第二十七話 マスバリアダンジョン攻略 前編
今回は早く出来ました。
諸々の準備や情報収集などを終え一夜明けた早朝、一行は既にギルノディアを出発し本日の目的地であるマスバリアダンジョンへ向け馬車を走らせていた。
「はぁ……」
「ヨシヒサ、どうしたんですか浮かない顔をして」
「いや、なんでもない。なんでもない……」
なんでもないわけ無いのだ。なにせただでさえ危険な目にあわせちゃいけない人がプロの冒険者ですら死んでしまうことすらあるダンジョン踏破の依頼の受注を希望して実際に行くことになってしまった。
そのせいでヨシヒサは昨晩、皆が寝静まったのを見計らって冒険者ギルドの女性寮まで赴きファムデル帝国軍機密諜報部のルミナに事の次第を伝え今後どうするかを相談しに行く羽目になったのだ。結果的に言えばルミナからは問題はない、という返答が出た。もっとも、物凄く渋い顔と阻止できなかったヨシヒサに対するお小言もセットもついてきたが。
「ストレスで胃に穴が空きそう……」
恐らくこの世界に来て一番精神を削り、やつれた顔になったヨシヒサと楽しそうに準備をするお姫様たちを乗せた馬車はマスバリアダンジョンへ進んでいく。
「来てしまった……とうとう来てしまった……っ!」
服を着替えたり装備を鎧を装備しなおしたしたヨシヒサ達を乗せた馬車は森の中にあるゲートを潜りマスバリアダンジョンへと入っていった。そこはインフェルニエダンジョンとは違い『街』というよりも集落といったほうがしっくり来る。
上から見れば広大な森の中にぽっかりと開けたクレーターのような見た目になっている。中には各種ギルドの建物や治療などをしてくれる小さな教会、木造の宿などがひしめき合うように立っている。そしてヨシヒサ達はダンジョンの内部へと続く大きな入り口から半円状に広がり屋台が立ち並ぶ広場へ来ていた。
「よし、これからダンジョンの踏破を行うが俺とリース、ラシエルの指示にしっかり従うように。くれぐれも目の前にお宝があったり貴重なものを見つけても突っ込まず周りをよく確認して複数人で行くように。メルダ、罠の確認や解除は任せたぞ。それから無いとは思うがもしもの時は厩舎においてあるやつを使って街まで戻るように」
「お任せくださいご主人様」
「分かったわ」
インフェルニエダンジョン攻略中に取得したスキルである『ソナー』と『タクニカルマップ』をいつでも使用できるようにしておく。これで中で迷子になることは少なくとも無い。
だが、動体であるモンスターや魔獣の位置は分かっても動かない罠の詳しい位置まではわからない。特に自然発生型のダンジョンで出てくる同化型の罠とかは特に。人の手で仕掛られてものは探知可能なのだが、そこで出てくるのが目と鼻と耳の利くメルダの出番というわけだ。
因みに今回の俺は荷物持ちも兼任している。やっぱり便利だねインベントリは。
「ヨシヒサ」
「ん?どうしたんだリース」
サイラスのマガジンポーチに入れた弾倉のチェックをしていると後ろからドレスアーマーの腰の部分に剣の鞘を下げたリースに声をかけられた。
「ヨシヒサは今回もダンジョンの中で銃を使うのですか?」
「そうだよ」
「でしたら一つお願いがあります」
リースは何故か当たり前のことを聞いてくる。
「お願い?」
「はい、ヨシヒサの使う銃はその……音が大変うるさいのでインフェルニエダンジョンの時につけていたような先っぽに付ける棒を装着して欲しいのです」
ああ、なるほど。インフェルニエダンジョン攻略の時の事を思い出したのか。
屋外ならともかく坑道のようになっているダンジョン内では銃声がかなり響く。室内ですら下手をすれば鼓膜を傷つけたり難聴になる可能性があるため耳栓やイヤーマフラーを装着する。ましてや室内よりもさらに反響するダンジョン内では言わずもがなだ。
「分かった。ちゃんとサプレッサーはつけておくよ」
「ありがとうございます」
銃口についているフラッシュハイダーを取り外しタブレットモードの端末から新品のサプレッサーを召喚し取り付ける。重心が前よりになってしまうがそこはハンドガード下部に装着しているフォアグリップでカバーすれば問題はない。
「ヨシヒサ様! 準備ができました! さぁ行きましょう!」
