第二十五話 イノシシ狩りと陰から護る者
お待たせしました。お楽しみください。
パパン! パン! ズドン! ズドン! と大きな音がギルノディアの近くにある穏やかな農地に響く。
今俺達はとある人の依頼で2m弱あるイノシシ狩りに精を出していた。なんでも最近、数が増えたせいか森の縄張りから追い出されたイノシシがギルノディア周辺の農地まで来てしまっているらしい。
最初は銃などを使っていたのだが飽きたのかラシエルはヨシヒサが行方不明の間に潜っていたダンジョンのとある一室に刺さっていた刃が真っ黒の片手直剣とリースは王家に代々伝わる由緒正しいらしいククリナイフっぽい形状をした剣と魔法をを使って次々とイノシシ達を哀れな残骸に変えてゆく。アリシアに至っては素手でイノシシの首をへし折るという力技を見せている始末だ。
「もうこれ銃とかいらなくね?よく考えたらあの三人確か滅茶苦茶強かったんだっけ」
「そうですね。お二人は確かアステリア王国で五本指に入る実力の持ち主だったはずです。アリシア様に至っては力の化身のエンシェントドラゴンです。それに旦那様の下さったジュウは少し慣れが必要ですしこんなイノシシごときに使うのは正直勿体無いかと」
「そ、そうか……」
アステリアの王城で入手したらしいメイド服を着たエレノアは紅茶の入ったポットを片手に俺の隣に立っている。彼女は給仕と同時に少し先で戦っているメルダの指導もしているのだ。そのメルダは王城であげたPDR-Cをなんと既に使いこなしており、ダガーナイフと組み合わせて銃弾で足止めを行いダガーナイフか腰のコンバットナイフで頸動脈や頚椎を一撃で突くという具合だ。流石子供だけあって吸収が早い。
俺は最初こそSCAR-H片手に狩りしていたのだが途中から全員に「座ってお茶でも飲んでなさい!」と怒られてしまったがためにこうして椅子に座ってエレノアが淹れるお茶を飲んでいるわけだ。まぁ、おれは魔法も扱えることは扱えるのだが色んな意味でピーキー過ぎて使いにくいのだ。
今現在使用可能なのは異世界版戦略核とでも言うべき範囲と破壊力を持つ最上級広域殲滅魔法のブレイクアロー、その最上級広域殲滅魔法をも容易く弾く最上級結界魔法のイージス、これは練習の結果範囲を調整出来るようになった。そして極めつけは唯一イージスを撃ちぬくチート級の威力を誇るブラックスピアだ。これは授けた張本人であるカリナ様曰く、魔王どころか神ですら防ぎきれるのは無理らしい。
いずれも使いどこに困る魔法しかなく、普通の魔法は一切使えない。もっとも、これらの魔法は普通なら使用する際に命を削るレベルの膨大な魔力を使うのだが、俺は召喚の能力を持っている関係で上記の魔法を一日中ぶっ放しても魔力切れすら起きないというチートっぷりを発揮した。更にカリナ様曰く、俺の魔力総量はこの世界のどんな魔道具を使っても計測は不可能で量だけ言えば米海軍の空母戦闘群2つ分を構成する艦艇を一気に召喚してやっと息切れする位あるらしい。自分は化け物かと嘆いたのが懐かしい。
少し嫌なことを思い出し、若干げんなりする。
「大丈夫ですか旦那様?」
エレノアが心配そうな顔でこちらを覗き込んでくる。
「大丈夫、少し思い出したことがあっただけだよ」
「そうですか。困ったことがあったら遠慮せず言ってください」
「分かった」
さて、ここで一度も出てきてない人がいる。そう、この国の王女様であるナタリア王女と護衛騎士のルミリアは領主に挨拶もあるらしく朝から居ない、それとギルドに自分の無事を知らせる手紙を実家である城宛に書きに行っている。
「いや~このお茶は美味しいですねぇ~。それにみなさんの戦い方も今までに見たことのない戦いですしあきませんぇ~」
農地にあるベンチに先程から俺の隣でうさ耳を揺らしながらお茶を啜っている本日の依頼人……ということになっているルミナさんがいる。何故彼女がいるのかというと今朝、またどこで聞きつけたのか俺達の宿泊する部屋に訪ねてきて開口一番に指名依頼をしたいと言ってきたのだ。この指名依頼は断るとペナルティで罰金が課せられるので結局断れず引き受けた次第だ。因みに内容はイノシシ狩り。
俺の憶測でしか無いがくルミナさんは普通のギルド職員ではない。見た感じはすこし抜けてる感じのあるゆるふわ系お姉さんなのだが多分演技だ。
なんとなくだが一介のギルド職員で受付係なのに恐ろしく隙がなく動きにキレがある。普通こんな妙な受付嬢がいるわけないしイノシシ狩りごときで指名依頼を出すわけがない。恐らく前にエレノアからちょっと聞いたファムデル帝国軍機密情報部の要員と推測される。しかも普通の工作員ではなく感じからして実戦要員だろう。ちょっとカマかけしてみますか。
「ルミナさんちょっと良いですか?」
「はい~?何でしょうかぁ~?」
相変わらずゆるふわ系だ。だが、この質問でどう変化するかな?
