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成り損ない勇者の異世界銃奏乱舞  作者: ディンキー
第四章
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第二十六話 魔法ギルド、パーティー登録と王女様のお願い

大変お待たせしました。

「お願いしますヨシヒサ様! どうしても行きたいのです!」

「いや駄目です。早く帝都に帰らないといけないんですよ? こんなとこで道草を食ってる場合じゃないんです」

「そこをなんとかお願いします!」


 冒険者ギルドのロビーで金髪の美少女が奇妙な柄の革鎧のようなものを着た黒髪の少年に涙目ですがりつくという謎の場面となっている。傍から見れば男に捨てられそうな美少女……にも見えなくはない。


 この謎の場面の原因は昼前までに遡る。



「ふぅ……取り敢えず少しだけ他のギルドをを覗いて市場で買い物して夕方までには次の街へ行くか」

「そうですね。それが良いと思います。ヨシヒサの乗り物は早くて丈夫、悪路でも関係無しで走破するので夜でも問題ないかと」


 昨晩のキャットファイトで散らかした枕やぐちゃぐちゃになったシーツなどを直して朝食を食べ月影亭をチェックアウトし、今俺達はギルド関連施設が集まる区画に来ている。


「しかし、前や昨日にきた時にはしっかり見ていなかったが、改めて見ると結構色々なギルドが集まってるんだなぁ……」

「ええ、このギルノディアは我が帝国の南の要地として位置付けられ、交易により大陸中……いえ世界中からモノ、人が集まる場所なのです。無論、世界中から集ったレアなモンスターや魔獣、素材などを仕入れるために数多くのギルドがここに大規模な支部を構えているのです。そして何よりここと帝都の間にはマスバリアダンジョンと言われる大規模な迷宮があるので帝都よりも物価や地価の安いここを拠点とする冒険者も多いのです」


 俺のつぶやきに律儀に答えてくれたのはこの国のお姫様であるナタリア王女殿下だ。


 なるほど。確かにアステリアの王都でみた不動産屋の地価表を見たことはあるが最低でも金貨6枚からと書いていたからトップの冒険者でもない限り維持するのも難しいだろう。そこで暮らすにしても物価が高いとよほど稼がない限り食べ物が買えなくてと早々に飢え死にしてしまうしな。


「それでヨシヒサ、今日はどこに行くの?」


 いつの間にか隣に来ていたラシエルに今日の行き先を聞かれる。


「えっ、ああ。魔法ギルドを覗いていいものがあったら購入。無かったらそのまま近くの市場に行こうと思う」


 その後もリースやナタリア王女にこの世界に伝わる英雄譚や伝説などを聞きながら最初の目的地、魔法ギルドに到着した。


 魔法ギルドの建物は冒険者ギルドより少し小さいがガッシリとした魔力を多量に含んだ魔石といわれる石材で作られた3階建ての建物だ。通りに面した場所には杖とポーションの瓶、薬草などがクロスした看板がかかっている。


 ドアを開けると少しモアっとしているが不快ではない少しミントの似た爽やかな薬草の匂いが漂う。中は冒険者ギルドと同じで幾つものテーブルと大量の依頼書が貼りだされた掲示板、そしてその脇にあるカウンターだ。座っている受付係のお兄さんやお姉さんは揃ってローブ姿で後は三角帽子をかぶればこれぞ魔法使い! といえるスタイルをしている。


 ヨシヒサ達はギルドの二階にある購買店に続く階段を上る。2階部分はフロア全体が購買となっていて立ち並ぶ棚には毒々しい色の液体の入った瓶から魔法の触媒にする何かの骨の粉末、虹色の花や赤黒い血の入った瓶だけでなく普通にすり鉢や乳棒、ヒーリングポーション用の薬草、魔道書やレシピ本など所狭しと並んでる。


「おお……これはすごいな……」

「流石は魔法ギルドのギルノディア支部です。品揃えもかなり良いですし値段も良心的です」


 ポーション作成が得意なエレノアは禍々しい雰囲気というか色を発する棚の方を見てもう目をキラキラさせている。どうやら彼女は欲しい物を見つけたようだ。


「エレノア、欲しいものがあったら持って来てくれ。値段次第だが買おう」

「えっ、本当によろしいのですか旦那様!」

「ああ、許可する」

「それでは失礼します!」


 ヨシヒサがそう言うとエレノアは目に見えぬ速さで近くに積まれていた買い物かごをひったくり禍々しい雰囲気の棚が集まるコーナーへ飛び込んでいった。


「うう……エレノアさんの目が怖いです……息が荒いです……」


 ふと視線を下げると俺のズボンの裾を掴んで涙目でぷるぷる震えるメルダがいた。やだなにこれ可愛い……。


 それからは各々好きな場所を見たり階下のカフェでお茶をしたりしてエレノアの買い物が終わるのを待つことにした。お支払いは俺だからこの場を離れることは出来ないのだが。


「旦那様、取り敢えず必要な物は集めました。その……お値段のほうなんですが……」


 一時間ほどして商品選びを終えたエレノアから渡されたメモには商品の金額とその合計の金額が書かれており、メモに書かれていた金額は2万5000アルタ……大銀貨2枚に銀貨5枚である。高いのか安いのかよく分からないが取り敢えず問題なしと判断し腰のポーチから大銀貨2枚と銀貨5枚を取り出してエレアに渡す。