何故持っていたのかは知らないがリースのお古らしい革鎧とグラディウスっぽい片手剣と小さな魔法杖を身につけたナタリア王女が随分とご機嫌な様子でこちらに手を振ってくる。放っておけば直ぐにでもダンジョン内へ駆け出しそうだ。
「わぁ~ここがダンジョンですか……すごいです! 本で読んだのと同じです!」
「ナタリア様、前を向かないと危ないですよ」
今俺達はマスバリアダンジョン第6層に来てる。通路は鉱山の坑道のように柱で支えられているのを除けば広さや高さ、照明の明るさはあまり変わらない。強いて言うなら『ソナー』で探査した際にやたら十字路やY字路、小部屋があることだろうか。
「そういえばここのダンジョンの階層の守護者、そんなに強くないわね」
「ええ、てっきりもう少し手こずるかと思っていたのですけれど……拍子抜けですね」
「うー……こんなヤワな難易度じゃウォーミングアップにもならないよー」
「だな、道も単純だし目印になるものがあれば迷うにも迷えんな」
戦闘力だけで言えば世界でも最強のうちに入れる四人はこう言っているが、ただ単にヨシヒサやメンバーが規格外なだけで本来ならランクBやCの冒険者はここまでたどり着くのにかなりの時間と苦労をしないと辿りつけない。これが人工生成型なら管理者は号泣しているであろう。
「……エレノアさん……ご主人様達って薄々気がついてましたけど色々おかしくありませんか?」
「メルダ、特に旦那様とラシエル様の事を深く考えていると頭がパンクしてしまいますよ。それに一々驚いていては逆に疲れてしまいます。通路脇からくるうるさい羽虫の排除に専念しなさい」
「は、はい……」
パーティーはヨシヒサの持つタブレットに表示される『タクニカルマップ』に物を言わせ迷わず進み続け行く手を阻む魔獣や魔物などのモンスターを狩りまくり既に撃破数だけなら千は越えようとしていた。無論、この四人にかかれば普通なら強敵である各階層の守護者もLv99の勇者に狩られるスライムのごとく瞬殺されていく。
一行は更に進み第11層に到達した。因みに現在ギルドで調査が進んでいるのは第8層までである。
「んで、このクソみたいに広い雑木林的な場所が第11層か……地中にあるダンジョンのくせにこの階層だけで半径12.5kmもあるってなんの冗談だよ……」
「ヨシヒサ様! ヨシヒサ様! これ見てください! こんな綺麗な果物やお花がありますよ!」
ナタリア王女は見た目に反して結構武闘派だった。そりゃもううちのお嬢様方と同じぐらいにだ。第7層でモンスターに囲まれた時はラシエルやリース、アリシアたちと一緒に笑いながら火炎魔法でモンスター達を焼き払っていた。
しかも俺が撃ち漏らしたりしたモンスターを剣で脊椎や動脈の部分を一撃で切り裂くという具合だ。本人曰く休みの日にルミリアさんに教えてもらっていたそうだ。
「ナタリア様、あまりパーティーから離れちゃ駄目ですよ」
「はーい!」
声をかけられ戻ってきたナタリア王女は腕いっぱいに紫色の花と青色のマンゴーのような果実を抱えていた。それを見たエレノアの顔が突如豹変する。
「ナタリア様! その花と実を見せてくださいませんか!」
「え? はいどうぞー」
「ありがとうございます」とだけ言ってエレノアはメイド服のポケットから虫眼鏡のようなものを取り出して観察を始める。
「こ、これは……! まさかエクアシルの花と実……!? 殿下! これをどこで見つけれられたですか!?」
エルフの美少女とは思えないような顔でナタリア王女に詰め寄るエレノア、正直少々怖い。
「えっ、えっとあの少し背の高い樹の根元にありました」
「ありがとうございます! 旦那様、この実と花を採集に行きたいのですが」
今度はヨシヒサが詰め寄られ気迫に押されながらも腕の時計を確認する。現在の時刻は昼の2時といったところだ。ダンジョンに入ったのは午前8時、普通の冒険者ならまだ2層辺りを彷徨っている時間である。
「分かった! 分かったから離れろ! 時間的には問題ないから皆で一緒に行こう。な? 取り敢えず落ち着け」
「はっ! ありがとうございます! ありがとうございます!」
だめだ、全然落ち着く様子がない……そしてお嬢様方の目が痛い!