「ルミナさんってもしかしてですけどファムデル帝国軍機密諜報部所属だったりしません?本来の業務は不審者の監視とナタリア王女の警護で今回は俺達の戦力分析と監視……だったりして」
その瞬間ルミナから出ていたほのぼのとした雰囲気が一変、突き刺すような雰囲気に変わった。そして目にも留まらぬ速さでヨシヒサの首に腰から抜かれた小型のナイフが突き付けられる。
「あら、いつから気がついていたのかな? これでも結構潜入に関しては戦闘要員班随一の自信があるんだけど」
「ははは、確証が持てたのは今朝ですよ。まぁ、まだ少し不確定要素がありましたけど」
「なるほどね、それにナイフを突き付けられているのに笑ってるなんて貴方変わっているわね。貴方の使う武器や力も面白いし……どう? うちに来る気はない?」
まさかのスカウトである。でもまぁ、面白そうだけど俺は世界を回ってみたいという目標があるのでここは丁重にお断りしよう。
「うれしいお誘いですがお断りさせてもらいます。俺には目的がありますので」
「あら残念。でも私達のことを知られた以上、タダで帰すわけには行かないのよ。分かるでしょ?ということで……あら、いい動きね」
「旦那様に向けている武器を下ろしていただけますか?」
俺の横に居たはずのエレノアがいつの間にかルミナさんの背後に回り、ミスロカネ製のコンバットナイフをルミナさんの首筋……正確には心臓を一突きにできる場所にナイフを当てている。そしてポットを持っていたはずの右手にはエレノアからの要望で渡していたP226Mk25が握られルミナさんの後頭部に銃口を押し付けている。
「……分かったわ。ナイフを下ろすからその物騒な武器をおろしてちょうだい」
ルミナさんは降参と言った感じで両手を上げナイフを腰の鞘に仕舞う。エレノアも銃とコンバットナイフを仕舞い俺の横に戻る。
「悪かったわね急にあんなことをして」
「いえ、お仕事なんでしょうし仕方がないですよ」
先程の突き刺すような空気から一変、ほのぼのとまではいかないが落ち着いた空気が流れる。
「それで、貴方達はこれからどうするつもり?」
「そうですね……取り敢えずナタリア王女を帝都まで護衛してその後北のドワーフの国に行こうかと」
「ドワーフの国……中々いいところを選んだわね。クソみたいに寒いのを除けばいいところよあそこは」
これがルミナさんの本性か……しゃべり方と外見のギャップがスゴイけど。
「取り敢えず安心したわ。貴方達には奇妙な武器を使うが実力があり信頼ができ、我が国や皇族に対して害をなす存在ではない。そう報告書に書かせてもらうわ。帝都まで姫様の護衛、頼んだわよ成り損ない君?」
「えっ、なんでそのことを」
「裏の世界に関係している人間はどこにでもいる。それだけよ」
「ヨシヒサー! 粗方狩りおわりましたよー!」
「ご主人様ー!今日はお肉がいっぱいですよー!」
何やら意味深なことを言ったルミナさんはリースやメルダがイノシシを山のように積んだ台車を押してくるのが見えた途端、何時も通りのゆるふわな系お姉さん受付嬢に戻った。この人の切り替えの速さすげぇ。
という訳で、無事に依頼を達成し、依頼報酬と皮や内臓、肉の買い取り金額を合せて大銀貨12枚を受け取り一旦宿の月影亭に帰ることにした。
ここで初めて知ったのだが、なんとこの世界、共通の通貨単位があるらしい。インフェルニエダンジョンでカリナ様から教えてもらったのは貨幣価値位で通貨に関しては何も書いてなかった。結構ガバガバな女神様Wikiである。無論、すぐにクレームを入れたが本人曰く完全に忘れてたらしい。
本題に戻るがこの世界で共通の通貨単位はアルタだ。1アルタ銅貨1枚らしい。もっとも、この世界は教育を受けている人間の数が少ないので値札等には書いてあっても口では基本的に"銅貨1枚"と表現するようだ。