「ほれ、会計してこい」

「あ、ありがとうございます!」


 渡された銀貨と大銀貨を大事そうに抱えながらエレノアは会計担当のギルド職員がいる場所へ早足で向かう。


 ヨシヒサは一階に降り、興味深そうに掲示板に貼りだされた依頼書を見つめるナタリアの姿を見つけ自分も同じく壁に貼りだされた依頼書を眺める。


 魔法ギルドというだけであって内容は基本的に魔法や魔術関係の依頼が多い。冒険者ギルドでは魔獣や害獣、一部魔物の討伐や商隊の護衛任務、動物の皮の採取などが多かったが、ここでは魔法や魔術の触媒となる薬草や動物の体液、中には人間の血液の採取依頼、難易度が高いとされるダンジョンの魔鉱石採取依頼などがある。報酬額もそれなりに高く銀貨2枚以上が最低ラインのようだ。


「何か気になる依頼でもありましたか?」

「あ、いえ……初めて依頼書を見ましたけど沢山の種類があるんですね……これなんかやってみたいですね」

「時間は多少ありますし簡単なやつを一つだけならいいですよ」


 ナタリア王女が差し出した依頼書はなんとこの近くにあるマスバリアダンジョンの踏破とダンジョンコアの回収の依頼だ。よりによって掲示板に貼られている依頼の中で一番時間がかかり難易度の高い依頼を選んでくれたものである。


「ナタリア様、これは駄目です」

「な、なんでですか!?」


 却下されたことにショックを受けたのか驚いた顔になったかと思うと直ぐ様却下された理由を求めてきた。


「まずですね、この依頼にあるダンジョンの踏破は通常数週間から数ヶ月単位、しかもそれなりの人数で行うのが常です。しかもここに書いてある副次目標のダンジョンコア回収は守護する魔物を倒さないといけないので非常に危険で難しいのです」

「で、ですがヨシヒサ様達は強力な武器や魔法が使えるようですし大丈夫なのでは……」


 このマスバリアダンジョンはアステリアの王都近郊にある古代竜族が作ったインフェルニエダンジョンのような人工生成型は違い自然発生型のダンジョンでアリシアのような管理者がいるわけではないそうなので魔物や魔獣の強さも段違いだそうだ。


「まぁ、普通なら時間的余裕や試行錯誤次第でなんとかできないこともありませんが、今は違います。私は貴方を無事に帝都まで護衛するという依頼を受けているのです」

「そんなぁ……で、でも!」


 涙目になりながらもなんとか食い下がろうとするナタリアとの押し問答が続く。そして冒頭に繋がるわけだが……。


「駄目ったら駄目です!」

「お願いします! お願いします!」


 ヒソヒソ……ヒソヒソ……


 ナタリア王女を説得していると知らぬ間に周りに人だかりができていた。どうやら少し騒ぎ過ぎたようだ。


「ねぇあの子なんで泣いてんの?」

「さぁ、でもあの男の子依頼書握ってるし横取りかも?」

「うわっサイテー」

「本当に依頼の横取りなのか?俺には女の子を放っておいて長期依頼に行こうとするように見えるが……」

「どちらにしろ最低だな」


 マズイ。非常にマズイ……先程の会話と今のナタリア王女の姿を見て皆さん完全に誤解されてらっしゃる……どうにかしないとフルボッコ間違いなしだぞこれ……。


「……分かりました。皆と相談ですが全員から承諾が得れればこの依頼を引き受けましょう。それでいいですね?」

「……はい」


 まだ少し不満そうだが取り敢えず今すぐ受けようと言わなくなったので良しとしよう。さて、この依頼をキープできるか聞いてみないと。


「すみません」

「はいなんでしょうか」


 若干ジト目のローブを羽織ったお姉さんにこの依頼はキープできるか聞いてみた。


「そうですねこの依頼のキープは可能です。ぶっちゃけて言えばこの依頼、難易度が高すぎて既に一年半も放置されている依頼なんですよ。報酬額も微妙ですし……恐らく誰も受けないので問題ありません。ただし、この依頼の受注には制限があるのでご注意を」

「制限?」

「はい。この依頼はダンジョン踏破という内容ですのでギルドの方で制限をかけさせて頂いています。世間の内容は冒険者ギルドもしくは魔法ギルドでのランクがB以上の方が4人以上所属するパーティーのみ受注をすることが出来ます。魔法ギルドと冒険者ギルドは提携していますのでパーティーの正式登録をされていない場合はどちらでも登録が可能です」


 ランクの方は恐らく問題ない。俺、リース、アリシアはBランクだしリースに至っては勇者ということで既にAランクとして認定されているらしい。あー、でもパーティーか……なんか引っかかるけど何だったけな……?


