのSCAR‐Hの弾倉を交換しているとラシエルやリース達が戻ってきた。エレノアやメルダも投擲したダガーを回収しに行っているし、ナタリア王女も肩で息をしているが怪我は内容で安心した。
「取り敢えずお前ら返り血とかで生臭いからエレノアとメルダに浄化魔法かけてもらってこい」
俺が指摘したのか三人は自分の匂いを嗅ぐと『うっ……』と顔を歪め回収作業から戻ってきたエレノアとメルダに浄化魔法と消臭魔法を掛けてもらいに行った。因みにナタリア王女は転移直後にちゃっかり浄化と消臭の魔法を掛けてもらっていてさっぱりしている。
五分ほど経過し、サイクロプスの痙攣がなくなり血も殆ど出なくなり、いざインベントリに回収しようかとした時にダンジョン恒例の光の粒子がサイクロプスの死体を包み拳二つ分の魔鉱石を残して消滅した。
「これがサイクロプスの魔鉱石か……結構小さい?」
「ヨシヒサ様……このサイズを小さいというのはどうかと……」
複雑そうな顔をするナタリアの背後の地面から祭壇のようなものがせり出してきた。
「なんだこれ……剣と玉?」
「剣と玉みたいですね」
「こっ、これはまさか……!?」
複雑そうな顔をしていたナタリア王女の顔が驚愕に変わり少し震えていた。
「抜いてみるか」
「あ、だめ!」
台座に突き刺さっている蒼と白銀で彩られた剣の柄に鈍く光る剣身の両手剣をヨシヒサはナタリアの静止も聞かず躊躇無く引き抜いた。すると剣はあっさり抜けヨシヒサの手に収まった。
「ああ……駄目だといったのに抜いちゃった……」
「え、抜いたら不味かった?」
実はこの剣、見た目は聖剣っぽいのだが、魔力をバカ食いする燃費の悪い魔剣だったりする。しかも使い手を選ぶというなんとも変わった剣なのだ。その代わり性能は聖剣が霞むほどだったせいもあり、1000年近く前にはこの剣をめぐって大規模な戦争が起こったため、ある地下遺跡に封印させれたはずのいわくつきだったりする。
「……ということがあったのです。たしかこの剣の名前はブレイ……ニブルだった気がします」
「ブレイニブルねぇ……うぉっ!?」
「なっ!」
ヨシヒサがつぶやいた途端、魔剣ブレイニブが強く発光する。そして光が収まると派手な装飾はそのままにコンバットナイフサイズに縮んだ魔剣ブレイニブルがあった。
「ああ、契約しちゃったみたいです……」
「えっ、名前を言っただけでか?」
「そのようですね。私は文献でしか読んだことはありませんが、血を垂らす必要のある魔剣と名前を呼ぶだけでいい魔剣があるようです」
ここでこの中で一番長生きをしてると思われるエレノアからの解説が入った。簡単にまとめると、この魔剣は魔力を多く消費するが俺は無尽蔵に等しい量なので問題はない。形状も主が望むサイズ、形に変化するので本来の力を発揮するときには両手剣をイメージして魔力を流し込めばいい。鞘とかは契約時に魔力で自動生成。あと、台座にあったメロンサイズの玉はダンジョンコアなんだとか。
確認してみると左の腰の部分に鞘がきっちりとあった。魔力すげぇ。
「旦那様なら大丈夫かと思われます。魂とかはとられないので安心してください」
「そうか、それなら少なくとも安心だな」
「ああ……本来なら国宝級の魔剣なのにぃ……」
俺達が魔剣という新しい装備を手に入れて苦々しい顔をするナタリア王女と一緒にワイワイと話していると祭壇の前にん転移魔法陣が展開され人の中から人が出てきた。
「おや、先を越されてしまいましたか。これは残念」
中から出てきた人は男のようで、そうつぶやくとこちらにやって来る。だが、何かがおかしい。少なくともフレンドリーではなさそうだ。
「申し訳ございませんがどちら様でしょうか」
リースが素性を聞くが相手はすぐには何も答えない。暫く考えるような動作をした後、こちらにゆっくりと歩いてくるが、何となくだが嫌な予感がしてたまらない。本能があいつは危険だと訴えている。
「申し遅れました。私、魔王軍の八武将を務めています。ミルダリアンと申します。以後お見知り置きを。そしてさようなら」
魔王軍八武将と聞いて固まる俺達を見たダリアンと名乗った男は声をかけたリースに恐らく風魔法の『風刃』無詠唱でを放った。イージスでは間に合わないと判断して咄嗟にリースを突き飛ばし射線に割り込む。
ザシュッと分厚い何かが切れる音がするのも構わずヨシヒサはホルスターからHK45tを引き抜きミルダリアンに発泡する。
パン!パン!パン!パン!パン!と乾いた銃声が部屋の空気を震わせる。
「おいおい……45口径に肩を撃ちぬかれて平然としてるとか……化け物か?」
「おや、人の分際で私に怪我を負わせますか。面白い……面白いですよ! それに魔剣を持っているようですね……これは厄介だ。ですが魔王閣下のため、ここで死んでいただきますよ!」
ミルダリアンは再び風魔法の『風刃』を放ちヨシヒサの左膝に当てる。ヨシヒサはあたった衝撃に煽られ後ろに崩れ落ちるがそれでも発泡し続けた。
「どうせその怪我では長くは持たないでしょう。それではこれにて失礼」
再び転移魔法陣を浮き上がらその中に入ったミルダリアンは光の粒子となって消えた。
「行ったか……」
ヨシヒサはそうつぶやくとHK45tをホルスターに戻す。そして起きようと左手を地面につこうとするがそれは叶わなかった。
「マジかよ……流石にこれは想定外だな」