ルミナさんは俺達がお姫様たちを帝都に送り届けるまでギルド・諜報部との連絡役になってくれるらしい。本来ギルドはいかなる国家、勢力、組織にも組みせず中立を保つというのが謳い文句だが、秘密裏にルミナさんのような諜報機関の要員などを受け入れて治安維持に役立てているのだという。無論、身分自体は軍や騎士団の所属になるそうだが場合によっては軍や騎士団をやめた後、正規のギルド職員の身分を取得して任務につくこともあるとか。
「ヨシヒサ様! 顔色が優れないようですが大丈夫ですか?」
「ああ、うん。大丈夫。ナタリアは忙しかったみたいだけど大丈夫?」
昨日、ナタリアに敬語で話さないで欲しいとどこかで聞いたようなことを言われタメ口で話している。ナタリアは様付け&敬語をやめるつもりはないらしい。
「ヨシヒサー、本日は季節の野菜とビッグボアのトマトソースパスタだって!早く食べに行こ!」
「あ、ちょっ! 飯は逃げないんだから落ち着けって!」
ヨシヒサとラシエルは一階にある月影亭のレストランに入る。内装はおしゃれな居酒屋といった風でマナーとかをさほど気にせず手頃な価格で美味しい料理が食べれることで有名だ。
「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですか?」
席につくと既に皆注文の内容は決まっていたらしく次々に内容を告げる。
「私はベーコンとほうれん草、季節のきのこのパスタと季節のサラダ、ハチミツ酒とシフォンケーキを」
「私は魚介とバター醤油パスタ、シーザーサラダ、バナナのミルクジュース、リンゴタルト」
「俺は季節の野菜とビッグボアのトマトソースパスタの大盛り、季節のサラダの大盛り、ビッグボアのチーズたっぷりピザ、ハチミツ酒とぶどうパフェ」
「あ、私達は彼と同じものを。大盛りは無しで飲み物はオレンジジュースをお願いします。構わないよね?」
「構いません」
「問題ない」
「大丈夫です」
「は、はい」
「かしこまりました。ではしばらくお待ち下さい」
料理が来る間にリースとナタリアは王族同士で、ラシエルとルミリアは同じ剣を扱う者同士なのか気があったらしく、おおよそ女の子の会話とは思えない刀剣の話で盛り上がっている。エレノア、メルダ、アリシアは自分の過ごした森やどんな生活をしていたのかを話している。
俺?いつのも暇つぶし銃の分解整備をしてるよ……べ、別に話題に入れないから寂しいわけじゃないだからね!
それからしばらくして料理来たので皆で楽しく食べる。とても美味しかったです。カロリー?なんのことかわかりまりませんなぁ……。
それからはデザートを食し全員が満足したところでお会計のお時間がやってまいりました……。
パスタ、サラダ、デザート、ハチミツ酒、ジュース、ピザ、パスタの大盛りのプラス料金を合計銀貨8枚と大銅貨6枚……流石にこの人数で食べると結構いい額行くなぁ……グスン。
その後は部屋に戻りシャワーを浴びたり各自好きなことをして過ごす。そして就寝時間がやってきた。
「今夜の右は私ですよラシエル。どきなさい」
「あら、もうヨシヒサの腕は私の体に絡みついているわよ?」
「わ、私はどこにすれば……」
「ふむ、これは泥沼だな」
「くぅ……」
「あ、あの皆さん落ち着いて……」
「メルダ、諦めなさい。私達は端の方を確保しますよ」
「どうしよこれ……もう知らん」
ヨシヒサはそう呟きながらこれから自分を挟んで始まるキャットファイト(場合によっては刃物や魔法が飛んで来る)の勝敗を薄っすら考えながら意識を手放す。一様彼も昼間に色々あって疲れているのだ。
こうして異世界に来て何度目かの何時もと変わらない夜は更けてゆく。
寒さが一層厳しくなり、炬燵から出たくないでござる病や風邪が増えているようですが皆様はいかがをお過ごしでしょうか?作者は炬燵で昼寝をしていたら我が家のお犬様のクッションになっていたことがあります。
さて、評価や多数の閲覧、ブックマークなどありがとうございます。ため息が出るぐらい鈍亀更新ですが頑張りますのでよろしくお願いします。
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