ヨシヒサのOKに更に感激したのかエレノアは周りに目があるにもかかわらずヨシヒサに思いっ切り抱きつき勢い余ってキスをしようとする。
「ちょっと待ったぁー!」
「うぉっ!?」
遂に耐え切れなくなったラシエルが剣を引き抜き二人の間に振り下ろす。危うくヨシヒサの顔がスライスされかけた訳だが。
「ちょっ、ラシエル俺を殺す気か!」
「ヨシヒサは黙ってて! エレノア、私会議で言ったよね? ハグまでなら良いけどキスとかは全員同じ時にしようって言ったよね? これはどういうことかな……?」
おおう……ラシエルがブチギレてる。会議とか顔をスライスされかけたこととかはこの際どうでもいい。とにかくラシエルを落ち着かせないと。
「おいラシエル。少し冷静になれ! ここは地上じゃなくて危険なダンジョンの中なんだぞ喧嘩をしてる場合じゃないんだ」
「ヨシヒサは良いから黙ってて! これは私とエレノアとの――」
パン!と少し重い乾いた銃声がなる。
撃ったのはもちろんヨシヒサだ。そして彼は今珍しく怒っている。
「いい加減にしろ……ここで仲間同士で喧嘩をしてる場合じゃないんだ。皆で協力しないとこのダンジョンから無事に帰ることは出来ない。そしてそれは俺が許さない。パーティーのリーダーとしても俺個人としてもだ。とにかく、二人共、落ち着け。いいな?」
そう言うとヨシヒサは近くの地面に誰にも跳弾しないように撃ったHK45tをレッグホルスターに収める。
「……ごめんなさいヨシヒサ。少し頭に血が上っていたわ」
「申し訳ありませんでした旦那様……」
申し訳無さそうに顔を下に向け謝罪する二人にヨシヒサは苦い顔をして「分かってくれたならいい」とだけ言うと雑木林の方へ行ってしまう。
「……エレノア、ごめんなさい。こんなところでやるべきじゃなかったわ」
「いぇ、私も興奮しすぎて己の身を弁えておりませんでした。申し訳ありません」
二人はトボトボとヨシヒサの後をついていくのであった。
「これがお目当ての貴重な薬草とその実、か? 結構柑橘系の良い匂いがするな」
「はい。この花はハイメガヒールポーションの材料に、葉と実はすり潰して水に溶かし効能を上げる触媒や蒸留して香水になります。ただ、匂いでモンスターが寄ってきてしまうこともあるので取り扱いには注意が必要です」
インベントリから出した大きな籠をメルダに渡し、紫色の花をくりくりといじっていると尻のポケットに突っ込んでいたスマホモードにした端末がブルリと数回震える。これは設定した早期警戒線に敵対するモンスターなどが侵入したことを知らせる通知だ。
「チッ! 早いな……エレノア! メルダ! 採取するなら早くしろ! 残りは戦闘の用意をしろ! お客さんだ!」
「かしこまりました! 後5分ください!」
「はっはい!」
「よし、失態をこれで取り戻すわよ!」
「サーベルタイガーは毛皮と牙が高く売れるのであまり傷をつけないでくださいね」
「むふー、頑張るぞー!」
「うふふふふ……剣の錆にしてあげます!」
5分か……ま、このメンツなら大丈夫だろう。
そして目の前には立派な牙を持った白いサーベルタイガーが一匹とよく見る茶色のサーベルタイガーが少なくとも四十匹は集まっていた。
グォッ!と白いサーベルタイガーが叫ぶと同時に他のサーベルタイガーが一斉に飛びかかってくる。
ボシュッ!ボシュッボシュッ!ボシュッ!と減音されくぐもった銃声が空気を震わす。サーベルタイガー達は単三電池よりも長く細いサイズの7.62mm弾をまともに受け、体を後ろに弾き飛ばされる。
サーベルタイガー達は今までの人間たちのような魔法や剣や弓とは違う見えない奇妙な攻撃をしてくるヨシヒサに驚き動きを止めてしまう。その隙をラシエルたちが見逃すはずはなかった。
「せい!」
「ふふふふっ!」
ナタリアとラシエルが振るった剣先はサーベルタイガーの脊椎を的確に切断する。
「――ふっ!」
リースは器用に心臓を一突きにしてなるべく毛皮に傷をつけないようにしている。
「えいっ!」
アリシアは片手で握った槍で一匹を突き、空いたもう片方の手でもう一匹の首をへし折るというなんとも豪快なやり方で戦っている。
ヨシヒサ達を囲んでいたサーベルタイガーは次々斬り捨てられ死体の山を築いてゆく。5分も経つ頃には襲いかかってくるサーベルタイガーは一匹もいなくなっていた。
「旦那様、こちらの採取は全て終わりました」
「手が柑橘系くさいです……うう……」
花に葉や実を大量に載せた籠を抱えて来た二人の無事を確認し、俺の目を見て微動だにしない最後まで生き残った白いサーベルタイガーをに銃口を向ける。
ボシュッ!と銃声が鳴り、頭を撃たれた白いサーベルタイガーは静かに地面に崩れ落ちる。
「はぁ……終わった……か」
「そのようですね」
「これで取り戻せたかな……」
「毛皮!毛皮!」
「この剣良い切れ味です……」
ちょっと危ない目をして血塗れの剣を振り回しているお姫様一人を除いて誰も怪我はしてないようだ。俺以外は皆返り血で服や顔、腕なんかを赤く染めて少々生臭いが。
「旦那様、よろしくお願いします」
「あいよ」
俺はそう言うとメルダやエレノアの持ってきた籠をインベントリに放り込むついでに大量にあるサーベルタイガーの死体もインベントリに収める。この中に入れておけば腐敗したり傷んだりすることもない。解体はギルドの職員にやってもらえばいいだけの話なのだ。
「……? ヨシヒサ、ちょっと周りを見て。何か様子が変」
「え? あ、本当だ。景色が……歪んでる……?」
「!? ヨシヒサさん! 足元です!」
リースの叫び声に目を足元に向けると先程まで無かったどこかで見たことのある魔法陣が足元に広がり強烈な閃光を発した。
後編も同時にあげます。