 実はヨシヒサ達は転移事件の後に冒険者ギルドギルノディア支部でダンジョンに潜る際に作った『アトラス』という仮パーティーを正式パーティーにすべく申請書に書いている。もっとも、言い出しっぺの本人は完全に忘れていて仮登録の状態で放置されていたわけだが。


「良ければこちらで登録が可能ですがどうされますか?」

「登録だけなら問題無いですしやってみてはいかがですか?」

「ヨシヒサさん。ついでに魔法ギルドに登録しちゃいません?」

「上階の購買やギルド手と提携している店で割引をしてもらえるみたいですし、登録を推奨いたします旦那様」


 いつの間にか集まっていたうちの女性陣に口々に言われ結局、魔法ギルドに登録することになった。


 登録の時にナタリアの名前で一悶着あったりヨシヒサが魔力の検査用の水晶をぶっ壊してひと騒ぎあったのはまた別の話。


「では、パーティー名アトラスを正式に魔法ギルドにて正式に登録させていただきます」


 石版の中から出てきてお姉さんに手渡されたギルドカードにはパーティー名と魔法ギルドの刻印が刻まれており中々に中二病心をくすぐるデザインの刻印にニヤニヤが止まらない。


 ギルドカードを受け取り例の依頼を受けるか受けないかを話し合うべく隣の建物にある和やかな雰囲気のカフェに入り、コーヒーとケーキ、パフェを食べつつナタリア王女に話した内容をそっくりそのまま話す。そして話が終わり最初に口火を切ったのはラシエルだった。


「ヨシヒサ、話は分かったわ。私としては前回のインフェルニエダンジョン攻略の時は後ろに居させられたせいで正直不完全燃焼もいいところだし賛成よ」


 ラシエルを見ると闘志に満ちた目をギラギラさせながら剣をいじっている。何この子怖いんですけど。


「私も賛成ですヨシヒサ。ジュウもいいですけれど魔法と剣が私達の本来の領分。貴方にしっかり私達の本当の実力を見て欲しいと思っていましたしちょうどいい機会かなと思います。そうですよねアリシア?」

「そうだねー。私も久々に大暴れしたいかなー」


 リースに聞かれたアリシアはテーブルにうにょーんと伸びながら賛成側に回ってしまう。マズイ……これは良くない。最後に残るはエレノアとメルダだが、彼女達なら俺の味方のはずだ!


 因みにここにルミリアさんがないのは皇帝へ報告するために一足先に帝都に帰ってしまったからだ。なんとタイミングの悪い……


「な、なぁエレノア、メルダ、お前たちなら分かってくれるだろ……?」


 最後の期待を賭け後ろに立つ二人に問いかける。


「……旦那様。非常に言い難いのですが、マスバリアダンジョンにはハイメガヒールポーションの触媒となる大変希少な薬草があるらしいのです。出来ればその薬草の採取をしたいと思いまして……その、申し訳ありません……」

「え、えーっと私はどうしたら……あわわわわ」


 くっ、最後の望みが絶たれたか……メルダは混乱しているし無理強いは出来ないか……。仕方がない、これ以上の抵抗は不可能と判断しよう。後はどうにでもなるだろ。


「分かった分かった俺の負けだ! 明日の朝、出発しよう。装備と物資とかは既に整ってるから今日のとこは各自、自由行動でどうだ? エレノアは採取が目的のようだから道具類を買うなら代金を渡すから大体の金額を後で言ってくれ。それじゃあ解散!」


 俺がそう言うとラシエルとリースとアリシアとナタリア王女は『わーい! やった―!』とハイタッチをして大はしゃぎしている。そんなに戦いたかったのか君たちは……。一方エレノアとメルダは何やら真剣な顔で話し合いながらメモ帳にいろいろ書き込んでいる。


「俺はどうしようかね……」


 椅子の背もたれにもたれたヨシヒサのつぶやきは暑さが少し和らいできた夏と秋の間の空に儚く消える。

 大変お待たせしました……。みなさまはいかがをお過ごしでしょうか?

 最近は暖かくなったり寒くなったりと寒暖差が激しい日々が続いております。作者は見事に風邪を引きノックアウトされていました……。手洗いうがいの大切さが身にしみる今日此の頃です。


 そして風邪にノックアウトされている間にいつの間にか累計PV数が7万超えと驚きで手の震えが止まりません。多くの方に読んでいただき本当に嬉しいです。


 長くなりましたがこれからもよろしくお願いします! 誤字脱字等がありましたら指摘していただければ幸いです。感想・希望など大歓迎ですのでどしどしお寄せください!


 

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