俺は地面に倒れこむと自分の左腕と左膝を見る。そう、左腕と左膝の先が無いのだ。どうやらさっきの魔法でスッパリ切断されてしまったらしい。なんとも不運なことだ……周りをよく見ると切断された腕と足が見える。防護の加護があるのはボディアーマーだけなので当然といえば当然なんだが。
「よ、ヨシヒサ!? ヨシヒサ!? ああ……なんてこと……」
涙で顔をグシャグシャにしたリースとラシエルが駆け寄ってくる。メルダ涙を浮かべながら切断された腕と足を持ってくるが当然、ヒーリングポーションや治癒魔法でひっつくわけもなく、血がドバドバと流れだして血の海を作っていく。
「旦那様! 旦那様! 何故貴方がこんな目に合わないといけないのですか!? 奴隷の私に言ってくだされば良かったものを!」
そんなこと言えるかっての……と言ってやりたいがそろそろ血が足りなくなったのか手足の感覚が消え始めだんだんと冷たくなっていくのが分かる。
ああ……俺はここで死ぬのか……これはちょっと想定外だったなぁ……。
「ヨシヒサさん! 私の旦那様になる前に死ぬのは許しませんよ! 絶対に助けますから! 両親や兄妹や里の皆に紹介するまでは死ぬのは絶対にゆるさないんですから!」
アリシア……お前の里って北の果てじゃなかったか……?そこまで行くのにどれくらいかかるのやら……それからそんなに頭を揺さぶらないで欲しい。
「ご主人様! ご主人様! 私はご主人様にあの日助けてもらってからずっとお慕いしていたのです!こんなところでお別れなのは嫌です! だから死なないでください!」
メルダ……落ちた足や腕なんて持ったら服に血が……そんなもん捨てとけって……。それにこんな可愛い子に慕ってもらえているなんてお兄さん嬉しいよ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいヨシヒサ様ごめんなさいごめんなさい私がダンジョンに行きたいと言ったばかりにこんな事になるなんて……だから起きてくださいどんなことでもしますから起きてください……」
ナタリア王女……どうやら帝都までの護衛は果たせそうにないようです……本当に申し訳ない……ルミナさんに出会ったら謝ってたって伝えてほしいなぁ……
「ヨシヒサ! 目を閉じては駄目です! こんなところで死なせてたまるもんですか! 絶対に助けるから諦めては駄目です! 世界を旅をしたいと言ったあれは嘘なのですか!? 違うというのなら目を開けなさい!」
耳元で叫ぶなよ……十分聞こえてるし約束も守るさ。だから泣くなよ……。やばいな……そろそろ意識が……。
そして俺は六人の顔と声を聞きながら意識がプツリと切れ全てが暗闇に消えた。
「ラシエル! エレノア! 治癒魔法と止血処置はどうなっているんですか! ヨシヒサの意識がもう……」
「こっちも必死にかけてるけど間に合わないのよ! 止血も傷口が大きい上に血がどんどん出ているせいで止血した場所からまた出血するのよ!」
「なんで! なんで私の作った止血用のポーションが効かないの!? 絶対効くはずなのに! どうして!」
治療の甲斐も無くヨシヒサは静かに息を引き取った。この事実に耐え切れなくなったのか、六人は泣き叫び冷たくなったヨシヒサの遺体にすがりひたすら泣き続けた。だが、突然リースがヨシヒサを生き返らせる方法を探そう。もし見つからなかったら私達も後を追おうと言い、その場にいた全員がそれに同意した。
ヨシヒサが持っていたバッグパックの中から折りたたみ式の担架を取り出し、遺体が傷まないように魔法で氷漬けにして組み立てた担架に乗せる。そしてダンジョンコアを取り出した時からある帰還用の魔法陣に入り地上へ帰還する。
突然全身血まみれで左腕と左膝がない少年の死体を載せた担架を持った目に光のない女の子たちが地上に現れたのを見た入口付近にいた冒険者達はギョッとした顔で何も言えずただ彼女達を見送ることしか出来なかった。
当時、この様子を見ていた冒険者の男はこう語る。
「ああ、あの時のことか……あれを見た時は正直、足がすくんで胃がキュッとなって何も言えなくなったのを覚えているよ。あの血まみれの女の子たちが抱えていた担架に載っている少年がもう生きてちゃいないことなんてすぐに分かったさ。もしかしたら次は自分があの担架に乗るんじゃないかって思ってな、今はこうしてバーをしているがあの時事を今でも鮮明に思い出せるし偶に夢にまで出る。あの後直ぐに冒険者をやめて正解だと思っているよ。少なくとも今はね」
「全員乗りました? 出しますよ」
「行き先は?」
「帝都。彼処ならヨシヒサをよみがえらせることが出来る何かがあるはずだから」
非常時用の移動手段として馬車を馬ごとインベントリに放り込み、代わりに置いてあったハンヴィーの荷台にヨシヒサの遺体を置いて6人を乗せたハンヴィーはマスバリアダンジョンから一路帝都へ向かう。
まさかの主人公死す……ぶっちゃけ一番書いてみたかったシチュだったりします。そして実際に書いてみると考えてたのよりかなり難しいことに気が付き盛大に頭をひねる事になりました……。パーティーアトラスはどうなるのでしょうか?
そしてそろそろ番外編か登場人物まとめとかを書きたいと思っていたりします。こんな番外編を書いて欲しいなど要望があればぜひお寄せください。頑張って書きます。




